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2.女神様の終わる世界

 途切れた意識が再開し体を起こすと、そこは花咲き誇り水のせせらぎに包まれる庭園だった。

 え? 病院じゃないの? 助かったのは良かったけどイミフだよ? と混乱している所に後ろから声がかかる。

「ようこそ、公平」

 振り返ると石造りの東屋にあるテーブルセットに腰掛けた美女がいた。

 透き通るような水色の長髪と同色の瞳。肩から背中までを晒し、首の後ろで結んだ白いワンピースドレス。何のコスプレですかと問いたいがぐっと我慢し状況を尋ねる。

「お初にお目にかかります。恥ずかしながら少々混乱しておりまして、なぜ私がこのような場所にいるのか解らないのです。事情をご存知でしたらお聞かせ願えますでしょうか?」

「あら?自分が死んだのを認識できてないの?」

「は? 何と仰いましたか?」

 あまりの言葉に思わず鍛えた営業敬語スキルが一瞬切れて素が出てしまった。死んだのなら何で意識があんの? と疑問が駆けめぐる。

「あなた死んだのよ。心当たりあるでしょ? ここは現世(うつしよ)常世(とこよ)の狭間。あなたとお話がしたくて私が招いたのよ」

 確かに死ぬしかない状況だったし、ここもそこはかとなく神聖な感じで死後の世界と言われて納得できる。そうか。死んだのか。ニート目指すくらいだから結婚にも興味なかったし会社の引き継ぎも終わってる。両親は兄が面倒看るから人間関係での未練はあまりない。けど3年くらいはニートしたかったな。

 しかし死後の世界に呼べるというこの人はどんな存在なんだ。名乗ってないのに名前知ってるし。

「ご説明いただきありがとうございます。状況はおおむね理解いたしました。

 重ねてのお尋ねになり大変失礼ですが、あなた様はどのようなお方なのでしょうか?」

「そうねぇ、簡単に言えば女神かな。多分あなたの認識してる女神とはちょっと違うと思うけど。

 ああ、質問はあなたが納得できるまで受けるし、言葉遣いはもう少し砕けていいわよ。敬意は感じるけど慇懃すぎてまどろっこしいから」

 ふむ、女神とな。確かに神聖な感じなこの場所に死者を呼べるような人間は普通いないしズバリ神でなくても近い存在なのかな。言葉遣いはご指定だから対学校の先輩程度でいいか。

「お答えありがとうございます。ついでに招いてくれた理由も教えてもらえますか?」

「私、あなたの居た地球世界とは違う世界の管轄してるんだけど、どうも上手くいかなくてね、地球世界の管轄者から相談できる人を連れてくるようお願いしたの。私の世界についてはこれから説明するから、まずは座って」


 こうして女神様(近)の説明を聞くこととなった。


 この世界に名前は無く、住民は世界や大地と呼んでるそうな。仮に『AE(アナザーアース)世界』と呼称しよう。物理法則は恐らく地球と同じ。人類はヒューマン、エルフ、ドワーフ、獣人などがいて、物理法則に干渉する力『魔力』もある。うん、定番ファンタジーですね。トールキン先生は凄いなぁ。


 この魔力の使い方は呪文や陣を使った『魔術』が大勢を占める。これらを用いずに魔力を行使するのが『魔法』で、現象の全てをイメージ出来なければ使えないため、使用者は極端に少ない。『魔術』は『魔法』使いが現象に必要な魔力を持つものなら誰でも使えるようにしたものとのこと。変換するための術式があるんだって。コンパイラみたいなもんか。

 魔力は地中を巡り、空間中にも存在するが、使用すると力が変質し、廃力(仮)となってこれも地中や空間を巡る。この廃力が魔物を生み出し(一定量廃力が溜まると魔物が繁殖行動を起こし、廃力を吸収しながら成長する)、魔物が死亡する事で魔力に還元される。この時近くに魔力保有者が居れば、魔力の保有可能量が増える(簡単に言えばレベルアップする)。

 また、魔力を持つ者が死ぬと廃力が放出されるが、年を取ると保有可能魔力は減衰していくので老衰で死ねば廃力の放出はほぼなくなる(ただ、高い魔力を持つ者は長寿になるので減衰の速度も遅い)。

 もし魔物が人類を大量に殺せば一時的に廃力の総量が増えるため魔物の数もねずみ算式に増え人類滅亡・魔物の天下となるが、最終的に魔力保持者の枯渇により廃力を得られなくなる魔物の数も一気に減る。

 多少生き残るであろう人類も魔物が減れば遭遇機会も少なくなるから全滅はないものの、魔力も極端に減るため両者とも数を回復するには長い年月がかかるだろう。


 極言すると魔力(人類)が廃力(魔物)を殺さないとAE世界が終わるという構造だ。


 で、このAE世界。終わりそうだから何とかして欲しい、というのが女神様(近)の相談内容である。

 この女神様(近)は全知でもなければ全能でもないが、AE世界の住人が500人程度知っていることであれば何でも分かり(共有されていない知識はクズ、だそうだ)、全能力を出せばAE世界の面積の1%を1日で更地に出来るそうな。すげえ。全知全能じゃなくても9割知8割能くらい行ってんじゃないの? (近)要らないな、女神様。

