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2.いや、だからどこ?

後半多少暴力描写あります。苦手な方は読み飛ばしてください

 ブルーのキラキラに飲み込まれ、私は必死に弁護を続けていた。

コンビニの前で拾った財布をコンビニに届けた事。スーパーで魚のバラ売りを袋に入れてレジに持っていき、枚数を少なく打たれたが、5枚ですよ、ときちんと申告した事。


 どうだろうか、私は結構、善人ではないだろうか。


 そんな私の心の中の声が誰かに届くこともなく、状況は変わらない。

ただ私の左足首を掴んで、この中に引きずり込んだ手はいつのまにか離れていた。

しばらく自分の善行を思い出していたが、次第に考えるのが面倒になり、意識がぼんやりとしてくる。

私の目の前には一面のブルーのキラキラ。

なんだか、水の中にいるような不思議な感覚で天地や左右の認識ができない。

ただなんとなく、下にゆっくり降りて行っているようなそんな気がした。


「あ、光が……。」


 そんなブルーのキラキラに飲み込まれてぼんやりと落ちていくと、突然目の前に光が現れた。

その光はどんどん強くなり、ブルーのキラキラを飲み込んでいく。

そうして、目の前が真っ白になると、ふいに白い光の向こうに見覚えのない景色がうっすらと浮かんだ。


「ここ、なに? 」


 私の疑問をよそに、白い光はゆっくりと輝きを失い、暗闇に溶けていく。

そして、白い光が全て消えると、そこはどこか石造りの建物の中であるとわかった。

先程の白い光や、室内の明かりなどもないので、部屋は暗闇に包まれている。

どこかからの光でぼんやりと青く照らされ、かろうじて室内だとわかる程度だ。


 こんな石造りの建物を私は知らない。

日本は木造家屋や鉄筋コンクリートが主だ。しかし、青白い光にぼんやりと照らされているのは確かに石を組んで作られている壁や柱で……海外旅行をしたことはないが、テレビなんかで見た昔の外国のお城などはこういった感じだったのかもしれない。


 どうやら私は床に座り込んでいるようで、お尻が冷たさを伝えてくる。

その冷たさから逃れるために立ち上がると、周りを見渡した。

石造りの壁、柱、人が通るところに敷かれていると思われる赤色の絨毯。家具などは他になく、広さは教室一部屋分ぐらいだろうか。

くるりと後ろを振り返ると、そこには青い大きなキラキラとした石が光っていた。この部屋が青白く照らされていたのはこの石の光による物だったのだ。


 この石は怪しい。

絶対にヤバイ。


 うん。なにかわからないけど、このキラキラ感はよくない。また手がニュっと出てくる気がする。

先程のホラー体験を思い出し、ブルっと体を震わせるとその石からゆっくりと後退した。そして、ある程度距離をとると、石に背を向け、ダッと走った。辺りを見回した時にそこに扉があるのをを発見していたからだ。

 木でできた繊細な装飾が施されている扉へ近づくとガチャっとノブを捻る。鍵が閉まっていたらどうしようかと思ったが、特にそんな様子もなくギッっとわずかな音を立てただけで扉は開いた。出来た隙間に体を滑りこませ、すぐにまた扉を閉める。


 ふぅーなんか緊張する。


 石から手が出てこなかった事に安堵しながらも、少し走った事と部屋の薄暗さとに反応して心臓がドキドキと音を立てる。

その事に余計に心を慌てさせながらも、扉の方に向けていた体を反転させ、辺りを見回した。


 どうやら扉から出た先は廊下だったようだ。左右に道が延び、正面には壁がある。その壁には所々に窓があり、外を見ることができた。


「夜だ……。」


 その窓から見える景色は夜空だった。自転車に乗っていた時は確か昼の一時ぐらいだったはずなのに。


 なんで夜? いや、もしかしたら車にぶつかって病院に行って、寝てしまっていたとか? じゃあ、ここが病院?

いや、病院なら患者である私が床に転がっているわけないよね。

 きっと病院じゃない。


 人の気配がないか素早く左右を確認する。

どうやら近くに人はいないようだ。


 なんとなく気配を探ったのはいいものの、その行動の先の答えは見えてこない。

人に会った方がいいのか会わない方がいいのか。

自分の状況を説明して助けてもらうべきなのか、不法侵入っぽいので早くここから出て、逃げた方がいいのか。


 わからない。

どちらも結局はよくない事に繋がりそうだ。

そもそもここがどこか見当がつかないのだから仕方ない。


 うん。適当にするしかないな。


 元来、行き当たりばったり、成すがままな決断をする性格なんだから、今回もそれを適用しよう。とりあえず外へ出る道を探りながらも、人に会ってしまった場合はその時に対応する。

