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天才・新井場縁の災難  作者: 陽芹 孝介
第六章 窟塚村のカリスマ教祖
49/71

⑤

宿舎のラウンジに出た縁と桃子は、備え付けの長椅子に座った。

縁はさっそくドローンをセッティングして、コントローラを使い飛ばした。

ドローンはぎこちない動きをしながら、村の東に向かって飛んで行った。

桃子は感心した様子で言った。

「それが噂のドローンか……そんなに小さいのに飛ぶんだな……」

縁は得意気な表情で言った。

「驚くのはまだ早いぜ……PCの画面を見てみな……」

縁に促され桃子は画面を見た。すると画面には村の景色が写し出されていた。

桃子は「ほほぉ……」と言い、感心そうに画面を見ている。桃子の反応に満足した縁は、さらに続けた。

「ドローンで撮影している映像は、リアルタイムでこのPCに写し出される」

桃子は何度も頷きながら言った。

「文明もこのレベルまで来たのか……大したものだ……」

縁は手慣れた様子でドローンを操作している。桃子はそれを見て言った。

「手慣れているな……使った事があるのか?」

「向こうにいた時にね……試作品を少しね……」

桃子は不思議そうな表情で縁に言った。

「お前……本当に高校生か?」

桃子の言う事はもっともで、縁は高校生にしては、エンジン付きボートの操縦などでき、経験値が高い。

縁は少しムッとした表情で言った。

「どういう意味だよ……」

そうこうしているうちに、ドローンは立入禁止区域の手前までやって来たのが、PCの画面上でわかった。

縁はドローンの操作を、楽しむように言った。

「よし……柵を乗り越えるぞ……」

ドローンが柵を乗り越えて、山道の奥へと行こうとした時だった……ドローンに異変が起きた。

ドローンが「ゴツッ!」という音と同時に、墜落したのだ。

これにはさすがの縁も焦った。

「何だ!?」

縁は慌てて画面を確認し、コントローラを使って再浮上させようとするが……ドローンは飛び上がるけはいがない。

「くそっ!ダメだ……プロペラがイカれてる……カメラは無事だが……」

しかし縁がそう言った時だった。画面に一瞬だけ人の足が見えたと同時に、画面は暗転した。

桃子が言った。

「真っ暗になったぞ……」

縁は立ち上がり、桃子に言った。

「カメラがイカれてる寸前に、人の足が見えた……破壊されたんだ。……まずい……」

桃子が言った。

「何がまずいんだ?」

縁は焦った様子で言った。

「カメラを壊した人物が、山道の奥にある証拠を隠滅するかもしれない……」

桃子も立ち上がり、縁に言った。

「確かにまずいな……山道へ急がないと……」

縁は桃子に言った。

「桃子さんは有村さん達に、この事を伝えてくれ……俺は先に行って、証拠隠滅を阻止するっ!」

そう言うと縁は、走ってラウンジを後にした。

「ちょっ……縁、一人じゃ……」

桃子の言葉はラウンジに取り残された。

縁は2階の廊下を駆け抜け、階段を走り抜け、宿舎を飛び出した。

「最後のピースなんだ……間に合ってくれ……」

立入禁止区域の手前まで、走ってやってきた縁は、すぐに異変に気付いた。柵の奥にドローンが落ちていた。

縁は柵を乗り越えて、落ちているドローンを拾った。

「プロペラが曲がってるな……鉄の棒か何かで、ぶっ叩いたな……」

縁は山道の奥を見た。

「行くか……俺の考えが正しければ、必ずあれがある……」

縁は早足で山道の奥へと進んだ。山道は日陰で暗く、少し肌寒い……それが何とも不気味な雰囲気を醸し出していた。

「桃子さんなら……怖がるかも……」

一人で呟きながら奥へと進んでいくと、道が二手に別れた。

縁は左右に分かれている山道を観察した。すると左の道に、リヤカーの跡が微かに残っていた。

「左か……」

縁は辺りを見渡し、スマホを取りだし左に進んだ。

