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ゆるゆる冒険記  作者: 久遠マキコ
ハジマーリ
9/42

ある道の上で

「今日はこの辺かな。カクさん、何か問題ある?」

 開けていて遠くまで見通せる。

 その上、地面がそこそこ柔らかい。

 野宿にはうってつけな場所だ。

 カクさんは首を横に振る。

 ハジマーリを出発して、小さな山を越えた所で陽が傾いてきた。

 位置的にはハジマーリとツギノという村の中間くらいだろうか。

「何がこの辺なの? 次の村までまだ大分あるじゃない」

 マホちゃんが何を言っているのか分からないといったような感じで言った。

「今日の行軍はここで終わり。今日はここで野宿です」

「えっ! ここで眠るの?」

 マホちゃんが心底驚いた風だった。

 魔法の世界からやって来たというのに旅をした事はないのだろうか。

 かく言う俺も旅とか野宿とか、そういう経験は無い。

 現代日本に暮らしていて野宿など普通であればあり得ないだろう。

 しかしだからこそこういう状況が楽しくもある。

「ツギノまではまだ距離がある」

 焚火を起こす。

 そしてそれを囲むように三人が輪になってささやかな食事を取って草を布団に寝る。

 面白そうじゃん。

 わくわくするじゃん。

 それなのにマホちゃんは野宿には否定的な様子だ。

「そんなの嫌よ。頑張って次の村まで行こうよ。ふかふかのお布団じゃなきゃ眠れない」

 そこら辺の道で大の字で爆睡した挙句、誘拐されてるくせによく言うよ。

「いや、今から頑張ったら夜が明けるから」

「良いじゃん。こんなとこで堅い地面に眠るくらいなら徹夜で歩き通した方がマシ」

「夜は危ない」

「そんなの、私の魔法があるから大丈夫よ」

 ダメだ。

 何を言っても無駄な気がする。

「カクさん…」

 しかしカクさんは首を横に振るばかりで何も話さない。

 話す事が出来ないカクさんだから仕方がない事ではあるが、それでも何とかしてほしかったりする。

 どうしよう。

 せっかくウォーウルフの肉を仲良く食べられると思ったのに。

 いや待てよ。

「そこまで言うなら良いよ」

「本当? じゃあ、早速…」

「ただしマホちゃん一人で行ってくれ」

「え…」

「俺達はここで夜を明かす。わざわざ危ない目に遭ってまで夜通し歩きたくはないからね」

「そう。じゃあツギノで落ち合いましょう。それじゃあ…」

「じゃあ俺達はこれから飯にするから。カクさん、ウォーウルフ食べよう」

「ちょっと待って」

 素早く振り返りマホちゃんが言った。

「うん?」

 よっしゃ。

 ちょろいぜ。

「ちょっと待って」

「うん」

「私もご飯、食べたい」

「そうか。じゃあ歩きながら食べられそうな果物類を少し包むよ」

 言いながらハジマーリで調達した食料品を探す。

「だから!」

「うん?」

「だからあれよ…」

「歯切れが悪いじゃない。言いたい事があるなら素直に言って欲しいな」

「…食べたい」

「え?」

「食べたいの」

「果物を?」

「ウォーウルフ! 私もウォーウルフ食べたい」

 暗がりでよく見えないけど、きっとばつが悪そうな顔をしてるんだろうな。

 相変わらずからかい甲斐がある子だ。

「でもそれじゃあ歩きながらは難しいよね」

 俺達が食べようとしているウォーウルフはマホちゃんが魔法で丸焼きにしたやつだ。

 腰を据えて食べないと食べづらいし、何よりウォーウルフに失礼だ。

「でも食べたい」

「今発たないとと朝までに着けないよ」

「でも食べたい」

「ウォーウルフの丸焼きだから食べるのに時間かかるよ」

「…行かない。ここで寝る」

「ふかふかの布団で寝たいんでしょ。良いよ。俺達は気にしないから、先行きなよ」

「私もウォーウルフを食べたいの! 良いでしょ! 意地悪言わないでよ…」

 良い感じにしょんぼりしてる。

 相変わらず良い顔してんだろうな。

 夜にこういうやり取りをしているのが残念でしょうがない。

 よし。

 もう十分マホちゃんをからかったし、この辺で切り上げよう。

 俺も丸焼けにされたらかなわない。

「しょうがないな。じゃあ一緒に食べようぜ」

「うん」

 俺達のやり取りの間にカクさんがどこからか木を持ってきて火をおこしていた。

 三人は自然と自然と焚火に集まる。

「あれ? マホちゃん目元赤くない?」

 もしかしてウォーウルフ食べられない事を想像して泣いちゃったの?

