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20.エルフさんと会う

 地峡での狩猟生活8日目。町近辺は冒険者の数が多いので不測の事態の可能性を下げるため、荒野、草原、森と続いているフィールドのさらに奥、高地へと活動の場を進めていた。

 ここまで来ると冒険者の数も少なくなって遭遇の機会も減るが、魔物がかなり手強い。私も囲まれると不測の事態となる可能性もある。という訳で狩りは遠距離攻撃がメインとなっている。


 遠距離魔法もあるにはあるが、魔力消費が多いので普段の得物は対物ライフルのバレットM82A1だ。ギリースーツも着込んでスナイパーを気取っている。

 といってもあまり遠くからしとめると得られる魔力が減るので主に四肢を狙って動きと反撃手段を奪い、弱ったところに近づいてトドメを差す、というパターンで狩りを行っている。経験値はかなりおいしいです。


「あ、ヤバイ状況」

 そんな狩りを続けてある丘を越えた所で、魔物のうなり声と剣戟の音がかすかに聞こえた。丘の下に目を向けると冒険者パーティーが3体の熊型魔物に囲まれ危機に陥っているのが見える。すでに1人は動きがない。

 距離は500mくらいかな。冒険者に当てないようにヤる精密狙撃にはちと遠いがまあやれないことはない。レーザー測距計で確認すると……448mか。着弾まで0.5秒って所かな。よし、いける。


 風速は確認してないが、そよ風程度だからバレットならそんなに収束がばらけることはないだろう。腹這いになりながらバイポッドを地面に接地、スコープをのぞき、獲物の頭に狙いを付ける。今回は時間優先だ。息をゆっくり吐き、止め、トリガーを絞る。

 銃声とともに銃口のマズルブレーキから火炎が上がり、数瞬の後ターゲットに変化があった。ヒット、頭が半分砕け崩れ落ちる。

 すぐにターゲットを改め、自動装填された次弾を放つ。くっ、今度はハズレ。しかし事態の急変に驚いたのか魔物も冒険者も動きが止まっている。これなら射的の的だ。


 結局5発で魔物3体をしとめることができた。バレットは5発マガジンだから弾こめないと、とマガジンを外し弾を取り出しながら冒険者達の様子を千里眼で観察する。

 負傷した1人を仲間が囲んでいるが、治癒している様子はない。もしかして治癒師いないのか? 4人パーティーでこんなところまで来てるんだからそれなりに強いんだろうけど……。ええい、ここまで来たら最後まで面倒見るか。


 バレットの装填を終え、ギリースーツは脱いでから冒険者達に向かう。種族構成はドワーフ、犬獣人(男女)、それに負傷者のエルフか。

 負傷部位は左上腕部の軽い裂傷だけ、に見えるが動きがないって事は胴体のどっかに打撃を食らって内蔵がいってるな。話せるようなら問診が手っ取り早いんだけど。

 そう症状の推察をしながら100mほどの所まで近づき声をかける。


「治癒が必要なら私がしますよー」

 負傷者を囲んでいたパーティーが私を見る。見慣れない自衛隊装備withバレットに一瞬怪訝な顔をするがドワーフから返答が来た。

「頼む、すぐ来てくれ!」

 はいはい、と小走りで向かいあと20mになった時制止された。

「待て、お前『黒犬』か! 何たくらんでる?」

 はいはい、想定内想定内。『仮面治癒師』の時もパーティー相手だと最初はこうだったもんね。主に仮面に驚かれたけど。

「負傷者の治癒です。必要ないなら去りますが、どうしますか?」

「う、治癒を頼む。ただし何かしやがったら覚悟しとけよ」

「わかりました。それでば負傷者以外の方、5ヤード(4.5m)は離れて一カ所に集まってください」

「なんだと!」

「治癒した途端、私が襲われるおそれがありますから。今にも襲いそうな剣幕だと自分で思いませんか?」

「……わかった、離れる。おい、行くぞ」


 ふう、離れてくれたか。これでも前より譲歩してるんだけどね。カリスマ醸成としてはマイナスだがやはり怖いよ。では患者さんお待たせしました。

 さて、症状はっと。吐血ありか、問診は無理そうだ。肺か胃だろうけど、千里眼で確認すると……肋骨が折れて肺に刺さってるな。肺挫傷はなし。念力で肋骨持ち上げて接骨、革鎧だから脱がす手間がなくて楽だね。

