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天道組、発足

「椿芽っ! 無事か!」


 それから寮までは、羽多野の案内でスムーズに到着できた。


 俺はあの怒黒組の連中の言葉が気になりできるだけ急いで駆けつけたのだが……。


「おお、乱世。随分と早かったな」


 丁度、椿芽がぱちりと納刀したところだった。


「あ、アニキ~」


 その足元にはそれぞれ一刀の元に叩き伏せられたらしき怒黒組の連中が十人ほど、気絶して倒れている。


「……遅かったか。しかし、とりあえず峰打ちにしておいたようで安心した」


「当たり前だ。というか……私よりも相手の心配か」


「当たり前だ。いくらこの学園とはいえ……いきなりパートナーが殺人というのも寝覚めが悪い」


 もとより――


 俺の方に来た連中程度であれば、椿芽に心配は要らないのだが……。


 それでも俺としては憶測で安心することなどは、俺にはできない。


 椿芽の方に軍馬クラスの相手が向かっていなかったという保障は無かったのだから。


 しかし、それについてはとりあえず杞憂で終わってくれたようだ。


「察するに、乱世の方にも馬鹿どもが行ったのか」


「ああ。怒黒組と名乗っていたが」


「こちらもだ。まったく……結局、面倒なことになってしまった」


「……その口調では、俺の責任だ、と言わんばかりの含みがあるように聞こえてしまう」


「そう言っているのだ!」


「……………………」


「……なんだ、その顔は」


「いや別に」


「まるで……お前も一緒に暴れたろう、などとでも言いたそうな顔だ」


「なんだ。判っていたのか。なら素直に言っておけばよかった」


「この……!」


「あ、あの……!」


 椿芽が一度納めた刀の柄に再び手をかけたところで、羽多野が割って入ってくれた。


「うん? 乱世……誰だ、彼女は」


「ああ……羽多野勇。ここまで親切に案内してもらった」


「なるほど、道理でお前にしては早かったわけだ。すまなかったな、羽多野さん。この方向オンチがひどく迷惑をかけたろう」


「い、いえ……そんなこと……」


「それから……新しい天道組のメンバーだ」


「よ……よろしくお願いしますっ!」


「ほうほう、なるほど………………………………って!」


「……さり気なく言えば流れで紛れるかと思ったが……やはり駄目か」


「当たり前だっ! お前は何を勝手に……!」


「男の約束なのだから仕方あるまいそれに……」


「は、はい。その……一応、まだ見習いということで……」


 道すがら、そこは納得させた。


 さっきも、俺を直接倒したということでもないわけだし。


 正式に手続きを経て加入となれば、それこそ明日にもまた危険が及ぶ可能性もあるかもしれない。


 しばらく見習い期間とでもしておけば、俺に対する好意が気まぐれであるのならその間に興味がさめることもあるかもしれないし……。


 逆にその間、彼女本人の強くなろうという意思が続くのであれば、俺か椿芽が鍛え上げてやることもできなくもない。


 もとよりこの学園に居る以上は、強くなろうとする本人の意思を、別の他者が止めるのはおかしなことだ。


 それは椿芽が俺と同じく彼女に危惧した、見た目の脆弱さがあったとしてもだ。


「あ……あのっ! 一生懸命頑張りますので……どうかよろしくお願いいたしますっ!」


「いや……まぁ、それは……しかし……」


 椿芽も椿芽でその根本は理解しているので、逆に珍しく歯切れも悪くなるのだろう。


「そこまで案じることもない。彼女はこう見えて、それなりの素質を持っているようだ」


「へぇ~。アニキが太鼓判押すなんて、人は見かけに拠らないもきねー」


「えへへ……」


「ああ。なにせ、俺が油断とはいえ、ダウンを奪われた」


「まじもきかー!?」


「そ、そんな……あれは……」


「それはお前が……」


「……修行が足りない、か?」


「いいや。女に甘い、ということだ」


「俺が?」


「お前が、だ」


 はて……?


 確かに羽多野の見た目には油断をしたが……。


 男女の性差を念頭において判断を緩めた覚えはないのだが……。


「……相変わらず、お前の俺指摘は良くわからない」


「だから修行が足りないというのだ」


「むぅ。結局それか……」


「……………………」


 気づくと羽多野が椿芽の事をじっと見つめていた。


「ん? なんだ……羽多野さん」


「いえ……べつに」


「まぁ……いきがかりの上とはいえ、乱世が認めたというのなら仕方ない。よろしく頼む。羽多野さん」


「ふ、ふたつありますっ!」


「……!?」


 殺気のない一打、というのは恐ろしい。


 俺のときと同じく目を突かんばかりに、ずびし、と突きつけられた羽多野のVサインに、あろうことかあの椿芽が、びくりと身を竦ませたのだ。


 これで事実上、椿芽も彼女に一本取られたことになる。


 もっとも、羽多野にしてみれば攻撃の意図などはないのだが……。


「な、なんだ……羽多野さ――」


「……勇でいいですっ!」


「は?」


「い・さ・むっ! 名前でいいですっ! 椿芽さんっ!」


「え? あ……ああ、そうか……。い、勇……さん」


「勇、でいいですって言ってますっ!」


「そ……そうか。わ、わかった……勇」


「………………」


 ぷぅ、と頬を膨らませ、わかりやすく拗ねた様子を見せている羽多野。


「あ、あの……もう一個は……なんだ?」


 ……そして、これまたわかりやすく、そんな羽多野の様子に狼狽している椿芽。


「も、もういっこはっ……!」


「う、うむ……?」


「もういっこは……」


「………………?」


「も、もういっこは……お、教えてあげませんっ!」


 それきり、ぷい、とそっぽを向くようにしてしまう。


 ……もしかして考えてなかったのか?


「お……おいっ! 私は……何か彼女に失礼なことをしたかっ!?」


 椿芽が俺に耳打ちするように聞いてくる。


「いや……特にそんなことは無かったように思うが」


「なら……何故、私に対して彼女はこんなに怒っているっ!?」


「知らん」


「あ、あっさりと……。どうせお前だろう!? お前が……何か余計なことでも吹き込んで……!」


「あっ! ちょ、ちょっと!! 椿芽さんっ! そんなにくっつかないでくださいっ!」


 俺と椿芽の密談に、羽多野が割り込んでくる。


「乱世さんは……私の運命の王子様なんですからっ!」


「な……なぬぅっ!? なんだそれは……おい、乱世! 何の話だ、それは!」


 勢い、耳打ちの体勢から俺の襟元をねじりあげる体勢へとチェンジする椿芽。


「……運命の、まで加わったか……」


「だーかーらー! くっつかないでくださいよぉーっ!!」


「おい……乱世っ! きちんと説明しろっ!」


「あー! もぉーっ!」


「……好きにしてくれ、もう……」


「いろんな意味で大物もきねー、アニキは。まぁ……英雄、色を好むともいうもきか」


 一人、あの性差不詳のちびすけが傍観しながらそんな暢気なことを言ってやがる。

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