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ジャガンナンド~強くあるために必要な、ほんのいくつかのこと~  作者: 神堂 劾
強くあること、強くあるべきこと
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二学期の始まり

「よし……」


 久しぶりの制服に身を包み、軽く気合を入れる。


 夏期休暇も終了し、今日からは再び学園生活だ。


 補習でかなりの日数は消費されてしまったものの、夏期休暇はそれなりに有意義なものがあったと言っていいだろう。


 しかし……。


(結局のところ、ポイント戦はほぼこなせていない)


 当面は実力の底上げの為、特訓その他に集中するという方針もありはしたが……。


 現実問題、夏期休暇期間は生徒の大半がレジャーに興じ、ポイントランキング戦に積極的ではないという状況のせいもあった。


 もちろん、ポイント戦がまるで行われないということでもなく、天道組と同程度か下位のランクの生徒ならば対戦相手も見つかったのだが……。


 そういった瑣末な対戦を入れていくよりは、集中して個々の実力向上を目指したほうが有意義であろう、という判断だ。


 学園の空気としても……。


 それぞれに遊びに飽いた連中が活発に動き出し、対戦が活発化するのも、この二学期からが通例だと聞いた。


 ならば……。


(特訓の成果……腕試しをするというのなら、いいタイミングだ)


 いろいろな意味で、気を引き締めていかねばならない。


 そう考えながら通学の支度をしていると……部屋のドアがノックされた。


『あの……乱世さん? 起きてます?』


「ああ、羽多野か」


「良かった」


「うん? 何が……だ?」


「椿芽さん、どうせ乱世はまだねこけているから、たたき起こしてやってくれ、なーんて言うから」


「……あいつの俺に対するマイナスの信頼は今やピークもいいところだな」


 純然たるパワーの話なら、俺たちの中でもトップに位置する羽多野に『たたき起こせ』とは。


 あいつは俺を殺す気か。


 まぁ、それはそれとして。


「羽多野……判っているな?」


「は、はい……! 今日から……わたしも本格的にチーム入りということですよね」


「ああ。もちろん、無理はしなくていい」


「いえ、無理はしますっ!」


「……断言か」


「ふふっ、もちろんですっ! その上で、皆さんにご迷惑をおかけしないよう、がんばりますからっ!」


 その羽多野の言葉は、一先ひとまずは自分の身を守ることを優先し、他を心配させるような事はしない、という前提あっての事だ。


 場合と状況によっては無理もするかもしれないが、無茶はしない……そういう理性的な判断がきちんとできている。


「そうか……」


 俺は彼女なりに精一杯、気負ってみせる羽多野を見て……今はそれでいい傾向なのだと思うことにした。


「それじゃ……行くか。他のみんなは?」


「椿芽さんはもう、外で待ってます。茂姫ちゃんは……」


「なんだ? あいつは……まだ寝てるのか?」


「えっと……ついさっきまでは」


「さっき……までは?」


「ええと……椿芽さんにそっちも頼まれてたので、言われるまま、たたき起こそうとしたんですけど、つい……」


「……まさか」


「え、ええと……その……。茂姫ちゃん、午前中はお休みかも……です」


「……そうか」


 ……俺はちゃんと起きていて良かった。


「とりあえず……羽多野はまず、力の加減を覚えよう」


「そ、そうですね……」


 俺と羽多野は、そのまま椿芽と合流し、学園に向かった。



※        ※        ※


「オリエンテーリング……?」


 そのイベントの話が出たのは昼休みの教室での事。


「ああ。どうもこの学期内にはそういうものがあるらしい。そうだな、茂姫」


「もき。2学期のメインイベントもき」


「なんだか響きとしてはちょっと楽しそうな印象ですけど」


「が……もちろん、この学園のことだ。その語感そのままのイベントなどではないんだろう?」


「ご明察にゃ、おにーちゃん」


「興猫……」


 何時いつの間に来ていたのか、興猫が教室の窓のところに腰掛けて、口を挟んできた。


「お前は……相変わらずちゃんとした入り口から入ってくることができないんだな……」


「知ってるの? 興猫ちゃん」


「あたしは今の今まで、特定のグループに加わったことはなかったから、正式参加はほとんどにゃいけどもね」


「オリエンテーリングは、グループの中から2人1チーム単位で参加するもき。2人ワンセットなら、各ブループ何チームでも参加できるもき。個人参加もできなかないけど、バックアップ体制が重要なんで、フリー参加はあんまないもきねー」


