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我道と、『皿』

 翌日の昼休み、学食において――。


「『皿』、だと?」


「ああ」


 例のごとく、昼食のタイミングで俺たちに近い席に座った我道(主に椿芽目当て)にハナシを切り出すと……。


 案の定、我道の表情が僅かに変わった。


「……………………」


 そのことは、傍らの椿芽にも伝わったのか、僅かに緊張が強まったように感じられる。


 もっとも、いま椿芽が緊張している部分の主だった所は我道のその反応を見て、という事じゃあないだろう。


 このあと、打ち合わせ通りに『自分がしなくてはいけないミッション』に関しての緊張だ。


「おまえ……」


 いや、顔色が変わったのは、我道本人よりもむしろ――。


「あんた……なんでそのこと知ってんのさ!」


 むしろ、我道と一緒に居た例の四天王だかのシェリス、という女が先に反応した。


 本来なら、我道一人の時にきりだしかったことなのだが……そうそうそのチャンスにも恵まれるはずもなく、こうして連れが少ないときを狙ったのだが……。


「ひょっとして……あんたたち、ディスクの在り処を知ってんじゃないだろうねっ! だったらちゃっちゃと吐かないと……」


「お、おい……シェリス」


「あれにはガドーの最終奥義の秘密が書かれてるんだからっ! とっても大事なモンなんだからっ!」


「……おい」


「ガドーは鳥頭だから、いちいちそういうの記録しとかないと忘れちゃうのっ! だからとっても大事なのっ!」


「…………」


「そもそも、ディスク……『皿』がなくなったのだって超秘密なんだからっ! こんなことがあの頼成にでも知られたら……みぎゃっ!」


 ごすっ、と我道のゲンコツがいきりたつシェリスの頭に落ちた。


「な、なにすんのよぅ。だって、本当に秘密……トップシークレットじゃない……」


「……そのトップシークレットを、お前が今ほとんど喋った」


「あ」


「……いい部下を持ってるな」


「……ありがとよ」


「か、かくなるうえは……死人に口なしっ! このあたしが口封じをっ!」


 シャキン! と、得物らしき常時装着している手甲から鋭い金属の爪を伸ばし、俺と椿芽に飛びかからんばかりのシェリスだが。


「やめとけ」


 ごすっ。また我道のゲンコツが。


「いたーっ!? やーんもー! そんな殴ったら、馬鹿になるぅー!」


「それ以上の馬鹿があるんならな。こっちから喋ってて口封じって、どんな頭の悪いマッチポンプだよ」


「ふにゃー……」


「ボスのお前がまだしも理性的な判断で助かった」


「……褒めてねぇな、その言い方。にしても……だ」


 我道は苦笑しつつも改めて俺たちに向き直り……。


「なんで皿のことを知ってやがる? つーか……本当にお前が持ってんなら、それはそれで返してもらえりゃ、素直に助かるが」


「いや。この間、頼成に取引を持ちかけられたんだ。あんたに奪われた『皿』の欠片を取り戻せば報酬を出す、と」


 この部分は本当のことを言っておく。


 こういう駆け引きの場合は下手に全部を嘘にせず、可能なところは真実の話を混ぜておくほうが上策なことが多い、という判断だ。


「頼成の? なんだ、あいつも皿を失くしてたのか。間抜けなヤツだな」


「……そこはツッコむべきとこなのか」


「何がだ?」


「……素か」


「しかも俺がガメてるって? ははぁん、なるほど……それでここんとこ、あの連中が大人しくしてたワケか」


「違うのか?」


「ンな面白いモンが手に入ったなら……俺ならまずそこら中に吹聴するわな。取引とかするなら、それからだ」


「……いい性格だな」


「そうか……皿について聞いて来たのは、頼成がらみの方ってことだったのかよ。これじゃ完全にシェリスの先走りもいいとこだ。聞かれてもいねーことを勝手にぺらぺらと……」


