ハジマーリ 4
異世界生活三日目。
今日もハジマーリは穏やかな晴天に恵まれた。
昨日と同じように井戸で顔を洗う。
食堂へ行くと、マホちゃんが既に食事をしていた。
「スライムおかわり!」
はーい、とハナさんがマホちゃんの要求に応えている。
「何枚目?」
席に着き、聞いてみる。
「二枚目よ。そんなに食べてないもん」
朝からよくそんなにスライムを食べられるものだ。
「質素倹約はどこに行った」
「そんなもの、国立魔法学院に置いてきたに決まってるじゃない。旅が終わるまでは自分に正直に生きるって決めたんだから」
「これ以上正直になってどうすんのさ」
「何か言った?」
「イヤベツニ」
「おはようございます」
ハナさんが皿を何枚か腕に載せながら声を掛けてきた。
器用なものだ。
「おはようございます」
「朝食です。どうぞ召し上がれ」
「ありがとう」
メニューはやはり昨日の朝に食べたものとほとんど同じだった。
違ったのは、スライムのステーキが野菜の煮込みになっていた事だ。
「すいません。あまりにも良い食べっぷりだからつい出し過ぎてしまって」
ハナさんがマホちゃんの皿を取り換えながら申し訳なさそうに言った。
「ふーん。で、何枚目?」
「に、二枚目よ」
「実際は?」
「二枚目だって!」
マホちゃんの後ろでハナさんが手を広げている。
五枚目か。
「朝からよく食べるなぁ」
俺の視線に気が付いたのか、マホちゃんが後ろを振り返った。
ハナさんとマホちゃんの視線が交差する。
ハナさんがばつが悪そうに笑った。
「ご、五枚目よ…悪い?」
マホちゃんが目を泳がせながら言った。
「いや。よく食べる子は嫌いじゃない。見ていて気持ちが良い」
「そうですよ。清々しいです。晩には特別に大盛りにしますから」
マホちゃんの頬が赤く染まる。
「じゃ、じゃあ良いじゃない」
「ただ、素直なのが一番だと思う」
マホちゃんの頬の赤が顔全体に伝染する。
「しょうがないでしょ! こんなに美味しい物を作るこの宿が悪いのよ! 悪いのは私じゃない!」
今日も一日、退屈しなさそうだ。
俺の朝食が終わると、マホちゃんが立ち上がった。
「さあ、行くわよ」
もう少しゆっくりしたい所だけど、これ以上ゆっくりしてマホちゃんが食べ物をねだり始めてもハナさんに申し訳ない。
仕方ない。
「行くか」
ごちそうさま。
いってきます。
そんな挨拶をしてから宿を出る。
「良い天気」
大きく伸びをしながらマホちゃんが朗らかに言った。
「何から買う?」
「まずは地図」
行商人が露店を開いていた場所を目指す。
道すがら歩いていると昨日と同様の視線を感じた。
「おはようございます」
目が合った住人に挨拶をする。
「あ。ああ、おはよう。可愛らしい嫁さんね」
違うって。
俺は別にロリコンじゃないから。
「ねえ。私、可愛いって。えへへ」
マホちゃんも照れないでくれるかな。
身に覚えのない誤解を受けた上にそれがさも当たり前のように彼らが属するコミュニティに伝搬されるとこうも肩身が狭いのか。
もういい。
どうせ明日には発つのだ。
一日くらい我慢してやる。
あの人、ロリコンなのよ。
そんな奇異の視線を感じながら行商人の元へ行く。
「地図が欲しいんだけど」
そう言うと、行商人は愛想よく対応してくれた。
「地図ですか。どの地方の地図が御入り用で?」
「世界地図ってある? ここからグランシオまで行きたいんだ」
「申し訳ございません。世界地図は無いんですよ。ただサーラバ地方の地図ならあります」
「それはここからグランシオまでの道は書いてあるの?」
「はい。サーラバ地方の詳細地図になりますので、どこに何があるかまでばっちりです」
目的の物は無いけど、まあ当面の旅に必要な物だ。
ここは買いだな。
「いくら?」
「三〇〇〇ロウになります」
「随分と高いんだな」
「情報は高いんです」
「もう少し勉強した方が良いんじゃない? こんな値段だったら買い手が付かないでしょ。グランシオまでなら人伝にでも場所は分かるはずだ」
「そんな事は無いですよ。やはり地図は大切です」
漫画なんかでよく見かける交渉をこんな所で実践する時が来ようとは。
「俺さ、今いる宿が一泊二食で一五〇〇ロウなんだよね。流石に紙切れ一枚、しかもグランシオまでの道しか書いていないのが二泊分な訳は無いでしょ」
「そう言われてしまえば確かに高いかもしれませんね。ちなみにお幾らなら購入を検討なさいますか?」
「三〇〇」
ぶふっ、と行商人が思わず噴き出した。
流石に吹っ掛けすぎた?
