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天道組、最大の危機

 それから――。


 俺と椿芽の傷が完全に癒えたるほどの時間を待ち、俺たちは再度ランキング戦を本格的に再開した。


 もちろんその間、完全に休めるほどの余裕はなく、偶発的なバトルにも応じてきてはいたが……。


 それなりにポイントを稼ぐようになり、かつそこそこに名前が知られてくるようになって、僅かに状況が変わってきたように思える。


 いくつかの異変が現れてきていたのだ。


 それは――。


「鳳凰院流が参の段……疾風はやて! 参るッ!」


 椿芽の太刀が横凪に一閃する。


 が――。


「ぐっ……!」


 ――浅い。


 4人の相手のうち、3人はその斬風に倒れたものの、一人はほぼ無傷で凌ぎきった。


 もともと参の段『疾風』は斬撃から生じる風の刃で複数を斬る性質のものだ。


 故に威力そのものは他の技よりも小さい。


 してや、こういった普通のポイントバトルであれば、椿芽は基本的に峰を用いて闘っている。


 当然と言えば当然と言えるが……。


 峰から打とうとすれば、風切りは充分に得られず……その威力は本来のものの十分の一にも満たないものとなってしまう。


 それでも決して末端、雑魚ということでもないパンクラスのPG生徒を一撃で4人も叩き伏せることができるのは、椿芽の技量ゆえではある。


「やってくれるなッ……!」


 胸板に僅かに血の筋を滲ませつつも……その男は然して怯みを見せずに自分の間合いを作ろうと距離を詰めてくる。


「ちッ……! 乱世っ!」


 加えて……『疾風』は、純粋な居合い・抜刀術の範疇から大きく外れる技であり、その反動は桁外れに大きい。


 加えて先のように風切りに向かない峰で打とうとすれば……それは単騎の戦闘術としては致命的なまでの隙を生じる。


 だからこそ――。


「応ッ……!」


 ――俺が居る。


「む……」


 そいつは、俺が既に間合いを詰めていることを察知し……まだ距離がある椿芽への深追いを断念する。


 即座に俺の方に向けて態勢を整えた。


(タフなだけではなく……判断力もある……! 甘くは見られない相手……!)


 戦いを重ねていれば、こちらが挑戦されるにしても、こちらが挑戦をするのにも、相手のランクは自然と上がっていく。


 まだまだ我道や頼成などのような団体をまとめる連中や、その直属などの上位ランカーとぶつかることはなく、同ランク程度の相手がメインとはいえ……。


 だからといって、侮れるほどに緩い相手ばかりとは限らない。


 それゆえ俺も椿芽も完全な回復を待っての本格復帰、なのだ。


(油断はしないッ! アクセラのギアは……上げておく……ッ!)


 ポイントバトルで『アクセラ』を使うのは初めてだが……。


 俺も今まで遊んでいた訳じゃない。一段階ファーストから二段階セカンドまでなら、然したる負担も残さずに済むようになってきていた。


「乱世さんっ!」


(羽多野は――茂姫をガード……よくやってくれている)


 背中に羽多野の声を受けつつ、彼女がちゃんと自分のポジションを守ってくれていることに安心もする。


 彼女にも請われるままと必要に迫られての二つの理由で稽古はつけているし……。


 実際にポイントバトルでもフィールドメンバーとして出てはいる。


 しかし、まだ完全な戦力として期待するのは酷だ。


「なめ……るなッ……!」


 姿勢を低くしてのタックル。


 王道にも過ぎる運び方だが、俺が基本的に打撃系ということは既にデータとして知れ渡っている。


 正しい意味での『王道』の選択だ。


(が……!)


 アクセラの領域であればそんなものは――。


「な――に?」


 俺が『異変』に気付いたのは……愚かしくも、その刹那だった。


(ギアが……上がらない……ッ!?)


 体力は申し分ない。


 椿芽の前でも、二段階セカンドまでは上げてもいいと決めている。


 問題は――ない――。


 現実、脚部には相応の負荷がかかっている。発動の条件は満たしているはず――だ。


 しかし……必要な力が全身に伝達されて来ない。


 不完全燃焼のようにただ負荷だけが脚部、下半身で燻り……ただそのまま消えていく。


(なんだ――と――?)