「うう……ごめん……」


 しょんぼりしながらもくだんのシェリスは、俺を拗ねたように睨んできた。まるで『あんたのせいで怒られた』とでも言うように。


 まぁ、とりあえずはほっとこう。


「にしても……それでド真ん中直球勝負で俺に聞いてきたってか? お前こそ頭悪くねぇか」


「ああ。俺は嘘やはかりごとは苦手なんでな」


「……………………」


 横で椿芽が『どの口が言う』とでも言うように睨んできていたが、これもほっておく。


 ……今日は何故だか女性に恨まれることが多い日だな。


「まぁ……おめぇらしいって言えばおめえらしいけどもな」


「それで、そのディスクに記されているのは……あんたの必殺技の事なのか?」


「え? あ……ま、まぁなぁ……」


 流石の我道も、そこでするっと話すってことはないか……。


 俺は傍らの椿芽に目配せで合図する。


「う……」


 椿芽はちょっと躊躇したものの……。


「ど……どんな技……なの? わ、わたし、興味あるなぁー……なんて」


 打ち合わせ通り、椿芽が切り出す。ものすごい棒演技で。


 当初は先刻、シェリスがぺらぺらと喋ってくれた内容も、この方法で引き出す腹積もりだったのだが……。


 ……この大根ぶりでは、ちょっと無理だったろうな。


(……どっちみちダメ元の策ではあったがな)


 羽多野をこういった陰謀ごとに絡ませるのは危険だ。茂姫は論外だ。


 その点、椿芽であれば我道の口も多少は軽くなるのでは……という消去法の人選ではあったが。


 椿芽の努力も認めるが、さすがにこの演技力では胡散臭さここに極まれリだ。


 まぁ結果オーライ、とりあえずはここまでの情報で良しと――。


「そ……そう? 鳳凰院、興味あんのか? そ、そこまで言われちゃ、しかたねーなぁ……」


 我道はあっさり相好を崩して、言った。


「……………………」


「……同情するような目で見んな」


 シェリスが涙目で俺を睨み返した。


※        ※        ※


「まぁ……覚え書きみてーなモンなんだよ」


「あまり……自分の技を忘れることもないとは思うが……」


「っせーな。必殺技……ことに奥義っつーのはあくまで最後の武器だ。そうそう使うこともねーんだよ。俺がそこまで追い込まれることなんてねーからな。だからたまに忘れがちになる」


「……自慢なのか恥ずべきことなのか」


「それに……実際んとこ、まだ未完成なんだよなァ」


「未完成?」


「ああ。ちょっとコツを間違えると……相手へのダメージよりも自分の体への負担が大きくなったりしちまう。とんだ自爆技ってとこだな」


「………………」


「……その呆れたような目はやめろっつの」


 いや……実際のところ俺の『アクセラ』も近い部類のピーキーな技ではあるのだから、技そのものについては、そこまで呆れてはいないが。


「まぁ……だから内容に関しても本当、覚え書きとか日記とかみてーなもんだ。力の加減とかコツとか、それこそ俺自身でもなきゃ、実際に目にしてもナニがなんだかわかんねーだろな」


「だろうな」


 この男に、他人が読んでも判るような文才があるとも思えんし。


「でもなきゃ、さすがに鳳凰院嬢ちゃんのたってのお願いでも、ここまでぺらぺらとしゃべらねぇよ」


「一応、警戒はしていたのか」


「そりゃそうだ。鳳凰院にしてもお前にしても……全然まだまだ駆け出しとはいえ、一応、ライバル候補のようなモンだしな」


「む……」


(止せ)


『全然』か『まだまだ』か『駆け出し』か。


 どこかに引っかかったのか、それとも全部か……とにかく、挑発に乗りそうな椿芽をさりげなく諌める。


 いや――。


 学園に居る以上は、とりあえず闘ってみる、というのもそれはそれで経験値にはなるだろうが……。


(少なくとも……今のお前には別の仕事があるだろう)


(わ……判っているっ!)


『ミッション』を思い出し、また姿勢を正す。


 ……姿勢を正してする演技ではないんだがな。


「んっ……んんっ……!」


 椿芽は仕切りなおすように大仰な咳払いをしてみせてから……。


「わ、わたし……やっぱり興味あるなぁー。ちょ、ちょっと……ヒントとか欲しい……っていうかぁ……」


 ……努力は買おう。


「そ、そうかぁ?」


 ……そして、こっちはこっちでチョロすぎだろ。


「………………」


「……みんな」


 シェリスがますます涙目に。


「まぁ……今も言ったように未完成だからなぁ……」


「えー? でも知りたぁーい」


「そ、そうだな……名前……技の名前だけでも教えちゃおうかな……?」


「わ、わーい」


 史上稀に見るような直立不動の棒演技。そしてそれを受けて疑う事さえもなく相好を崩して答える学園最強の一角を担う強者。


 ある意味でものすごく見応えのある対戦ではあるが……それを面白がってる場合でもない。


(技の名前、か)


