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5.ダークエルフ、ニートになる

挿絵(By みてみん)

「ふふふ。ニートの楽園はあったんやー!」


 妖艶な笑声に続いてテンション高い叫び声が空間内にこだまする。


 転生してから時を経ること約2週間。元『芹沢公平』こと現『アミラ・コーヘイ』、ほぼニートやってます。


◆□■◇


「誕生おめでとう。ご機嫌いかが?」

「……ビミョーに寒いので服ください」

 自分で発した声の艶っぽさに寒気を感じながら答える。女になったと理解した瞬間、いろいろと諦めがついて覚悟もできた。男は度胸だ。……訂正。女は度胸だ。


 苦笑しながら手つきで立つように促す女神様。骨格や肉付きの違いを感じて立つのにも四苦八苦するが、何とか立ち上がると肌に布の感触。気付くと黒のワンピースドレスをまとっていた。


「あまり悩んでいないようね。良かった。そうそう、生まれ変わったんだから名前つけないと。どんなのがいい?」

「……ちょっと未練があった持ちマンション『アミラーリ東郷町』にちなんだ名前なんて大丈夫ですか?」

「では『アミラ・コーヘイ』と名付けます。アミラがファーストネームね」

「んん? なんで『コーヘイ』は残るんですか?」

「だって『人と人をひとしく』という意味でしょ? 役割に最適だし素敵な名前だもの。下界では通じないけどね、言葉も概念も」

「征服したら日本語を共用語にしますか」

 冗談を言いつつ、その裏で自分の声や体に対する違和感に身悶えしそうな気持ちをぐっと抑える。


「それも良いわね。コーヘイを招いたときに知った言語だけど、話すだけだなら音が少なくて覚えやすいし」

 あら冗談に食いついてきた。でもこれからどうするか展望がないなー。


 女神様と今後の相談をするが、今すぐ出来ることもないし、まずは能力アップが優先、ということで落ち着く。

 それから1週間ほど、魔法・魔術のレクチャーや女の子トレーニングで過ごすこととなった。


 最初は違和感有りすぎてまともに歩く事も出来なかった(股が広いから歩く感覚も全然違うし、胸が揺れてバランスが崩れる)のに、今ではすっかり馴染んでいる。人間、慣れるのは早いもんだな(※すでにダークエルフです)。


 体の変化にも驚いたが、頭の変化も驚いた。確実に記憶力が向上してるし、結論を導くまでの思考が速くなっている実感がある。

 女神様の言ではまだ慣れてないからもっと速くなるよ、とのこと。楽しみでもあり、怖くもある。アルジャーノンに花束は渡さないぞ。


 女の子トレーニングは、あれだ。トイレとか風呂とかそーいうの。最初は恥ずかしかったが、もう自分の体だから照れてる訳にもいかない。頑張りましたよ。とこれ以上の回想は避けよう。精神衛生のため(※膀胱小さくなってるので我慢できなかったとかそーいう感じです)。

 ちなみに、下界のトイレは水と手で汚れを流し布で拭く、が一般的。もちろん布は洗って再利用。私はトイレットペーパーをコピー召喚して使います。夢は洗浄便座の製造です。


 ちょっと困ったのが下着。揺れるんだよ。胸が。んで擦れると痛いんだよ。乳首が。

 AE世界にはカップが入ったブラはない。普通の大きさなら布をキツメに巻いてるだけ、大きい場合は下乳に布を当て両端を首の後ろで結んで首で支えてるそうな。

 ブラがどうしても要ると女神様を説得。アンリミテッド女神ワークスで時間制限のないブラをタブレットから召喚してもらい、さらに自動修復、帰還の付与もつけたものをハーフカップからフルカップまで取り揃え6セットいただいた。激しい運動に備えてスポーツブラも3セット。なおサイズはG120でした。

 もしかすると銃器も行けるか? と思い頼んでみたが、コストが大きくて体とセットでは送れなくなるということで断念。でも限界まで交渉

した結果、アンリミテッドジャージ2着も追加された。

 ちなみに女神様もブラを所望され、付け心地は満足したが、デザインが理解できない、との言。

 そりゃそうだ『俺』が覚えてたブラってアダルトショップにあるエロい見た目のヤツとかコスプレ用のもあったもの。


 一人称も『俺』から『私』に変えるよう心がけている。『ボク』って柄でも見た目でもないし、営業で言い慣れてる『私』の方が断然心労が少ない。対人では丁寧キャラで行こう。