 そこまでの判断は、全てが神経の伝達と等しく行われている。


 時間にしても僅かな――。


 いや、時間と呼べるほどでもない『間』だ。


 しかし――。


「捉えたッ……!」


「ぐ……!」


 それは、こと戦いの場においては、致命的にも等しい隙だ。


「乱世っ……!?」


「ら……乱世さんっ!!」


 まずい――!


(このまま……ヤツに引き倒されてしまえば――!)


 もっとも、既に椿芽は反動を消化し、こちらのフォローの態勢を整えている。


 この状況で仮に俺のマウントを奪ったとしても、連中はグループとしての勝ちは見込めないはずだ。


 せめて俺だけでも倒して、ポイントを奪っておこうという腹か……。


 いや――!


(まずい……ポイントそのものは現状では俺が一番、所有していることになる……!)


 シェリスを直接、打破したのは俺だ。


 俺の個人ポイントが、連中5人の所持ポイントを上回っていれば……実力差ハンデの判定処理としてグループとしての敗北すらありえるかもしれない。


「させ…………るかッ!!」


「な……ッ!?」


 咄嗟に、相手の勢いを受け流し……かつ其れを利用しようと――。


(体が覚えていれば……いいが……ッ!)


 そのまま態勢を転じて――


「乱世さぁんっ……!!」


 ドウッ――――!


