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天才・新井場縁の災難  作者: 陽芹 孝介
第一章 古き善き都 京都
10/71

血を流して倒れている弘子の元へ、縁は駆け寄った。

トイレの中に入った縁はすぐに異変に気付いた。

「うん?この臭い……」

縁はすぐさま弘子の脈を確認した。

すると、ようやく桃子と、小林もトイレ前に到着した。

桃子と小林は中の様子を見て、驚愕した。

桃子は目を見開いき、小林は叫んだ。

「ひ、弘子ぉーっ!」

「縁……これは?…」

桃子と小林がトイレに入ろうとすると、縁が大声で言った。

「入るなっ!」

縁の大声に桃子と小林は怯んだ。

縁は続けた。

「小林さんは、今すぐに救急車をっ!そして、桃子さんは警察を……それとホテルの出入口を封鎖するように、すぐにホテルの責任者にっ!」

「あ、ああ…わかった」

桃子はそう言うと、走ってこの場を去り、縁の指示通りにした。

小林は呆然として呟いてる。

「弘子…弘子………弘子…」

縁は言った。

「小林さんっ!弘子さんはまだ生きているっ!しっかりしてくれっ!」

縁の声に我に帰ったのか、小林は慌てて携帯で救急車を呼んだ。

弘子は左の腹部と右肩から血を流している。

縁は自分の着ていたシャツを破り、それを肩にくくりつけて、肩の止血をした。

腹部は残りのシャツを傷口に押さえつけて、懸命に止血をしている。

出血量からして、2箇所とも動脈を傷つている訳では無さそうだか、放っておくと危ない。

止血していると、縁は何かに気付いた。

「ん?ブレスレットが一つしか無い……」

縁の言うように弘子の手首にはブレスレットが一つだけあった。

弘子は確かにブレスレットを3つしていたはずだ。

しばらくすると救急車が到着し、救急隊員に担架で運ばれて行った。

小林もその後を追った。

縁は言った。

「後は医者に任せるしかないな…」

そう言った縁の姿は血まみれだった。

縁はトイレから出ようとすると、足元に財布が落ちているのに、気付いた。

縁はその財布を、指紋が付かないように、ハンカチを使って拾った……弘子の財布だ。

「現金が抜き取られている……」

縁が言うように、財布の中身はカード類を残して、お札だけが抜き取られていた。

縁はその場に財布を置き、トイレを出た。

縁はトイレの入口の隅で震えている、女性客に聞いた。

「トイレには入りましたか?」

女性客は黙って首を横に振った。

すると、桃子が戻って来た。

「縁っ!小林婦人は?」

「今、救急車で運ばれたよ……」

「そうか……まだ生きているのだな…」

桃子は少しほっとした表情だ。

縁は言った。

「これだけの騒ぎなのに……あまり野次馬がいないな…」

桃子は言った。

「責任者に頼んで、野次馬対策をしてもらった。で……何かわかったか?」