 ただし、現在はこの魔力/廃力のバランスが崩れて魔物が跋扈しているため人心は荒廃し信仰心が得られず本来の力には遠く及ばず問題解決も難しくなっているらしい。だから女神とはちょっと違うとの言。


 魔力バランス崩壊の原因は判明している。ヒューマンとその他種族の種族間対立だ。


 人類の保有可能魔力はある程度まで成長すると伸びなくなる。鍛えても一定以上筋肉が付かないのと同じ様なことと理解しよう。この成長キャップは個体差もあるが種族間で大きく異なり、例えばヒューマンが少なくエルフは多い。

 人類以外に成長キャップが極端に大きいドラゴンも居るが、絶対数が少なく(100に満たない)、ダンジョンなどにヒキコモリなのでバランス改善の役には立たないし、女神様の言うことも聞かないそうな。


 ヒューマンは魔力は少ないものの組織力が高く、ヒューマンほぼ全てを統治する帝国を築いてその他種族に戦争ふっかけた。

 部族・氏族単位で生存領域が分散していた他種族を各個撃破で下し、その多くを奴隷にして自分たちの国へ連行したそうな。


 これまで部族領域で魔物を刈っていた人類がいなくなり、戦争で魔力が大量に使われたため魔物が増加、バランスが崩れてしまった。


 じゃあヒューマンが魔物倒せばいいじゃん、となるが、魔物を倒すにはヒューマンでは保有魔力が足らない者が多く、奪った土地で開拓暮らしをしていたヒューマンは魔物に負け、辺境は魔物パラダイスとなる。

 大規模動員できる中央の為政者も僻地への魔物退治では大した利益も得られないのでよほどの事がなければ動員しなかった為、魔物パラダイスから魔物が攻め寄せ、このまま放置すれば終わり、という状況になっている。


 女神様は当初非干渉主義だったが、マズい状況に考えを翻した時には信仰が落ちていて神罰も下せない。どうにかしようと巫女や権力者に神託与えても周囲の既得権者に潰されたり自分の立場を守る為に無視されたりで改善されることはなかったとか。


 AE世界の地理は、3つ大陸があり、内2つは地峡で繋がっている。人類が居るのは地峡で繋がる2大陸で、面積の少ない方の大陸はヒューマン以外の他種族が支配的だったため、すでに魔物パラダイス。奴隷狩りを逃れた種族の隠れ郷や防衛に適した地形で生き残った僅かな開拓村以外に人類はいない。

 ヒューマン大陸も流石に地峡の防衛には労力を裂いているがヒューマン大陸内にも魔物が跋扈しじわじわと生存数が減ってる。

 なお、残る1大陸は魔力使用者がいないので魔物もなく、野生動物の楽園だそうだが、とてつもなく遠く人類の航海技術や空間魔法ではたどり着けないので意味はないという説明。俺の認識では技術の発展があれば開拓可能なフロンティアが残ってる、だけどねぇ。

 その他にも島嶼があるが、少数ながら存在する海の魔物に稀に船を沈められるので、沿岸航海以外は発展せず、大陸から視認できる距離の島を商船の補給基地や海賊の隠し砦程度しか利用されていない。


 今にも滅びそうだと思われるが、ある時から状況悪化の速度が低下した。

 魔物の跳梁に頭を悩ませたヒューマン帝国は、魔力の高い種族を中心に魔物退治に当たらせて自分達は督戦していたが、モチベーションがあがらない奴隷達に被害続出。多くの町や村も消え、中央集権的だった帝国も混乱により事実上崩壊。各地の領主が独立した。

 帝国崩壊直前、事態打開の策として魔物退治に当たる奴隷の解放を行った。多数の奴隷は魔物退治に向かい奴隷から解放。ヒューマンも家や畑を失った者を中心に魔物退治に当たり侵攻に対処できるようになった。

 そうした人々は魔物の肉や毛皮などで収入を得る冒険者およびその関連稼業を営むようになるが、元奴隷は人口も少なく多数派のヒューマンにピンハネされて収入も少ないため、奴隷生活より多少マシ、という生活水準だ。

 さらに元奴隷の叛乱や魔物の襲来対策としてヒューマンには軍役義務があり、万一の際に周辺住人は城塞に集結し、戦列を整えて鎮圧する、という構図になっている。


 さて、女神様のご希望は、かつてのように全ての種族がバランスよく魔物を退治できる差別のない理想の環境を築くこと。

 その方法を相談しようと、いくつもある世界の中から比較的マシに思える地球世界の管轄者に依頼して、知識を持ってそうな俺を呼んだそうだ。学者とかでなくて良かったのか?


 説明を受け、解決方法を問われた俺の第一声はというと、

「ぶっちゃけ無理だと思います。終わってます」


「ずいぶんな言い分ね……。でもあなたの居た地球ならもっと平等なんでしょ?」

「ここまで酷くは無いけど平等とは言い難いですよ、国や地域によって程度の差はありますが人種差別は残ってます。どうしてもというならディストピア築くしか無いんじゃないですかね」

「へえ、詳しく聞かせてもらえるかな?」

 女神様の瞳がキラリと光った(比喩表現)。

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