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天才・新井場縁の災難  作者: 陽芹 孝介
第一章 古き善き都 京都
9/71

……午後2時…ホテルB1ビリヤード場……




縁と桃子が約束の時間にビリヤード場に到着すると、小林夫妻は既に待っていた。

小林は二人を見つけると、大きく手を振った。

「小笠原さんっ!新井場さんっ!こっちこっち……」

小林に手招きされて、二人は小林夫妻が待つビリヤード台へ向かった。

縁は小林夫妻に言った。

「お待たせしましたか?」

弘子は笑顔で言った。

「いえ、私たちも今来たところですよ」

「では、さっそく始めましょう…」

そう言うと小林はキューを4本持ってきた。

小林は言った。

「ナインボールでいいですか?」

縁は返事した。

「はい、ナインボールでやりましょう」

ナインボールとはビリヤードのルールで、簡単に言うと1~9番のボールを無地の白い球を使い、順番にポケット…穴に落としていき、最後に9番ボールを落とした方が勝ちと、いうルールだ。

小林は手慣れた様子で球を菱形に並べた。

「ブレイクは……じゃん拳で決めましょうか…」

ブレイクとは菱形に並べられたボールを白い球で弾く事だ。

縁は言った。

「わかりました……桃子さん」

縁は桃子にじゃん拳を勧めた。

「任しておけ」

桃子は気合いを入れて、じゃん拳に挑んだ。

相手チームは弘子がじゃん拳をするようだ。

桃子と弘子の二人はじゃん拳をした。

じゃん拳の結果、桃子が勝利したので、ブレイクは縁と桃子のペアがする事になった。

「じゃぁ、桃子さんブレイクを……」

縁にブレイクを促されたが、桃子は首を横に振った。

「私はまだいい……ブレイクは縁がやってくれ」

「えっ!桃子さん、ブレイクやんないの?……まぁ、俺はどっちでも構わないけど…」

そう言うと縁はキューを持って構えた。

経験者の雰囲気を出している縁は、キューを構えた姿も実に様になっている。

縁は勢いよく球を弾いた。

縁に弾かれた球は、きれいな音を響かせて、台の上で散った。

散った球は数個ポケットに入って行った。

小林は思わず声を上げた。

「上手いっ!」

縁は気にせずプレーを続けた。

順番にポケットに球を納めていき、残り3つになった。

縁のビリヤード姿に小林夫妻は思わず見とれてしまった。

「残りは……6・7・9か…」

そう呟くと縁は白い球をコーナーに向けた。

6番の球を狙うには9番が邪魔をしているので、コーナーを使い9番を避けて当てなければならなかった。

縁は慎重にショットした。

白い球は見事9番を避けて6番を捉えた。

白い球に弾かれた6番はポケットを目掛けて転がって行った。

しかし、軌道が少しずれてしまい、6番は残ってしまった。

小林夫妻は「おしいっ!」と言い、縁に賛辞を送った。

「凄いですねっ!勝負を挑んだのは間違いだったかな…」

小林は興奮しているが、縁にとってはこれくらいは、朝飯前だった。

縁は祖父からビリヤードも、叩き込まれていた。

球の軌道を計算したり、戦略的な遊びができるとして、ビリヤードを叩き込まれた。

ビリヤードだけではなく、チェスや将棋、オセロやインドアのゲームに……サッカーやバスケといった球技も幼少期から、やらされていたのだ。

縁は謙遜した。

「まぐれですよ……」

すると桃子が自慢げに言った。

「縁は普段、こんな物ではないぞ……私なんか一度も球に触れないくらいだ…」

「何であんたが自慢してんだ?」

ここで縁がミスをしたので、プレーは小林夫妻に移った。

「弘子からやってみな……」

小林に促されて弘子はキューを手にした。

「私……下手なので、笑わないで下さいね」

弘子は恥ずかしそうに、ショットした。

打った球は6番を何とか捉えたが、ポケットに納める事は出来なかった。

弘子は申し訳なさそうに言った。

「ごめんなさい…あなた…」

「いいんだよ……楽しむ物なんだから…」

