表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才・新井場縁の災難  作者: 陽芹 孝介
第一章 古き善き都 京都
12/71

轟刑事はビリヤードバーの厨房にいた。

「見つけた……」

轟刑事は厨房の冷蔵庫からサイレンサー付きの拳銃を発見した。

冷蔵庫に隠されていた、鉄の塊は手袋越しでも冷たいのがわかった。

すると、轟刑事の携帯が鳴った。

「はいっ、轟……」

鑑識からの連絡だった。

「そうか……わかった………ご苦労さん……」

轟刑事は呟いた。

「あの少年の言うた通やったなぁ……」

鑑識からの連絡内容は、押収したゴム手袋とビニールシートから硝煙反応が出たとの事だった。


……ビリヤード場……


全ての犯行が、白日の元にされた順矢の表情は、諦めた感と開放感で入り交じった様子だった。

「このモルガナイトなぁ……弘子から貰ったんや……お揃いやってん…」

順矢は手首に巻かれたモルガナイトのブレスレットを、何処か懐かしむ表情で眺めている。

縁が言った。

「お付き合いされてたと、聞きました…」

「そうや……大学時代に……」

桃子が言った。

「何故殺意が芽生えた?」

「許せんかったんや……あのモルガナイトを巻いて、あいつは……俺に自慢の旦那を見せに来よったんや……」

川村刑事は言った。

「どう言う意味や?」

「刑事さん……モルガナイトの御利益を知ってるか?」

縁が言った。

「恋愛成就……」

「そうや……お互いに持つ事によって、これから先も……まぁ俺らにとっては、お互いの愛の証や」

順矢の表情は険しくなった。

「それやのに……あいつは俺への当て付けに、あのモルガナイトを巻いて……わざわざ旦那を見せに来よったっ!」

川村刑事が言った。

「それで撃ったんか?」

順矢は薄ら笑いで言った。

「はは、可愛さ余って憎さ百倍やな……」

縁は言った。

「及川さん……あなたのモルガナイトの紐は……何色ですか?」

順矢は言った。

「紐?……白や…それがどないしてん?」

「だったら弘子さんのモルガナイトは、あなたとの思い出のモルガナイトではありません……」

順矢の表情は険しくなった。

「なっ、何やと?……」

縁は続けた。

「後で鑑識の人に聞いてもらったらわかりますけど……弘子さんのモルガナイトの紐は透明です…」

順矢は絶句した。

縁は続けた。

「弘子さんのは、あなたとお揃いのモルガナイトでは無いのですよ…」

順矢は縁に言った。

「ほんなら……どう言う事やねんっ!」

縁は言った。

「弘子さんのモルガナイトと同じ物が、旦那さんである小林さんの腕にも巻かれていました……ビリヤードをしている時にハッキリと見えましたよ……」

「そんなアホな……」

順矢は呆然とした。

縁は言った。

「それにあなたは、弘子さんが自分への当て付けに、旦那さんを連れてきたと言いましたが……僕の考えですが…おそらくあなたの勘違いです…」

「は?な、何やと?」

順矢の言葉には覇気がなかった。

「小林さんが言っていました……このホテルのバイキングが忘れられなくて、新婚旅行を京都にしたと……」

すると、川村刑事の携帯が鳴った。

川村刑事は携帯に出た。

「おう、儂や………おお……おお、そうか……わかった…」

川村刑事は携帯を切って、皆に言った。

「小林婦人は無事や……手術成功や…」

桃子や大塚…そして、絵莉も安堵の表情をしている。

縁は呆然としている順矢に言い放った。

「あなたは身勝手な勘違いによって、もう少しで最愛の女性を……殺してしまうところだったんだっ!」

順矢はそれを聞いて、地面に両膝を付き、嗚咽した。

「うっ、ううう……うあ……」

順矢は泣いているのだろう……。

自分への情けなさか……弘子が助かった事による安堵感か……それとも別の理由か……。

どれだかわからないが……順矢は泣いた。

それはこの静まり返ってしまった、ビリヤード場に響いた。


……翌朝……



警察からは昨晩に開放された。

ホテルの喫茶店で桃子は気怠そうに、コーヒーをすすっている。

そんな桃子を見て、縁は言った。

「何だ?桃子さん……疲れてんの?」

桃子の目は半開きだ……。

桃子は言った。

「結局……嫉妬の末に殺意が芽生えたのか?」

「そんな事を考えてたのか?」

「そんな事じゃないっ!これは重要な事だ……」

縁は冷たい視線を桃子に向けた。

桃子は冷たい視線を放つ縁に言った。

「何だ縁……その目は…」

「桃子さん……まさか、この事件をネタにする気じゃぁ?」

桃子は言った。

「そのつもりだが……」

縁は頭を抱えた。

「やっぱり……」

桃子は言った。

「次回作に組み込もうと思ったんだが……動機がよくわからなくてな……」

「なるほど……それを昨晩考え込んで、寝不足って訳か……でも無駄だぜ」

「何故だ?」

「今回の事件は愛情が深い故の殺人未遂だぜ……殺意を抱く程の愛情なんて、当事者しかわかんないよ……」

「確かに……私にはさっぱりわからん」

「それに、犯人もすぐにわかっちゃったし、小説にするには……パンチが弱い」

桃子は言った。

