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26.気分はお母さん

おまっとさんです

「姐御姐御、こちらわん太。にゃん二郎が怪我した、すぐ来てくれ。オクレ」

 トランシーバーから呼び出しがかかる。くそー、これで今日の開拓目標は未達成だな。

「わん太わん太、こちらアネゴ。了解、すぐ戻ります。オワリ」

 すぐ収容所の到着陣に向けた出発陣を組む。何度も呼び出し食らってるからもう慣れたものだ。あー、人を使うってのは手間がかかるもんだな……。



 あれから実時間で3日ほど。いろいろ試してみて木造建築はあきらめた。壁構築の魔法をアレンジして家を造ることにしたのだ。

 箱型に四方の壁を整形、窓と出入り口はその後に穴を空けて確保する。これだけなら10分とかからず1棟できるけど床と扉は土では(実用品は)作れない。屋根も土だと構造計算も計量もしてないから重量が不安。で、手近にある素材は木だけ。現在の悩みはその加工がまともにできないことだ。


 いや、前世の仕事が農業系商社勤務でオガクズ調達のためにプレカット工場(ほぞ組とかの大工さんの木工仕事を機械でする工場)に何度か行っていて、木工機械も召喚できるから、最初は木造ツーバイフォー住宅でも造るか、と思ってた。だけど一つ大きな問題が。


 プレカットの機械では原木を角材にできない。プレカットの機械は規格材でないと加工してくれない。結果、役に立たないというわけだ。そういや工場に丸太はなかったなー。

 気づいたのは拡張したハウスの一角にビル用ガスタービン発電機と配電盤を設置(電気関係の勉強も大変だったよ)、ラインをどうレイアウトしようかと木工機械の詳細を確認してる時でした。

 その間、体感時間で約3日。ハウス内の時間調整が出来るようになったから実時間では1時間経ってなかったのに疲れ果てましたよ。設置した発電機も無駄になったし。


 生木の乾燥はハウスの一角を密室にして真空→解放のサイクルを何度かやればできるんだけどねえ……。時間調節できるから短時間で済むし。原木の製材だけがネックなんだよな。


 ただ、材の反りやひねりを解消するために角材っぽいものなら自動でかんな掛けしてまともな角材にしてくれる四面モルダーつう機械があるので短めの板材や角材なら加工の目途がついている。


 しかし、原木からの製材は人の手でやらないといけない。召喚可能なもので使えそうなブツはチェーンソーくらい。

 やってみてわかったけどチェーンソーって縦方向に長く挽くのは大変なんだよー、本来枝打ちとか伐採に使うものだから。

 おまけに危険。オガクズが目に向けてとんでくるわ、節などに当たると上に向けて反動がくるわで柱用の長さに挽くのは早々にあきらめた。現在の目標は2mの角材作成。今後のことも考えてわん太達にその技術を身につけてもらおうとしているところだ。


 あ、わん太っつーのは例の盗賊のリーダーです。最初は抵抗したけど今では従順なもんですよ。



 捕らえた盗賊は狼もしくは犬獣人が5名、猫獣人が3名の計8名。名前覚えるのは面倒なので犬獣人に「わん太」から「わん五郎」、猫獣人に「にゃん太」から「にゃん三郎」を適当に振り、額にマジックで数字を書いて顔と番号だけ記憶する。あ、ついでに治癒もしとこう。


 特に傷がひどいのが身体強化で果敢に向かってきた(おそらく)狼獣人の「わん太」。盗賊団のリーダー(推定)だった奴だ。引き続きまとめ役になってもらおうかな。


「はい、では話していいですよ。もう口を開いても痛みは襲いません」

 治癒を終え、発声禁止の命令を解く。


「あ、あ、……本当だ。おい、いったいなんなんだよ……、まるで奴隷になったみたいじゃねえか……」

 わん太が探るように声を出す。

「みたい、ではなくて本当に奴隷にしました。私が主人なので言うこと聞いてくださいね。でなければお仕置きです」

 軽い懲罰をわん太に念じるとビクッと反応が返る。

「わ、わかったからやめてくれ。いろいろ聞きたいことはあるが、とりあえずひとつだけ聞かせてくれないか。俺たちは縛り首か? それとも斬首か?」

 あー、私がダークエルフだから官憲に引き渡されると思ってるんだな。で、処刑の方法が気になってるのか。


「あなた達は死罪にはなりませんよ、私に労働力が必要だから奴隷にしたんです。働けばちゃんと食わせてあげますし、場合によっては自由にしてあげましょう。入り口の標語読んだでしょ?」