小林は弘子を慰めた。

この小林という男性は優しい人間のようだ。

そして、桃子の番になった。

縁は言った。

「なぁ、桃子さん……なんか考えがあるって、言ってたけど…」

桃子は言った。

「私はお前に惨敗してから、考えたんだ」

「何を?」

「どうしたら縁のようなショットを打てるのか……そして、わかったんだ」

縁は興味津々で聞いている。

桃子は言った。

「お前の撃ち方を……真似すればいいと…」

縁は驚いて言った。

「はぁーっ!?そんなんで上手くなるわけないだろ」

桃子は気にせず、キューを握った。

「まぁ見ていろ……」

桃子はキューを構えた。

縁と同様に桃子の構えも様になっている。細い腕に、スタイルの良い体つきの桃子がキューを構えると、妙な色気があった。

そんな桃子の構えを、周りの他の客も見ている。

ビリヤード場の注目の的となった桃子は、勢い良くショットした。


……数分後……


桃子の表情は明らかに不機嫌だ。

「何故だ?何故、球が真っ直ぐ飛ばないんだ?」


縁は呆れて言った。

「当たり前だろ……撃ち方を真似ただけで、上手くなるわけないだろ…。細かい角度の調整や、キューを球に当てる位置とか……色々考えて撃たなきゃいけないんだぜ……」

桃子は言った。

「小林夫妻……少し休憩したいのだが?」

小林は言った。

「え、ええ…構いませんが……」

「10分後に戻ってくる……。行くぞ、縁……」

「また、勝手な事を……」

縁の言葉を気にせず、桃子は縁を連れて、台から離れた。

台を離れて、縁は言った。

「あんまり勝手な事を言うなよ……」

「勝手ではない、作戦会議だ」

「何が作戦会議だよ……」

縁を無視して桃子は言った。

「あそこにあるカウンターバーで、少し作戦会議しよう」

桃子の視線の先には、ビリヤード場に備え付けてあるカウンターバーがあった。

席に座ると男のバーテンダーが尋ねてきた。

「いらっしゃいませ……ご注文は?」

「ソフトドリンクありますか?……あっ!」

縁はバーテンダーを見て何かに気付いたようだ。そのバーテンダーは、先程ショッピングモールの前で女性と揉めていた男性だった。

縁の表情にバーテンダーは反応した。

「何処かで会った事ありました?」

このバーテンダーはおそらく地元の人間だろう。イントネーションが関西弁だ。

縁は慌てて言った。

「いや、会った事はないけど……」

桃子が言った。

「さっき、平手打ちを喰らっていた男だな……」

「ばかっ!ストレート過ぎるよっ!」

バーテンダーは全てを察して、苦笑いした。

「はは、まいったな…見られてましたか……」

縁は桃子の失礼を謝罪した。

「なんか、すみません……」

「いえいえ、気にせんといて下さい……あれは嫌でも目立ちますわ…」

バーテンダーは顎髭を生やしていて、デザインパーマをあてた髪を、お洒落にセットし、タキシード姿も似合っている。簡単に言うと、イケメンだ。

気をとり直してバーテンダーは言った。

「えっと…ご注文は?」

縁はメニューを見て言った。

「じゃあ、このフレッシュジュースを二つ…」

バーテンダーはフレッシュジュースを準備した。

縁は桃子に言った。

「あんまり失礼な事言うなよ……バーテンさん、困ってたぞ…」

「何だ、ほんとの事だからいいじゃないか……」

「そういう問題じゃねぇよ……」

そうこうしてる内に二人にフレッシュジュースが届いた。

するとバーテンダーが尋ねてきた。

「あのぉ…お客さん……」

縁が言った。

「どうしましたか?」

「いや、あのご夫妻とは……お知り合いで?」

バーテンダーは小林夫妻の事を言っているようだ。

「知り合いって言うか……たまたま京都で知り合ったんですよ。それが?」

バーテンダーは言った。

「いえ、僕…奥さんの方と知り合いなんですわ……」

どうやら小林が言っていた知り合いとは、このバー店のようだ。

桃子が言った。

「なるほど……小林氏が言っていた知り合いとは、君の事か……」