「そんなに面白い?」
「い、いいえ。そんな事はございませんよ? そうですね…」
行商人はしばらく思案し、やがて数字をぽつりと言った。
「二五〇〇、でどうでしょう」
お約束の始まりだ。
「四〇〇」
それから俺と行商人はしばらく数字の言い合いを続けた。
「もう一声!」
「…一〇〇〇」
行商人が不機嫌そうに言った。
額に青筋が浮かびそうな勢いで顔が引きつっている。
これ以上は無理か。
「買った!」
値切りに値切り、地図は一〇〇〇ロウになった。
行商人はこの村とかなり親しくしているらしく、金はスローンから受け取っておいてくれと言うと二つ返事で了承してくれた。
早速、買った地図を見る。
確かに色々と詳しく書かれている。
ここには温泉がある。
この峠には魔物が出る。
そんな注意書きが細かい字でいくつも書かれていた。
マップルを思わせる、そんな地図だった。
「ここが今いる場所でしょ。それでここは昨日行った所。えっとグランシオは…」
ぐいっと顔を近づけて、マホちゃんが地図を覗き込んだ。
「ここか。途中に村が三つある。距離的には大体…五日もあれば行けちゃいそうね」
「同感」
大目に見積もって七日くらいか。
「保存食って置いてある?」
行商人に振り向いて聞く。
「はい。取り扱っております」
「じゃあ水を入れるのに使えそうな容器、それから保存の効く食べ物を五日分。それぞれ二人分用意してくれる? 代金が三〇〇〇ロウくらいになるようにして」
「かしこまりました」
行商人が物を用意して渡してくれる。
代金はやはりスローンに預けてある金から引かせてもらった。
若干少ないが、良い。
地図と合わせて適正価格と見る事にしよう。
「ねえ、良かったの? ここで全部済ませて」
「良いの、良いの。こっちの方が楽ってもんだ」
「お金はあんたが握ってるんだし、あんたが良いなら良いんだけど」
へえ。
どこぞのお嬢様かと思いきや、意外と庶民的な感覚もあるのか。
「買い出しも意外と早く終わったね」
「お次は失せ物探しと行きますか」
とりあえず家畜小屋を見つけないと。
ローブってどんな感じなんだろう。
「ローブってどういうの?」
「どういうのってあれよ。王立魔法学院のエンブレムが胸に…あ、流れ星」
「は?」
夜でもないのに流れ星なんか見える訳がないだろ。
「マホちゃん、寝言は寝て言おう」
「いや、本当だって。ほら」
そう言ってマホちゃんが指差した方を見る。
青い空の中、赤く走る星があった。
「あれま。本当だ」
流れ星ってあんなに明るく光るんだっけ?
「お願い事しなくちゃ。えっと、えっと…」
何とも可愛らしい事を言っているマホちゃんを傍目に流れ星を眺める。
あ。
流れ星に願い事なんてファンシーな文化はマホちゃんの世界にもあるのか。
微笑ましい気持ちになりながら流れ星の軌跡を辿る。
随分と長く空に残っている。
尾も引いている。
火球だ。
「ん?」
何だ。
何か大きくなってないか。
「そうだ。お嫁さんになれますように、お嫁さんになれますように、お嫁さんになれますように」
魔法使いになるんじゃないのか。
いや、そんな事より。
目を擦って、もう一度流れ星を見る。
見間違いじゃない。
確かに大きくなっている。
つーか、こっちに来てね?
