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24.離別

「それにしても転移陣が壊れてるとは……」

「私も知らなかったのよ……」

 女神様とため息つきつつ途方に暮れる。


 バルトロから離れてから約1ヶ月。南大陸の孤立集落目指して魔物狩りをしつつ放置されたの転移陣ネットワークを使って奥地に向かっていた。が、ハブ空港とでも言うべき旧兵站拠点に向けて転移しようとしたところ、到着陣のマーカーからの反応が返ってこない。つまり陣が機能していないということだ。


 女神様情報では破壊されたという事実は確認できないが、自然に壊れるには経過時間が少なすぎるし、地震などの災害が起こったということもない。

 考えられる原因は、やはり人為的な破壊。残された種族の立場になって考えてみれば、いつヒューマンの軍勢が転移陣からやってくるか解らない。そんな不安を取り除くために拠点を破壊する、というのは納得できる動機だ。

 女神様が破壊を認識できていなかったのは、少数の人しか関わらなかったからだろう。さらに実行犯が集落に帰還していれば破壊の事実は共有され、女神様の知る所となる。つまり帰還できなかったということだ。なんとも英雄的な行為なことで。


 そんな考察を女神様としつつ、今後について考える。

「徒歩で向かうには遠いし魔物の排除が手間ですね。しかも途中に大河もあるんでしたっけ?」

「うん、ちょっと泳いでは渡れないかな。幅300mはあるし、水棲の魔物もいるし」

「それ昔のヒューマン軍はどうやって渡河したんですか?」

「魔物の攻撃でも沈没しない大きな船造ったに決まってるじゃない。少数が渡って転移陣築いてから残りの軍勢は転移、よ」

「そうかー。船造るにしても私じゃ小舟が限界ですし、水中の魔物は目視が難しくて攻撃できない可能性があるから……」

「オススメはできないわね。先に進むには人の助けが必要じゃない? バルトロを頼ったら?」

「うーん、彼にも生活がありますし、何より気まずいからなぁ……」


 そう、バルトロとの別れは気まずいものだった。



 私が戦闘態勢を整えたことと「殺す」の言葉に反応したバルトロも歩を止め身体強化し身構えた。しかしそれ以上の反応は見せない。

 対する私はあふれ出る感情に飲まれて冷静な判断ができない。私に触れようとする『男』は例外なく敵である、という認識しかできなくなって奴を睨み続ける。


 数秒の沈黙、身を切るような緊張の中でバルトロが数歩下がった。

「下がろう。他に要求はあるか?」

 私を警戒しつつもなんとか落ち着かせようとしているのがわかる。だが、その気遣いに気付きつつも感情は奴を敵と認識しつづけた。


「両手を頭の後ろで組んであと10ヤード(9m)離れろ!」

 仮面治癒師時代と同じ指示を出す。素直に従うバルトロ。その手から腕輪がこぼれ落ち、地面に転がる。


「アミラさん、落ち着いてください!」

 バルトロの後方からニンファさんの叫び声が届く。しかし私は奴から目を離さず、生体関知でのみ彼女を認識していた。

「落ち着けるか! 今、目の前に敵がいるんだ!」

 言葉も素に戻り、感情のままに思ったことを口にする。

「そんな、敵だなんて……」

 離れたところからそんなつぶやきがかすかに聞こえた。


「くそっ、何なんだよ。普通に接したいのに、『男』に触られると抑制が利かなくなる。どうすればいいんだよ……」

 奴を睨みつけながら一人ごちる。冷静な自分が少しづつ戻ってきた。とはいえ奴への敵意は衰えない。


「俺が居ると落ち着けぬようだ。小屋に入るからニンファと話してくれ」

 バルトロがさらに下がりながらニンファさんと目配せし、小屋に向かう。入れ替わりでニンファさんが近づいてきた。私は奴が小屋に入るまで視線を彼女に向けない。


「アミラさん、その、バルトロは敵じゃないですよ……」

 奴が小屋に入ったことを視認し、生体関知でとらえて動く気配がないことも確認してからその声に顔を向ける。10mほど距離を空け、怯えをのぞかせながらも私に話しかけるニンファさんがいた。