「そ、そんなわけないでしょ!」

 狼狽しながら語気を強めて言うところを見ると、想像して泣いちゃったらしい。

「焚火が赤いからかな」

「そうよ。勇者の顔も赤く見えるから、そうに違いないわ」

「はいはい」

 そういう事にしておくよ。

「ねえ。そんな事より、早くウォーウルフ食べようよ」

 その言葉を受けて、カクさんがウォーウルフを持ってきた。

 そして目の前にウォーウルフの肉が置かれた瞬間にマホちゃんは肉に齧り付いていた。

 ちょっとした人間くらいの大きさを誇るウォーウルフの丸焼き。

 そこに頭から突っ込んで肉を頬張るマホちゃんの姿はシュールと形容する以外に無かった。

「すげー格好で食ってんな…」

 もう少し人間らしく食べられないものかな。

 カクさんはマホちゃんの食べっぷりに唖然としていた。

 それから何かコメントを求めるようにこちらを見る。

 気の利いたコメントは出来ないよ。

 代わりに肩を竦めると、カクさんも同じように肩を竦めた。

「まあ、俺達も食べようぜ」

 幸い、マホちゃんが魔法で焼いたウォーウルフは十を軽く超え、それら全てをカクさんが担いできていた。

 マホちゃんが一頭丸々食べてもまだストックはある。

 俺とカクさんは二人で一頭を少しずつ捌きながら食べる事にした。

「いただきます」

 カクさんがナイフでばらした肉を少しずつ食べる。

 ハジマーリで食べたステーキよりも焼き加減にムラがあるが、それでもウォーウルフ独特の食感や味は健在だ。

 今まで食べたどんな肉よりも美味い。

 むしろ所々生っぽい食感があって、そこがより肉の味を引き出しているような感さえある。

「やっぱり美味いよな…」

 思わず嘆息してしまう。

「カクさんはこれが初めてのウォーウルフだよな」

 カクさんは頷きながらも肉から目が離れないでいた。

 口に合ったらしい。

「ねえ勇者」

 もぐもぐと口を動かしながらマホちゃんが声を掛けてきた。

「イタダキマスって何?」

「え? あ、ああそうか」

 俺もマホちゃんも、そしてカクさんも皆それぞれ違う世界からこの世界にやってきた。

 当然、文化も風習も違う。

 それどころか、マホちゃんがいた世界では魔法が当然のように存在しているし、カクさんのいた世界では機竜という生物もいるという。

 何もかもが違うのだ。

 食事の前の挨拶が無いという事もあるのだろう。

「いただきますっていうのは飯を食う前の挨拶だな」

「へえ」

 マホちゃんはどことなく興味がありそうな顔をしていた。

 何だかもう少しいただきます談義をしたくなった。

「食事を作ってくれた人、食材を作ってくれた人、そして俺達に食べられる動物に今日も生かしてくれてありがとうって言う訳だな」

「面白いじゃない。じゃあ食べ終わった時も何かあるの?」

「その時はごちそうさまって言うんだ」

「どういう意味?」

「食事を用意してくれてありがとうって意味かな。いや、貰った命を大切にしますよって意味かもな。どっちにしろ、俺達の飯になってくれたものに対する感謝の言葉だ」

「いただきます。ごちそうさま…うん、良いじゃん! 私もこれから使う事にするわ。ウォーウルフさん、いただきます。いただいてます!」

 それからマホちゃんは再びウォーウルフに齧り付いた。

「マホちゃんのいた世界にはこういう挨拶はなかったの?」

「…ほうね。特にないわね。朝おはようって言って、夜おやすみって言うくらいかしら」

 口一杯に頬張った肉を飲み込んでからマホちゃんが言った。

「それはまたバリエーション少なすぎるんじゃないの?」

「そうでもないわよ。おはようって言うのはいわばこの世界に生を受けた事を象徴する言葉。逆におやすみっていうのはこの世界に別れを告げる言葉。それ以外の事象は生きていればあり得るかもしれない事よ。そんな事にわざわざ何かを言う必要なんてあるとは思えない。食べるのは生きる上で当たり前の事じゃない? それに取って付けたように何か言うのは食べる事を美化しすぎている事に他ならないわ」

「にしてはいただきますって言葉は気に入ったみたいだけど」

「気に入ったよ。気に入ったけどね、ただそれだけの事よ…ああ、そうか」

「どうしたの?」

「いえ。勇者のいた世界では魔法がなかったんだって思って」

「それが?」

「私の世界では魔法を使える者は真理を追究するものなの。そもそも、真理を追究するために魔法を学ぶんだもの。そして物事に偏重する事は認識を捻じ曲げる事に他ならない。それは真理を追い求める事とはまるでかけ離れているでしょう。だからいただきますとかごちそうさまとか、生きるのに必要なエネルギーを美化するような事は言わない。ただ、私は気に入ったけどね」

