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天才・新井場縁の災難  作者: 陽芹 孝介
第一章 古き善き都 京都
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……東本願寺(ひがしほんがんじ)……



東本願寺は京都市下京区 烏丸(からすま) 七条に位置する、真宗大谷派の本山の通称である。

きれいに整備された境内は、京都の暑さを少しだけだが、涼しくさせる雰囲気がある。

縁と桃子の二人は境内を歩いている。

縁は境内を見渡して言った。

「きれいだな……なんとなく気持ちを落ち着かせる雰囲気がある」

桃子は言った。

「縁、東本願寺は始めてか?」

「ああ…前に京都に来た時は、ここには来なかったよ」

「なるほど……初体験か」

「まぁね、でも……東本願寺に関する知識はそこそこあるぜ…」

「ほう……それは私も知らない事かな?いいだろう、聞いてみよう」

「何で上から目線なんだよ?…まぁいいや」

縁は話し出した。

「そもそも東本願寺と言う名は、通称で…正式名称は『真宗本廟』って、言うんだ」

桃子は目を丸くした。

「ほ、ほほう……」

「因みに地元では『お東』『お東さん』とも通称されている…。また、これは少し不名誉な通称だが、この東本願寺は江戸時代に4度の火災にあっている」

「そ、そうなのか?」

「ああ……だから、その火災の多さから、東を弄って『火出し本願寺』と、喩やされた事もあったんだ」

さらに縁は境内の中心にある、巨大な建築物を指差した。

「桃子さん……あれ見てよ」

縁に促され桃子はその方向を見た。

縁は言った。

「あれは『御影堂』って言って、和洋の道場形式の堂宇さ…」

「はぁ……」

桃子はすでに頭に入ってないようだ。

縁は続けた。

「あれの建築規模は間口が76m、奥行き58mもあって、建築面積においては世界最大の木造建築物なんだぜ……」

桃子は頭を抱えた。

「うむ……素晴らしい説明だ、流石は縁だ…」

桃子の様子を見て縁は言った。

「あんた……ぜんぜんわかってないだろ?」

「そ、そんな事はないぞっ!」

「嘘つけ……」

慌てた様子の桃子を見て縁は思った。

……知らないな……と…。

縁の説明にあった、御影堂を見学し境内を歩いていた二人に、一組のカップルが話しかけてきた。

女性は清楚な感じで、男性は恰幅の良く、二人とも20代後半くらいだろうか。

男性が言った。

「すみませんが写真を1枚、撮ってもらいたいのですが……」

縁は快く引き受けた。

「ええ、構いませんよ…」

男性からデジカメを預かった縁は、デジカメを構えた。

「じゃあ、撮りますよ……はいっチーズ」

縁の掛け声と共に、カップルはピースした。

写真を撮り終えた縁は、男性にデジカメを返して言った。

「観光ですか?」

男性は答えた。

「ええ、新婚旅行なんですよ……そうだ、良かったらあなた方もどうです?写真…」

「いや、俺たちは……」

縁が断ろうとすると、桃子は男性に言った。

「撮って頂ければ助かる……縁、せっかくだ…撮ってもらおう」

桃子は勝手に決めてしまった。

縁は渋々承諾した。

「仕方ないな……1枚だけな…」

桃子は男性に自分のデジカメを渡し、縁の隣に立った。

「では、撮りますよ~!はいっチーズっ!」

桃子は男性の掛け声と、同時に縁と腕を組んだ。

予想外の出来事に縁は少し怯んだが、写真撮影は無事終了した。

男性は言った。

「いや~、美男美女だから様になりますねぇ…」

そう言うと男性は桃子にデジカメを返した。

男性はこちらに一礼をして、奥さんと観光を続けるために、二人と別れた。

新婚夫婦が去ったのを確認して、縁は言った。

「何で腕を組んだ?」

桃子はとぼけたように言った。

「そんな事をしたか?」

「何を考えてんだ……まったく…」

桃子は悲しそうに言った。

「私と腕を組むのが……そんなに嫌なのか?」

「その表情はやめろ……別に嫌じゃないけど…人前だぞ」

桃子は表情を戻した。

「そうか……嫌じゃなければ良い」

「人の話を聞いてんのか?」

「新婚旅行に京都か……なかなか古風だな…」

桃子には縁の話を聞くつもりは無かったようだ。

東本願寺を観光した二人は、他にも観光を続けた。

西本願寺に東寺(とうじ)城南宮(じょうなんぐう)などを、タクシーで巡って観光を満喫した。

各観光スポットに着く度に、縁のウンチクを聞かされた桃子は少々疲れた様子になっていた。

そして、本日の最終目的地の中書島(ちゅうしょじま)に到着した。

時刻は午後5時を回っている。

中書島という地域は、酒蔵で有名だ。メインストリートに大手筋(おおてすじ)商店街というのがあり、その商店街はたくさんの人で賑わっている。

その大手筋商店街を歩きながら、縁は言った。