「あるとしても、あたしが過去にやったみたいに一時的にチームにゲスト入りさせて、って感じが通例かにゃ? ま、あたしの場合は戦力として依頼で加入するパターンだけど」


 なるほど。


 とはいえ、我らが天道組にはそれほど人員に余裕もなし。フリーの有力選手を雇う財力も伝手ツテもなし……。


「それで……その内容は?」


「学園敷地内に設定されたコースを、チェックポイントを回りながら48時間内に走破するもき」


「48時間!? なんだか……それだけで凄そうですね……」


「まぁ、この広大な学園敷地を有効に使ったコースでもあれば、そのくらいの長丁場は当然といえば当然か……」


「今年は一応……テーマ的にはトライアスロン方式で、マラソン、水泳、自転車ってことらしいもき」


「茂姫、ちゃんと調べてあるんだ。毎年、コース内容はヒミツなのに、やるニャー」


「その辺はもきの調査能力もきよ」


「話だけで聞けば、そうそう難しいことでもなさそうだがな……」


 水泳、というのはこれからの季節、若干の厳しさがないこともないが……この学園の行事としてみれば、まだしも楽なほうだ。


「でも、内容は妨害や途中の突発的な対戦も全部アリな感じの『この学園っぽい』レースだからねー。あたしも選手じゃなく裏方の依頼……妨害とか頼まれたことはあるけど」


「……選手以外による妨害もあるのか。恐ろしい情報をさらっと言うな……」


「しかし……今はその手の内なども聞けるのだから、頼もしい限りだ」


「にゃはは♪ 存分に頼ってほしいにゃー」


「各地の関門や妨害も怖いかもしれんけど、なによりもこのオリエンテーリングはそれぞれ上位チームの精鋭も軒並み参加するもき。そこが一番の問題もきね」


「そうなのか?」


「このイベント、優勝はもとよりそれぞれの関門で貰える賞ポイントが魅力もき。前にも言ったもきけど、上位の団体は拮抗してるもきから、こういうところで得られるポイントは、そのバランス解消のためにも重要度が高いもき」


「……なるほどな」


「どうする? 乱世」


「ふむ……参加は前提ではあるが」


 まずは誰と誰のペアで参加するかだ。


 さっきも言ったが、俺たちは人員が限られている。


 羽多野までギリギリ主力選手と鑑みれば、興猫も合わせて2チームは作れるものの……。


(……いや)


 先程、茂姫も言っていた。このレースではバックアップも重要だと。


 それを鑑みると後方支援を茂姫一人に任せ、主力メンバーを全て参加させるのは、いかにも厳しく思える。


「やはり、2人1チームのみで参加し、後はバックアップに回すべきだな」


「フツーに考えたら、アニキと椿芽ねーさんのコンビもきけど……」


 そう単純にもいくまい。


 24時間の長丁場、それも場所や条件を問わない闘いとなれば、椿芽では厳しい局面も出てくる。


 羽多野のパワーやスタミナ、興猫のこのレースに関する知識も無視はできない。


「とにかく……参加選手はエントリー締め切りのギリギリまで考えてみよう」


「そうもきね。まだ時間はあるもき。参加するのならその前に準備しておくこともあるもき。バックアップ用の無線とか、自転車とか」


「そ、その段階から自分達で用意せねばならないのか……」


「なんでもかんでも自給自足……ってのがこの学園の方針だからにゃー」


「ふむ……」


 そしてそれはこのレースにおいても、そのままに当てはめられる……と、そういうことか。


「ま、あたし蓮田市街地にカオの利く店とかあるから、そこで必需品とか揃えとく?」


「あ、モキもあっこには行きつけのジャンク屋があるもき」


「そうだな……じゃあ、その辺りは2人に任せるか。椿芽、お前も一緒に行ったほうがいいだろう」


「ああ、そうだな。市街地は何かと物騒だ。護衛として――」


「ちがう。お前は自転車に乗れないだろう。場合によっては補助輪なりを――」


「い、いつの歳のハナシだっ! もう乗れるわっ!」


「……本当か?」


「う」


「いいか、椿芽。お前を辱めようとして言っているんじゃない。むしろ、仮に参加するとして実際の大会でそれが露呈した日には、ここでの恥とは比較にならない程の大恥をかくぞ」


「の……」


「ん?」


「乗れる……と……おもう……たぶん……その……おそらく……もしかしたら……」


 声のトーンが下がっていくのと同時に、言葉の字面が持つ不安要素は急上昇していく。


「……補助輪ハマ付きでトライアスロンに参加するなんて前代未聞もき」


「というか完走できるモンかニャー、そもそも」


「ううぅ……」


「だ、大丈夫! 特訓! 特訓しましょう、椿芽さんっ!」


「い、勇……」


「できますっ! 椿芽さんならできますって!」


「大丈夫かな……私はこれまでの最長走破記録が5センチなのだが……」


「で……できますって! ……たぶんっ!」


 羽多野、さり気なく語感が弱まってるぞ。


 あと椿芽はなんでその有様でさっきはあんなに強気だったのか。


「……興猫、茂姫。悪いが……買い出しは2人で行ってくれるか」


「了解もきー」

「了解にゃー」

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