縁は言った。

「その話は警察が来てからするよ……」

数分後、地元の警察がようやく到着した。

現場に到着した警察はさっそく、現場検証のために、鑑識がトイレに入った。

すると、鑑識ではない二人のスーツ姿の刑事が、縁たちに聞き込みをした。

二人いる刑事の内の一人が言った。

「京都府警の(とどろき)です」

轟刑事は背が高く、肩幅も広い……黒のスーツを羽織っているが、無精髭のせいで、清潔感はあまりない。年齢は30代後半といったところだ。

すると、もう一人の刑事も言った。

「京都府警の川村です……よろしゅう…」

川村刑事は腰が低そうな人物で、見た目は定年前の刑事と、いった感じだ。

轟刑事が言った。

「現場を検証したが、財布の中身が空でしたわ……物取りの線が濃いかも…」

川村刑事は轟刑事の言葉に黙って頷いている。

縁は言った。

「決めつけは良くないですよ……確かに財布の中身は空でしたが、弘子さんは高価なネックレス等も身に付けていました。物取りなら、何故それを残すのですか?」

二人の刑事は縁の言葉に呆気にとられている。

縁は続けた。

「それに、時刻はまだ午後3時……こんな時間に強盗なんてしますか?」

轟刑事は憮然とした表情で言った。

「何や君は?子供が何を……」

縁は続けた。

「ホテルの責任者に頼んで、ホテルの出入口を封鎖しました……」

轟刑事は言った。

「何を勝手な……」

「すぐに硝煙反応をとって下さい……」

川村刑事は縁に聞いた。

「それは病院から聞いて、犯人が銃を所持してるのは知ってるけど……」

「俺が、トイレに入った時に微かに硝煙の臭いがしました……犯人が内部の人間の場合、硝煙反応が出る可能性があります…」

轟刑事は興奮気味に言った。

「そんなん、君に言われんでもわかってるわっ!」

川村刑事は轟刑事に言った。

「まぁまぁ、川村……それにしても君…何者や?」

すると、桃子が言った。

「ふふふ…凄いだろ?うちの縁は」

川村刑事は言った。

「何や?あんた……」

桃子は偉ぶって言った。

「私か?私は天才推理作家の小笠原桃子だ……そして、彼がその助手の新井場縁だ」

縁は頭を抱えた。

「自分で天才って言うなよ……それに、俺はいつからあんたの助手になったんだ?」

桃子を見て川村刑事は言った。

「そう言えば……あんたの事、最近テレビで見たわ…」

しかし、轟刑事は鼻で笑った。

「ふんっ……小説と実際の事件は違うぞ…」

桃子は激昂した。

「何だと!貴様……私たちはこれまで数多くの事件を解決してきたんだぞっ!」

縁は桃子を抑えた。

「まぁまぁ、桃子さん……。それより刑事さん、とにかく硝煙反応を……銃声が聞こえなかったので、おそらくサイレンサー付きの銃でしょう……。因みに僕には硝煙反応が出るかもしれません、トイレに入って弘子さんを応急処置していたので」