「何だか、マホちゃんが普通じゃないみたいな言い方だな」

「そうね。普通じゃないよ。私、特別なの」

 そう言うマホちゃんの表情はどこか恐ろしかった。

 あまりこの話題を続けない方が良さそうだ。

「正直、マホちゃんが異常だろうが何だろうが俺にはどうでも良い話なんだけどね」

「ちょっと何よそれ。異常じゃない。特別!」

「はいはい」

「本当に腹の立つ奴よね、あんたって。それよりも勇者がいた世界の事をもっと教えてよ」

 どうにかして話題を逸らそうと考えていたが、マホちゃんの方から話題を変えてくれた。

「どんな事が聞きたいんだよ」

「何が美味しいの?」

 ブレないなぁ。

 真理の追究のために質素倹約が大切だとか言っていた人間の言葉とは思えない。

「美味いものね…俺がいた所は世界的に飯が美味いって評判なんだけど、俺はその中でも玉子かけご飯が好きだな」

 安っぽいけど、俺の大好物だ。

「玉子かけゴハン? ゴハンって言うのに玉子をかけるの?」

「そうそれ! 炊き立ての米に玉子をかけて食べると格別なんだよなぁ」

「ゴハンなの? コメなの? どっち?」

「米を調理するとご飯になる」

「ああ、そういうこと。何か随分、安っぽいわね」

「玉子かけご飯を馬鹿にするな!」

 玉子かけご飯。

 確かに安っぽい。

 というか安い。

 俺の世界の話をするのに、美味い物の代表に玉子かけご飯を挙げるなというツッコミを受けるのも承知している。

 だけど俺は好きなんだ。

 TKG大好きなんだ。

「玉子かけご飯はな、TKGはな、男のロマンなんだ! 何かテキトーな肉を食って満足するような奴がTKGを馬鹿にするな!」

「あ、うん、ごめんね…」

「分かれば良いんだ」

 マホちゃんが引き気味なのはきっと気のせいだろう。

「そう言えばハジマーリでステーキ食べたな」

 スライムだけど。

「あれね。美味しかったなぁ、スライム…」

「マホちゃんの世界にはステーキってあった?」

「そりゃああるわよ」

「でもご飯は無いんだよね」

「そうね。それがどうかしたの?」

「いや、俺の世界にもハジマーリで食べたみたいなステーキって食べ物があるからさ」

「へえ。面白い偶然ね」

 確かに面白い偶然だ。

 違う二つの世界で同じ食べ物が存在している。

 それもステーキと言う呼び名で調理方法まで同じ。

 シンの意図を感じる。

 根拠はない。

 考え過ぎだと言われればそうだと答えざるを得ない。

 ただ、こういう直感は馬鹿にならない。

 とにかく、シンの意図を感じるのだ。

 というかこの世界は何なんだ。

 魔法が当たり前のように存在している。

 俺が元いた世界の食べ物が、少し違うけれど食べられる。

 それでいて俺達三人がいた世界とはまるで違う。

 ここは一体どういう場所なんだろう。

 いや。

 それは俺が考えたってどうにもならないな。

 今度、直接聞いてみよう。

「ねえ。他にはどんな食べ物が美味しいの?」

「そろそろ食べ物から離れない? それとも食いしん坊キャラでも目指してる?」

「誰が食べ過ぎよ!」