うん。我ながらなんの考えもない、その場しのぎである。


 このままこの場に留まる、という選択はない。

だって、ブルーのキラキラ石から手が出てきたら……。


おお……想像でまた怖くなったので、急いでここから離れたい。そっと左へ歩き出した。

なんで左の道にしたのか。理由はない、なんとなくだ。なんとなく左に行く、そんな気がしたのだ。


 そうして、どこかわからない建物の中を進んでいく。

階段を降り、右に曲がり、渡り廊下を通り、左へ、そしてまた階段を降りる。


 運がいいのか悪いのか。人に会う事もなく、気づけば建物を出て、どこか庭のような所を小走りに進んでいた。


 怖いよー。

夜の庭園、めっちゃ怖い。


 何時かは正確にはわからないが、人気の無さや周囲の明かりの無さで人が寝静まる頃、深夜なのだろうと感じられた。

そんな草木も眠る丑三つたぶんに外に出ると寒いわ、怖いわでなんか無駄に走ってしまうのも無理ないと思う。


 いや、私はね、そんな怖がりじゃないよ、たぶん。

でもさ、さっきからなんかよくわからない事が起こりすぎて、次またおかしな事が起こるんじゃないかと、心臓がドキドキと鼓動を立てるのだ。

ブルーのキラキラ石を見た後ぐらいからの焦燥感がハンパない。


 早く、早くいかなきゃ!


 何かに急かされるように庭園を走り抜けた私が目にしたのはかなり高い塀だった。塀と言っても、私がよく知るブロック塀とはかなり違う。


 そうだね、なんか、うん。城壁? って言うの? そんな感じ。

石がしっかりと組んで作ってあり、奥行もしっかりある。塀の上にも道があって、人が通れたりするんじゃないかな?

ほら、あそこ。見張り台みたいになってるし。

 

 私がいたと思われる石造りの建物と庭園とを囲むようにぐるりとそびえたっているその塀は所々が塔のようになっており、そこに上り、塀の外を見渡せそうだ。


 ないわー。

こんな建物、日本にあるわけない。


 かなりしっかりと作ってあるそれは外敵の侵入を警戒して建てられていると否が応にも感じられる。

日本にだってしっかりした所は塀やシャッターなどはあるだろうが、見張り台付きの塀はないだろう。


 そうだね。日本だとするなら、どこかのテーマパークでならこんなの見れる場所があるかもしれないな……。

テーマパークなら塀には出口や入口があるだろうし、全てを塀で囲うなんて予算的に無理だよね。


 きっと、終わりがあるはず。そう思って、塀の終わりを見つけようと少し塀に沿って走ってみる。けれど、私の願いをよそに塀の終わりはありそうにない。しっかりきっちり、どこまでも続いている。


 この塀の外には出られそうにないな……。

 さっきの建物に戻ろうかな、外は寒いし……。


 にゅっと弱気が顔を出す。

 どうやらこの建物はかなり厳重に守られているようだ。

人に知られず外に出ることは諦めて、明日の朝にでも誰かに事情を説明しよう、そうしよう。不法侵入とか知らん! 


 塀に背を向け、建物の方を見る。


 少し考え事をしていたせいだろうか。

私は横から出てくる何かに気づく事ができなかった。


「……っん、むぅー! 」


 突然の事に焦った声が出る。

いきなり藪の中から手が出て、ひきずりこまれたのだ。


 ひー! また手がニュッと出てきたー!


 またしてもな体験に口にかかっていた手をどけようと両手で掴み力を入れる。

すると思ったよりもあっさりと手が外れ、口が自由になった。

自分の予想とは違う展開に声を出すのが一瞬遅くなる。


 あ、声、声出さなきゃ!!


 あまりにびっくりすると声が出なくなるらしい。

防犯ブザーの重要性を理解した所でもう遅かった。その手がその隙を逃すわけもなく、空いたままになってしまっていた口にグイッと何かが突っ込まれ、そのまま後頭部で縛られてしまった。猿ぐつわだ。


「むー! 」


 無理やりに開かされる口角がいたい。


「ムッーヌー!! 」


 藪の中に引き倒され、上に乗られてしまう。それでも必死にジタバタと暴れたが、あっという間に手足を縛られてしまった。

今度の手にはちゃんと本体があったのだ。暗闇でよくわからないがゴツイ体と私を悠々と組伏している力を考えると男だろう。


 もはや逃げる事はかなわないかもしれない。それでもなんとかこの状況から逃げ出そうと体をよじる。しかし私を縛り上げたソイツは悠々と私の足を引っ張り、自分の方へと近づけた。


「―――。」


 冷たい、気持ちの悪い声が響く。男の右手にギラリと銀色に光る物が見えた。

私にはソイツの発した言葉は私には聞き取れなかった。ただ雰囲気から『殺す』や『刺す』を言ったのだろう。


 その右手にある物騒な代物を首に寄せられる。

ひっ、と恐怖で体が凍った。コイツは私を刺す事ができるのだ。


 私が恐怖で動けなくなったのを確認すると、ソイツは私の体と自分の体を紐で縛り始めた。私を背負う形でしっかりと紐で結ぶと、何やら塀の上を見上げゴッゴッとナイフの柄を塀へぶつける。すると上からするすると紐が降りてきた。何か合図を送ったらしい。


 え?もしかして私を背負ったまま塀を登るの?