「マホちゃん! 伏せて!」
そう言って俺はマホちゃんにのしかかるように身を投げた。
必然、マホちゃんは下敷きなる。
「ぐえっ。ち、ちょっと! 公衆の面前で何やってんのよ!」
マホちゃんの怒りも状況を理解するとすぐに収まった。
轟音を撒き散らしながら火球が俺とマホちゃんの頭上を掠めて行く。
直後。
鼓膜が破けんばかりの爆発音と大きな揺れがハジマーリを襲った。
動けなかった。
重いだろうにマホちゃんも何も言わずにじっとしていた。
静寂が戻り、村民が騒ぎ始めてようやく身体を起こす。
「ごめん。大丈夫?」
マホちゃんの手を引く。
「大丈夫も何も、私は礼を言わなくてはいけないわ。ありがとう。助かった」
辺りを見渡す。
火球、もとい隕石はこの村を襲ったようだが、幸いな事にハジマーリに深刻な被害は出なかったようだ。
あったとすれば、隕石の通り道にあった住宅がほんのりと黒コゲになった事くらいだ。
村民がパニック寸前の大騒ぎをしている。
ただ恐怖に駆られてと言うよりも珍しい物を見て興奮しているようである。
「行ってみよう」
「行くの? 野次馬って好きじゃないんだけど」
俺もそこまで好きではないが、それでも行かなければならない。
あの隕石、俺達の方に向かって来ていた。
少なくてもそう取る事が出来る軌道の変化だった。
何かある。
そう判断しておいて損は無いはずだ。
隕石が落ちたのはシンピノ森の方向。
現場へ向かう。
森の中には既に村民がいて、隕石が落ちた場所に人だかりが出来ていた。
奇しくもそこは昨日マホちゃんが焦土に変えてしまった場所でもあった。
「ちょっと失礼」
ラッキー。
そんな事を考えながら村民の群れを掻き分け隕石が見える位置まで進む。
ラッキー。
再びそう思った。
「こりゃ来て正解だぜマホちゃん」
俺の後を必死に着いて来たマホちゃんは息を切らしているせいで、まともに話せないでいる。
その様子を尻目に俺は隕石が降った場所を見つめる。
隕石が降って来た場所。
男がいた。
どこかの民族衣装を思わせる服を身に纏っている。
近くには男の身体を覆えるくらいの金属球が破損して傍に転がっていた。
これで異世界人じゃなかったら誰が異世界人なのか。
そう思わせる風体だった。
三人目の仲間だ。
そう確信した。
「スローン」
すぐ近くに知った顔を見つけて声を掛ける。
「金ならウォーウルフを狩った時の金から引いて良い。とにかくこの男を保護してくれ。至急だ」
スローンは頷くが、なかなか倒れている男の元まで近寄ろうとしなかった。
どうしたのかと思って気が付いた。
周囲があまりにも熱くて容易に近寄れないのだ。
あいつ、無事なんだろうな。
人間が空から降って来て、常人ではとてもではないが耐えられない熱の中に倒れているのだ。
シンが寄越した奴なら大丈夫なんだろうが、それでも不安になる。
「マホちゃん」
「な、なによ…」
ぜぇぜぇと荒い息をしながらもマホちゃんが答える。
「あそこの熱くなってる所を冷やしてくんない?」
「自分でやんなさいよ」
「俺の使える魔法じゃそんな事は出来ないよ」
「ほんと、つかえない…。ふうぅ」
何度か深呼吸をして息を整えるとマホちゃんは呪文を唱えた。
「彼方より此方へ。クロ」
魔法陣と共に黒猫が現れる。
「勇者。報酬に今晩、スライムを寄越しなさい」
どんだけ食い意地張ってるのさ。
「風よ」
マホちゃんが本格的に呪文を唱え始めた。
「生ける者の息吹を奪え。代わりに豊穣を。この地に命の巡りを」
一瞬、身も凍るほどの冷気を感じたが、すぐにそれは暖かな風に変わった。
「これで大丈夫でしょ。森もすぐに緑に覆われるわ」
昨日、自分がしでかした事を後ろめたく思っていたのか、マホちゃんは隕石周辺の熱を取り除く事に加え、森を再生させる魔法を使ったようだった。
男が降って来た周囲の熱がみるみる内に冷めていく。
「スローン。頼むよ」
スローンは頷くと、近くにいた村人に声を掛け、倒れている男の介抱を始めた。