川村刑事が言った。

「すると、君以外の人間から硝煙反応が出たら、容疑者の可能性が高いわけやな…」

縁は言った。

「はい…しかし、外部犯の可能性も捨てきれませんので、付近に厳重警戒を…」

轟刑事が言った。

「また…勝手な事を……君に言われんでもわかってるわ……」

縁は言った。

「それと……川村刑事…」

「何や?……」

「着替えたいのですが……」

川村は血まみれの縁を見て言った。

「ああ…かまへん、着替えてきぃ……その代わりすぐに戻ってきてや…」

「ええ、もちろんです…」

そう言うと縁は自分の部屋に戻った。

部屋に戻った縁は色々考えた。

「おそらく内部犯だな……どう考えても白昼堂々、強盗するのは……おかしい」

縁は着替え終わり、現場に向かった。

「しかし、いったい何故弘子さんが?……気になるのはバー店の順ちゃんと呼ばれる男……弘子さんの知り合いのようだが…」

縁が現場に戻ると、事件の関係者らしき者たちがいた。

バーテンダーに、バーテンダーを平手打ちした女性客……それに、桃子に……スーツ姿の年配の男性がいる。

おそらくは……ホテルの責任者か……。

縁に気付いた桃子は手を振った。

「縁…こっちだ……」

縁は桃子の隣に行った。

轟刑事が言った。

「では一人づつ伺います…まずはあなた名前と年齢は?」

バー店は轟刑事に聞かれて少し動揺しながら答えた。

及川順矢(おいかわじゅんや)27歳……このホテルのビリヤードバーの従業員です」

「あんた、被害者と知り合いのようですねぇ」

「はい、大学時代の友人ですけど…」

「なるほど……あの時間は何処に?」

「店の奥で夜の仕込みをしていました……」

轟刑事は手帳にメモをしている。

轟刑事は女性客に言った。

「では、次はあんた……第一発見者の…」

女性客は言った。

中村絵莉(なかむらえり)、24歳……」

「このビリヤード場に何をしに?」

絵莉は激昂した。

「はぁ?私を疑ってんの?」

川村刑事がフォローした。

「すんませんなぁ……一応決まりなんで、気ぃ悪ぅせんといて下さい。あんさんからは硝煙反応は出んかったから……犯人やないと思うけど、一応な……」

絵莉は表情は不機嫌そうだが、仕方なく答えた。

「そこのバーテンの順ちゃんに会いに来たんや……でも順ちゃん、カウンターに出できてくれんから……」

轟刑事が言った。

「それで?」

「トイレに行ってから、帰ろうとしたら……女の人が倒れてたから、思わず悲鳴をあげたん……」

現場の状況を思い出したのか……絵莉の表情は怒りから、恐怖に変わっていった。

轟は納得したのか、次の人物に話をした。

「次は……あんたや…名前と年齢は?」

話を振られたのは、スーツ姿の年配の男性だ。

「はい…大塚真五(おおつかしんご)と申します……年は60歳です…」

「あんたは……このホテルの支配人ですね…」

「はい、私はずっと支配人室にいたんですが、そこの女性に言われて……ホテルの出入口を封鎖していました」

大塚は桃子を見ると、刑事たちもなっとくしたようだった。

「以上か……」

轟刑事がそう言うと、桃子が言った。

「私たちは、いいのか?」

轟刑事は言った。

「あんたらはもうええ……さっき聞いた」

桃子は少し残念そうにした。

そして川村刑事が言った。

「それでは、申し訳ないですが……しばらくこの場で待機しといて下さい…」

そう言うと二人の刑事は現場を離れた。

すると、支配人の大塚は言った。

「どうしてこんな事に……」

みんなの表情はそれぞれ暗い。当然だ、今さっきこの場所で強盗事件が発生したのだから。

縁は現場であるトイレに行った。

それを見て桃子も後を追う。

「待て、縁……私も行くぞ…」

縁はトイレの入口でトイレを見渡した。

入口から見て個室の部屋が4つに用具入れが一つ、対面に大きな長方形の鏡があり、前に椅子が4つある。

中央には、弘子の血痕が生々しく残っていた。

桃子が言った。

「婦人は無事だろうか?」

縁は言った。

「肩の弾丸は貫通していたが……腹部は貫通していなかったから、おそらく体内に残っている……」

「大丈夫なのか?」

「出来るだけの事はしたよ……後は祈るだけだ…」

桃子は寂しそうに言った。

「そうか……無事だといいがな…」

「それより桃子さん、どう思う?」

「どうって?」

「犯人だよ……強盗だと思うか?」

桃子は表情を険しくした。

「今のところは、何とも言えないな…」

縁は言った。

「おそらく警察は、ホテルに残っている他の人間の硝煙反応を調べているだろうけど……ここにいる人間はどうだった?」

桃子は言った。