まじで!?


 まさかの展開に目が丸くなる。

確かに私を縛ったこの男はしっかりと筋肉がついている。一人でなら上り下りできるかもしれない。けれど、私を背負っていくとなればすごい負担だろう。私もすごく太ってはいないけどそれでも40kgはある。


 ……うん、多少はサバを読んだ。

こんな時でも体重は乙女の秘密なんだ。


 男は上から降りてきた紐をグッグッと何度か引っ張ると手でしっかりと持ち、上り始めた。


 うん。私の体重はともかく、これは暴れるチャンスなのではないか。

手足を縛られているとはいえ、体を動かして邪魔をする事はできる。しっかり紐でつないだ体はその体重移動の弊害をもろに受けるだろう。


 よし。暴れよう。


 先程ナイフで脅されたのも忘れ、グイグイと体をよじった。

紐でしっかりと結ばれているので動ける範囲は限られているがその手だけで体重を支えている男はさぞつらいだろう。


 上るのを諦めてくれたらいい。

それかこうして時間がかかっている間に誰かが見つけてくれればいい。


 そんな希望を胸に精いっぱい嫌がらせをしていたのだが、なんと、男はあっさりと紐から手を離した。

え? と思う間もなく背中に衝撃と痛みが走る。


「っグゥボヴォッ」


 地面と男の体とでサンドイッチにされた私の体から生理的に息が出る。しかし、それは猿ぐつわのせいで行き場をなくし、ただのくぐもった音となった。


 背中痛い。お腹苦しい。

早く、早く退いて欲しい。


 しかし、そんな私の願いを叶える事はなく、男はじっくりと私に体重をかけた後で、ようやく立ち上がろうとする。

その間も苦しくて生理的に涙と嗚咽がでる。


 こうして暴れる度にこの男は私をクッションにするつもりだろうか。

ほとんど上っていない所から落ちただけでこの衝撃だ。もっと上がった所で落ちたら、どこか骨が折れても不思議ではない。


私が暴れる度にこの痛みが繰り返されるとして……。

私は何回持つだろうか。その間に助けは来てくれるのだろうか……。


 周りを見る。

暗闇でこの藪。

更に上には男の仲間がいるようだ。


 もう助けはこないのではないか。

そもそも助けてくれる人などいるのか。


 不安が押し寄せてくる。


 もうやめよう。

痛いのは嫌だ。苦しいのは嫌だ。


 大人しくした所でこの男が都合よく事を運ぶだけだろうが、抵抗する気力がなくなってしまった。

私が男の背で大人しくなったのを確認すると男は上から降りてきた紐を自分の腰へと巻いた。


 そうだよね、腕だけで上るなんて無理があるよね。


 きっと始めから私が暴れるのを予測しており、適度な所で背中から落ちて、私を痛めつけるつもりだったのだろう。

今度は先程とは違い、腰と腕を使いながら、ただひたすら上を目指す。塀は本当に高く、途中から真剣に男の邪魔にならないようにしていたのは仕方ないと思う。だって、落ちたら死ぬ。


 なんとか塀の上へとつくと、そこにいた仲間と思しきヤツに目配せする。そして、上ってきたのとは反対側へと紐を使い降りていく。つまりこの建物から外に出るのだ。


 上るのとは違い、あっという間に地面へとたどり着く。男は私と男とを縛っていた紐をナイフで切り、体を自由にした。


「っ……ぐっ。」


 男が立ったまま紐を切りやがったせいで、手足を縛られている私は受け身を取ることもできず地面へと落とされる。

 痛みに顔を顰め、くぐもった悲鳴を上げる私をソイツは愉快そうな顔で見下ろしていた。


 くそ野郎だ。


 男は地面へ転がる私の体を肩へ抱え上げると、スキニージーンズの上から私のお尻を揉んだ。


「むー! っ!! ぐーむぅ!! 」


 反抗をやめていた心に一気に火が付く。

声を出すのも怖くなっていたが、でもやっぱりできる限り暴れよう。

がんばれ、折れるな私。


 気持ち悪くて必死で声を上げ、暴れる。が、その手が止まる事はない。

そして、近くにあった荷車へとドサリと私を落とす。


「っ……。」


 またしても痛みで顔を顰める。くそ野郎はそれを下卑た笑みで見下ろすと私の上にバサリと大きな布をかけた。これで私を荷物として運んでいくのだろう。


 聞こえるかはわからない。

猿ぐつわと分厚い布に遮られて声が届かないかもしれない。

けれど。必死に声を上げ続けた。

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