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天才・新井場縁の災難  作者: 陽芹 孝介
第二章 夏の屋敷と過去からのメッセージ
13/71

……ある日の午後2時……




縁は近くのコンビニから自宅に帰るために、歩いていた。

相も変わらず、外は暑い………猛暑日で気温は30度を超えている。

この百合根町には、公園やグラウンド、川や小さな池などが多数あり、自然と接した町作りをコンセプトにしている。

自然が多いためか朝から蝉の鳴き声が、騒音のように鳴り響く……その蝉の騒音が暑さを余計に際立たせる。

縁は呟いた。

「暑い……干からびそうだ……」

コンビニで購入したアイスキャンディーを頬張りながら、縁は思わず呟いていた。

アスファルトから放たれる、陽射しの照り返しを耐えながら縁は歩いてる。

すると、大きな屋敷が見えてきた。

縁の住んでいる家だ。

縁の家は近所では有名な豪邸で、大きな豪邸に母と縁の二人で住んでいる。

家に近づくと正門の前に誰かが立っていた。

近づくにつれ、その人物の容姿や性別が確認できた。

「うん?あれは……確か……」

正門の前には縁と同い年くらいの女子が立っていた。

黒のロングヘアーを後ろで束ねており、ノースリーブの白いワンピースを着ている。

縁はその女子に声をかけた。

「やっぱり……雨家さんだ」

縁の声に気付き、縁に手を振るのは……縁のクラスメイトの雨家瑠璃(あまいえるり)だった。

瑠璃は言った。

「新井場君……よかった、ちょうど会えて……家が大きいからびっくりしちゃった」

瑠璃は縁の家の大きさに驚いていたようだ。

縁は言った。

「どうしたの?俺に何か?」

瑠璃は少し険しい表情になった。

「うん……ちょっと相談があって………聞いてくれる?」

縁は家に入ってゆっくりしたかったのだが、深刻そうなクラスメイトを放っておく訳にもいかない。だと言って家に連れ込む訳にも行かない。

縁がそうこう考えてると、瑠璃が言った。

「ここじゃ……あれだし……」

縁は言った。

「そうだね……場所変えよか?でも何処がいいか……」

瑠璃は言った。

「すぐ近くに喫茶店あったよね……確か『風の声』って言う……」

「えっ!風の声?……」

縁は少し戸惑った。

その様子を見て瑠璃は言った。

「えっ?都合悪い?」

「いや、そう言う訳じゃ……」

「じゃあ、決定ねっ!行きましょっ!」

縁が相談に乗るとは、一言も言っていないのに、瑠璃は風の声に行く気満々だ。

縁は思った……嫌な予感がする……。

縁と瑠璃は少し歩いて喫茶店風の声に到着した。

縁は恐る恐るドアガラスから店の中を覗いた。

店内には客が一人も居らず、店主の巧が暇そうにテレビを見ていた。

縁がドアを開けると、巧は言った。

「いらっしゃい……って、何だ縁か……」

暇そうな巧に縁は言った。

「何だはないだろ、何だは……てか、相変わらず暇そうだな……」

「仕方ないだろ……時間的に……って、誰かと一緒か?」

巧は縁の後ろにいる瑠璃の存在に気付くと、カウンター席にに座るように、縁に言った。

「とりあえず入れよ……外は暑いから……」

巧に促され、縁と瑠璃はカウンター席に座った。

瑠璃が言った。

「新井場君の知り合いの店なの?」

「うん……まぁ……」

巧が言った。

「縁もすみに置けないなぁ……女の娘連れて来るなんて……」

「変な事事を言うなよ……たっくん、俺…アイスカフェオーレ……雨家さんは?」

「じゃあ、私も同じで……」

巧はニコニコしながら言った。

「は~い、少々お待ち下さ~い……」

アイスカフェオーレを待つ中……瑠璃が言った。

「それにしても新井場君の家って大きいねっ!お金持ちなんだ……」

「別に俺が金持ちな訳じゃ無いよ……俺のじいさん…祖父の家だから……」

縁がそう言うと、瑠璃の表情は曇った。

「そっか……おじいちゃんの……」

縁はさほど変わった事を言った覚えは無いが、瑠璃の表情を見て少し気にした。

「雨家さん?」

すると、巧がアイスカフェオーレを2つ持ってきた。

「ごゆっくり~」

縁は言った。

「とりあえず飲もうよ、冷たくて美味しいよ……」

瑠璃は黙って頷いた。

二人がアイスカフェオーレをのみ始めた時だった。

店の入口が開き、一人客が入ってきた。

「マスターっ!アイスカフェオーレとイチゴパフェを……ん?縁……」

縁はその聞き覚えのある声に耳を逸らした。縁の嫌な予感は的中した……客は桃子だった。

桃子は巧を手招きした。

「マスター、ちょっと……」

桃子に呼ばれて巧は言った。

「どしたの?先生……」

桃子は小声で話した。

「縁がいるじゃないか……」

「見ればわかるでしょ、それがどしたの?」

桃子は指を指した。

「あの娘は何だ?」

桃子の様子を見て、巧のいたずら心に火を着けた。

巧はニヤリとして言った。