 そんな事は言ってない。

 というか、多少なりとも自覚はあったんだ。

「じゃあ勇者のいた世界はどんな場所なの? 魔法のない世界って想像出来ないんだけど」

「俺の世界?」

 マホちゃんやカクさんのいた世界と比べたらきっとかなり異質だろう。

 何て説明しよう。

 電気がなければ何も出来ない世界?

 事実だけど、ちょっと違う。

「そうだな。ええとね。強いて言えばだけど、魔法を使わずに魔法を使う世界かな」

「は?」

 ああ、うん。

 そうだよね。

 そういう反応になるよね。

 知ってた。

「要するに、エネルギーを使って遠く離れた人と会話をしたり、何年もかかるような道程を数時間で行き来したり、そういった事が当たり前のように出来る世界なんだ」

「何それ。凄いじゃん。魔法も使わないでそんな事が出来るっていうの?」

「出来るよ。電気っていうエネルギーを機械に食べさせて機械を働かせるわけだ」

「物体操作魔法みたいな感じ?」

「魔法は俺のいた世界にはないけれど、ニュアンスはきっとマホちゃんが想像しているもので間違いはないと思う」

それからも俺とマホちゃんはお互いの世界の事を聞かせ合った。

 お互いの世界の事を自分の世界の知識を使って何とか理解しようとした。

 何となくこうなんだろう。

そんな理解でしか自分達の世界を知る事は出来なかったけれど、それでもなかなか話の種は尽きず、そして有意義な時間であった。

「さて、そろそろ寝るけど、本当に見張りをしてもらっても良いの?」

「良いの良いの。それじゃあおやすみ」

 この辺には危険な生物がいない事は分かっている。

 見張りというのは口実だ。

「そう? じゃあお言葉に甘えて。おやすみなさい」

マホちゃんは自分のローブを布団の代わりにして横になった。

そして数秒後には穏やかな寝息が聞こえてきた。

話には聞いていたが、とんでもない寝つきの良さである。

何がふかふかのお布団じゃなきゃ眠れないだよ。

「やっぱスゲーなマホちゃん」

「疲れていたんだろう」

そう言ったのはカクさんだ。

カクさんのいた世界にいるという機竜。

こいつを倒すと機竜の力を得る代わりに呪いを受けるという。

そのおかげでカクさんは異性に自身の声を聞かせる事が出来ない。

 もっとも、その呪いは意識のある相手に限定される事が分かったから、こうしてマホちゃんさえ眠ってしまえばマホちゃんの心配をする事もなく会話をする事が出来る。

「カクさんも会話に混ざりたかったんじゃないの?」

「まあな。なかなか面白い話だった」

 一見すると朴訥とした印象を受けるカクさんであったが、その実はきっと話好きの気さくな人間なのだろう。

 まだ出会って数日しか経っていないが、何となくそれが分かる。

「カクさんの世界はどんな感じだったんだ? 機竜がいるらしいって事くらいしか分からないんだ」

「ユウやマホのいた世界とは全然違うな。魔法も電気も無い。何かを作っても機竜が全て壊してしまう。俺達は群れを作って、移動しながら生活をする。機竜から逃げながら。俺の世界は機竜が支配しているんだ」