 魔法・魔術はすでに知識があり、なんとなく使い方はわかっているが、魔法は知識通りに使おうとしても発動しなかった。何度か試すうちに魔力の扱い方が理解でき。発動するようになり、効果もどんどん上がっていった。

 逆に魔術は知識通りに呪文を唱えるだけの簡単なお仕事だが、同一の魔法と比較すると魔力の消費が多く効果が薄い。同一魔力換算で効果は3倍から10倍程度違う。

 魔力量が少ないのですぐに打ち止めになるが、10分も待つとまた同じ様に使用出来るようになる。この体は回復力もチートなようだ。


 なお、武器の扱い方は訓練に時間がかかりすぎるし、今の身体能力じゃスライム以外はネズミ型位しか勝てない、イヌ型には余裕で負けるからやっても無駄、とのことで1m程度の短槍と刃渡り30cm位の短剣の支給を受けただけ。

 楯や鎧は、持ちあげられるが動けないので支給は受けたがストレージの肥やしだ。

 ストレージとハウスには寝具や着替え、3ヶ月分の保存食など当面の生活に必要な物資も備蓄してある。もし長引くようなら補給してくれるそうだ。


 こうして、なんとか女性生活と魔物退治を行えるメドが立ち、旅立ちの時となった。


「それじゃスライムしかいないヘイグ湿原に送るわね。本当に弱い魔物だけど、今のコーヘイだと危ないから十分気をつけるように」

「あれだけ魔法の効果が高いのに心配しすぎなんじゃ?」

「それは思考能力で効率化してるおかげね。効果はオーバーキルだけど、もともとの魔力量が低すぎるの。魔力が尽きた時に囲まれたら不味いから周辺確認は厳重にする事」


 スライムは弱い。1体1なら10歳児でも倒せる。ゼリー状の体組織を覆うナメクジのような膜を10cmほど破ればそれが致命傷。竹槍で刺して捻るだけで死ぬ。

 だが、スライムとて魔物。自分でも勝てそうな微弱な魔力を持つもの、つまり死にかけの人や幼子といった対象に引き寄せられる。それ以外の魔力には反応しない(逃げる事にエネルギーを使うより繁殖というか分裂したほうがマシなんだそうな)。

 向かう湿原にスライムしかいない理由は、地中の廃力ラインがちょうどスライムに適した状態にあるのに加え、たまに湿原の強行突破を試みて遭難するおバカさん達を美味しく頂いているんだとか。


 つまり美味しそうなおバカさんに見られる訳だな。気をつけよう。


 いよいよ旅立ちという時になり、思い出したことがある。女神様の名前教えてもらってない。いや、聞いてもいなかったけど。女神様で通じるから必要感じなかったんだよ。


「女神様。最後になって聞くことでもないんですが、お名前を伺えますか?」

「いっぱいあるのよねぇ。権能の一部だけを信仰されてそれに名前ついてるのもあるし」

「それではどの名前でお呼びしますか?」

「今まで通り『メガミサマ』でいいわよ。新しい名前もらったみたいで新鮮だったわ。それにいつでも心で会話出来るようにしてあるし、成長すればここや常世とこよに来られるから直接会えるわよ」

「かなり先になりそうです」

「期待してるから、頑張って」


 こうして、私は転移魔法の光に包まれ女神様と別れた。


◇■□◆


 さて。光が納まると湿原である。今立っている場所は土壌のしっかりした土手状の土地で、湿原を一望できる位置にいる。ここから見ると背の低い草が生えている程度で立木はあるものの盆栽のようで生育具合はよくない。見晴らしは大変良い。奇襲の心配はないだろう。沼対策として用意してある田下駄を一応履く。


 見渡せる範囲でスライムは多く確認でき、私に向かっているものはすでに5体いるようだ。推定時速500m。美味しそうなんでしょうね、私。


 火矢の魔法を5連発。それぞれスライムに命中し、開いた穴から体液を流して絶命していく。

 魔力が流れ込む感触をうけ、回復した以上の魔力を行使できる感覚を掴む。これが魔力の成長かー。

 回復量は使用量の約4割で、成長量は成長前比101%かな。魔法の出来不出来は体調によっても変わるため、具体的な数値で表せない。あくまで感想だが、随分と速い成長速度だ。チートなのか元が弱いからなのか。