縁が左の山道を進んで、しばらくすると、誰かが分かれ道に来た。

すると、その人物はリヤカーの跡を足で消し去り、木の棒で右の山道に二本の跡を付けて、左の山道を進んだ。

一方の縁は、山道を進みとある場所に出た。

そこには小さな畑と、プレハブ小屋があり、リヤカーもあった。畑は収穫したため、何も無かったが、畑の奥には珍しい植物が数種類咲いていた。

縁はプレハブ小屋を見つめて、呟いた。

「畑は空か……だとすれば、プレハブ小屋にあるはずだな……」

縁がプレハブ小屋に近付いた時だった。

「そこまでだ……」

縁の背後から声がした。縁は特に焦った表情をする事なく、声の方を振り返った。

縁が振り返ると、そこにはある人物が縁に拳銃を突き付けていた。

縁は両手を上げて言った。

「やっぱりあんたか……拳銃まで用意しちゃってさ……ドローンまで壊して、高いんだぜ」

特に焦った様子のない縁に、その人物は言った。

「随分余裕な表情だか……」

縁は鼻で笑った。

「フンッ……別に……。ただ、少し話そうぜ……」

「話だと?」

「俺はこのプレハブ小屋の中を見たわけじゃないが、何があるのかは知っているぜ……」

拳銃を突き付けたまま、その人物は言った。

「ほほぉ……時間稼ぎか?まぁいい聞いてやる」

縁はニヤリとした。

「サンキュー……じゃあ、まずあのプレハブ小屋の中だが……あそこには大量の乾燥大麻が保管されている」

拳銃を突き付けている、人物は目を丸くして言った。

「ほほぉ……何故わかった?」

「簡単さ……まずこの村の施設は全てがコンクリート製……それらを建築するには莫大な資金が必要だ。村人の寄付金や治療費や授業料だけで建てれない。ましてや、宗教法人でも学校法人、医療法人でもないからね」

その人物は拳銃を突き付けたまま聞いている。

縁は続けた。

「じゃあ……その資金はどこから?答は大麻で得た莫大な資金さ……大麻は環境問わず何処ででも栽培できるからね、隔離されたこの村ではうってつけさ」

縁はプレハブ小屋を顎で指して言った。

「そこの畑で収穫した大麻を、そこのプレハブ小屋で乾燥させて、それを闇市場に流す……それがこの村の資金繰りのカラクリさ」

縁の話に、その人物はニヤリとした。

「お見事……」

縁はその人物に言った。

「だが……その秘密を金尾と横瀬が知ってしまった……」

「それで私が二人を殺したと?しかし、二人が死んだ部屋は密室だ。どうやって殺したと?」

「横瀬の部屋は宿舎の1階……そして、部屋の窓が少しだけ開いていた……」

「ふははは……まさかその僅かな隙間を使って鍵を投げ入れたと?聞いた話によると、鍵は横瀬の胸ポケットに入っていたそうだな……窓から鍵を投げ入れて、ピンポイントで胸ポケットに入れるなど、不可能だ」

縁はニヤリとした。

「それが出来るんだよね……いとも簡単に」

縁の言葉に、その人物は初めて表情をピクリとさせた。

縁は密室トリックの説明を始めた。

「あんたは横瀬の部屋に行き、大麻の秘密の交渉がしたいと言い、横瀬の部屋に入った。そして横瀬を刺殺し……少しだけ窓を開け……窓の柵と、横瀬の胸ポケットのボタンを、タコ糸のような紐で輪になるように繋いだ……」

縁の話を聞いている、その人物の表情は険しくなる。

縁は続けた。

「仕掛けを終えたあんたは、部屋の鍵を持って外に出て、部屋を施錠し、宿舎の外に出て、そして裏側に回り、仕掛けておいた紐に、鍵のキーホルダーを通す穴に、その紐を通して鍵を横瀬の胸ポケットまで伝わせた」

縁はニヤリとした。

「後は鍵が胸ポケットの入口まで来たところで、紐を切断すれば……鍵は横瀬の胸ポケットに入る。これで、密室トリックの完成さ……」

「いつから……気付いた?」

「最初に変だと思ったのが、胸ポケットに鍵が入っていた事……横瀬は全国を取材で回る編集者だ。全国を取材するって、事はもちろん、インフラの整っていない田舎も行くって事だ」