 激しい土煙と衝撃音がフィールドに満ちる――。


※        ※        ※


っ……!」


「あ……すみません、染みました?」


「いや……平気だ」


「痛いのは生きている証拠だ。情けないぞ、乱世」


 戦闘の終わったフィールドの隅で、羽多野の治療を受けている俺を見ながら椿芽が大仰にため息をついてみせる。


「そう言うなって……」


「まぁ……鳳凰院流柔術をまだ覚えていたのは褒めておくがな」


「どうにかな。体が覚えていてくれた」


「もっともかなりギリギリだったがな。父上ではあんな有様では絶対に及第は出さん」


「……だろうな」


 タイミング的にほぼ確実に決まっていたタックルをかわして腕を極められたのは……決して俺の技術のみではないだろう。


 あの相手が、僅かに椿芽に気をとられたこと。


 そして、俺の事を完全に打撃系だと決めてかかっていたこと。


 それらの条件が無ければ……たぶん、俺はこの消毒液程度では済まないダメージを負っていただろう。


「本当……ひやひやしましたよぉ……」


「す、すまん」


「でも……アニキは柔術とかそういうのもできるもきね。いままでそんなの使ったこともなかったもき」


「あ、でも……乱世さんは私に柔道、教えてくれてますよぉ?」


「柔道と柔術では厳密にはちょっと違うな」


「あ、そうなんですかぁ」


 羽多野には護身術として、基本的に柔道を指導している。


 いずれは柔術に移行するつもりではいたが……。


 羽多野の潜在的な能力――。


 あの瞬発力と腕力があれば、もっとその膂力に頼った技術として適当なものはあったかもしれないが……。


 レスリングや打撃などのその手のものは、筋力以外の要素に頼る部分が大きい。


 駆け引き……精神力……。


 そういったものに関しては、羽多野はまだまだほとんど素人だ。


 やはり荷が思いだろう。


 もちろん、柔道や柔術にそういった要素が不要、などと乱暴なことを言うつもりはないが……。


 とりあえず羽多野には後衛として自分の身と、そして非戦闘要員の茂姫を守ることができるようになるのが先決だ。


 駆け引きその他は、基礎がついてから追々でいいだろう。


 そういう意味では、やはり護身術としての用法に長けている柔道から教えていくのが望ましいと判断した。


 また、羽多野はかつての学校での体育授業レベルでは柔道の経験があり、そういう意味でもまるでまっさらな状況よりはマシだろう、ということも理由ではあったが。


「柔道はそもそも近代化されたスポーツ格闘技術だ。だから基礎を学びやすくできている。慣れがでてきたら、柔術に移行するようにしよう」


「はーい♪ っと、これでよし……です」


 羽多野は俺の傷に、なんとも可愛らしい絆創膏などを貼ってくれた。


「さて……。とりあえずこれでしばらくはまたランキングバトルは休み、だな」


「おいおい。この程度の傷……問題はないぞ」


 俺はてっきり、自分の負傷を気遣ってそんなことを言い出したのかと思ったが……。


「馬鹿者。当たり前だ」


「……にべもないか」


「忘れたのか。月末からは期末考査だ」


「そういえば……そんなものもあったな」


「おまえな……」


「学力試験など、この学園ではそうそう重要でもないだろう。そんな暇があるなら、少しでもランキングを……」


「はぁ……」


「……今度は呆れたため息か」


「成績があんまりひどいと……留年になっちゃいますよぉ?」


「そうなのか」


「……お前……いくらなんでもそこまで一般常識が無いとは言わせないぞ」


「失敬だな。そりゃ……普通の学校ではそうだろうが……」


 この学園に関して、そんなものが必要とは思ってなかった。


 だからこそ、俺もこれまで通常の授業その他には「あえて」身を入れてなかったのだが。


 ………………。


 いや、本当に『あえて』なのだが。


 もちろん、こと学業において天分の才や秀でた才などというものを持っている、実はやればできる、などと……。


 そこまで自己の才を誇張する、できるほどに頭脳に恵まれているワケではないが……。


「……ま、一応ここも教育機関もきからねぇ」


「むぅ」


「普通ンとこよりはハードルは低いとは思うもき。でも進級しないと卒業もないってのは同じもきよ」


「そ……そうか」


「頼成とか真島とか、あの辺が卒業してかないのは、学園でトップを取るため、わざと進級しないって公言してるもきけど、ホントはフツーに進級できないだけもきかも」


「……切ない話だな」


「お前が留年するのは勝手だが……私は御免被るぞ。私の目標はあくまでこの学園の卒業だからな」


「むぅ」


 それは判っていたことだ。俺にしたって、ここで留年などはしていられない。


 学年にズレが生じ、椿芽と教室が別にでもなれば……本末が転倒ということになる。


 しかし、しまったな。自慢じゃないがここに至るまで、まともに授業を聞いてた記憶がない。


 深夜に鍛錬をするのであれば授業の時間は睡眠時間と割り切っていたのだが……。


