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天才・新井場縁の災難  作者: 陽芹 孝介
第四章 海上攻防戦
31/71

……警視庁捜査本部……



捜査本部は緊張感が全体を支配していた。

有村が大声で言った。

「船に異変は!?」

刑事の一人が言った。

「異変はありませんが……救命ボートで続々と……出てきていますっ!」

有村は複雑な表情で言った。

「海上保安庁に船との距離を保ちつつ、人質の身柄確保を急がせろっ!」

時間が残されていないと、考えた時……一瞬の判断の遅れが命取りになる。

すると、有村の隣に座っている麦藁帽子の少女が言った。

「ミスターアリムラ……海上保安庁を引かせて下さい……頃合いです」

有村は驚いた様子で少女に言った。

「何だって!?」

少女は言った。

「海上自衛隊を向かわせています……人質確保はそちらに……」

有村は怪訝な表情で言った。

「どういう事だい?」

少女は机の上に地図を広げ、5つのポイントを押さえて言った。

「そして、このポイントを封鎖し検問を……時間がないのでしょ?」

少女はうすら笑みを浮かべている。

有村は上司の警視長の表情を見た。

警視長は険しい表情で黙って頷いている……従えと言うことか?

有村は苦笑いをし、次の命令を言った。



……Queensship甲板……



縁は海上保安庁の巡視船に動きを感じた。

「船が引いている?……どういう事だ?」

桃子は展望鏡で海を見渡し、縁に叫んだ。

「縁っ!別の船がこっちに向かってるぞっ!……あれは……」

縁は桃子に言った。

「ちょっと……見せてっ!」

縁は桃子から展望鏡を取り上げた。

縁が覗くと……そこには何隻もの海上自衛隊の船がこちらに向かっている。

「海上自衛隊?このタイミングでどうして?」

桃子が言った。

「海上保安庁と交代か?」

縁は顎を撫でながら呟いた。

「どうして?………」

縁は目を見開いた。

「まさかっ!…………」

すると、甲板に船員がやって来た。

「こんなところで何を!?早く脱出をっ!」

操縦士の守川だった。

守川は縁と桃子だと気付いた。

「君達か……アナウンスが聞こえなかったのか?脱出するぞ」

縁は守川に言った。

「脱出とは?爆弾が見つかったんですか?」

守川は首を横に振った。

「俺にもわからんが……脱出命令が出たんだ……なら、する事は一つだ乗客の脱出を最優先する事だ。さぁ君達も脱出を……」

縁と桃子は無理矢理守川に連れられ、甲板を後にした。



……操縦室……



船長の神田は操縦室から前方に広がる海を見ていた。

操縦室には神田が一人だけだった。

すると、木山が操縦に入ってきた。

神田は振り返る事なく言った。

「状況は?」

木山は言った。

「90%は脱出済みです……」

神田は振り返らない。

「そうか……あと少しだな……」

木山は言った。

「何故か海上保安庁が撤収し、海上自衛隊に変わりましたが……」

神田は言った。

「どちらにせよ、我々を救出してくれる事には変わり無い……」

木山は言った。

「我々も脱出を……」

神田は言った。

「先に行け、木山……私はまだここを離れる訳にはいかん……」

振り返らない神田の背中に木山は言った。

「しかし、船長を置いて……」

神田は言った。

「私は船長だ……船員と乗客が無事脱出するまでは……離れる訳にはいかない……行ってくれ、私もすぐに行く」

木山は真剣な面持ちで神田の背中に敬礼をし、操縦室を出た。

神田はその場を動かず、ひたすら海を見ている。

神田は何を思い、何を考えていたのだろうか……船長としての責務か、それとも別の何かか……。

やがて救命ボートが次々と海上自衛隊に救出されていく。

それは、操縦室から肉眼でも確認できた。

すると、神田は呟いた。

「永かった……しかし、やっと終わる」

すると、もう誰もいないはずの船の操縦室からそこ声は聞こえた。

「何が終わったんだ?」

神田は思わず振り返り、操縦室の出入口を見た。

そこには縁がいた。

神田は呟いた。

「新井場様……」

縁は言った。

「まだ終わらない……終わらせないよ」

神田は言った。

「こんな所で……何をしているのですか?皆さん脱出しています……貴方も早く」

縁は言った。

「そうはいかない……」

神田は怪訝な表情で言った。

「何故ですか?」

縁は言った。

「貴方が、堂上と高山を殺害した犯人であり……そして、この船を死に場所に選んでいるからさ……」

神田の表情は変わった。

しかし、すぐさま表情を戻した。

「私が二人を?……そんな事よりも早く脱出を……いつ爆破されてもおかしくないんですよ……」

縁は口角を上げた。

「爆破はされない……何故ならば爆弾は解除され、それを貴方が持っているからな……」

神田は言葉を詰まらせた。

縁は言った。

「爆弾はとっくに解除されていたのさ……貴方の手によってね」

神田は少し笑った。

「はは……何を言ってるんです?」

縁は言った。

「解除されていなければ、脱出に踏み切らない……貴方は有村さんに「爆弾は見つからなかったが……念のために乗客を避難さす」と言ったそうだな……」

神田は言った。

「船長として当然の処置だと思いますが……そもそも最初から爆弾など無い可能性もあります」

縁は言った。

「そんな可能性が無い事は貴方が一番わかっている事だろ?」

神田は少し目をピクつかせた。

縁は言った。

「高山が死んだ時に貴方は「これで後は爆弾犯だけだ」と言ったな……どうして殺人犯と爆弾犯が別人だと知っている?あの時点ではまだ、同一犯の可能性もあったはずだ」

神田は黙っているが、縁は続けた。

「つまり、貴方が殺人犯で爆弾を仕掛けておらず……さらに爆弾を発見した人物だから出た言葉さ……」

神田は言った。

「それだけで犯人扱いとは……」

縁は言った。

「貴方が爆弾を解除してなければ、この船はとっくに爆破されているよ……爆弾はおそらく遠隔式……だとすれば爆弾犯はこの船にいない……爆弾犯も巻き添えを食らうからね……」