「だったら、なんだ!?」

「田舎のトイレは現在でも、洋式ではなくて、和式のトイレも多い……胸ポケットに物を入れて用を足したら、胸ポケットの物が、便器に落下する事もよくある。普通入れないでしょ?大事な物は……」

密室トリックを暴かれた、その人物は拳銃を握る手に力を込めた。

一方桃子は、有村と今野を引き連れて、縁の後を走って追っていた。

「それで密室トリックの完成さ……」

縁と同じ見解の有村は、走りながら二人に説明した。

桃子が言った。

「それで犯人は?」

有村は言った。

「アリバイの裏を取れていない人物が、一人だけいる」

桃子が言った。

「そいつが犯人かっ!……いや、まてよ……だとすると」

有村は頷いた。

「ああ……もうすでに、縁と対峙している可能性が高い……急がないと」

桃子は苦い表情をした。

「くっ!縁……」

3人は縁の身を不安に感じながらも、先を急いで走った。

一方で、当の縁は、絶体絶命のピンチでありながら、余裕の表情は崩さず、犯人と対峙している。

犯人は言った。

「確かに……それで密室の謎は解けたが……金尾は?彼は、天菜様の預言によって、『過去の罪』に呪われて死んだのだぞ」

縁は口角を上げて、首を横に振った。

「あれは預言でも、呪いでもねぇよ……」

「何ぃ?」

縁は目を見開いて、口角を上げて言った。

「金尾は……随分几帳面みたいだな……」

犯人は縁の「几帳面」という言葉に、明らかに反応して、目を見開いた。

縁はニヤリとした。

「彼の手帳を見たよ……文字がきれいに並んでいたよ……」

犯人は明らかに動揺している。

「そ、それが、どうした?」

縁は言った。

「じゃあ、順を追って説明しようか?」

犯人は黙っている。

縁はニヤリとした。

「聞きたいみたいだな。まず死因は神経性の毒物による中毒死……部屋が荒らされていたのは、幻覚によって金尾が自分でやったのさ……横瀬の取り乱した様子を、部屋の外で聞いていた俺達は、天菜の預言と連想してしまった」

犯人は険しい表情で縁に言った。

「ど、毒は!?なんの毒を……」

「シロバナヨウシュチョウセンアサガオ」

聞きなれない縁の言葉に、しかし犯人には心当たりがあるようで絶句した。

縁は犯人の反応を見て、満足そうに言った。

「ビンゴみたいだね……シロバナヨウシュチョウセンアサガオ……幻覚症状を引き起こし、接種した者の命を奪う、とんでもない植物さ……」

犯人は戸惑いながら言った。

「なぜ……何故わかった?」

縁は言った。

「まず最初に……横瀬の眼圧が基準値を超えていた事……横瀬は緑内障でもないし、突発的に眼圧が基準値を超える事も、あまり考えられない……つまり、横瀬はスコポラミンを接種した事になる。スコポラミンは眼圧をあげるからね……」