「いや、文字は見たけど俺たちは字が読めねえ」

 うわあ、なんか自己満足のノリが空回りして恥ずかしい。

「……それは失礼しました。とにかく、私の指示通り働けば悪いようにはしません」

「よくわからんが、あんたがアタマってことだな。食わせてくれるなら文句はねえ。元々冒険者で喰い詰めて盗賊始めたばかりで、今もひもじいしな。そうだ、まずメシ食わせてくれ、姐御」

 あ、あねご……。まあいい、好きに呼ばせとくか。



 その後はそれぞれの呼び名を覚えさせてから、食事や寝床(四方天井土壁の牢獄)の用意、風呂沸かし(露天)、それに衣類の洗濯(ハウス内の洗濯機)と、まるでお母さんのような仕事をこなす。人の生活環境整えるってのは結構大変だな……。まあ奴らにはおおむね好評だったのでやりがいはあったよ。


 で、生活面の充実で多少態度が軟化してきたと思い、角材加工の為にチェーンソーを支給したところ、一度全員で闇討ちを試みられたことがありました。

 けど、5ヤード以内接近禁止(主人からの接近は除外)の命令にひっかかり悶絶、その後も念入りに懲罰してからは従順になりましたとさ。

 うーん、人を縛るのはやはり痛みと恐怖が手っ取り早い。スターリンさんやポル・ポトさんはある意味尊敬します。目指したくはないけど。


 しかし、従順になった奴らにも言いたいことはあったようだ。怪我したにゃん二郎の治癒が終わったところでわん太から切り出される。

「姐御、このチェーンソーは凄いけど危ない、こう何度も怪我してちゃ怖くて作業が進まない、普通のノコギリじゃ駄目なのか?」

 一応即死しないように防弾チョッキとフェイスガード付きヘルメットは支給してるけど確かに不足だよね。タブレットで調べたらチェーンソー作業には手や下半身用の防護服も必要なんだけど私は知らなかったから召喚できないし、かといって普通のノコギリじゃ原木挽くのに時間かかりすぎるし……。


『女神様、ここじゃどうやって角材作ってるんですか?』

 黙考する振りしながら聞いてみる。

『大きいノコギリを2人掛かりで上下に挽いてるわね。ノコギリを木枠にはめて、作業場の左右も木のレールで囲うことでまっすぐ挽けるように工夫してるのもあるわよ』

 ふーん、それなら大ノコが入手できればここでも作業できそうだな。1本あれば複製魔法で増やせるし。

『町で大ノコの調達してみます』

『売ってないわよ、基本受注生産ね。鍛冶屋に注文してから10日くらいかかるかな』

 そりゃまた面倒な。でも現地品を複製するときは現物がないと不可能だからなー、鍛冶屋に伝手がないからちょっと大変かもしれないが注文するしかないか。

『そうですか。でもそれしか方法がないなら注文しますよ』


 考え終えた振りしてわん太どもに向き合う。

「わかりました。じゃあ町に大ノコを注文しに行きます。最大3日程度空けますからその間は炭焼きして炭と木タールを作っていてください」



 私の不在時でも生活できるように、日別に分けた食料、電子レンジと照明の電化製品、家庭用蓄電池を用意して不在時の注意点や課業時間、ノルマを言いつける。気分は子供を家に残して旅行に行くお母さんの心境だ。お土産に替えの衣類を何セットか用意するか。洗濯も楽になるし。


 不在時の仕事に言いつけた炭焼きは防水材としての木タールが欲しいから。炭はおまけ。炭焼き窯も作ってタール貯蔵用に魔法で焼いた壷をいくつか渡しておく。

「では、真面目に仕事してくださいね。窯が割れるとかの危険を感じた場合のみ課業時間中の作業中断を許可します」


 そう言い残して私は転移した。

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