28.※支部長の名はマチアスです
「……お前、わざとやってるのか?」
お、この声は前と同じ門番さんだね。でもわざとって何を? うーん、心当たりがない。
「何のことですか?」
「……まあいい。これからは支部長と呼ぶようにしろ。おそらく会ってくれるから中で待て」
今回はすんなり通してくれたな、やはり夜の方が都合がいいのか。にしても役職付きは役職名で呼ぶ習慣だったとは知らなかったよ。
通された部屋でしばし待つとマレンコフがやってきた。
「おう、狩りは無事に終わったようだな。賊が消えたと報告があったぞ。賞金の換金はここでも受けてやれるが、首はどこにある?」
何の話をしてるんだ? まあいい、用件を伝えよう。
「いえ、別件です。ちょっと砂金を手に入れましたので、それを換金したくて参りました」
砂金の入った袋を机に置き、口を開く。
「奴らこんなの持ってたのか? そんなに羽振りのいい奴が襲われたという報告はなかったが……」
んん~? 何か認識に齟齬があるな。すり合わせをせねば。
すり合わせの結果、マレンコフは私が賞金稼ぎに転向したと思っていた、砂金は賊の得物だと認識した、という結果だった。
なるほど。情報提供を依頼したとき、奴らを奴隷にするとは言ってないからな、賊の居場所教えてくれと伝えただけで。
「この砂金は南大陸のとある場所で採掘したんです。賊は開拓の労働力として使ってますよ」
「とある場所ってどこだ?」
「言うと思いますか?」
「そりゃそうだ。だがお前、そいつら使って賊働きしたんじゃねえだろな? そうとも考えられるぜ」
おう、ごもっとも。
「ではこの砂金、すべて預けます。これだけの金がなくなれば噂ぐらいは立つでしょう? 調べてみてください。ただ、明日の午前中に入り用なので金貨15枚ほど都合してください。残りは確認とれ次第手数料1割5分で換金でどうですか? 純金10ポンド(5kg)、金貨換算で200枚、ここの金貨は純度が少し低いから210枚は堅い。そちらの取り分は金貨32枚で」
「……砂金はまだあるのか?」
「もちろん。在処がわかるのは私だけです」
「いいだろう、乗った。ただお前が賊働きしないという証拠も欲しい。無論こちらでも盗難がないか調べるが、捕らえた賊が開拓してるって所を見せてもらおうか」
えーっ、どーすっかなー。
◇
結局、同行はマレンコフ1名のみ、秘密保持のため私の設置した転移陣までの行き来は目隠しすることを条件に査察を許した(無論砂金の預かり証も取った)。換金予定の金貨178枚のうち、18枚を前払いで受け取り、明日に備えて退出する。
マレンコフは部下に指示したりと忙しそう。ま、頑張ってくださいな。
翌日。念のため北大陸側の壁外に出て一夜を過ごし、鐘の音とともに壁内に戻ってニンファさんと治癒院の前で合流。鍛冶屋に向かう。監視者がついてるが気付かない振りしとくか。
鍛冶屋は打つだけで販売はしてないっぽいが、大工道具を中心にした所のようだ。大ノコはデカイだけに経費がかかるということで、前金で金貨4枚請求される。
面倒なので全額の金貨7枚さくっと払おうとするが、4枚しか受け取らなかった。職人魂って奴ですか。
その後、大工道具の店や服飾店、それに防具屋を案内してもらう。中には「『黒犬』には売らない」と言っていた店もあったが、ニンファさんの説得で無事つなぎをつけてもらった。ありがたやありがたや。
ニンファさんはお仕事があるので、店の紹介だけで買い物はお付き合いいただけない。午後に町を出る予定と伝え、出発前の挨拶を約して一旦お別れする。まあ、腕輪に荷物納めるところを見せたくないので好都合だ。
買い物は金に物いわせて順調に進む。大工道具は高かったが、それでも総額金貨4枚と銀貨13枚。釘やかすがい、荒縄なども購入している。服は男物20着上下で金貨1枚。まとめ買いした割には服も結構高い。
防具は男物の軽量なリングメイルと篭手を買った。チェーンソー作業の防護服替わりにするためだ。下半身を覆うものは1着しか在庫がなかったが、複製魔法で増やせば全員に支給可能だから1着あればOK。結構高く、金貨1枚と銀貨10枚。70万円か、武器も高そうだし冒険者って経費かかるんだな。
マレンコフとの待ち合わせまで時間があるので、身体強化切れと食事の休憩時間を挟んで材木店も覗いてみる。角材や板材が並んでるな。見本にいくつか購入するか、と見ていると面白いものがあった。
背負子兼イス、とでも言うようなもので、見た目は足が短く、背もたれが高いイス。足は取り外しができ、背もたれに背負い紐が付いている。聞いてみると荷仕事の後すぐ休憩できるように背負子に足を着けたものだそうだ。
