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天才・新井場縁の災難  作者: 陽芹 孝介
第一章 古き善き都 京都
8/71

……翌朝…ホテル内レストラン……




昨晩の約束通り、小林夫妻と朝食をする事になった縁と桃子は、バイキング形式の朝食を堪能していた。

小林夫妻はニコニコして楽しそうに食事をしている。

二人は大変仲が良さそうで、優しそうな夫と、清楚な妻といった感じだ。

ただ弘子は清楚な雰囲気と裏腹に、身に付けている装飾品が少し目立っていた。

ネックレスに、数種類のブレスレットなど、高価そうな物を身に付けている。

4人での話は、意外と盛り上がり、話題は縁の年齢になった。

すると小林は縁の年齢を聞いて驚いていた。

「17歳ですか……私はてっきり大学生だと思っていましたよ…」

妻の弘子も言った。

「新井場さん……大人っぽいですからね」

桃子は鼻で笑った。

「ふんっ、縁が大人っぽい?言っておくが、縁には食い気しかないぞ」

縁は桃子の言い草に腹を立てた。

「そんな言い方しなくてもいいだろっ!」

弘子は話を変えるように言った。

「でも……小笠原さんが、あの小笠原桃子さんだったなんて……」

小林も言った。

「いやぁ……驚きましたよ、最近凄い賞を獲られたんですよね……テレビで見ましたよ」

桃子は得意気に言った。

「聞いたか縁?……私は有名みたいだぞ」

「何をはしゃいでんだ……」

弘子が言った。

「それにしても凄いですよ……文才があるから、獲れたんですよ」

縁は言った。

「弘子さん……あまり乗せないで下さい」

小林が言った。

「弘子の言う通りですよ、才能がなければできませんよ……」

桃子はニヤニヤしている。

「おいっ!縁……聞いてるか?」

「顔にしまりがないぞ……」

縁の言うように、桃子は嬉しさのあまりしまりの無い表情をしている。

縁は言った。

「それにしても、ここのバイキングは美味しいですね……朝なのにいっぱい食べてしまいそうですよ」

小林が言った。

「そうなんですよ、私もここのバイキングが忘れられなくて……新婚旅行も京都にしたんですよ」

縁は言った。

「では以前もこのホテルに?」

「ええ……弘子の知り合いが、このホテルで働いているので……その縁で一度このホテルに泊まりに来た事があったんです。なぁ、弘子……」

急に振られたからか、弘子は少し驚いた表情になった。

「えっ?ええ……そうね…」

そんな弘子を、小林は気にする事無く言った。

「新井場さん達はどうして京都に?」

「僕はこの人に、無理矢理連れて来られたようなもんです」

すかさず桃子が言った。

「おいっ!聞き捨てならないな……」

「何だよ、だいたい合ってるだろ?」

「お前が食べ物に釣られたのだろ…」

二人の掛け合いに弘子はクスクス笑っている。

「二人とも仲が良いんですね」

小林も同意した。

「うん、二人ともお似合いですよ」

縁はすかさず否定した。

「あの、言っておきますけど……そう言うのでは無いんで……」

確かに仲は悪く無いし、お互い嫌ってる訳でも無い。

そもそも嫌い合っていたら、二人で京都なんかに来ない。

しかし、よく間違われるが……恋人同士では無い。

実に奇妙な関係だ。

テーブルの料理が無くなった。

まだ食べ足りない様子の小林は、妻の弘子に言った。

「弘子、何かとってきてやろうか?」

「ええ、そうね……もう少し貰おうかしら」

「よしっ!じゃあ、適当にとってきてやるよ」

そう言うと小林は立ち上がり、追加の料理をとりに行った。

小林が料理をとりに行くと、弘子は縁と桃子に謝罪した。

「すみません、朝食を無理に付き合わせちゃって……あの人、けっこう強引で……」

弘子の申し訳なさそうな表情を見て、縁は言った。

「いえ、気にしないで……」

桃子も言った。

「食事は大勢でした方が美味いし、何より楽しいからな…」

弘子は嬉しそうに言った。

「そう言って頂けると……ありがとうございます」

少しその場はしんみりしてしまった。

縁はしんみりした場の空気を変えようと、弘子に言った。

「弘子さん…装飾品が好きなんですか?」

「えっ?ええ……やっぱり目立ちますか?」

「まぁ、少し…」

弘子は笑顔で言った。

「ほとんどの装飾品にパワーストーンが付いてるの」

「パワーストーンですか……」

「私……おまじないとか、験担ぎが好きで…これ見て下さい」

そう言うと弘子は財布を取り出した。

ブランド物で二つ折になっている女性用の財布だ。

弘子は財布からターバン折をされている、一万円札を出した。

弘子が取り出した一万円の福沢諭吉は、きれいに頭をターバンで巻いているようだった。

縁は言った。

「これも、験担ぎで?」

「ええ……財布の中のお札は、全部こうして、1回折るの……おかげで財布の中のお札は全部しわくちゃだけど…」

弘子は少し照れ笑いをしている。

桃子は感心した。

「験担ぎか……私も何かするかな」

縁は言った。

「何のために?」

