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神に誓って、エロ話ではありません!
朝のホームルーム一時間前のバス停は蟻の行列のように人が並んでいる。
うわー、まにあうかな。
テレビの占いコーナーを見るヒマもなく、寝過ごした玉木は髪もいつもよりぼさぼさぎみで列にならんだ。
今日は普段乗るバスより二十分ほどあとのバスに乗ることになるはずだ。というのも、バスが渋滞で遅れていなければということだ。
どうか、一本はやい便がおくれてきますように…
そうすれば、少しは遅刻がまぬがれる可能性が高まる気がする。
息を整えながら、ふと隣を見る。
走ってきたときから、スーツ姿が気になっていた。
中年オヤジの隣に立つのはいやだな。
おやじ臭が気になるというのもあるが、最近出没するチカンがきになっていたからだ。
同じ路線に乗るバス友の情報によると、玉木がお世話になっている七時三十五分より、二十分ぐらい後のバスでチカンにあったという女性が何人かいるらしい。
しかも、チカンが狙うのは女子高生ばかりだとウワサされている。
確に、高校の制服を着た同年代を見ると、女でも美脚とかに注目してしまうし、玉木だって制服のスカート丈を規定より、少し短くして足を長くみせようとしていたりする。
それにおじいちゃん先生によれば、
お前らはそんなに男に見られたいのか!
らしい。
まぁ、そういう人もいるだろうと玉木も思う。明らかにパンツ見せたいの。恥じらいはどこよ、と問いたくなる短さの女も多い。
でも、よかったと安堵する。
隣はどう見てもチカンしそうなおやじではない。
二十代そこそこのモデルばりの美男だ。
髪もサラッとしてるし、香水の微香が漂ってくるし、なによりカッコイイ。
寝坊して運ワルイと思っていたが、朝っぱらからイイ男を目撃できるとはなんてラッキーだろう。
これから、この時間のバスにしようかな。
遅刻というスリルはあるけど、ぎゅうぎゅう詰めのバスにどっちみち乗るなら、美男の隣がやっぱりいいものだ。オヤジの隣なんて、たまったもんじゃない。汗臭いし、目に悪い。
玉木がイイ男に見とれてる間に、ゆっくりとバスはやってきて、働き蟻たちにドアを開いた。
順番どおりにいけば、スラッとしたイイ男の隣だ。
バスのステップをあがるときも、立ち位置を確保するときも、男のそばにピタッとそうように移動する。
それはまるで薔薇の香りにひかれる蜂のようだ。
吊り革を握ると、バスが毛虫のようにゆっくり動きだした。
片手で重たいカバンを持っているので、ときよりゆらゆらと傾きそうになりながら、バランスをとる。
イイ男の方に倒れてしまい、
ごめんなさい。
いや、かまわないよ。
なーんて展開にならないものだろうか、と期待しながらも、反対側のダサい男の方にあやまって倒れないように、足を踏張る。
隣の黒縁メガネをかけたダサ男に目をやった。
なんか、オタクっぽい。チカンって、きっとこんなモテそうもない奴なんじゃないの。
まっ、チカンする勇気もなさそうだけど。
それより、と学校の売店でなにか空腹をうめるものを買おうと考えだす。
やっぱツナパンがいい。
でも、おにぎりなら三口でいけるし……
おにぎりにしよう。
絶対ツナマヨで。