ふむ。マレンコフを連行する時は腕に縄でも結んで引くか、と思っていたけど、これに括りつけるのもいいな。何より拘束できるのが素晴らしい。
というわけで材木いくつかと背負子イスを購入し、監視者や店員にバレないように資材置き場で収納。こっそり店を後にする。さすがにメーター超えの長物持ってちゃ目立つからね。
◇
マレンコフとの待ち合わせ時間も近づいてきたので、ニンファさんにお別れの挨拶をするため治癒院へ向かう。
昨日通された部屋に裏口から入り、待っているとアルベリク先生がやって来た。
「おお、アミラ君。昨日は何もできず失礼した。といっても今日も仕事があるから無理だが。今度時間があるときに訪ねてくれ、十分もてなすから。ニンファはしばらくすれば空くから待っていてくれ」
そう言って去っていく。忙しいところに訪ねてすいません。
15分ほど待つとニンファさんがやってくる。
「アミラさん、お待たせしました」
「こちらこそお忙しい中すいません」
「いいんですよ、アミラさんなら」
ありがたいお言葉ですね。
「そろそろ発とうと思います。今日はいろいろありがとうございました」
「そうですか。……あの、これなんですけど、受け取ってもらえませんか?」
といって例の腕輪を持ち出す。うわあ、あったな、そんなの。もちろん拒否ですよ拒否。でも言い方考えないとな。
「……それは受け取れません。あれから何度も考えましたけど、男女の仲で考えることはできませんでした。人としては尊敬していますが。それに直接会えませんしね。ニンファさんから彼に返してもらえますか」
「……わかりました」
「彼の事は決して嫌いではないですよ。よろしくお伝えください。そうだ、返礼といってはなんですが、余った金貨をお渡しします」
残りの金貨6枚を手渡そうとするが、両手を振られて拒否される。
「え、受け取れませんよ」
「じゃあ、1ヶ月経っても私が来ないようなら大ノコの受け取りを代行してください。残りはあの報酬と同じで、治癒費として寄付しますよ。お金ならたくさんありますから」
「そういうことなら……」
微妙に目的がズレたが感謝の意を表したかっただけだからいいか。
◇
ニンファさんとのお別れを済ませ、とある建物の前でマレンコフを待つ。ニノンとのお別れで使った所だ。さっき監視者が交代したみたいだからそんなに待たないだろう、と思っていたところに奴が来た。
「待たせたな」
「……その装備は何ですか?」
奴はまるで登山に行くような装備をしていた。
「南大陸だから何日かかかるんだろ? その間の食料、寝具、諸々だ」
「私が設置した転移陣ですぐですよ。前に訪ねてから6日も経ってないじゃないですか」
「……そうだな。にしてもそんな近くに金脈があったのか、冒険者が見つけてそうなもんだが……」
いえ、直線距離で800kmは離れてます。普通の転移陣なら15ほど経由します。が、そこは伏せとこう。
まだ日が高いので夕方には戻すと約束し、荷物を置かせる。草原に偽装した転移陣を置いている事は説明済みなので、途中の荒野で目隠し・拘束の許可を得た。
道中、マレンコフから質問が出る。
「なあ、アルベリクの治癒院に行ってたみたいだが、治癒費を寄付した『とあるダークエルフ』ってお前のことか?」
あ、そういやもう名前明かしてもいいよな。元々組織の勧誘除けに名前伏せてたけど、もう自力で排除できる自信あるし。
「ええ、そうですよ。さっきも金貨3枚ほど寄付しておきました」
「そうか。我々への当たりがわずかながら弱くなったよ。ありがとう」
おっと、似合わない言葉だな。
「私もダークエルフですからね、待遇改善を図るのは当然です」
「いや、我々は組織に縛られてあまり自由にできないからな、代わりにやってもらって感謝してるぞ」
「……感謝を受けます。いつか自由を得られるよう、私も頑張りますよ」
「期待しよう」
そう期待しない顔でつぶやく。うーん、なぜかしんみりしてしまった……。
◇
その後、背負子イスへの拘束で悶着があってしんみりした雰囲気が台無しになったが、無事収容所へ到着(ちなみに偽装した陣ではなく、新たに陣を組んだ)。そこにわん太たちが出迎える。
「良かった、姐御が戻ったぞ!」
「これでお仕置き食らわずに済む!」
「姐御、背中の奴は?」
思い思いの言葉をかけられるが、私はある光景に目を捕らわれていた。
なんで角材が積み上がってるんですかね? それも10本くらい。