「でも……そこまで言うってことは、椿芽ねーさんは自信があるもき?」


「あるわけがなかろう」


「……うわ。なんで自信たっぷりに」


「だからこそ、ポイント戦も休んで、これだけの余裕を取るのだ。それに……」


 椿芽は意味ありげに笑み、羽多野のほうを見た。


「は……はい?」


「ウチには勇という秘密兵器があるではないか!」


「ふむ……なるほど」


「え……ええええ?」


 羽多野はもともと一般生徒だ。少なくとも俺や椿芽よりは学があるとは思える。


「羽多野に勉強を教えてもらおうという腹か」


「うむ。自慢にもならないが……正直、晴海先生の指導は私にはレベルが高すぎる」


「……そうか」


 授業そのものをスルーしていた俺が言うのも何だが……。


 真面目に授業を受けていて理解できていない椿芽も椿芽で……どんなもんだろうか。


 これじゃ、羽多野も苦労を――。


「ちょ……ちょっと待ってくださいって! わ、わたし……そんなに成績、良くないですよぉ!?」


「またまた謙遜を。少なくとも私や乱世からすれば、大先生だ」


「だな。よろしく頼む。羽多野先生」


「ま、待ってくださいってばぁ……! ほ、ほら……これ……! これ見てくださいってば!」


 羽多野は生徒手帳のIDカードを操作する。


「なんだ?」


「そうか、このカードには個々の学力レベルも記録されているのだったな」


「……そうなのか」


「……アニキはほんと、そういうの疎いもきねー……」


「興味がないからな」


「うわ、いばられた」


 とにかく俺も椿芽や羽多野の操作を真似て……自分のレベルを表示してみる。


「ほら……こ、こんなですよ。わたし……」


「う」


「ふむ」


 見れば線グラフで記されたそのレベルは……まさに『俺たちよりはマシ』な程度。


 というか俺や椿芽はほぼ一直線……しかもかなり低いところでのライン。


 羽多野はそこにちょこちょこっと山があるが……。


「え、ええと……家庭科とか、美術とか……そういうのはちょっとだけ自信があるんですけど……」


「うう……。何故だろう……勇はなんとなく勉強ができるイメージがあったのだが……」


「ご期待に沿えずスミマセン……」


「い、いや……気にしないで欲しい。とりあえず親近感は沸いた……」


「そ、そうですか……」


「ふむ。互いの好感度は上がったが……事態はより深刻になっただけだな」


「ぐ、ぐぅ……」


 確かに……これではランキング戦どころではないな……。


※        ※       ※


「……………………」


 翌日、俺は我道の姿を探していた。


 あの男やその配下も、そうそう頭の出来は俺たちと変わらないように見えるが……。


 少なくとも弐年に進級しては、いる。


 ともすれば、何か秘訣や裏技の類があるのかもしれないし……。


 ダメモトで教えを請うてみるのも、この場合では仕方ないことだろう。


「そういえば我道の配下には、学のありそうなのが居たな……」


 学がありそう、というよりは、まんま老人だったが。


「まぁ……亀の功より歳の功、とも言うしな」


 それにしても、どうでもいいときは良く会うのに、探してみると……居ないものだな。


※        ※       ※


 我道を見つけたのは、学園の図書館だった。


「おお、都合よく四天王も勢揃いか」


 例の幽玄という老人も一緒のようだ。


 俺が彼らが囲んでいる机に歩み寄ると……。


「あ……! アンタ……!」


 いの一番に、腕にギプスを付けたシェリスが俺に気付いた。


「よう」


「ここで会ったが百年目! こないだのリベンジを…………いたたっ!」


「まだ回復してないんだろう? 無理をするな」


「無理なんて……!」


「というか、それ以前に……しばらくはこっちも挑戦を受けられる状況じゃないんだ。すまない」


「そっか……。じゃあ……なにしに来たのさ」


「ちょっとな……。というかむしろアンタらは何してるんだ?」


 見れば……これだけ俺とシェリスが騒いでいるのに、我道を除くほかの連中は、顔を上げもしない。


「見てわかんない? 勉強会っ!」


「……なに?」


 よくよく観察すれば……連中はこれまで見たこともないような真剣な表情で参考書とノートにへばりついている。


「……ほれ、あと5分」


 我道は時計をちらりと見て、呟くように言った。


「おら。シェリスも……ンな余裕あんのか?」


「あ、あうぅ……」


 言われ、シェリスも(俺を憎憎しげにちらりと見てから)手元のプリントに視線を戻した。


「……我道?」


「うるせぇ。いま話しかけんな」


「むぅ」


 仕方ないので俺も黙る。


 やがてきっちり5分後、我道の時計のアラームが鳴る。


「ほら、時間だ。プリント回収するぞ」


「ぐあー! だめかー!!」


「うぅ……」


「どれどれ……」


 各自から集めたプリントを、さらさらっと一瞥してから……。


「なっちゃねぇなぁ、お前らよう……」