「中書島って言ったら、やっぱ寺田屋だな…」

桃子は言った。

「寺田屋?ああ……坂本龍馬の…」

縁は桃子の薄い反応に、少し引っ掛かった。

「桃子さん……まさか、知らなかったの?」

桃子は慌てた。

「ばっ、馬鹿にするなっ!当然知っているっ!」

縁はニヤリとした。

「ふ~ん……まぁ、そりゃそうだよな、何てったって作家の先生だもんなぁ」

「お前……完全に私を馬鹿にしてるだろ?」

「別にぃ……」

縁のニヤリとした表情に、桃子はそっぽを向いてしまった。

縁は笑った。

「はははは……やっぱ、桃子さんをからかうのは面白れぇや」

すると桃子は静かに呟いた。

「いいのか縁?私にそんな事を言って…」

縁は笑うのを止めた。

「なっ、何だよ……」

縁の反応を見て、桃子はニヤリとした。

「美味い物を食べたくないのか?」

「き、きたねぇぞ……飯を出してくるとは……」

「私は、優位に立つためなら、手段は選ばん」

完全に形勢が逆転してしまった。

縁は少し後悔した。

「ちょっと、調子にのり過ぎたか……」

縁の焦った姿に満足したのか、桃子はニヤリと言った。

「まぁいい、楽しい旅行だ……それに、私は大人だからな、そんな事で一々怒ってられん」

「よく言うぜ……拗ねてたくせに…」

「何か言ったか?」

縁は慌てて言った。

「いや、何も……」

桃子は仕切り直すように言った。

「では、そろそろ夕飯とするか……」

「そうだね……歩き回って、少し疲れたからな」

「では、ホテルに戻ろう……ここからタクシーで戻れば、いい時間帯になる」

「えっ?ここで済まさないの?」

縁の驚きにも桃子は動じない。

「済まさない。辺りを見てみろ、居酒屋ばかりだ……私は酒は飲まない」

流石は酒蔵が有名なだけあって、居酒屋が多い。

桃子は飲酒をしない、もちろん縁も飲酒をしない。

そうなると、居酒屋の多いこの地域に、とどまる理由がない。

「わかったよ……ホテルに戻ろう…」

こうして二人は、タクシーでホテルに戻る事にした。

タクシーを利用し、ホテルに戻った二人は、ホテルのレストランで夕飯を取った。

ありきたりの洋食を堪能し、食後のコーヒーを堪能している時だった。

「あ~、あなた方は、昼間の……」

そう言って話しかけてきた男性は、昼に東本願寺で写真を撮り合った、恰幅の良い男性だった。

「あなた方も、ここのホテルでしたか……」

縁は男性に言った。

「昼間はどうも……」

「いえっ、こちらこそ……あの後、妻と話していたんです…美男美女だって」

縁は対応に困った。

「いやいや……」

男性は気にせず言った。

「申し遅れました、私は小林と言います」

小林と言う男性は、勝手に自己紹介をしてしまった。

縁も仕方がないので、名乗った。

「僕は新井場と言います……で、こっちの女性が小笠原さんです」

桃子も仕方なく名乗った。

「小笠原だ……どうぞよろしく」

小林はニコニコしながら言った。

「妻を連れて来るので、少し待ってて下さい」

小林はそう言うと、自分の妻を呼びに行った。

「なんか……押しの強い人だな…」

縁がそう言うと、桃子も同意した。

「確かにな……ただ、悪い人間では無さそうだ」

「そうだね……行動力があるんだよ…」

そうこうしてる内に、小林は妻を連れて来た。

当然ながら、昼間の女性だった。

女性は二人に挨拶をした。

「妻の弘子(ひろこ)です。昼間はありがとうございました…」

縁は言った。

「いえっ、そんな気にしないで…」

桃子も言った。

「そうだとも、私たちも撮ってもらったからな……お互い様だ」

すると小林が言った。

「これも何かの縁です……どうです?ご一緒に夕飯を…」

縁は申し訳なさそうに言った。

「ご厚意は嬉しいんですが……今さっき、夕飯は済んだところで……」

小林は残念そうに言った。

「そうですか……」

残念そうな小林を察して、桃子は言った。

「夕飯はもう…済ませてしまったが、明日の朝食はどうだろ?」

桃子の提案に小林の表情は明るくなった。

「そうですねっ!是非ともっ!」

こうして、明日の朝食は急遽4人で取る事になった。

納得した小林夫妻が去ると、縁は言った。

「俺たちみたいなのと、飯食っても仕方ないのに…」

「旅は道連れとよく言うが……少し違うな」

「でも、桃子さん……よく提案したな」

桃子は言った。

「あんなに悲しい表情をされてはな……」

縁は呆れて言った。

「あんたが俺に、よく使う手だろ……」

「何の話だ?」

桃子には自覚が無いようだ。

「もういいよ……」

しかし、この時縁は嫌な予感がした。

旅先や出掛け先などの、新たな出会いは……縁の今までの経験上、ろくな事がない。

そして、縁の予想通りに、事が起きてしまう。

今までの通りに……。


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