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天才・新井場縁の災難  作者: 陽芹 孝介
第三章 追われる者…守る者…
21/71

晴天の元……草原の丘にあるベンチに一人の男の子が座っていた。

だだっ広い草原に回りは何もなく、どこか幻想的な雰囲気が漂っていた。

すると男の子の元へ一人の女の子が駆け寄って来た。

「エニシーッ!」

エニシと呼ばれる男の子は女の子に言った。

「キャメロン……」

キャメロンと呼ばれる女の子はエニシと呼ばれる男の子の隣に座った。

「エニシ、博士の課題は?」

「とっくに……キャメロンは?」

「私は……あと少し……。エニシ凄いねっ!いつも一番早くできちゃう……」

「そうかなぁ……嫌な事だから、さっさと済ますだけだよ……」

「嫌な事?エニシ、博士の事嫌い?」

「あんなジジイ嫌いだよっ!」

「私は博士の孫のエニシが羨ましい……私は博士の事尊敬してるから……」



……縁の部屋……



自分の部屋で目を覚ました縁は呟いた。

「変な夢……見ちまった……」

時刻は午前10時……明日はとうとう桃子のサイン会がある日だ。

縁はベットから起き上がった。

「あの頃の夢……チッ……」

軽く舌打ちをし、縁は着替えてリビングに向かった。

過去の事より現在の事だと、思いながら……。

リビングにはすでに桃子と母がおり朝食を済ませていた。

桃子に昨日の悲壮感はすでに無く、どこかスッキリした表情だった。

自分のすべき事がはっきりたからだろう……昨日の弱気な桃子はいなかった。

桃子は言った。

「今日はどうするのだ?」

縁は言った。

「今日は俺一人でいい……桃子さんは家にいろ……」

桃子は解せないと言った表情だ。

「何故だ?私も行くぞっ!」

縁は首を横に振った。

「ダメだ……あんたは明日本番だぞっ!それに、あんたの身に危険が及ぶ可能性もある……」

納得の出来ない桃子はなんとか食い下がろうとする。

「しかし……」

縁は突き放した。

「ダメだ……今日は俺の言う事を聞いてもらう……でないと絶交だ」

縁の絶交と言う言葉に、桃子は黙るしかなかった。桃子にはこの言葉が一番効く。

縁に絶交されたくない桃子は素直に従った。

「わかった……ただし、気を付けろよ」

「ああ……わかってる」

朝食を終えた縁は風の声へ向かった。

理由は、有村からメールでの呼び出しがあったからだ。

風の声に入るとすでに有村が待っていた。

縁が有村の隣に座ると、有村が言った。

「待ってたよ……桃子ちゃんは?」

「今日は家にいてもらう……」

「その方がいいね……だいたいの話は知ってるけど……」

縁は有村に聞いた。

「で?今日は何?」

「縁に事件の話を聞こうと思って……」

「所轄の見解は?」

「報告書によると……自殺の見解だねぇ」

「やっぱり……」

有村は口角を上げた。

「縁は他殺だと?」

縁は片肘を着いて言った。

「物的証拠は今のところない……でも、あれは他殺だよ……不可解な点がいくつかある……」

縁は自分の見解を有村に説明した。

有村は両腕を前で組んで言った。

「なるほど……ストーカーの成り済ましと、プリンターねぇ……」

縁が言った。

「そこで有村さんに頼みがある……」

「なんだい?」

「死んだ立花祐也の事を調べてほしい……」

「具体的に何を?」

「交遊関係に、行動範囲……わかる言葉が何でも……」

「いいよ……わかった……元々今野君に調べてもらうつもりだったから……」

「それと、あと数人……調べてほしいんだけど……」

「立花祐也以外に……誰だい?」

縁は有村に対象者を言った。

それを聞いた有村の表情は険しくなった。

「縁……君、その人達を?……そうか、だから桃子ちゃんを……」

「立花が桃子さんの熱烈なファンだと知っていなければ……立花を利用しようなんて思わない……」

「だから桃子ちゃんを置いてきたのか……」

有村の言葉に縁は黙って頷いた。

有村は言った。

「わかった……できるだけ調べるけど……今のところ警察の見解は自殺だ……よって、あまり突っ込んだ捜査はできないよ……」

「わかってる……物的証拠を見つければいいんだろ?」

有村は言った。

「そういう事……でも、今回の事は事前に防げた可能性もあった……その事に関しては申し訳ない……」

有村の謝罪に縁は少し驚いた。有村が真剣な表情で謝罪するのは、珍しかったからだ。

有村の謝罪に少し戸惑いながら、縁は言った。

「わかってるよ……だから協力してくれてんだろ?だから慣れない謝罪なんかするなよ……」

有村は笑顔で言った。

「君は話がわかるから、やりやすいよ……。けど無茶はするなよ……何かわかったらすぐに連絡をくれ」

縁は立ち上がった。

「わかってるよ……んじゃあ、俺……行くわ……」

そう言うと縁は店を出ていった。

有村は呟いた。

「情けないねぇ……子供に頼んなきゃいけないなんて……。事件にならないと動けない……ほんとに情けないよ」

話を聞いていた巧が言った。

「あんまり気にしなくていいんじゃない?警視さん……あいつは普通のガキじゃないし……」



……百合根駅前…インターネットカフェ……



縁は駅前のインターネットカフェにやって来た。

ネットカフェの個室に入った縁はさっそくPCを操作した。

開いたサイトは『小笠原桃子の板』だった。

縁は立花が使っていたバンドルネームを絞り混み、内容をチェックしていた。

大半の書き込みは、立花の桃子の作品に対する見解と、桃子の近況報告だった。

書き込み内容には、桃子の大学で待ち伏せしていた事もそれとなく書いてあったりした。

「待ち伏せしていた『黒い小柄の男』はやはり立花だったか……」