 まさに一瞥……一枚につき1秒も見ていない程度で、我道はさも情け無さそうにため息をついて見せた。


「もともと多少はマシな幽玄やジャドはともかく……ブラッド! おまえ……なんで一ケタの掛け算まで間違えてんだ! 小学生か小学生!」


「め、面目ねぇ……。どうも俺ぁ、あの7の段ってのが苦手でなぁ」


「そりゃ、何度も聞いた。お前……こりゃ、今年も進級は危ねぇなぁ……」


「ぐ、ぐぅ……」


「やーい、怒られた怒られた」


「オメーもだ、シェリス。ブラッドよりゃあマシだが、ケアレスミスが多すぎだっつーの。ほれ、ここと……こことかだな」


「あぅ」


 我道はこれまたささっと、シェリスのミスを指摘してみせる。


 あのチラ見だけで、そこまでちゃんと見てたのか。


「て、天道っ! アンタが途中で話しかけてくるから……!」


「悪かった。悪かったとは思うが……俺との話をやめたあとの5分も、お前さんのペンは動いてなかったように思えるが」


「う、うるさいねっ!」


「ほっほっほ。こりゃあ、今年も大変ですのう、我道様は」


「……お前も余裕かましてられるレベルじゃねぇだろ。留年何十年目だ、ジジイ。とっとと卒業しろ」


「この老体になんと手厳しいことを。幽玄、チョー傷つくですじゃ」


「うるせぇ。ジャド! お前も……」


「――――――――」


「……ジャド?」


「――――――――」


「まさか……」


 我道が仮面の男――ジャドの身体をちょっと小突くと……。


 その体は何の抵抗もなく、床にごろんと転がった。


「……あの野郎……」


 見れば……それは、ジャドの仮面や衣服を着せられているだけの人形だった。


「……逃げやがった」


「うを! あの野郎……相変わらず汚ねぇ! 我道、俺が捕まえてとっちめてきてやる!」


 ……『とっちめる』なんて実際に言うヤツ、初めて見た。


「体のいい理由つけて、逃げようとすんな。まぁいいだろ。あいつはどうせ、例のごとく自分なりのやり方で切り抜けるつもりだろーしな」


「またカンニング?」


「ちっ。どこまでもいけすかねぇヤツだ」


 ……『いけすかねぇ』もあんまり聞かないな。


「もっとも、前回は解答欄を一つずつ間違えて0点という記録を樹立しておりましたがの」


「……いつの時代のコントだ、それは」


 流石に俺も肉声でツッコんでしまっていた。


「おっと……そうか、天道。お前居たんだな」


「ご挨拶だな」


「なんだ? 見てのとおり……ちょっと立て込んでてな」


「いや……当初の目的はひとまず置いておいてだな。我道、あんたひょっとして、頭……いいのか?」


 見たところ、我道はこの卓の中ではいわゆる先生役だ。


 加えて、先刻の採点の早さ……。


「馬鹿言うな。俺は『頭がいい』じゃねぇ」


「そうか……」


「俺はな、『超、頭がいい』んだ」


「……その言い方はむしろ悪そうに聞こえるが」


「う、うるせぇ」


 しかし……確かに認めざるをえまい。


 件のプリントを俺もちょっとは見たが、そこそこにレベルが高い。


 もちろん、ブラッドやシェリス辺りにあわせた問題もあるにはあるのだが……。


 そういう低いレベルの設問でも、程よく理解や読解を求めるさりげない工夫がなされていたりもする。


「ガドーは今回のテストではね、悲願のトップをねらってんのよ」


「…………は?」


「……なんだよ、その鳩が豆鉄砲くらったようなツラは」


「いや……正直、意外だった」


「アンタねぇ……ガドーは、この学園の学力ランクでもトップランクなのよ?」


「そ……そうなのか」


「大げさに言いやがる。トップ近辺にゃ、秋津や頼成の野郎なんかもいるんだ、そうそう天辺てっぺんにゃなれねぇ」


「大したものだな……」


 正直、そう口から出ていた。


「この学園じゃ、それほど冠にゃならねぇことだがな。それでも……秋津はともかく、あのクソ頼成に遅れを取るっていうのは、ちぃっと面白くねぇ。それだけだ」


『面白くねぇ』と……それだけでできることではそもそもあるまい。


 この辺りが我道の我道たる所以でもあるのか……。


「それで……? 天道、他に何かあったんじゃねぇのか?」


「あ……いや、いい。すまなかったな、時間を取らせて……」


「そうか? おかしなヤツだな…………ほら、お前ら! 休憩は終りだ。次のヤツ、いくぞ!」


「えー? 今日は終りじゃないの?」


「冗談言ってんな。少なくともお前とブラッドは全然まだまだなんだ。夜まできっちりやってもらうぜ」


「勘弁してくれ……」


 俺はまだまだ勉強会を続ける男闘呼組の連中に背を向けつつ……。


(我道が頭まで切れるヤツだったというのは意外だが……)


 この状態では俺たちの勉強まで見てもらえる余裕はないだろう。


 それに……。


(まぁ……ブラッドにシェリス、あの二人レベルでもとりあえずは落第はしないレベルではあるようだしな……)


 ……という、ちょっとした安心も感じていた。


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