「やるじゃん」
「当然よ。これで森を焼いた事もチャラよね?」
どこか期待を込めた目でこちらを見上げるマホちゃんを見ると虐めたくなってくる。
「どうだろうね。自分で壊して、それを直してもすぐに元に戻らないんじゃ意味ないよね」
「えっ…ああ、そうか。確かに」
どこかで腑に落ちたのか、マホちゃんは俺の意地悪を素直に受け止めてしまった。
「え、ああ、いや。まあ、でも罪悪感を覚えているのなら、大丈夫さ。許してくれるよ」
こうもすんなりとしょぼくれられると逆にこっちが申し訳なくなる。
「本当? なら良かった」
うん。
良い笑顔だ。
「おおい」
スローンの声をした。
「大丈夫だ。生きてる。ハナの宿に移すぞ。この球はどうする」
「球も頼む」
流石に死んでないか。
俺もスローン達に加わり、村まで男と金属球を運ぶのを手伝う事にした。
えっちらおっちら進行し、何とか村まで帰ってくる。
金属球は宿の裏に置き、男を宿の一室まで担ぎ上げる。
「医者はいらない。その内、目を覚ますはずだから」
そう言うとスローンは引き下がった。
「随分と賑やかになりますね」
水の張ったたらいとタオルと持ってきたハナさんが嬉しそうに言った。
「急に三人の面倒を見る事になって忙しくないですか?」
「これまでが暇だったから全然。でも食事の下ごしらえがちょっと大変かな」
「良いですよ。俺はここで看てるんで」
「じゃあお願いしようかしら」
そう言うと、ハナさんが部屋から出て行った。
「さて」
俺はベッドに眠る男の頬を軽くはたく。
「起きてるのは分かっている。目を開けろ」
ベッドに寝ていた男が目を開けた。
そう。
この男、ずっと意識があったのだ。
森で倒れている時からずっと。
何だか分からなかったが、男を運んでいる時に妙に軽かったのを覚えている。
筋肉も動き続けていたのも感じた。
俺達の負担にならないように力を入れたり抜いたりしていたのだろう。
「あんた、シンに呼ばれた異世界人か?」
男は起き上がると、周囲を見渡す。
「お前もそうなのか」
部屋に俺しかいない事を確認すると男が聞いてきた。
「ユウだ」
「カクだ」
「カクさんね。よろしく。ちなみにもう一人、魔法使いのマホちゃんってのがいる」
「そいつは女か」
「男か女かと言えば女だ」
「そうか。残念だ」
え。
何。
もしかしてホモの人?
「聞きたい事がある」
カクさんは口を開いた。
「な、何?」
思わず尻を抑える。
性癖のカミングアウトは止めてよ。
その気は無いからね。
「俺はシンのいる場所まで旅をするつもりだ。ユウはどうするんだ」
「俺も行くよ。早く自分の世界に帰りたい」
「マホって子は?」
「帰らなくても良いとは言っていたけど、旅をするつもりはあるみたいだった」
「そうか。じゃあ始めに言っておかないといけない事がある」
生唾を呑み込む。
これは覚悟を決めた方が良さそうだ。
「機竜って知ってるか」
「機竜?」
カミングアウトでなくて安心したが、代わりに耳慣れない言葉が登場した。
「機竜ってのは俺がいた世界にいる怪物の事だ」
「それが?」
「俺達は機竜を倒すとその機竜の力を得る事が出来る」
随分なファンタジーな設定だ。
しかし要領を得ない。
「それで?」
「機竜の力は絶大だ。一体の機竜を倒すだけで三〇〇の兵に匹敵すると言われている」
「それは凄いな」
「ただ」
「副作用もある訳だ」
カクさんはそこで頷いた。
「呪いと俺達は読んでいる」
「カクさんも呪われていると」
「そうだ。一つや二つでは無い」
「それだけ機竜を倒したって事か。安心して旅が出来るな」
「そんなに盛り上げようとしなくて良い。呪いにはもう慣れた」
さいですか。
「ここでその話をするって事は女絡みで何か呪われていると」
「話が早くて助かる。女が俺の声を聞くと俺に惚れる」
「何それ」
めっちゃ羨ましい。
それは呪いじゃないだろ。
「沢山の女が俺に惚れる。そうすると俺の近くにいる男が邪魔になって、その男を殺す」