 魔力回復のため、腕輪に意識を向けハウスの扉を呼び出す。何もなかった空間に、コの字型の取っ手が付いた引き戸が現れた。これがハウスの入り口。呼び出せば間に何か無い限り必ず手の届く位置に取っ手が現れる。

 戸を開けると押し入れ位の容量で対角線上に寝ないと足がひっかかる。まだ弱いから狭いのは仕方ないよな。中に入り戸を閉める。

 すると床含め壁面が周りの景色を映し出した。家を出る時に奇襲の可能性を避けるため、監視できるようになっているのだが、無論、普通の壁にすることも可能。今は魔力回復のため5分程度の滞在だから、このまま景色を眺めて過ごす。

 ……思ってた冒険と違って作業やってるみたいだ。


ーーーーー


 2日目。昨日の戦果は562匹。成長は大体3倍程度の感触。ダークエルフの標準魔力は初期値の50倍だそうで、スライムで稼ぐには気の遠くなる数が要る。とはいえ継戦能力は大幅に伸びた。

 沼にはまって沈む危険性があるため、まだ奥地に進まない。万一はまった場合はハウスの扉を呼び、取っ手を掴んで沈降を抑え、魔法で体周りの泥を掻きだしは固め、という作業をする。魔力が尽きた時スライムに集られると高い確率で終了なので、一回で泥を排除できる程度まで成長しないと奥地への侵入禁止。あと300匹くらいか。


 昨日より向かってくるスライムが明らかに減っている。移動しながらスライム捜索。一応土の上を進んでいるが、万一に備え田下駄を履いてるから移動が遅い遅い。うーん、地道だ……。


ーーーーー


 3日目。どうにか周りの土を固める程度の魔力は確保出来るようになった。

 しかし目覚めるとハウスの扉にスライム大集結。どうも僅かに引き戸が開いていて、そこから漏れた魔力から死にかけと判断したようだ。

 悲鳴上げて全力で火柱の魔法で燃やし、事なきを得た。


 疲労に包まれてぼーっと考える。……これは、どうか。タブレットで確認だ。うん、イケル! 画期的だ!


 奴らに対抗する兵器は高純度生石灰。四次元タブレット(神のタブレットから改名)から低魔力で召喚できるハイコストパフォーマンスのステキ粉末である。


 生石灰ってのはあれだ。ゴローさんが新幹線で失敗するシウマイ暖めるヤツとかヒレ酒の熱燗になる缶に入ってるヒーター、そこに使われてる成分。暖め終わると昔ラインマーカーに使われてた消石灰になるから環境負荷も低め。

 発熱に必要な素材は水。スライムの主成分である。当然沸点以上に温まるので命を召される、という寸法だ。


 ただし人体の水分でも反応するから某発電所の作業員さんみたいな密閉服とゴーグル、マスクが要る。生石灰は純度低い方が安全性は高いんだけど不純物混じるとコスト高いんでこの手間も仕方ない。


 手順を確認しよう

1.ドーナツ状に穴を掘り落とし穴を作る

2.ハウスに引きこもり、漏れ出る『偽装死にかけ魔力』でスライムを誘因

3.穴に落ちたスライムに生石灰かけて蒸し焼き


 スライムは魔力の強弱を1Km単位で感じているようで、この湿原で遭難するおバカさん達が衰弱するまで自らは決して近付かないとのこと。

 つまりお子さま以上の者がスライムを探すのは、確率論という名のギャンブル行為なのだ。

 すでに少女以上の力がある私が外に出れば、捜索に多大な労力がかかる割にリターンが少ない。この「ヒキコモリ狩猟法」がもっとも効率よくスライムを狩る手段となる。


 つまり私は「働いたら負け」という状況を作り上げたんだよ!(ドヤァ)


 こうして検証期間の3日を経て、成功を確信したとき冒頭の変なテンションの叫びがあがったのである。あー、いつまでもこうして暮らしたいなあ。

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