 場合によっては技そのものがどんなものか、推理することができるかもしれない。


 ましてやこの我道のこと。


 技の名前も直球極まりないもの、と考えられる。


 ともすれば……いずれこの男とやりあう上で、ちょっとしたヒントになるかもしれ――


「その名も……デス・ライト……ええと……なんとか! だ!」


 ……なくもないこともあるわけが無かったか。


 っていうか、技の名前までうろ覚えってのはどうなんだ。


「へ……へぇ……」


 見よ、椿芽でさえ棒のまま引いている。


「デス・ライト・なんとか!」


 ……二回言うな。しかも名前のおおよそ三分の一を忘れておいてそんな胸張って。


「……………………」


「……うぅ……その目で見るなよぅぅ……」


 本気でシェリスが哀れになってきてしまった。


「しかし……」


「なんだ、天道。俺はちんこ付いたイキモノには基本的にサービスしない主義だぞ」


「……そうか。まぁ……その辺は追求しないが……。単にちょっとした知的好奇心の質問なだけなんだが、いいか」


「なんだよ」


「……なんで……『皿』……ディスクにそんな秘密を記していたんだ」


 むしろ先刻、本人が例に挙げたように、日記にでもつければいいことだろうと、俺などは思う。


「馬鹿か、お前」


「……いきなり馬鹿扱いか」


 普段ならまだしも、今この場での我道に言われると流石にちょっとイラッとする。


「皿に奥義を書くのは……漢のロマンだろ!」


「…………………………」


「……………………うぅ」


 うん。


 聞くんじゃなかった。


※        ※        ※


 ……というような事があってからの放課後、例のごとくZランク寮の俺の部屋。


「――という訳だ」


「……あんま実りない情報収集だったもきねー」


「……恥のかき損だ……」


「ま……まぁまぁ」


 お茶を淹れてきてくれた羽多野が甲斐甲斐しく椿芽を慰める。


「いや……そうとも言えまい」


「え?」


「少なくとも……多少は判ったこともある」


 俺は手近な紙にペンを走らせる。


「まず……『皿』、つまりディスクは、我道と頼成の二人が探している」


 簡単な相関図を書いて状況を整理する。


「……字、汚いもきね。アニキ」


「うるさい」


「昔からこうだ。私などはもうこいつの文字を判読するのは半ば諦めている」


「うるさいっての」


「あ……で、でも……個性的! って感じもしますよ!」


「……フォローしなくていい」


「そ、そうですか……」


「俺の字のことはどうでもいい。とにかく……」


 頼成から我道に向けた矢印を引く。


「頼成は欠片を我道に奪われたと思っている。しかし、本人の言葉を丸ごと信じれば、我道はそれを所持していないと見ていい」


「でもでも、そりゃ我道の言葉だけもきよ? 実際には持ってて隠してるかもしれんもき」


「もちろん、100%とまではいえないが……あの男がそうそう腹芸を使えるようにも見えん」


「それは私も同意見だ。というか……あいつは確かに強いかもしれんが、頭は確実に馬鹿だ」


「は、はっきり言うもきね……」


「頼成のほうだが……こちらも我道の『皿』を所持しているとは考えにくい」


「そう……なんですか?」


「これも確たること……とまでは言い切れないが、もし所持していたら俺にああいう依頼はしてこないと思う」


 頼成の『皿』の内容はわからないが……もし、重要なものであるのならば、自分の持っている我道の『皿』を盾に取引きをするだろうと思う。


 もしかしたら頼成は我道の『皿』に関しては紛失している状況どころか、ともすれば自分と同じ『皿』が我道にもあるという事すら知らないのかもしれない。


「にゃるほどもきねー。アニキ、結構、考えてるもきねー。字は汚いけど」


「ああ。字は汚いけどな」


「ですねぇ」


「お前らな……っていうか、羽多野。お前まで……」


「ああっ! す、すみません……つい本音が……」


「本音……」


「あ……あああっ!」


「ま、まぁいい。それでこの俺たちの手にあるディスク、だが……」


「どっちも失くしてて、どっちも相手のを持っていない以上……やっぱ、どっちの『皿』かはわからんもきねー」


「茂姫。お前が調べ直してみても……やっぱりどちらのものかは判らなかったのか?」


「そうもきねー。ブームが去ったとはいえ……そこはそれ、一応は最近までセキュリティ手段として使われてたもき。そうそう簡単にはプロテクトは破れんもき」