しばらくチェックをしていると、妙な書き込みを発見した。

『モモタンともっと仲良くなれるよ』

縁はそれを見て呟いた。

「やっぱり接触していたか……バンドルネームは……『ピンキーデッド』変なの……」

縁は他に手掛かりを探したが……それ以外の物は見つからなかった。

次に縁はある物を探した。

立花のブログだ。

「『小笠原桃子の板』で個人的な連絡をとっていないとすれば……ブログかSNSでやり取りをしているはず……」

縁はブログを発見し、中を調べる。

「個人と個人のやり取りは、やっぱり第三者にはわからないか……だったら、ブログ内で手掛かりを探すしかない……」

縁はしばらく立花のブログを調べた。

すると……。

縁は目を見開いた。

「これは……やっぱり……」

縁は立ち上がった。

「人と人は繋がった……。後は……動機と、物的証拠か……」



……立花のアパート……



縁が次に向かった先は、百合根町北の立花のアパートだった。

アパートに到着すると、複数の警察官と、今野が現場にいた。

今野は縁に気付いた。

「あっ……縁君……」

「今野刑事……何してるの?」

今野は苦笑いをして言った。

「何してるのって、縁君……捜査に決まってるでしょ……冗談きついよ……君こそどうしたんだい?」

縁はニヤニヤしながら言った。

「俺も捜査に……」

今野は露骨に嫌そうな顔をした。

「勘弁してよ~」

「顔に出てるよ……帰れって……。でも安心して……有村さんには許可もらってるから……」

有村の名前を出すと、今野の表情は引き締まった。

「けっ、警視殿に?」

縁は呆れ気味に言った。

「今野さんって……ほんと、わかりやすいよ……」

縁は現場の部屋に入って行った。

立花の遺体は現場にはもう無かったが……何かただならぬ雰囲気は部屋にまだ残っていた。

遺書が書かれていたノートPCや、眼鏡、ちゃぶ台などは押収されている。

縁はスマホを取り出した。

「写真に撮っておいてよかった……」

縁は写真と現場を見合せている。

「気になるのは人差し指の繊維と、人差し指の血痕……うん?この血痕……伸びている……」

縁の言うように写真に写っている遺体の人差し指の血痕は、何かに擦り付けたように伸びていた。

縁はキッチンの方にいた、今野に聞いた。

「今野さん……」

「なんだい?縁君……」

「遺体の人差し指に付いていた血痕なんだけど……立花の血痕?」

「そうだよ……立花さんは親指の爪で人差し指の腹を抉ったんだ……親指の爪にも血痕が残っていて、DNA鑑定したところ……立花さんの物であることが判明したんだ」

縁は言った。

「傷の感じから……首が締まった時に力んでしまい、人差し指を親指の爪で抉ったと考えられるけど……他に血痕は残ってた?」

「いや、人差し指と親指の爪にしか無かったよ……」

「部屋の何処にも?」

今野は少し顔をひきつらせた。

「えっ?うん……鑑識さんにも調べてもらったけど……無かったよ……」

縁は首を傾げた。

「あの血痕の状態だと、どこかに残っていないと……おかしい……」

縁は今野に聞いた。

「それと、今野さん……ちゃぶ台にあった立花の眼鏡って……」

縁は今野に眼鏡の事を言った。

それを聞いた今野は少し驚いた。

「そうだよ……よくわかったねぇ……」

縁は呟いた。

「だとしたら、ちゃぶ台にあったもう一つの物は……」

今野はぶつぶつ言っている、縁に言った。

「どうしたんだい?縁君……」

縁は今野の声に気づいていないようで、まだ一人で呟いている。

「確かめる必要があるな……」

今野は声を強めて、もう一度言った。

「縁君っ!どうしたんだいっ!?」

今野の声に縁は背筋を伸ばした。

「うわっ!ビックリした……何だよ?今野さん……」

「何だよじゃないよ……一人で何を言ってんの?」

「えっ?いや、別に……。それより、今野さん……司法解剖はしてないよね?」

自殺死や事故死などの場合……基本的に司法解剖はしない……。

いや、予算の関係上できないと言った方が正しい……。

それは今回も例外では無かった。

「現場の状況からして、自殺だからねぇ……司法解剖はしてないよ」

縁は言った。

「有村さんに言って、司法解剖の準備をした方がいい……多分ある物が検出されるから……」

「ある物って?……」

縁は説明した。

それを聞いた今野は驚いて言った。

「ほんとうかい?……すぐに警視殿に連絡するよっ!」

今野は慌てて外に出て行き、有村に連絡をするために、スマホを取り出した。

縁は思った……この事件が他殺だとすれば、あれが検出されるはず……。

「後は……指先の繊維か……」

おそらく立花が、死ぬ間際に何かを指で引っ掛けて付いた物……。

立花は黒い服を好んで着用していたから、指先に繊維が付いていても、おかしくはないが……。

「一応……成分を調べてもらうか……」

縁は部屋の外に出て、今野に言った。

「今野さん……」

今野はちょうど電話が終わったところで、縁に返事した。

「今度は何だい?葵君……」

「立花の指先に付いていた繊維の成分を調べといてほしいんだけど……」

今野は言った。

「それなら科捜研に聞いたらわかると思うけど……少し時間をくれるかい?」

「わかった……じゃあ、わかったら俺に連絡くれない?」

「わかった……連絡するよ」

「助かるよ……じゃあ、俺……次行くから……」

そう言うと縁は現場のアパートから去って行った。

今野は縁の後ろ姿を見て、呟いた。

「落ち着きがないなぁ……急いでるのかなぁ?」

縁は次の目的地に向かった。


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