「彼女なんじゃないの~」

桃子は目を見開いた。

「何だとっ!?」

巧と桃子のひそひそ話の様子を見て、縁は呟いた。

「何を言ってんだ?」

桃子は言った。

「縁のやつ……私に黙って、許せんっ!」

巧と話している桃子を見て、瑠璃は言った。

「すっごい綺麗な人だね……」

縁は知らんふりをした。

「そっ、そう?」

すると、桃子は縁と瑠璃の元へやって来た。

「縁、今日も暑いな……」

縁はとぼけたふりをした。

「あっ、桃子さん……来てたの……」

瑠璃は言った。

「新井場君……知り合いなの?」

桃子は口角を上げて言った。

「知り合いも何も……私と縁は誰よりも固い絆で結ばれている」

縁は呆れて言った。

「何を言ってんだ……」

瑠璃は呆気にとられている。

「そっ、そうですか……」

桃子は更に言った。

「ああ、そうだとも……互いに誰よりも理解し合っているのだ」

縁は頭を抱えた。

「はぁ~……」

桃子は縁の隣に座った。

「縁に用があるなら、手短にな……」

桃子が現れた事により、場の空気は奇妙な物になった。

縁は空気を変えるように言った。

「で、雨家さん……相談って?」

『相談』と言うフレーズに桃子は反応し、聞き耳をたてている。

瑠璃は口を開いた。

「私の……おじいちゃんの事なの……」

「おじいさんの?……」

瑠璃は言った。

「おじいちゃん……20年前に死んじゃったんだけど……」

「俺たちが生まれる前だな……」

「うん……そうなんだけど、実は……」

瑠璃は何故か煮えきらないでいる。縁は言った。

「実は……どうしたの?」

「おじいちゃん……殺されたの……」

瑠璃の衝撃的な言葉に、縁は少し戸惑った。

「殺されたって……」

「22年前におじいちゃんは、強盗に殺された事になってるの」

「事になってる?」

「うん……犯人捕まってないんだ……」

犯人がまだ捕まっていないとは、物騒な話だが……縁が言った。

「それで相談って?俺に犯人を探せって事?」

瑠璃は苦笑いをした。

「ううん……できたらそうしたいけど、そうじゃないの……これを見て」

瑠璃はハンドバッグから一枚の写真を出した。白黒の家族写真だろうか……。

写真の中央に椅子に腰を掛けた和服の女性、その左隣に着物姿の男性が立っており、その回りを子供が数人囲っている。

瑠璃は言った。

「おじいちゃんと、おばあちゃん……回りの子供は私のお母さんと、親戚の叔父さん叔母さんよ……」

瑠璃は縁に写真を手渡して言った。

「写真の裏を見てほしいの……」

縁は写真を裏返した。

何か書かれている。

『我道は茨なれど…我子孫には花道(かどう)を歩かせる…』と、書かれた詩だった。

縁は言った。

「これは?」

「法事の時にこの写真を見つけて、お母さんに聞いたら……おじいちゃんが、殺された場所の机の上においてあったって……」

中々複雑そうな話に、縁は少し考えて言った。

「おじいさんの、真意が知りたいと?」

「うん……あの時いったい何があったのか……本当に強盗に殺されたのか……」

縁は言った。

「その言い分だと、警察の話に納得がいってないみたいだね」

瑠璃は言った。

「そう言う訳じゃ無いけど……変な感じがして……」

「変な感じ?」

「うん……確かに…部屋は荒らされていて、金品は無くなっていたんだけど……」

「けど?」

「密室だったの……」

聞き耳をたてていた、桃子が言った。

「密室……」

縁は冷たい視線を桃子に向けた。

「何をこそこそしてんだ……」

縁は思った。

確かに…普通の強盗なら部屋を密室にする必要は無いが……この相談を受けるのかどうか……。

すると、先程までこそこそしていた桃子が言った。

「縁……この依頼、受けるぞ」

縁は言った。

「何勝手に決めてんだよ……」

桃子は言った。

「亡き祖父を想う孫娘……健気ではないか……」

「あのなぁ……」

「そんな娘の想いに答えなければ……人で無しだ……」

「酷い言われようだな……」

「それに密室ときた……私の出番だ」

「どの口が言ってんだ……」

桃子は瑠璃に言った。

「君、名前は?」

いきなり名前を聞かれて、瑠璃は少し戸惑った。

「えっ?あ、雨家瑠璃です……」

「瑠璃か……良い名だ……君の相談は、この小笠原桃子と新井場縁が承ろう……」

縁は頭を抱えた。

その様子を見て巧は笑っている。

瑠璃の表情は明るくなった。

「ほんとですかっ!?ありがとうございますっ!」

縁は言った。

「あんた……また勝手に決めて……知らねぇぞ……」

桃子は言った。

「私と縁が組めば、こんな物は問題では無い……」

「はぁ……わかってねぇな……」

縁の心配をよそに、桃子は自信とやる気で道溢れていた。

縁は嫌な予感しかしなかった。


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