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34.アネゴ、空を飛ぶ

「姐御凄えよ、ホントに空を飛べるなんて!」

 初日のフライト訓練を終え、収容所に戻るとわんにゃんズの歓声を受ける。人が空を飛んだ事に随分と興奮しているようだ。

「しかし凧にぶら下がって飛べるなんて思ってなかったな」

 うーん、凧とは微妙に違うんだけどな、パラグライダーは。キャノピー(パラ本体)は風を入れて膨らますとちゃんと翼の形をしていて原理としては飛行機に近い。

 凧も揚力で飛ぶから間違いではないけど、揚力の出し方が違うからね。まあ説明しても理解させるの大変そうだから端折ろう。


「あれは鳥が飛ぶ仕組みを真似した特別な凧なんです。普通の凧を大きくしても飛べませんよ」

「ふーん、全然似てないけど姐御が言うんならそうなんだな。なあ、それって俺でも飛べるのか?」

「ああ、飛べるんなら飛んでみたい」

「俺は怖くて無理だぜ」

 思い思いに語るわんにゃんズ。もちろん正しい知識と判断力、普通の運動能力があれば誰でも飛べるけど、ちょっと脅しておこうか。

「ええ、飛べますよ。下手なことして落ちたら死にますけど」

「そりゃそうだ。でも姐御は大丈夫なのか? 最初の頃はすっ転んでたけどよ」


 うっ、恥ずかしい。確かに最初のフライトは風魔法でライズアップ(キャノピーに風を当てて立ち上げる作業)すると思いのほか流速が強くてそのままテイクオフしてしまい、あわてて止めたら直ぐに墜落したからな。3m位で怪我もしなかったけど(でも着地でコケた)。その後も着地で転んでたし~。まあ何事もなかったように振る舞おう。


「だからやぐらで訓練してたんですよ、落ちても死なないように」

「うへぇ、そりゃ無理だ。あそこから落ちただけで普通死ぬぞ」

 いや、櫓の訓練は落下しても死なない魔法を開発して念には念を押す意味もあるけど、恐怖心を克服するためと進入の確実性を上げるための物なんだけどね。ちょっと脅しすぎたかな。

「失敗しなければ死にはしません。最後にはちゃんと飛んでたし、着地も上手くいってたでしょ?」

「最初は姐御も失敗したじゃねえか、俺たちじゃ無理だろ」


 む、やる前からあきらめる姿勢は感心できんな。士気にも関わるからちょっとフォローしとくか。

「あなたたちも最初は建築なんて出来なかったじゃないですか、それが今ではちゃんとした家を建ててます。やれば出来ますよ」

「そうか……出来るような気がしてきた。じゃあ俺も飛ばしてくれ!」

 あ、そういう流れになるか。体験させるくらいはいいけど、別の問題があるんだよな。


「いや、無理です」

「なんでだよ、ここは俺たちもやる流れだろ」

「飛ぶのは問題ありませんけど、壁の周りは魔物が闊歩してますからね。着地した後で食われますよ」

「そうだけどよ~」

「落ち着いたら壁を拡張する予定ですから、その時に考えましょう。言っておきますけど脱走したらずっと痛みに苦しみますからね」

「しないしない! 考えてみればここはメシも娯楽もあって最近は仕事も安全だから待遇いいしな。そうだろ?」

 その呼びかけにウンウン頷くわんにゃんズ。へえ、そんな風に思ってたのか、労働環境整えたのが報われたようでちょっと嬉しいな。


「後は酒が飲めて女が抱ければ最高なんだけどな~」

 ――下手人には制裁を与えておきました。ああ、酒については検討しておいてやろう。



「ずいぶん上手くなったな、姐御」

 操縦訓練を始めて1週間、地上に広がったパラグライダーのキャノピー(パラ本体部分)を畳んでいるとわん太に声を掛けられる。

「そうですね、でもようやく目標の10ヤード以内になんとか着地できるようになった程度ですから、まだまだです」

 フレア(ブレーキ)の感覚がいまいち掴めず訓練は停滞中。できれば建物の屋根にピンポイントで降りたいが、これではちょっと難しい。強襲と潜入ではリスクが違うからピンポイントランディングをマスターしたいものだ。

 滞空中の操作についてはほぼ自信を持てるようになったものの、グライダー飛行では風魔法の使いすぎで魔力が保たない事が判明したので(やはり気象操作は桁が違う)最近になってプロペラ付きエンジン背負うパラモーターのハーネスを付けている。

 これまでと装備のバランスが違うのでこれも停滞の一因だ。うーん、いっそ上空でハーネス外して飛び降りるか? 一時的に魔法使えば5000mまでは上がれる(寒いのが難点)から自由降下中にラムエアパラシュート(≒パラグライダー)に付け替えるとか。怖いけど。

 あとは迷子対策に地図と地形を見比べて現在位置を定期的にプロットしていく訓練だな。本部までの道のりはレドラから約650km、転移陣を使えば接近がバレるからこそのパラモーターでの接近なのだ。

 GPSがあれば楽なんだけどもちろんここに衛星なんて無い、地図は女神様に情報聞いて描いた手書きだ。お墨付きは貰ったものの正直どこまで信頼していいものか。これも訓練しながら問題点を洗い出しつつアップデートしなければ。


 今後の方針を考えつつお片付けをしているとわん太が問うてくる。

「そういやよ、何で空飛ぶ必要があるんだ?」

 あれ? 話してなかったっけ……そういや話してないな。

「ちょっと組織の本部にお話ししに行くんです。転移陣使って見つかると面倒なので空からお邪魔するためですよ」

「見つかると面倒って、穏やかじゃないな。こないだはレドラの支部長が来てたのに組織と仲違いでもしたのか?」

「ええ、身内が傷つけられましたからね。場合によってはアタマを抑えて乗っ取りも考えてます」

「……姐御なら出来ないこともないだろな」

「私も自信はありませんよ。でもアタマと直接話を付けないと身内が心配です、どうあってもこれだけは成し遂げますよ」


 少しの間をおいた後、深刻そうな顔でわん太が声を絞り出す。

「ってことはよ、姐御が殺られる可能性もあるわけだ。そんときゃ俺たちはどうなる?」

 そうだな、私の防御力を考えれば死にはしないと思うものの可能性はある。奴らも元々は死罪になる運命だったとはいえ、放り出すのは無責任だ。しかし名案は浮かばなかった。

「そうですね、出立の前に1ヶ月で奴隷状態を解放するようにしておきましょう。もし帰らなければあなたたちは自由です」

「でも壁の周りは魔物が跋扈してるんだろ、俺たちじゃ対処できねえ」

 うん、それが問題だ。仮に私が魔物を弱らせてトドメを譲る養殖行為を行っても成長キャップですぐ限界に達してしまうだろう。この辺りの魔物は重機関銃クラスの近代兵器があれば大丈夫だろうが、生身の延長の武器だと厳しい。魔法も犬猫の獣人は得意ではない。


 解決策を探ろうと黙考していると、わん太から声がかかる。

「いや、悪かった。姐御なら大丈夫だ、しっかり話付けて戻ってきてくれ。俺たちはここも姐御も結構気に入ってるからよ、姐御が居なくなると思うなんてどうかしてたぜ。じゃあな」

 そう言い残して去っていった。……気を使わせてしまったようだな。殴り込む決心にゆらぎはないが、奴らのためにも十分に安全対策を取らねばならん。

 さあ、まずは一回飛んでピンポイントランディング目指すぞ!

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