「私も含めて硝煙反応はでなかったよ…」

「だろうね……だとしたら、絵莉って人は白だよ…」

「何故だ?」

「第一発見者の彼女が犯人だったら硝煙反応はでるよ……それを確かめるために、トイレに誰も入れなかったんだから…」

「なるほど……」

感心している桃子をよそに、縁はトイレを調べ始めた。

縁は用具入れを開けた。

中は整頓されている様子はなく、ゴチャゴチャしている。

中を見て縁は何かを見つけた。

「これは?……ふっ、なるほど……」

縁はそれらをスマホのカメラに納めた。

次に縁は血痕が広がっている箇所を調べた。

桃子は血痕を見て少し立ちくらみをしている。それ程に弘子の出血量が多かったのが伺える。

「何か手がかりは……ん?これは……」

縁はハンカチを使いそれを拾った。

「パワーストーン……」

縁は青く輝くパワーストーンをハンカチにくるんで、保管した。

縁と桃子はトイレを出た。

縁はそのまま絵莉の元へ向かった。

「あの、少しいいですか?……」

絵莉は縁に言った。

「ああ……男前のお兄さんか……何や?」

「あの時、バーテンさんを平手打ちした理由はなんですか?」

絵莉は苦笑して言った。

「何や……刑事みたいやなぁ……まぁええわ」

絵莉は話出した。

「私な…順ちゃんと付き合っててん……」

どうやら恋人同士だったようだ。

「せやねんけど……忘れられへん女がいるから、別れてくれって言ったんや…」

桃子が言った。

「浮気か?」

「ううん……そやない……その女が久しぶりに京都に来たから、気持ち伝える言うて…」

縁が言った。

「それでモールの前で……」

「そう…あの時は興奮して、平手かましたけど……やっぱり私順ちゃんが好きやから、謝って考え直してもらおうと思って…」

桃子が言った。

「それでここに来たのか……」

「そうや……でも、あかんな…。順ちゃんのあの顔見てたら、順ちゃんの忘れられん女って、あの撃たれた人やろ?」

桃子が言った。

「よくわかったな……」

「そらわかるわぁ……私はずっと順ちゃんを見てきたんや…」

順矢をずっと追っていたからこそ、絵莉は言えるのだ。

順矢は弘子の事が好きだと。

絵莉は順矢の事が好きだからこそ、順矢の好きな人がわかってしまう……絵莉からすれば、やりきれないだろう。


……30分経過……


桃子はビリヤード台に腰をかけて、ボールを転がしたりして遊んでいた。

他の3人も時間をもて余している感じだった。

縁は順矢の様子を見ていた。

「惚れた女か……」

惚れた女は既に、他の男の妻になっている。ドラマなどでよくある話だが……。

その時だった、順矢が髪をかき上げた時にそれが見えた。

「あれって……」

その時桃子が誤って、ボールを床に落としてしまった。

ボールはコンクリートの床を、コーンという音を鳴らして跳ねた。

それを見て縁は言った。

「そうか……」

そう言うと縁は勢いよく走り出した。

縁が走った先はビリヤード場出入口で、縁が出ようとした時に、戻ってきた二人の刑事と遭遇した。

縁は言った。

「あっ!刑事さんたち……」

川村刑事が言った。

「ん?どうしたんや?」

「目撃証言はありましたか?」

轟刑事が言った。

「君には関係ないやろっ!」

川村刑事は轟刑事を抑えた。

「まぁまぁ轟……ええやないか…。残念ながら今のところは……あらへんなぁ…」

「やっぱりそうですか……少しお願いが?」

「何や?…」

縁は川村刑事に頼み事を言った。

それを聞いた轟刑事は激昂した。

「何やとっ!?何でそんな事をせなあかんねんっ!」

縁は言った。

「大事な事です…鑑識に聞いたらすぐにわかるでしょ?」

轟刑事はさらに怒った。

「そんな事を言うてるんやないっ!何で、それを君に指図されな…いかんのやっ!」

川村刑事はまたもや轟刑事を抑えた。

「まぁ落ち着け……。確かに君の言う通り簡単やけど、それでほんまに犯人がわかるんか?」

縁は言った。

「ええ……」

川村刑事は言った。

「よしっ!わかったっ!儂が聞いたる……ちょっとすまんけど、引き続きこの場で待機しとってくれ」

轟刑事は言った。

「いいんですか?川村さん……」

「かまへん……事件が解決するんやったら…何でもええやないか…」

川村刑事がそう言うと、轟刑事は仕方なさそうに従った。

縁は桃子のところへ戻った。

桃子が言った。

「いったいどうしたんだ?縁……」

縁は言った。

「これで………」

「ピースは揃った……」


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