遊牧民のような生活か。

「大変なんだな」

「生まれてからずっとそんな生活だからな。大変も何もない。それが当たり前なんだ。それに今は独り身だ。気楽なもんだよ」

「そうかい」

 カクさんの身の上については少し聞いた。

 決して気楽であるはずがない。

 ただ、カクさんがそう言うのなら俺は何も言わないでおこう。

「それにしても火をおこすにしろ肉を捌くにしろ随分と手際が良かったな。今度俺にも教えてくれよ」

 アウトドアに行ってこんなに手際よく動けたら、きっとモテるに違いない。

「長い旅になりそうなんだ。嫌でも覚えるよ。それよりどうだ、一杯」

 そう言ってカクさんは懐から革袋を取り出した。

「何それ」

 もしかして酒?

「こっちに飛ばされる時に偶然持っていたんだ。ちびちびやろうと思ってたんだけど、こっちの食べ物も美味いからな。美味い物がある内に美味く飲む。その方が贅沢だろ」

 カクさんが放り投げたのを受け取る。

 それからカクさんは飲めよとでも言うかのような仕草をした。

 どうしよう。

 一応、俺未成年なんだけど。

 いや、でもここ日本じゃないしな。

 治外法権だよな。

 カクさんの世界の酒とかこの先一生飲めないもんな。

 まあ良いか。

 自分を納得させてから、革袋の中の物を少し口に含む。

 アルコールを感じた。

 確かに酒だ。

 ただそれ以上に俺の知っている苦いだけの酒とはだいぶかけ離れていた。

 ジュースのような甘みがした。

 飲み込む。

 するとさっきまで感じていた甘みが一瞬にして消えた。

 そして鼻を爽やかな香りが駆け抜けた。

「お、おおう…美味いなこれ」

「今度はこの肉を食べてから飲んでみな。きっと美味いぜ」

 カクさんに言われた通りにウォーウルフの肉を頬張ってから酒を飲んだ。

「んんっ!」

 さっきとはまた違った味わいが口一杯に広がった。

 ウォーウルフのジューシーな味わいと酒の持つ豊かな甘みが混じり合う。

「ヤバいな」

 自分の語彙力ではこの美味さは表現できない。

 この一言に全てを凝縮させるのが精一杯だった。

「だろ? 俺にもくれ」

 カクさんに革袋を返す。

 カクさんも同じように肉を喰らい、そして酒を呷った。

 とても幸せそうな顔をしている。

 お互いに酒の入った革袋を投げ合いながら無言でウォーウルフの肉を無言で食べ続けた。

 いつしか肉がなくなってくると少しずつ会話が始まる。

「これ酒だろ? 俺、酒なんか初めて飲んだよ」

「そうか。珍しいな」

「俺のいる国じゃ二〇にならないと酒は飲めないんだ」

「飲んで大丈夫なのか」

「大丈夫だ。ここは日本じゃない」

「違いない」

 些細な事も面白く感じられ、俺達は何でもないのに面白おかしく笑っていた。

 酔っているのだろうか。

 だとしたら酔うのも悪くない。

 いつも父親がベロンベロンになって帰ってきて、こうはなりたくはないと思っていたが、少し考えを改めよう。

 酔っても良いじゃないか。

 気持ち良いんだから。

「それより、これ何て酒?」

「ラバルって言うんだ。グルゴゴから作るんだぜ」

「へえ。グルゴゴって何だ?」

 何がおかしいのか分からないが、そこでまた二人して笑った。

 そして風が吹いた。

 焚火が消える。

 二人の笑い声が聞こえる。

「火、焚くか?」

「いや、明日も早い。このままで良いよ」

 無言の時間が流れた。

 暗闇。

 目の前にはカクさんがいる。

 けれど、今この瞬間において俺はこの世界に一人ぼっちだ。

 地球とは異なる世界に飛ばされた。

 そんな中での一人ぼっち。

 風が吹いた。

 青い匂いがする。

 こんな匂い、俺がいた世界では絶対に感じられなかった。

「おっと」