「え?」
「そして俺に群がって来た女同士が争い始める」
「は?」
「最終的には俺以外誰も残らない」
「何それ」
めっちゃ羨ましくない。
それは呪いだわ。
「だから仲間に女がいる以上、そいつがいる前で俺は一言も喋らない。それは分かっておいてほしい」
「まあそれは良いだけど。カクさんも大変だな」
「慣れたよ。それよりも呪いの事を教えられない事の方が辛い」
どこか影のある表情だった。
「呪いの事、全部俺に話してもらっても構わないけれど、だからと言って俺は何も出来ないぜ」
「分かってる。それは俺自身が一番分かってるんだ」
よっぽど痛い目に遭って来たんだろう。
何だか、同情したくなってくる。
でもそれはきっと、とても失礼な事なんだろう。
だって俺はカクさんの痛みなんか知らないから。
「異世界に来て、しかも旅をする事になったんだ。少しは気楽にやったらどうだ? 究極、俺達三人は赤の他人だ。俺達なんかどうなっても構わないと思って過ごしてみるとかさ」
そう思ったから、俺はそう言った。
「鬼みたいな事を言うんだな」
「そんなに人間が出来てる訳じゃないからな。俺も好き勝手にやってみるのも良いかなって思ったんだ」
単にマホちゃんに影響されただけだけど。
「そういう事ならマホちゃんには俺の方から教えるけど、良いか?」
「そうしてくれるとありがたい」
「それより体は大丈夫か?」
空から降って来て平気と言うのもそれはそれで怖いけれど。
「大丈夫だ。並みの人間よりも丈夫に出来ている。明日には回復しているだろう」
「頼もしい事で。マホちゃんと話してさ、明日には出発しようって言ってたんだ。大丈夫か?」
「分かった。明日、出発しよう」
食料は買い足さないといけないな。
「それじゃ、飯食う?」
「良いな。腹減ったし」
「この世界、スライム食べるんだぜ」
「スライムって何だ?」
「そっか。スライムの概念も無い世界もあるのか。スライムってのは青いぶよぶよした肉だ」
「青いぶよぶよの肉?」
青い肉はカクさんのいる世界でも存在しないらしい。
「見れば分かる。意外と美味いんだぜ」
二人で食堂へ行くと、ハナさんが既に二人分の皿を用意して盛り付けをしていた。
「あの。体は大丈夫ですか」
ハナさんは料理を盛り付ける手を止め、カクさんに駆け寄った。
あまりにも心配なのか、ハナさんはカクさんの手を取っていた。
羨ましい。
俺もウォーウルフに手こずってかすり傷でも負えばこんな健気に心配をしてくれたのだろうか。
「ああ、その、あれだ。どうも喉が悪いみたいで上手く話せないらしいんだ。体はとりあえず大丈夫みたい」
「そうなんですか。あ、すぐに用意しますから」
席に座ると、次々に皿が並べられる。
「さあ。召し上がれ」
「頂きます」
三日目ともなると流石に飽きてくるが、それでも美味い物は美味い。
「お口に合いますか?」
ハナさんがメスの顔をしながらカクさんに聞いている。
何だ。
ハナさんってカクさんみたいな筋骨隆々の大男が好みなのか。
娘は父親が好みのタイプだと言うし、スローンの娘なら仕方ないのかもしれない。
「羨ましいなぁ」
「え?」
「え?」
あ。
声に出てた?
「いえ、何でもありません。美味しいですね。スライム」
やべえ。
恥ずかしい。
ハナさんも赤面して厨房の方へ逃げるようにして去って行った。
「そんな澄ました顔してこっちを見るんじゃない」
カクさんが無言でこちらを見つめながらスライムを頬張っている。
「それにしてもマホちゃん遅いな」
話題を変えるように言ってみても、カクさんが声を発しない以上俺の独り言になってしまう。
何だろう。
何をしても恥ずかしくなってしまう。
もういい。
食べよう。
何も話さずに食べよう
基本的に2~4週に1回程度更新したい。できるだけ定期的に更新したい。そんな感じです。
wordで書いたものをコピペしています。見づらい部分もあるかと思いますが、ご了承ください。