「まぁ……だとすれば、だ」


 ともかくどちらかに渡し、それぞれの欠片と組み合わせてみるまでは……どちらのものか判別つかない。


 我道に渡す場合は――。


 もともと、我道はこの欠片に関しては頼成ほどには固執しているようには見えなかった。


 仮にこれが我道側のものだとすれば、まぁ感謝くらいはされるだろうし、恩は売れるだろうが……言ってしまえばその程度、だ。


 頼成のものだったとしても我道の性格からすれば、それを以って頼成相手のやり取りに利用する……ということもあまり考えにくい。


 あったとしても、依頼された事でもないのだ。感謝される以上の展開は期待できない。


「ただまぁ……こう言ってしまうのも何だが、渡しやすくは、ある」


「お友達ですもんねぇ、乱世さんと我道さん」


「……いや、そういう意味ではないんだけどな」


 探してくれと頼まれたものでない以上、我道のならば幸い、違ったとしても咎められはしない……という程度だ。


 逆に頼成のものであった場合には、明確に頼成にケンカを売ったことになり、恨みも買いかねない。


「入手したら吹聴して回る、などと言っていたしな」


「ああ」


 逆に頼成に渡す場合――。


 これは正式(?)に依頼を受けているのだから、見返りもまぁある程度期待できなくもない。


 頼成のものであれば、それはそのまま依頼を果たしたことになるだろうし……。


 仮に我道のものであっても……あの男の場合は、それを有効に使う術を知っている。


 それはそれで感謝もされるし、報酬の上乗せもあり得る。


 しかし――。


「……結果、我道のことは裏切ることになるな」


「そ、それは良くないですよぉ! お友達を裏切っちゃいけませんっ!」


「……友達かどうかはどうあれだ。少なくとも夢見は悪い。それに……」


「それに?」


「あの頼成が素直に約束を守る、という保障もない」


「個人的な見解だが……むしろ可能性は低いように思えるな」


「わ、わたしもそう思います! あの人……信用できませんっ!」


「ふむ……」


「ローリスクローリターンか……ハイリスクハイリターン……って感じもきねぇ」


 やはり取り扱いは慎重に行わなくてはならないな……。


 俺はしばらく、自分で描いた相関図を前に腕組みして考えていたが……。


「……このディスクは我道のものではないかと思う」


「なぜ、そう思う?」


「勘だ」


「……あてずっぽうか、つまり」


「ここまで手がかりがなくては、勘に頼らざるを得まい」


「し、しかしなぁ……」


「んー。まぁ、でもそれもまたひとつの手段ではあるもきねー」


「お前もお前でまた無責任なことを……」


「いやいやいや。ホラ、どっちこっち……先方にも見ただけじゃどっちのディスクかなんてわからないもき。それなら実際ントコ、どっちのものかなんて取り引きの上じゃあんま意味ないもき」


「え? どういう……ことです?」


「つまるところ先方が真贋を確認するまえに利益を得てしまえばいい。売り逃げ……ということか」


「そーそー」


「そ、それって……ちょっとサギっぽくないですかぁ?」


「そうだ。それは……あまり好かないやりかただ」


「それは……俺も同意見ではあるが」


「んでも、仮に間違ってて自分のじゃなかったとしてもも、ライバルの秘密が書かれたディスクなら向こうもそう損とは思わないもきよ」


「確かにな。内容が違っていたことに腹は立てるかもしれんが……まるごと損もしない、ということか」


「そそそ」


「ふむ……」


「まー、その程度のツカむツカまされる程度のハナシなら、この学園じゃまだしも良心的なほうもき」


 茂姫は言うが、もちろん不安要素はある。


 例えば――。


 このディスクが、我道のものでも頼成のものでもない、単なる同一の全く違うディスクであったり、内容が破損していたり……つまり、根本から役に立たない場合。


 これはもうただの詐欺にしかならない。


 そして、これを我道のものだととりあえず仮定しての場合でも、頼成に売り渡したことが判れば我道の恨みは買うかもしれない。


 この場合は、実は内容が頼成のものであったとするならば、丸くは収まるが。


 我道に渡した場合は、そのまま正しく我道のものであったなら我道には感謝され、頼成にはもともと入手したものが彼のものでなかったことになるのだから、恨まれる筋合いはない。