「ええ……旦那さんの方はあまり、知らんのですけど……奥さんの弘子さんは、学生時代の友人なんですわ」

縁が言った。

「そうですか……大学時代の?」

「はい……彼女、東京からこっちの大学に…京都で下宿してまして、大学卒業後に東京に戻ったんですけど」

桃子が言った。

「今もこうして友人関係でいれるのは、素晴らしいじゃないか」

バーテンダーは少し浮かない表情になった。

「ええ、まぁ……そうなんですけど…」

すると、バーテンダーは何かに気付いたのか、急に縁と桃子に言った。

「すみません……少し奥で夜の仕込みをするので…」

そう言うとバーテンダーは店の奥へと姿を消した。すると、奥から代わりの女性店員が来た。

縁と桃子がフレッシュジュースを堪能していると、縁の席から二つ空けた隣に、一人のギャル風の女性客がやって来た。

女性客は女性店員に言った。

「なぁ、順ちゃんは?」

「今、奥で仕込みをしてます…」

「何や……避けられてんのかなぁ……まぁ、ええわ…アイスカフェオレ頂戴」

縁は女性客を見て、思わず声を出した。

「あっ!」

女性客は縁の声に反応し、縁を見たが、縁はすぐに顔を逸らした。

女性客は縁に絡んできた。

「なんやあんた……私になんかようか?」

縁は思わず言った。

「いや別に……」

すると女性客は縁の顔をまじまじと見て言った。

「あんた……きれいな顔してるなぁ…。ええ男やないの…」

すると、桃子は女性客に言った。

「縁は男に手をあげるような、気の荒い女は苦手だぞ……」

桃子の言うように、女性客は先程バーテンダーに平手打ちを喰らわした人物だった。

それを聞いた女性は、思わず笑った。

「あははは……なんや見てたんかぁ…」

縁は言った。

「あの順ちゃんって、もしかして……」

「そうや、ここのバーテンや……さっきビンタした事を謝りに来てん……でも、私が来て奥に引っ込んだみたいやから、今は会いたないんやろな…」

すると桃子は言った。

「縁、そろそろ戻るぞ…もうすぐ10分だ」

縁は言った。

「そうだな、戻るか……」

すると女性客は言った。

「なんや、もう行くんかぁ?お兄さん私とお茶しようやぁ……」

女性客は縁の服を掴んだが、桃子が一蹴した。

「縁から手を離せっ!」

「なんや、ヤキモチか?」

「うるさいっ!人を待たしてるんだ…」

すると女性客は残念そうに縁の服を離した。

「なんや、残念……」

桃子はさっさと会計を済ませて、縁を連れてカウンターを離れた。

桃子は縁に言った。

「縁、嫌なら嫌とハッキリ言えっ!」

「何を怒ってんだ?…まぁ、でも助かったよ……けど、作戦練れなかったな…」

二人は小林夫妻が待つビリヤード台に戻ったが、弘子はいなくて、小林が一人で待っていた。

縁は言った。

「あれ、弘子さんは?」

「先程お手洗いに……」

「そうですか……では待ってましょう…」


……20分後……


「遅いな……」

小林が言うように、弘子はまだ戻って来ない。

縁が言った。

「確かに少し遅すぎますね……」

「すみません…」

小林がそう言うと、縁は言った。

「いえ、そうじゃなくて……体調不良でも起こしてるんじゃ…」

小林の表情はみるみる暗くなった。

その時だった。


「キャーーーーーーッ!!!」


ビリヤード場に女性の悲鳴が響き渡った。

縁は反射的に、悲鳴の方向へ走った。

桃子も後を続いた。

縁が走った先には……先程の女性客がトイレの前で座り込んでいる。

縁は言った。

「どうしました!?」

女性客は恐怖のあまり、顔がひきつっていて、顔色も悪い。

女性客は震えながら指差した。

縁はその方向を見て、驚きと同時に思った。

旅行前の予感が当たった。

そこには、腹部から血を流して倒れている弘子がいた。

まただ……。

桃子と行動を共にすると……。

事件が起こる……。



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