幕間
――天道乱世と鳳凰院椿芽が聖徒会に連行されていくそのとき。
「あ……」
散り散りに解散していく野次馬の中、二人――いや、天道の背中を見つめている姿があった。
先刻、彼に危ない所を救われた女生徒はスカートの砂埃を払うことも忘れ、彼の背を、たまに見える横顔を見つめ続けている。
「へぇ……。なんだか面白そうなのが入ってきたもンだにゃあ」
ガサ……と、彼女の横の木立が揺れ、その枝に腰掛ける小さな影。
「え?」
「フフん♪ どっちかって言うと困ったお兄ちゃん、かニャ?」
その小さな影は彼女に声をかけた、ということでもないらしく、連行される二人の姿を目で追っていた。
「くふふッ♪ いきなり怒黒組やパンクラスと悶着を起こした上……聖徒会に連行される新入生なんて、さすがのあたしも今まで見たことないしニャー」
影は「それに……」と言葉を継ごうとしたようにも思えたが……。
「で……でも……っ」
「うン?」
先の女生徒に言葉を挟まれ、逆にびっくりしたような顔をさせられた。
「あの人は……たぶん……わたしの……」
「たぶん? わたしの?」
「わたしの……」
「にゃ? わたしの……? なンにゃ?」
小さな影は枝から身を乗り出して、思わず聞き返してしまっている。
「わたしの……王子さまっ!」
「…………にゃ?」
「うんッ! 間違いないんだわっ! やっと……やっと見つけたーっ!」
言うなり、件の女生徒はとっくに聖徒会に連れられ、姿を消した天道の後を追いかけるように駆け出していた。
「みゃ? あ……ちょっ……」
小さな影は枝の上でポカンとするしかない。
「行っちゃった。ヘンなおねーちゃんだみゃあ。まぁ、あたしにはあんまカンケーないけど……ふぁ」
まぁ、特にそれ以上の興味を持つ事でもなかった。まるで本物の猫が顔を洗う時のように、丸めた右手で顔を撫でながら欠伸をしてみせる。
「…………にゃ……」
そのままどこかへ去ろうと、背中を軽く丸めて撥条を作りかけたところで……。
「カンケーなくないくらい……困ったおにーちゃん、だと……タイクツしないでいーんだけどみゃあ♪」
ニッ、と笑って見せた次の刹那、枝には誰の姿もなかった。
先の女生徒なり、他に見ているものが注意深く観察していれば、二点ばかりの不自然な事が分かったかもしれない。
まず、その影が座っていた枝は細く脆く、人が登れるほど丈夫なものでは無かった。
そしてその影が跳んだあと……その枝は1枚の葉さえも揺らしてはなかったことを。
※ ※ ※
「どうやら……捲いたな」
同じころ、あの場から逃走した軍馬銃剣らパンクラスの一団は校舎裏の一角を駆けていた。
「一応、壱年に殿はさせてます」
「そうか。もっともあの程度で咎められることはないだろうがな」
「でも……軍馬さん、なんでケツまくっちまったんですか? あんな小僧と小娘、聖徒会が邪魔しようが、一瞬で……」
「……俺がなんであの女の剣をかわせたかわかるか?」
「は? いや……そりゃ、軍馬さんがスゲェから……」
「立ててくれるのは悪くねぇがな。そもそも、あの程度の斬撃なら……俺の筋肉で受け止める自信も無ぇではないさ」
「それじゃなんで……」
「……見な。腕にまだ残ってら」
「な……なんスか!? この……鳥肌……!」
「あの小僧……何か、を隠してやがった。アタマより先に体が気付いたんだな」
「…………!」
「油断もあれば……今度は俺が地面を舐めてたかもしれねぇな」
「さ、流石にそれは……」
「面白ぇことになってきやがった。こりゃ、ウチの御大将、真島サンにも報告しておくべきか……」