「私はいつも思うのだが……縁はどうして犯人がすぐにわかるんだ?」

突拍子も無い桃子の問に、縁は少しガクリとなった。

「そんなの知らねぇよっ!」

「知らない事は無いだろ?お前の事だぞ」

「そんな事言われても……」

その時見慣れた二人組が喫茶店に入ってきた。

川村刑事と轟刑事だ。

二人は縁と桃子を見つけると、その席に来た。

川村刑事は言った。

「おはようさん……二人とも昨日はご苦労さん……」

轟刑事が言った。

「君の言うた通り、ビニールシートとゴム手袋には硝煙反応が……厨房の冷蔵庫からはサイレンサー付きの拳銃が、それぞれ出たわ……」

縁は言った。

「そうですか……」

桃子は言った。

「バーテンはどうしてる?」

川村刑事が言った。

「供述は昨日のままや……これから、拳銃の入手方法を取り調べるんや……」

縁は言った。

「ここからは警察の仕事ですからね……」

川村刑事は苦笑いをした。

「ははは…耳が痛いなぁ……事件捜査と犯人逮捕も警察の仕事やで……まぁ君に持っていかれたけどなぁ…」

すると、縁と桃子は立ち上がった。

二人を見て轟刑事が言った。

「何や?二人して……逃げんでもええやろ…」

桃子が言った。

「逃げるのではない……」

縁が言った。

「これから……お見舞いです…」

轟刑事は言った。

「お見舞い?」

川村刑事は言った。

「轟……野暮やぞ、行かせたれ……」

縁と桃子は喫茶店を出た。

轟刑事は言った。

「ええコンビですね……」

川村刑事は言った。

「流石、新井場博士のお孫さんや……」

「知ってるんですか?」

「おお……昨日、署に戻ってから確認したら、そうやったわ……」

川村刑事は何処か懐かしむ表情をしていた。


……某病院……


縁と桃子は弘子のお見舞いに来ていた。

あいにく弘子とは面会が出来ないようだが、小林が出迎えてくれた。

「まさか、及川さんが……」

小林の表情は暗い。

縁が言った。

「事情は警察から?」

「ええ……全て……」

そして、小林が言った。

「私のせいですね……及川さんが撃ったのも、弘子が撃たれたのも……」

桃子が言った。

「どう言う意味だ?」

「私、知っていたんです……弘子と及川さんの事を……」

縁が言った。

「二人の関係を?」

「ええ……私は彼にコンプレックスがあったのかも知れません……だから、あえて私はモルガナイトをペアで購入したんです」

縁が言った。

「前に弘子さんが巻いていたのは?」

「私と交際して、すぐに処分したそうです……」

「では…やはり、あなたは……」

「私は及川さんに……弘子は私の妻だと、当て付けるために、新婚旅行を京都に選んだのです…」

桃子は言った。

「何故、そんな事を?」

「私は及川さんに現実を見せつけて、安心したかったのかも知れません……情けない話です、私の自己満足のせいで最愛の妻を傷付けたのですから……どう償えばいいのか……」

縁は小林にかける声が見つからなかった。

すると、桃子が小林に言った。

「あなたは……自分に自信を持てばいい…」

縁と小林は桃子を見た。

桃子は続けた。

「弘子婦人に自信を持って、接すればいいんだ。それに、及川が殺人未遂を起こしたのはあなたのせいでは無い……」

小林は言った。

「しかし、それでは……」

「あなたが自信を持てば、もうこんな事は起きないさ……」

桃子の言葉には何故か説得力があった。とりわけ変わった事を言っている訳では無いが、彼女の独特な雰囲気が言葉に説得力を持たせたのかも知れない。

小林は顔を下に伏せて言った。

「うう、あ…ありがとう……」



……更に翌朝……



「何だって!?もう帰るっ!?」

縁の声が縁の泊まっている部屋に響いた。

桃子が言った。

「もうする事が無い……」

「取材は?観光は?……美味い物はっ!?」

「取材と観光は初日で終わっただろ?」

「じゃぁ……美味い物は?」

帰りたくなさそうな縁に、桃子はさらっと言った。

「お前……朝昼晩としっかり食べてるだろ……」

「そう言う事じゃ無くて、観光地行ってご当地物食べるとか、レジャー施設でご当地物食べるとか……色々あるだろ?」

「食べ物の事ばかりではないか……とにかく、ホテルは今日の午前でチェックアウトだ……延長は出来ないぞ…」

縁はその場で項垂れた。

「そんなぁ……初日だけじゃんかぁ……」

「仕方ないだろ……事件が起こったんだから……」

縁は思った。せっかくの観光旅行が、事件が発生した事により、台無しになった。

「災難だ……」

それは今に始まった事では無い。

桃子と行動を共にするようになり、このような事が毎回起こる。

それをネタに桃子は有名な推理作家になったのだから。

縁の解決した事件を、文才だけが取り柄の桃子が小説にする……はたから見れば、いいコンビなのかも知れないが……。

観光やレジャー、そして………普通の高校生活を送りたい縁にしてみれば……。


………災難だ……………。





次回

第二章 夏の屋敷と過去からのメッセージ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