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ジャガンナンド~強くあるために必要な、ほんのいくつかのこと~  作者: 神堂 劾
強くあること、強くあるべきこと
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乱世と勇と

翌日――。


「あ、あの……乱世さんっ!」


 学園の廊下で会った羽多野は見た目には普段通りで安心した。


 保健室に連れて行った時には、怪我はともかく初の本格的な実戦で精神的に弱っているような気がして心配をしていたが……。


「怪我はもういいのか?」


「は、はい。かすり傷……程度でしたし」


 言いつつも、スカートを僅かにたくし上げてみせた羽多野の太股に巻かれた包帯は少し痛々しい。


「あ……ほ、本当、平気なんです。このくらい……わ、わたしも……天道組の一員ですからっ!」


 俺はそれでも多少、不安げな顔を見せてしまっていたのだろうか。


 その内心を察したかのように、羽多野は慌ててそう付け加えてくる。


「そうか。自分でそう判断したのなら、それでいいとは思うが……」


「は、はい……」


「それで……なんだ?」


「え?」


「何か俺に用があったんじゃないか?」


「あ……」


「……特に用がないのなら、行くが……」


「あ、ありますっ!」


 行こうとする俺を、羽多野は例のごとく二本指を突きつけて止める。


「二つある……か?」


 なんだかその、妙に必死な様子が、羽多野には悪いが可笑しくて俺は思わず苦笑してしまった。


「う……。は、はいっ! 二つありますっ!」


「そうか。それじゃまずは一つ目だな」


「え、ええと……今日、椿芽さんは?」


「ん? ああ……あいつは、茂姫のヤツと一緒に、市街地に行っているな」


 この間の勉強会の時に、美味い甘味処を茂姫に教えてもらった、と言った。


 俺も和菓子の甘みをついぞしばらく忘れていたから興味はあるのだが……やはり、あの雑踏は馴染めない。


「え、ええと……興猫ちゃん……は?」


「あいつも一緒なんじゃないかな。いや……さすがにそこまでは把握していないが」


「そ、そうですか……」


「これで二つ、か?」


 椿芽と興猫の居場所が知りたかったのか。


 てっきり、椿芽は羽多野にも声をかけているものかと思っていたのが……。


 やはり、怪我のこともあるので遠慮したんだろうか。


「あ……え、ええと! いまのは……その……いっこの質問で……」


「そうなのか。それじゃ……」


「ふ、ふたつめっ!」


 二つ目を催促しようとした俺の言葉を食い気味に、羽多野は何故か妙に意気込んで続ける。


「あの……乱世さん、今日は……お暇、ですか?」


「ん? ああ……そうだな」


 何もなければ、例の如くトレーニングでもしていようかと思っていた。


 勝ちは取れたものの、昨日の勝負はまだまだ危なっかしさがあったからな。


 鳥喰などは、言ってはなんだがパンクラスの中ではランク的には上の下、レベルだ。


 それにあそこまで梃子摺てこずると言うのは……。


 経験の浅い羽多野が居たとはいえ、やはりまだまだ己の未熟さを痛感させられてしまう。


 もっと……もっと、強くならねば……。


 でなければ俺は、守れない。


 また……守れなくなる。


(また――――?)


 また、とは……なんだ?


「あの……乱世さん?」


「うん?」


 気付くと羽多野が心配そうに――。


 いや……むしろ、何だか泣き出しそうなくらいの顔で俺を見詰めていた。


「……どうした?」


「ど、どうした……っていうか……」


「……?」


「え、ええと……やっぱり、この後……都合、悪い……ですか?」


「ん? ああ……」


 そうか、そのハナシの途中、だったか……。


「いや……特に予定と言えるものはないな」


「そ、そうですか……!」


「なんだ? 俺が暇だと……そんなに嬉しいものなのか?」


「はいっ!」


 満面の笑みで即答する羽多野。


「……なんだか即答されると複雑なものがないでもないが……」


「え? あ……そ、そういう意味じゃなくて……」


 一転、何故だかまたもじもじとしてしまう羽多野。


「羽多野……?」


「あ、あの……っ!」


「なんだ?」


「きょ、今日……わたしと……お付き合いしてもらえませんかっ!?」


「羽多野と……?」


「は、はいっ!」


 羽多野は顔を真っ赤にして、何故だか必死な面持ちで俺をっと見詰めていた。


「そんなに意気込まなくてもいいとは思うが」


 俺はそんな羽多野の様子が可笑しくて、また苦笑してしまう。


「い、意気込みますっ…………よぅ……」


「そ、そうか……?」


「は、はい」


「………………」


「………………」


「……どうした?」


「……え?」


「いや……どこかに行くんじゃないのか?」


「あ……は、はい」


「……俺はまだ、行き先を……どこに付き合えばいいのか、聞いていないんだが。それなら、羽多野が先導するか、行き先を言ってくれなければ困ってしまう」


「え? そ、それじゃ……いいんですか!?」


「断る理由はないと思うが」


「は……はいっ!」


 羽多野は、またくるりと表情を一変させて、満面の笑みを俺に向けてくれた。


※        ※        ※


「あれ?」


「あれって……乱世おにーちゃんと……勇? 二人して……どこ行くんだろ」


「あ、もしかして……!」


「……ふふぅん……な~るほどにゃあ」


「………………にひ♪」


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