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9.油断

◆◆◆印より以降不快な描写があります(特に男性読者)ご注意ください

◇移動1日目。身体能力はまだ鎧を着て移動できるレベルではないが、普通の服では不安がある。少しでも防護できる服はないかと思案した結果、バイク用の革パン革ジャケ革靴に、自転車用耳出しヘルメット+手甲・ひじ・ひざプロテクター、最後にケブラー防刃ベスト装備となった。


 今の季節は夏なので、日照時間はおよそ14時間。1日の移動時間は1時間ごと5分、5時間で1時間の大休止を挟みながら標準10時間、最長13時間程度を予定。これらの装備を余裕を見た14時間保持で召喚した場合、3回魔力の回復を待たなければならないが、これは素材が近くにない場合。素材が近くにあれば1回の魔力量で全て召喚可能である。召喚に必要な元素が近くにあればそれだけ魔力の消費が押さえられるのだ。

 という事で装備を最短期間の10分で召喚した後魔力回復を待ち、分解された素材を入れた袋の近くで14時間指定にて再度召喚。お着替えをすませ、剣帯をたすき掛けて短剣をつければ装備完了。忘れちゃいけないローブを羽織り、フードをかぶれば出発準備完了。不満は暑いさなかに革衣装+ローブと最悪な組み合わせなことと、防刃ベストが胸を圧迫するので息苦しいことだけど、安心のために我慢しよう。さらば、ニートの楽園。


◇移動2日目。初日は問題なく10時間移動で終了。湿原を離れると湿気が少なくなったのか暑さは思ったより我慢できる。移動距離は女神推定約30km。

 指定ルートは人里離れた場所をわざわざ選んでいるだけあって道が無いに等しい。というか以前あった道が自然に飲まれてる。平原でも草を分けて進まなければならないし、林間ではふかふか腐葉土やツルツルこけに足を取られる。倒木もいっぱいあるし距離稼ぐのに苦労するわー。

 無論移動しながら折を見て身体強化を施しトレーニングも行っているが、思うようには動けないので効果は限定的。やらないよりはいいけどね。なお、本日の距離は約20km。結構苦労したけど稼げてないね。予定ペースより若干遅れ気味。


◇移動12日目。指定ルートの半分を消化。これまで人が通った痕跡すら感じない完璧なルート選定であった。移動距離は約250km。徒歩でこれだけ移動とか、日本じゃ変な人扱いだろうな。ああ、こっちでも転移陣があるから変な人扱いになるのかな。

 すでに関所の近辺に達しており休憩中。日が落ちてから間道に進入し、万能魔法千里眼で視界を確保しながら明日未明に関所を突破する予定。大丈夫でしょうかね。信じてますよ女神様。


◇移動13日目。関所はあっけなく突破した。というか門が片側開いてた。夜警はおらず篝火もない。施設も詰め所と倉庫、厩舎のみ。沈黙の魔法を使わなくてもいけたんちゃうか? と思う。うん、女神様嘘付かない。夜中に移動したため、本日の移動は間道を抜けたわきを少し進んだ所で終了。メシ食って寝ます。


◇移動18日目。初めてスライム以外の魔物に会う。かの高名なゴブリン。思わずテンションが突き抜け「ヒャッハー! 汚物は消毒だぁー!」火柱で焼き払ってました。

 ……うーむ。感情が行動に直結してるなあ。注意せねば……。

 移動は順調で計画より2日遅れで目的地に到着するはず。


◇移動21日目。2日前より目的地近くの森に入って魔物とはちょくちょく遭遇しているが、幸いなことに人とは出会っていない。ただ、たき火跡などの痕跡は見かけるので警戒はしている。といっても森だからね。足音を探る程度の事しかできませんが。




 そんな事を考えている時、突然背後より風切り音が鳴った。次の瞬間太腿に鋭い痛みを感じ足が力を失って倒れ伏す。

 え? 何? 痛い痛い痛い! 考えが追いつかず状況の把握ができない。痛みにしか注意が向けられない。混乱は5秒か10秒かしばらく続き、ようやく痛みの元を確認することを思いつく。太腿を見る。矢が突き立っていた。

『何だコレは?』と現実を否定したい気持ちと、『抜いて治療せねば』という現実的な考えが同時に沸き立つ。後者が競り勝ち、矢に手をかけ抜いた所でまた痛みに混乱しそうになるが、何とか治癒魔法で傷を塞ぐ。数瞬の後、後頭部に鈍い痛みを感じ私の意識は一旦途絶えた。


 このとき傷に意識が向きすぎて周辺の確認がおろそかになっていた。だが確かに聞こえていた。私の背後で何者かがこう言っていたのだ。

「やっぱり『黒犬』だ! 女だから殺さず持ち帰るぞ」


◆◆◆

 意識が戻るとそこは薄暗い東屋の中だった。丸太を組み合わせ、屋根を草と木皮で葺いた雨を凌げるかどうかという程度のもの。私はそこで後ろ手で縛られ、汚い男にのしかかられていた。服は着ていない。全裸だ。


 下腹部に違和感を感じた瞬間、状況を理解する。


 抵抗しようと身悶えしたところで男の手が伸び、首が締められる。

「おっと、大人しくしてろよ。俺達が盗賊稼業をはじめた事をどこで嗅ぎつけたのか知らねえが、ここはまだバレてねぇはずだ。後はお前を返さなきゃな。まあ俺達も女日照りだったからせいぜい役立ってくれ」

 何を言っているのか分からない。『そんなことよりお前はどけ!』 と叫ぼうとするが、首が締まって声は出ない。身体強化で精一杯の力を込めて振りほどこうと試みた。しかし手の拘束は解けず足は空を切る。


「大人しくしてろって言ってるだろうがぁ!」

 男が首を締めたまま私を放り投げ、ここでまた意識が途絶えた。

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