 風に吹かれたせいか、酔っているせいか、バランス感覚を失って地面に倒れた。

「大丈夫か」

 カクさんの声がしたが答えなかった。

 声が出なかった。

 視界に広がる星空。

 それに目を奪われていた。

 こんな星空、見た事がない。

 星々が幾千と集まって明滅している。

 数えきれないほどの光が瞬いているが、大地を隈なく照らすにはまだまだ光量が足りない。

 ともすれば不安になりそうな心許ない輝きを放つ星々を見て、俺は一切の思考を失った。

 酒のせいで浮遊感を覚える身体。

 全てを忘れさせるほどの景色。

 微かに香る青色。

 それらを感じて、少しずつ身体の力が抜けて行くのを感じた。

「綺麗な空だな」

「…見慣れた空だ」

「カクさんのいた世界じゃあこれが普通なのか」

「普通だ。見飽きた景色だよ。俺からすればハジマーリの景観の方が新鮮だった。機竜が容易に襲ってこないような場所じゃないとあんな建物は作れない」

「そうか。俺からすればそっちの方が見慣れているよ。むしろあれはド田舎、辺境の地だな」

「ユウはそんなに発展した地から来たのか」

「そうだよ。でもそれももうすぐ終わるらしい」

 カクさんからの返事は無い。

「俺の世界、滅びるんだとよ」

 カクさんの返事がないから、俺は話し続けた。

「シンがな、そう言ったんだよ。俺に世界を救えとも言ってきやがったな。本当、迷惑な話だ…なあ、カクさん」

「どうした」

「正直さ、世界なんて滅んでも良いやって思ってるんだ。どうせ俺の人生、どこかの誰かが歩んだような人生にしかならないんだ。だったら世界の終わりと共に死ぬのも劇的かなってさ。でもさ、この星空を見て思ったんだ。こんな景色が見られる場所が、俺のいる世界にもあるらしいんだ。そこで好きな女と一緒に星を見るんだ。そうしたら、それもきっと劇的だよな」

 思っている事、思ってもいない事が次々と口から出てくる。

「そうだな」

 随分な棒読みだな。

「カクさんもマホちゃんもきっと理由があってこの世界に飛ばされたんだよな」

「きっとな」

「自分から話さない限り俺は聞くつもりはないけどさ、それでも大体の事情は想像出来るんだ」

「…」

「だから思ったんだよ。これはインターバルなんだって」

「インターバル?」

「休憩って事。この世界での旅はきっと、元の世界に帰った時に待ち構えている辛い事を覚悟するための時間なんだ。旅をして、色んな世界の色んな事を知って、それで対策を立てる時間なんだ。心の準備をするんだ…なあ、カクさん」

「どうした」

「辛いなら、辛いって言えば良いんだと思うよ」

 不意に初めてカクさんに会ったあの日の事が思い浮かんだ。

 カクさんが自分の事情を淡々と話す様子が視界に広がった。

 それは何でもないようでいて、何でもあった。

「そうだな」

 このそうだなはどこか柔らかく、そして湿っていた。

 無音。

 無心。

 時間だけが動いている。

 酔いに任せて、取り留めのない事を考えた。

 しかしその思考も時折吹く風がどこかへ吹き飛ばしてしまう。

「にぃーくぅーっ!」

 突然、そんな叫び声が聞こえた。

 マホちゃんの寝言だ。

「どんだけ食べたりないんだよ」

「いくら食っても足りないんだろ」

 二人で笑った。

 何だかな。

 おセンチな気持ちが台無しだ。

「じゃあ明日以降の事でも話してから寝るか」

「そうだな」

 俺は身体を起こし、カクさんと明日以降の旅程について話し合った。

基本的に2~4週に1回程度更新したい。できるだけ定期的に更新したい。そんな感じです。

wordで書いたものをコピペしています。見づらい部分もあるかと思いますが、ご了承ください。

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