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実体験ないんで、リアリティにかけますが、よろしくお願いします。感想待ってます。
一つ、二つ、バス停を過ぎたあたりで、玉木は違和感に気付いた。
先程から、太もものあたりになにか触れているのだ。またか。
きっと誰かのかばんかなにかあたっているのだろう。玉木も他人に傘やカバンをぶつけてしまって、悪いなと思うこともあるし、逆にぶつけられて腹が立つこともある。
いやだな。
なんか気持ち悪い。
角張った学生カバンのような感覚でもないし、ましてや晴天の日だから傘なわけでもない。どうせ、OLあたりのかばんだろう。
だんだん市街地に向かっているので乗車する人より、降車する人のほうが多少おおくなる。
そのうちなくなるわよね。この違和感。
だが、その違和感は太ももから徐々にあがってきた。まるで体のラインをなぞられているようだ。
まさか…
よくない三文字が頭をよぎった。
チカン。
嫌だ!
頭から疑惑の三文字を追い出す。
きっと、バスの揺れで誰かの荷物があっちへ、こっちへ、と動いてそれが偶然スカートの上を撫でているように移動しているだけだ。
そうに違いない。
カバンを握る手にぎゅっと力をこめた。
違うよね。
でも、妙にふれられている場所があたたかい。
やっぱチカン。
おそるおそる隣を見る。
コイツか。
ぼさぼさ頭のメガネはそ知らぬ顔であくびしている。
救いを求めて、反対側を見ると、朝日を眩しそうに眺めてる端正な顔が憂えていた。
助けてください。
そう言えばいいのだが、こんなイイ男に助けを求めるのはなんだか恥ずかしいし、人に助けを求めること自体こわい気がする。
目に見えないモノ。
それが手ではなく、やっぱりかばんかもしれないのだとすると…。
勘違いだったら恥ずかしい。
でも、さわられるのは嫌だし、こわい。
どこかで卑しく、いやらしくチカンが笑っている気がして、泣きそうになる。
なんであたしがこんな思いしないといけないのよ! ただ遅刻しかけているだけで、イイ男を目の保養にしてただけじゃないさ。
実質的被害を受ける覚えはない。
徐々に怒りが込み上げてくる。
確かめてやろうじゃない。犯人を捕まえればいいのよ。
カバンから手を離し、太ももからお尻へはい上がってきたナメクジみたいな、そいつを捕まえる。
「痴漢です!」
確かめる間もなく、震える声で叫び、隣を見た。
「この人、痴漢です」
指を差された、寝癖だらけの黒縁メガネは驚いた声を上げる。
「はあぁ? 僕ですか? 違いますよ」
つり革片手に、メガネを押し上げる。
「だって、ここに手があるわ」
力強く憎き痴漢の腕をつかんでいる。
かばんや傘などではないし、足でもない。間違いなく腕だ。
にじり寄るように主張すると、黒縁メガネは顔の前で手をひらひらさせる。
「僕の手ならここにありますよ」
そう言うとあごをしゃくって、玉木の方を示す。
「犯人はそちらさんですよ」
示された方を振り返ってみると、イイ男がばつの悪そうな表情を浮かべていた。
メガネ男を信じていいものか。
だが、男の手はつり革を握り、もう片方は自由の身だったのだから、痴漢は別の人なのだろう。
おそるおそるつかんでいる腕を確かめるため、灰色のスーツの袖からたどっていくと、微香漂うイイ男にいきあたった。
ウソでしょ!
おそろしくなって、パッと手を離す。
「おっと、いけませんね」
メガネ男は解放された痴漢の手を素早く片手で拘束する。
すこしひき気味に半信半疑で様子をうかがっていた乗客達が、玉木をはさんむ男たちからちょっとずつ遠退いていく。
私たちには関係ない。犯人はその二人のどちらかなんだから、関わる必要はない。
無責任な冷たい目が注がれる。
「変態少女趣味はご勝手ですよ。二次現世界で、欲望を満たす方は大勢ですからね。だからって、三次元世界に求めてはいけません。それがルールですよね。」
同意を求められるが、誰もうんともすんとも言わない。
オタクのオタクなりのルールなんて、どうでもいいし、一般客達は大概知らない。
「なにいってんだ。俺は違うぞ。お前がやったんだろ。俺は、犯人を捕まえようと…」
イイ男だったサラリーマンは思い出したように、早口で弁解をはじめた。