「ええ、わかってます、わかってますとも。ただ感情の制御ができなかったんです。私自身、ここまで拒絶反応が大きいとは思ってませんでした……」

 奴がいなくなって感情が落ち着きを取り戻す。それにしてもこの反応は自分でも想定外だった。治癒の時は相手が弱っているから私が主導権を取れ、触られたり触ったりしても問題ない。その延長で多少の接触は大丈夫と考えていたが、完全受け身で触られるとあの記憶がフラッシュバックしてしまい、結果感情に飲まれてしまった。

 気を許せる話し相手として、尊敬できる人物としてバルトロには好意を抱いている。ただし肉体的接触はNGだ。


「あの、『殺す』ってのは本気じゃないですよね?」

「いえ、正直に言うとあの瞬間は本気でした。あのまま近づかれてたら少なくとも攻撃してたでしょうね。実際、襲ってきた相手は漏れなく殺してますから、その延長で思わず『殺す』と叫んでしまいました」

 4ヶ月の魔物狩りで私の魔力も身体能力も上がっている。一撃で命を刈り取るのは無理でも、かなりの重傷は負わせただろう。

「そう、ですか。私もアミラさんの事情を軽く考えてたみたいですね。旦那様に危害を加えるつもりだったなんて……」

 本当に自分でもびっくりだ。奴にも彼女にも悪いことをしたな。


「今でも彼のことは尊敬してますよ。『殺す』とか『敵』とか言ったことも後悔してますし、謝罪もします。でも不意打ちで触れられて、忌まわしい記憶が蘇ってしまいまして。そいつ等と彼を同列にしか見られなかったんです」

「それは直せませんか?」

「わかりません。不用意な接触さえなければ徐々に馴らしていけると思うんですが、確約はできませんね」


「……アミラさんにお願いがあります。もう彼に近づかないでもらえますか」

 うん、正しい判断だと思います。私もこんな危険人物に身内を近寄らせたくない。でも私にも思惑があるから約束はできませんね。


「そうですね。幸い今日が最終日ですし、おそらくもう会うことはないでしょう。でも、もし町に還ることがあれば彼の力を頼ることもあるかもしれません」

「じゃあ私がアミラさんとバルトロの連絡役になります! 町に還ったら治癒院を訪ねて下さい、西二十区の治癒院で通じますから」

 お、それはナイスアイディア。でも実際に訪ねるとなると気まずいだろなー、半年は冷却期間を置きたい。集落で交流すればそれくらい経つからいいかな。


「わかりました。その時はお願いします。では、お別れしましょう。彼にもよろしくお伝え下さい」

「え、もう行ってしまうんですか?」

「こんな状況になってしまいましたからね」

「あ、待って。これを持って行って下さい」

 そう言いながら足元にあった腕輪を拾い上げる。おおう、そんな品貰っても困るわ。といっても断ると角が立つからな。


「それはニンファさんが預かっていてください。お二人ともご壮健で」

「……はい、アミラさんも。今までありがとうございました」


 こうして2人とは離別となった。あー、気まずい……。



 時は戻って現在。さて、こんな別れ方をしたわずか1ヶ月後にまた訪れるのは気後れする。


 成長は実はすこぶる順調である。周りに人の姿がないのでやりたい放題だからだ。具体的には迫撃砲でバカスカ砲撃したり、有機リン系のガスを無人ヘリで散布したりしてる。これまでの自重がアホらしくなるほどの効率である。まあガス攻撃は宇宙服みたいな気密服が必須だし、被曝の恐怖もあるのでよほど魔物が密集してなければやらないけど。


 身体能力はトップレベル冒険者にはまだ敵わないが、魔力についてはすでに人類が到達できるレベルではないそうだ。身体能力も力場を連続4時間は継続できるし、魔力が格段に増えたことで力場を破る攻撃は人にはおそらく出来ない、と女神様よりお墨付きを得ている。


 町に還ってもはっきり言って怖いものはない。どちらかと言えば怖いのは私の精神状態だ。下手すると大量虐殺起こしかねない。それを直すために孤立集落に向かっているはずなのに、集落に向かうには人手がいるというジレンマ。

 まあ、常時力場を展開していれば触られることはないだろうからほとんどの問題は解決できるけど、まさかがあるからな……。


 うーん、絶対に触れてはいけないという命令ができる奴隷でもいれば楽なんだけどなー。ん? 奴隷か……。

「女神様、いいこと思いつきました」


 こうして私はまたレドラの町へ還ることとなった。

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