 なぜこっちに持ってこない、との逆恨みはありえるが。


 しかし、ディスクが実は頼成のものであったのなら、頼成にはやはり激しく恨まれるだろう。裏切りと同義でもある。


「ふむ……」


「乱世……」


「乱世……さん?」


「……利益を得ようというのが前提なら、どのみち絞って考えねばならないだろうな。まるごと安全だったり……奇麗事にできる方法はない」


「それは……そうなのかもしれないな」


「まず……これは我道のディスク、と仮定しよう。そこを決めてかからないと、先に進まない」


「そうもきねぇ」


「その上で、これを……どちらに持ち込むか、だ」


 先の考えでは「どちらかに恨まれる」点では概ね同じリスクと言える。


 しかし、我道がディスクを積極的には探していない、かつ頼成には依頼として受けている、という点も含めれば……。


 頼成に持っていくほうが実入りは多い。


 ただし、頼成のあの性質を鑑みれば、素直に取引が成立するかには疑問が残る。


 我道へ、の場合は……もともと頼まれてもいないことであるから実入りは低いうえ、どの場合でも頼成に恨みを買う可能性は高い。


 なるが、あの我道であれば、取引の段階で悶着が起こることは、考えにくい。


 現状、多少は好意的なつきあいをしている男闘呼組との関係にヒビも入らない。


(……結局のところ……どちらにおいてもリスクはありえるが……)


 また、暫く熟考する。


 するが……実のところ、答えは出ていたかもしれない。


「我道に持ち込もう」


「いいもきか? 我道には依頼を受けてたわけじゃないもきよ?」


「それはそうだが……これを仮にとはいえ、我道のものだと決めた以上、やはり本人の手に渡すのが正しいと、俺は思う」


「それは……そうですよね」


「うむ。私もそのほうが筋が通っていて気持ちがいい」


「それに、我道本人は相手の秘密を買い受けてどうこうしようと考えるタイプではないと思う。ならばこちらの事情をも話し、結果……それが頼成のものであったのなら、返してもらい、改めて頼成に届けてもいい」


「うむ。それはいいな。私も賛成だ」


「やー。でも、それはタテマエもきじゃ? 実際、手にしたらどうなるかわからんもきよー?」


「まぁ、だとしたら俺のあの男への見立てが間違っていたというだけだ」


「んなあっさり……」


「その時はその時だ」


 それに……我道が茂姫の言うように良からぬ部分があり、ディスクを頼成攻略に役立てようと企んだとしても、だ。


 そのディスクの入手先を、俺たちと明かす理由はないだろう。


 それさえ知られなければ、頼成に恨まれることもない。


「明日にでも我道に連絡を取ろう。やはり交渉は夜がいい」


 万が一のことだが……それを手渡している場面を目撃されては、頼成にそれが伝わらないとも限らない。


 ディスクがどちらのものであろうと、それを手渡してたことを知られれば、面倒なことになる可能性は高い。


「あ、それなら……打診はモキがしとくもきよ」


「お前が、か?」


「まー、いちお、茂姫はこのチームのマネージャーみたいなモンもきからねー。それに……」


「それに?」


「アニキのバヤイ、その場で我道にディスクを出せっていわれたら、バカ正直にそのまま出しかねんもき」


「……それはあるな、乱世の場合……」


「あるかもですねぇ」


「……羽多野まで……」


「あっ! い、いえ……素直で正直、ってことですよ?」


「そうなったら、交渉もくそもないもき。せっかくここまでアタマひねったんなら、ちょっとは儲けないと損もき」


「それも……そうか。流石にこの倒壊寸前の寮はイヤだからな……」


「わかった。それじゃ、この件は茂姫に任せる」


「りょうかいもきー♪」


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