犯人は言った。

「くっ……その何とかチョウセンアサガオにスコポラミンとやらが入っていたという訳か……」

縁はニヤリとした。

「まさか眼圧まで上げてしまうとは、思わないもんね……ねぇ……」

「村長の福島さんっ!」

そう……縁に向けて拳銃を突き付けていたのは、村長の福島だった。

福島はいつもの温厚な表情とは違い、凍りつくような冷たい目をしていた。

縁と福島が対峙していた同時刻、桃子達3人は立入禁止区域の、柵まで来ていた。

「縁君の言うように、横瀬の体内からある物が検出されました」

今野は柵を登りながらそう言うと、有村が言った。

「トロパンアルカロイドか……」

すると、先に柵を乗り越えた桃子が言った。

「幻覚症状を引き起こす、アトロピン、スコポラミン、ヒヨスチアミンのトロパンアルカロイド……そして、眼圧を上げるスコポラミンか……」

桃子に続いて、柵を乗り越えた有村が言った。

「幻覚症状を引き起こし、あたかも『過去の罪』に囚われたように殺害する……」

桃子が言った。

「預言を思わせるには……これ以上の物はないな……」

今野が柵を越えたのを確認して、桃子と有村は先に進む。進みながら有村は言った。

「しかし……どうやって接種させたのか?」

桃子が言った。

「横瀬の部屋とは違い、金尾の部屋は窓も閉めきっていて、完璧な密室だった。誰かがシロバナヨウシュチョウセンアサガオを接種させるのは不可能だ」

有村は言った。

「しかし、それに縁は気付いた。大した奴だよ縁は……」

すると遅れながら、今野が言った。

「感心している場合じゃないですよっ!警視っ!それにシロバナ何とかをいったいどうやって入手したんだ?」

有村が言った。

「シロバナヨウシュチョウセンアサガオは、その種を鳥が運んで来たと言われており、明治時代に野生化し、あちこちに生息しており入手する事は決して困難ではないよ」

桃子も言った。

「そうだ……。それよりも、もし縁に何かあれば、私は福島を殺すかもしれんぞ」

有村は苦笑いして言った。

「ちょっと、桃子ちゃん……物騒な事を言わないでよ……」

桃子は有村にはっぱをかけた。

「だったら急げっ!……縁の事だ、何も考えずに突っ込んだ訳ではないだろうが……時間が掛かると危険だ」

桃子を先頭に3人は山道の先へと走って進んだ。

桃子達が柵を乗り越えた頃、縁と福島は緊張感の中、お互いを見据えていた。

福島は少しだけ口角を上げて言った。

「君の推理は見事ですが……肝心な事を忘れていますよ……」

縁は黙って福島を見ている。

福島は言った。

「金尾の部屋は完璧な密室だった。どうやって私が毒を盛れたと言うのだ?」

縁は不敵な笑いをした。

「ククク……最初に言っただろ?……金尾は随分と几帳面な性格だって……」

「それが何だと言うのだ?」

縁はニヤリとした。

「彼の手帳を見たと言ったろ?……実にキレイにまとめてあったよ。字間に行間……どれもビッチリ、キレイにな……」

福島は焦った様子で言った。

「だから……それが何だと言うのだっ!?」

縁は福島を睨み付けた。

「まだわからないのか?……まぁいいや、殺された二人はこの村に一週間滞在していた」

福島の表情は少し青ざめたようにも見えたが、縁は続けた。

「特に金尾は几帳面で、生活のリズムも崩さない完璧主義のところがあったようだ。もちろん決まった時間に食事し、決まった時間に入浴、就寝、起床……すなわち、行動パターンを読みやすい生活をしていた事になる」

福島の表情は青く、目を見開いている。

縁は言った。

「金尾の部屋でコーヒーを飲んだカップを見つけたよ……」

福島は核心をつかれたのか、絶句した。

縁は言った。

「つまりあんたは、金尾が寝る前に必ずコーヒーを飲む事を知っていたんだよっ!」

「くっ!」

福島はそれしか言葉を出せなかった。

縁は言った。

「後は簡単さ……世話係の東さんが、部屋を清掃する時に、シロバナヨウシュチョウセンアサガオの樹液をたっぷりと、カップに塗りつけて、東さんに持たせれば、密室でも毒を盛る事が出来る」

縁に事の真相を突きつけられた福島は、拳銃を握る手に、再び力を込めた。

「くっ、まさか……こんな子供に、暴かれるとは」

縁は言った。

「もうじきここに、有村さん達がやって来る……諦めな」

縁にそう言われた福島だったが、何故かニヤリとした。

「果たして、そう上手くいくかな?」

縁は怪訝な表情で言った。

「何だと?」

福島は黙って薄ら笑いをしている。縁は福島の笑う意味を考えた。

確かに銃口は依然として、縁に向いているが、縁に真相を暴かれて、有村達がここにやって来る時点で、詰んだも同然なのだが……福島は笑うのを止める事はしなかった。


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