③
店内に現れた女性は、今テレビに写し出されている、小笠原桃子だった。
小さな町の喫茶店に、時の人が現れたというのに、縁も巧も驚いた様子は無い。
桃子は言った。
「縁…テレビ見たか?」
縁は愛想なしに言った。
「今見た…」
巧はニコニコしながら言った。
「ちょうど今、その話をしてたところさ…」
巧の言葉を聞いた桃子は、実にご機嫌な表情になった。
「そうかそうか、私について話をしていたのだな…うんうん…」
ご機嫌な桃子は縁の隣に座った。
「マスター、アイスティーをくれ…」
巧は言った。
「少々お待ち下さい…先生っ!」
巧は上機嫌な桃子をさらに乗せる感じで言った。案の定桃子の機嫌はさらに良くなった。
「縁…私はとうとうやったんだ…」
縁は相変わらず、愛想無しだ。
「わかってるよ…賞、獲ったんだろ…。見たくもないのに、あんだけ毎日テレビやってたら、嫌でもわかっちゃうよ…」
愛想の無い縁に、桃子は言った。
「どうした?縁…元気が無いようだが…」
「別に…」
桃子は何かを感じ取ったのか、ニヤニヤしながら縁に言った。
「ははぁん…わかったぞ…」
縁は憮然として言った。
「な、何が?…」
「お前…、私が有名になったから、もう私に会えないと思い、落ち込んでいるな?」
あまりにもトンチンカンな桃子の言い分に、思わず縁はテーブルに付いた肘を滑らした。
「あのなぁ…何でそうなるんだよ?」
桃子は縁の突っ込みを気にする事なく言った。
「心配するな縁っ!どんなに私が有名になっても、お前と縁を切るような事は絶対にしない!」
縁は呆れた表情で言った。
「もういいや…」
その頃、ちょうど巧がアイスティーを桃子に持ってきた。
「どうぞ先生…アイスティーでございます」
巧に先生扱いされている桃子はご満悦だ。
縁は巧に言った。
「たっくん、あんまりこの人…乗せないでよっ、すぐ調子に乗るんだから…」
巧は言った。
「だって、面白れぇじゃん…」
縁は言った。
「俺の身にもなってよ…」
「まぁ、賞獲ったのは事実なんだから…良いじゃんっ!」
そう言うと巧は店の奥に行ってしまった。
縁はご満悦な桃子に言った。
「桃子さん、何しに来たの?」