 あとは内出血の血をできるだけ回収してから肺の傷を塞ぐっと。気管の血だまりは転移で捨てて、胸の打撲も治して。

 ああ、腕の傷忘れてた。生食水用意してないな、久しぶりだから事前確認してなかったよ。慢心してるっぽい、気をつけねば。ま、今回は魔法で出した水で洗っとけばいいか。はい、腕も治療。ひっくり返しても外観上他に傷や打撲痕はなし。よし、全部終了。血が巡り出すまでしばらく待ってねー。


「はい、終わりました。動けるまでにしばらくかかりますのでお待ちください」

 患者にそう告げたところ、外野から横やりが入った。

「な、しゃがんで水かけただけじゃねえか! 治癒はどうした!」

「私は『魔法使い』ですから魔法で治癒したんですよ。ほら、左腕の傷も塞がってるでしょう?」

 念のため患者とパーティーから離れながら答える。これは逃亡だな。バレットの射撃が私のものだと気づいてなさそうだし、抑止力としての力を示せないのが心残りだ。などと思っているとき、患者から声が上がった。


「ま、て、俺、はだい、じょうぶ、だ」

 おお、回復早いね。問題なさそうで安心だ。むせながらも体を起こす患者さん。といっても上半身を起こしたところで脱力し、まだ立つことは出来なさそう。

「げほ、治癒に、感謝する」

「無理しないでください。大丈夫なら私はこれで」


 そう言って余裕がある体を装いつつ、背を向けて去っていった(無論生体感知と千里眼で警戒しながら)。制止の声も聞こえたが無視無視。それにしても今日の収穫はあれだ。イヌ耳娘初めて見たよー、イヌ耳男とペアっぽかったのが残念だ。



 翌日。女神様とのお話タイムで昨日の事を褒められ、まんざらでもない気持ちで朝を迎えたが、今は昨日の事をちょっと後悔している。


「ダークエルフの治癒師よ、近くに居るのはわかっている、姿を見せてくれ!」

 今、例のパーティーが近くに陣取り、エルフが大声で呼びかけている。大体70m離れた灌木の陰でハウスに引きこもり様子を伺っているが、何で近くに居るってわかるんですか、怖いよー。


 エルフの独演が続く。

「昨日の治癒に改めて感謝する。俺の名はバルトロ、治癒の心得を持つ者として昨日の治癒に感銘を受けた。ぜひその技を伝授願いたい!」


 話し方が堅いんだよ、声もでかいし、侍か。ともかく昨日の謎は解けた。治癒師本人が負傷してたから治癒出来なかったのね。

「女神様、こっちでは治癒の技とかあるんですか?」

 独演の中で疑問に感じた点を聞いてみる。

「流派みたいなもので多少違いはあるけど、大体傷をそのまま塞ぐだけね」


「たとえば折れた肋骨が肺に刺さってた場合はどうやって治癒するんですか?」

「一番おおざっぱな方法は刺さったまま治癒、かな。骨も折れた形のまま繋がるから、一命は取り留めるけどそう長くは持たないわね」

 なんとまあおおざっぱな。


「ちなみに一番丁寧な方法は?」

「胸を切り開いて肋骨を手で抜いてから、肺の傷を塞ぐ、骨を繋ぐ、切り開いた胸の傷を塞ぐ、の順で治癒。これなら出血が多くなければ助かることが多いわね。途中で窒息して死んだりもするけど」

 へー、一応手術の概念はあるのか。切り開いた傷がすぐ塞がるから輸血がなくてもいけるんだな。


「でも私みたいに千里眼で内部見て開かずに念力で骨の整形しながら治癒する方法はないんですね」

「そんなことやってたの? 多分アミラが初の方法ね。魔法使いは少ないし、同時にそんなこと出来るだけの能力持ってる人はおそらくいないわ」

 あ、そうか。この頭も天使級だからな。使いこなせてるか疑問だけど。


 そんな会話を続けているうちに再度エルフ改めバルトロから呼びかけられる。

「俺達はここで待つ、気が向いたら姿を現してくれ」

 えー、凄く迷惑です。

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