「決まってるだろ……小説のためだ」

そんな話をしていると、小林が戻ってきた。

弘子は慌てて財布を片付けた。

小林は弘子が財布を片付けたのに気付いた様子は無く、持ってきた料理をテーブルに置いた。

小林は席に着いた。

「話は盛り上がっていますか?」

縁は答えた。

「ええ、そこそこ……」

「今日のご予定は決まってますか?」

桃子が答えた。

「私たちは、予定は未定派でね……特に決まっていない」

小林は笑顔で言った。

「そうですか……では、良かったらこの後、ビリヤードでもどうですか?このホテル、ビリヤード場もあるんです。外も暑いですから……」

桃子は少し考えて言った。

「ふむ、面白い……では、ペアで対決はどうだろうか?」

「何を勝手に決めてんだ?」

小林は桃子の意見に乗った。

「いいですねぇ……勝負といきますか」

桃子はニヤリとした。

「私の腕前に驚くなよ……」

縁は言った。

「だから、何を勝手に決めてんだ」

「何だ、縁……嫌なのか?」

「嫌じゃないけど、あんたビリヤード出来ないだろ…」

桃子は得意気に言った。

「いつの話だ……私をだれだと思っている?」

小林は二人の様子を見て言った。

「何か問題が、ありましたか?」

桃子は言った。

「いや、問題ない……是非ともあいてになろう……」

「ほんとに大丈夫か?」

すると弘子が言った。

「あなた……午前は少し買い物がしたいわ」

それに縁が答えた。

「では、午後からにしませんか?昼食は各自で済ませて」

小林は言った。

「そうですね……うん、そうしましょう」

こうして昼食後にホテルのビリヤード場に集まる事に決まった。

集合時間は午後2時で、縁と桃子のペアと、小林夫妻のビリヤード対決をする事になった。

朝食を終えて、小林夫妻と別れた、縁と桃子は少し外を歩く事にした。

昨日に引き続き、今日も日差しが強く、暑い。

照り返しの強い歩道を歩きながら、縁は言った。

「桃子さん……大丈夫か?」

「何がだ?」

「ビリヤードだよ……」

桃子はニヤリとした。

「ふっ……安心しろ、考えがある」

「考え?…何それ?」

「それは見てのお楽しみだ」

縁の表情は不安そうだ。

「何をもったいぶってんだ…」

桃子は話を変えた。

「それにしても……間近で見ると、迫力があるな…」

桃子の視線の先には、京都タワーがあった。

京都タワーは駅を挟んで、ホテルとは反対側の位置だったが…それでも肉眼で確認するには、十分だった。

縁は言った。

「迫力はあるけど……なんか地味だよ」

桃子は呆れて言った。

「お前にはわからないか……あのシンプルさがいいんだ…。何とも言えない味がある……そもそもあの京都タワーは………」

「なぁ…桃子さん……暑いから、アイスでも食わね?」

縁は京都タワーに興味は無いようだ。

桃子は少し…しょんぼりした。

「そっ、そうだな……ショッピングモールが少し先にある。そこで食べよう……」

二人は少し歩き、ショッピングモールに着いた。

ショッピングモールはかなり大型で、人ももの凄く大勢いた。

二人はモールの入口にある、アイス専門店でソフトクリームを購入し、近くのベンチに日陰を選んで座った。

ソフトクリームを食べながら、二人は町行く人々を観察している。

「暑いのに…よく来るよな……」

縁は感心しつつ、予想外の人の多さに少し圧倒されている。

桃子は言った。

「しかし、東京に比べれば……人の多さはまだましだ」

「まぁ、そうだけど……ここも大概だぜ」

すると人混みの中に見覚えのあるカップルがモールに入って行った。

縁が言った。

「あっ……小林さん達だ」

「どこだ?」

桃子も縁の言葉に反応し、小林夫妻を探したが、すでに人混みの中へと消えて行った。

どうやら縁と桃子の存在に気が付かなかったようだ。

しばらくすると桃子は何かに気付いたようで、縁に言った。

「おいっ、縁…あれ、見てみろ」

桃子に促され、縁は桃子の視線の先を見た。

視線の先には、なにやら揉めている男女がいた。

桃子は楽しそうにそれを見ている。

「悪趣味だな……」

縁にそう言われても桃子は視線をそらそうとはしない。

「若いって良いな……」

しみじみ言う桃子に縁は言った。

「いや、あれ……絶対俺たちより年上だぜ…」

縁の言うように、その男女は小林夫妻と同じくらいの年齢っぽい。

男女は桃子だけではなくて、他の人々の視線も集めていた。

すると、女性の方が男性をビンタした。

「あちゃぁ……」

桃子は目を閉じた。

ビンタをした女性はそのまま走って行ってしまい、男性はたたずんでいた。

しばらくすると、男性も我に帰ったのか、女性の行った方向へ何事も無かったかのように、歩いて行った。

桃子はニヤニヤして言った。

「面白い物が見れたな」

「何言ってんだ……それより俺たちも戻ろうぜ…暑くてかなわん…」

面白い物が見れて満足したのか、桃子もホテルに戻るのに同意した。


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