縁は続けた。

「仮にこの船に乗っていたとし、爆破後脱出したとしても……回りは海上保安庁の巡視船に囲まれている……逃げ場は無い」

神田は黙って聞いている。

縁は言った。

「では、起爆装置を持っている爆弾犯は何処に?……陸?違う……。だが、一つだけ船から離れて起爆装置を作動し、船の爆破を近くで確認できる場所がある」

縁は海を指差し言った。

「そこにプカプカ浮いていた、海上保安庁の巡視船さ……」

縁は続けた。

「紅い爪は海上保安庁が出て来る事を予測して、工作員を巡視船に潜り込ませたのさ……だから有村さんは海上保安庁を撤退させて、救助を海上自衛隊に変更した」

神田は言った。

「その話は私には関係ありませんが……」

縁は言った。

「確かに……貴方には関係ないね……爆弾騒ぎさえ利用できたら……」

神田はまたもや縁の言葉に反応し、表情をピクつかせた。

縁は言った。

「貴方は爆弾騒ぎを利用したんだ……。まず貴方は発煙筒で乗客と船員の恐怖心を煽り、D~F区間を閉鎖し、その区間の人気を薄くした……」

神田は黙って聞いている。

縁は続けた。

「そして貴方は堂上の部屋を訪れて、堂上を刺殺……その後に木山さんを使い、俺と桃子さんを呼びに行かせ、ついでに堂上の死体を発見させた……」

神田は目を閉じた。

縁は続けた。

「その後、会議室に集まった俺達と少し話し合い……船内アナウンスを使って乗客を部屋に閉じ込めて、俺と桃子さんがギャラリールームにいる間に高山の部屋に浸入した」

縁は神田の様子を伺ったが、神田は目を閉じたままだ。

縁は言った。

「そして、桃子さんが1層目に向かったところで、高山を毒殺し……貴方も1層目に向かい、桃子さんを機械室で襲った」

神田は閉じていた目を開いた。

「新井場様……残念ですがそれは無理です……。新井場様も機械室に行かれたのでしょ?高山様の部屋から1層目の階段に向かうには、必ずギャラリールームの前を通らないと行けません。私が犯人だとすれば、貴方に出くわすはずですよ」

縁は首を横に振った。

「階段はもう一つだけある……非常口の階段さ……」

神田はまたもや表情をピクつかせた。

縁は続けた。

「貴方は高山を殺害した後、一般の階段とは反対方向の非常口の階段を使い、F区間の機械室に行き、桃子さんを襲って非常口に閉じ込めた。非常口の出入口をロッカーとキャスター付きの棚で塞いでね」

神田は薄ら笑いをして言った。

「だとすれば、なおさら私には無理ですよ……非常口の出入口を塞いだのなら、私は非常口を使えなくなる……だとすれば、必ず貴方と鉢合わせします」

縁は言った。

「それがそうでもないんだよ……FとE区間の機械室は繋がっている……俺がF区間の機械室に入るのを見計らって、貴方はE区間の機械室に入り、そこから通路に出たのさ……」

神田は少し焦った表情をしたが、縁に食い下がった。

「だとしても、貴方がEとF、どちらを先に入るかなんて私にはわかりませんよ……」

縁は言った。

「確かに……でも、F区間の機械室の通路に出る扉と、Eの機械室に繋がる扉は、どっちも引き戸だ……」

神田の目は見開いた。

縁は言った。

「貴方は扉と扉の間で、俺が来るのを待って、反応があった扉の反対側を使い逃走した……扉を壁代わりに使い、俺の死角をくってね」

神田は反論した。

「だとしても私が犯人だと言う証拠はありませんっ!これまでの話は全て憶測でしょ?証拠を見せて下さいっ!」

縁は言った。

「まず高山が自殺でない証拠は……青酸カリの入った瓶だ……」

神田は目を見開いた。

「瓶?」

縁は言った。

「高山の部屋には飲食をした形跡は無かった……服毒自殺をしたのなら、青酸カリの入った瓶に高山の唾液が付いているはずだ……もし、付いてなかったら自殺をしていない立派な証拠だ」

神田は言った。

「それだけで私がやった証拠にはならないっ!私がやった証拠だ!」

縁は少し息を吐いた。

「ふぅ~……」

そして言った。

「証拠は……あるぜ」

神田はさらに目を見開いた。

縁は操縦席を指差し言った。

「その操縦席にある、布に包まれた物が……証拠だっ!」

縁は続けた。

「桃子さんは機械室でそれを発見して、犯人に襲われた……それは犯人しか持っていない物だ!高山の部屋にもなかった……」

明らかに神田はうろたえている。

縁は言った。

「桃子さんを襲った犯人、つまり高山を殺害した犯人は……その神山泰山の絵画……子供の肖像画を持っている……神田船長、貴方が犯人だ!」

神田は下を向いた。

縁は言った。

「貴方が犯人でないのなら……見せれますよね、それを……」

神田は言った。

「小笠原桃子でなく、新井場縁を注意すべきでしたか……」

縁は言った。

「どういう事だ?」

神田は言った。

「この船に警察がいない中……有名推理作家の小笠原桃子が、私の障害になると思いました……ところが、貴方のような高校生が、有名作家の裏にいたとは……」

縁は言った。

「殺害したのは怨みからですか?」

神田は言った。

「それもそうですが……本当の目的はこの絵です」

神田は優しい目をして、布に包まれた絵画を……我が子のように抱き抱えた。


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