表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

プロローグ

 緑色の自転車が坂道を滑り落りていく。

住宅街を抜けると左手は崖になっており、眼下には生まれ育った町の景色が広がる。

私はその崖に沿って設置してあるガードレールのギリギリを通りながら、爽快な気分で自転車をぶっ放していた。

 春になり、頬にあたる風が柔らかく、気持ちいい。

気分の問題だが、いつもの景色がキラキラと輝いて見えた。


 そうなのだ。私は今、とても気分がいい。

 今日、3月10日。私は長年の黒い髪をついに卒業したのだ。


 日本人に生まれて、早18年。

それなりの校則がある、それなりの学校に通い続けていた私の髪は日本人らしく黒い髪のままだった。

仕方のないことである。もし茶色に染めよう物なら、校門に待ち受ける風紀の先生に見つかり、もれなく出席停止を食らってしまうからだ。

ビビリであり長い物に巻かれる私が校則を破るわけもなく、憧れはありつつもずっと黒い髪のままだったのだ。


 しかし、先日晴れて高校を卒業した私は黒い髪に別れをつげ、ようやく薄い色素を手に入れたのだ!


「いい風だー。」


 心地よい春風を堪能しながら、坂道をノーブレーキで進む。


 私の髪は毛量が多くも少なくもない。しかし、なぜか毛先が外向きにはねてしまうクセがあった。

黒い髪で重さを感じるのに、なぜかピョコピョコと跳ねる髪。


 寝グセか!

歩く度にピョコピョコ動くな!


 何度も自分に突っ込んだが、髪が収まる事はなかった。

野暮ったい。なにこのきちんと手入れしていません感。

クセは仕方ないにしても、せめてもうちょっときちんと見えたい。


 一年程前に、ようやく美容室ジプシーを終え、お気に入りの美容室ができた。ここで、モシャっとした髪を少しでもサラっと見えるようにお願いしている。

この美容室に出会うまでは、毛先を散らして軽さを出したり、髪の毛を梳いて、全体の量を減らしたらまともになると思っていた。

だけど、そうでもないらしい。

髪を全体的に少なくしたり、毛先を軽くし過ぎてしまうと、抑える役目をしていた髪までもなくなってしまい、より自由に暴れ出すらしい。

私の髪は毛先が外へ跳ねてしまうから、やりすぎると『いつも静電気まとってます、みたいになるよ? 』と半笑いで言われた。


 え、ナニソレ、こわい。


 この美容師さんはなかなかのやり手だった。その美容師さんの腕でも私の髪は難敵だったらしい。

髪を減らさず、クセを抑える。

その難題に立ち向かうため、小技的な物でなんとかしようとしてくれたものの、カットだけでは心許ない。

野暮ったさをなくすためのブローの仕方や、ワックスの使い方などをレクチャーされたが、それはかなり時間のかかる物だった。


 朝が苦手な私にはやっぱり限界があったよね。


 毎朝、完璧なブロー&ワックスができるハズもなく、野暮ったい髪は野暮ったい髪だった。

うん。ごめん、美容師さん。


 そんなわけでこの黒い髪が長年の悩みだったわけだが、私はもう自由なのだ! 校則から解き放たれたのだ!

染める! 即染める!

この憎き宿敵を倒す!


 午前中に図書館へ行き、先ほど美容院へ行ってきたのだ。

件の美容師さんと二人で、よくわからないテンションでやりきった。


 そして、その結果だが……声を大にして言おう。

やっぱり、髪色の力って大きい。


 先程、美容師さんの渾身の作である髪を鏡越しに見せてもらって、それを実感した。


 私の目は髪に比べるとやや薄く、茶色がかっている。

それなのに髪が黒色で、目の印象がどうしても薄くなっていたようだ。

髪色を美容師さんオススメのピンクブラウンに変えてもらうと、今まで変なクセとしか思っていなかった外向きのカールが風を感じるエアリーパーマに変わり、少し薄めだと思っていた茶色の瞳が髪色よりも濃くなり、目元の存在感を増していた。

眉毛も染めてもらったので、髪と浮くことはなく、まつ毛だけが黒くはっきりと形をつくっていて、今まではあまり印象のなかったアーモンド形のちょっと猫っぽい目がしっかりと強調されている。


「これはイケるよ……っ。」


 緩やかなカーブを曲がりながら、思わず言葉が出る。


 ニヤニヤしてしまう私をどうか今だけは許してほしい。

そう、いまの私は私史上、もっともかわいい!

声を大にして言いたい。

わたしは今、かなりかわいい!!


「……っ!! わっ!! 」


 調子に乗っていたため、気づくのが遅れてしまった。

カーブを曲がりきった所に突然に表れた車にヒッっと体が強張る。

白いセダンタイプの車だ。

なぜか妙に冷静にその車のエンブレムが頭に刻み込まれる。

なんだか鳥が飛んでるみたいな形だね。


そう思った所で、意識が消えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