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17.アミラさん懐かれる

 3時間の待ち時間中に対策検討もしたかったが、相手の提示するカードが見えないので待つこととなった。

『そういえば衛士に囲まれたとき女神様は何ですぐに状況確認できなかったんですか?』

『ああ、私、今は下界の様子を直接見られないの』

『ん? だってホワイトボードで会議してたじゃないですか』

『ハウスの中なら私が直接付与した空間だから繋がりが深くて見られるけど、下界の様子は500人程度の人が共有してる知識がわかるだけで、間接的にしか認知できないのよ』

 んー、つまりテレビや新聞で報道された事しかわからない、みたいなもんか。それにしてもハウス内は覗かれ放題だったとは。

『ちなみに私のトイレとかも見てます?』

『わざわざ見ないわよ。トイレもお楽しみ中も』

 ぐはあ、恥ずかしい。この話題やめやめ。


 それにしてもハウスが利用できないことにはまいった。メシが食えないので背嚢から木製カップを取り出し魔法で水を注いで腹を膨らませていたが、当然生理現象が起こるわけで。トイレに行きたいと扉の前にいた衛士に申し出たところ認められず、代わりにある物を差し出された。おまるである。


 ハウスには廃棄物を溜める空間が別途あり、箱型トイレの便座の穴が廃棄物空間に直接つながっている。ブツは折りをみて穴を掘って処理していた。

 この世界にもトイレはあるが、それほど普及しておらず、都市では転移陣などの公共機関や水道の引ける裕福な家庭以外はおまるで用を足し、ブツは下水へつながった廃棄場へ捨てに行くスタイルが一般的。そうだったぜ忘れていたぜ。

 とはいえ生理現象には限界がある。背に腹は代えられない。問題は床下忍者さんだ。部屋の隅に移動し背嚢でガードしつつおまるで用を足した。ちなみにふた付きなので臭いは比較的大丈夫でした。生活の知恵だね。


 そんな羞恥プレイを交えつつ待機を続けているとギョームが戻ってきた。

「お待たせしました。治癒師殿の移動が認められましたよ。もちろん条件付きですが」

「そうですか。ありがどうございます。どんな条件でしょう?」

「道中は我々の連絡員と同行してもらう、指定の町で組織の者と面会してもらう、大まかにはこの2点ですね。細かいことは晩餐の後に詰めましょう。ああ、ここに宿泊の手配も済んでますから出発は明日以降ですよ」

 うーん。勝手に話を進められてるが拘束されるよりはいいか。今後の対策はハウスでメシ食いつつ検討会だな。


「わかりました。どこかひとりになれるところで落ち着いて考えたいのですが、ご用意いただけますか? ああ、封鎖してもらってかまわないので監視はなしでお願いします」

 ギョームは苦笑しつつ応じる。

「いいでしょう、宿泊する部屋にご案内します。もちろん監視はなしで。ただ晩餐には出てくださいね。私が毒見をしますから」

 そっか、晩餐も回避したかったが無理か。ええい、ここまで言われたらこっちも覚悟決めるぞ。

「ありがとうございます。私もギョーム殿を信じますよ。晩餐にも出席しますし毒味も結構です」

「安心しました。ではこちらへ。そうだ、部屋にドレスを用意していますから晩餐にはそれでお越しください」

 げえ、ドレスかよ、などと思いつつ先行するギョームに続いて寝室に向かった。



 検討会の結論は、その条件なら受けて良いということになった。ただ細かいところは要交渉。特に同行者が男の場合はプランBも視野に入る。寝室での検討会を終え、ドレスの着付けを女神様に聞きながら着用してお呼ばれを待つ。

 20分ほど待つと呼び出されて晩餐会である。そこにはダークエルフしかいなかった。紹介されたのは当地グルックの幹部2人、他はギョーム、そして私だ。

 晩餐会ではカバーストーリーにある島での暮らしや金策の方法など、ギョームとのやり取りではツッコミ切れなかった点を探るような会話が続いた。が、そつなく返すことができたと思う。


 結局料理には毒もクスリも入っていなかった。出された料理は大皿から切り分けるスタイルだったし、毒とクスリを意識した鑑定にも反応はなかった。といっても鑑定は使用者が未知のものには反応しないので、寝室に帰り血液検査までした後の結論である。我ながら猜疑心が強すぎると思うけど仕方ないよね。

 ちなみに料理の味はまあまあでした。『素材の醍醐味を味わえ』って感じで。


 さて、条件交渉に入ろう。

「では、今後の話をしたいのですがよろしいですか?」

 それにギョームが応じる。交渉は基本的に彼の担当のようだ。

「そうですね。何かご希望はありますか?」

 はい、ありますとも。と以下の要求を伝えた。


・同行者は女性とすること。

 私の精神衛生上、男との同行は無理です。男ダメ絶対。


・当方の食事は当方が自前で用意したものに限ること。

 今回は大丈夫でもこの先盛られないとは限らない。もちろんここのメシがまずい、という理由もあります。

 メシは元の計画から転移陣にあるトイレの個室でハウスに入り、そこで召還するつもりだったので用意は可能。トイレなら原料豊富ですから。ちなみにこの計画のためハウスには新たに土間が設置されました。せめて靴脱いでからやれば気分もマシになるだろうという気持ちの問題です。


・宿泊はできる限り個室を用意すること。監視はなし。封鎖は可。

 やっぱり夜は気兼ねなくハウスで過ごしたいじゃないですか。風呂に入ると怪しまれそうなので髪をゆすいで体を拭く程度の身繕いしかできなさそうなのが不満ですが。ちなみに元の計画では、夜はトイレに引きこもって過ごし、生体感知で人がいないときに出る、もしくは町の外に出る、というものでした。

 用意できない場合は仕方ないので同行者と同室でも野宿でも受け入れましょう。


 要求を聞いたギョームは他の幹部と言葉を交わし答えた。

「受け入れますよ。同行者は最初から女性のつもりでしたし、食事も無理強いはしません。ただ宿泊に関しては基本的に我々の拠点になりますから、状況によっては個室の用意は難しいことをご了承ください。こちらからの追加要求はルートに関して我々の指示に従ってほしい、ということだけです。同行者との顔合わせは明日にしましょう」

「わかりました。受け入れていただき感謝します。追加要求も承ります」

「では、今夜はこれで。諸々の調整がありますから先行して連絡員を出す必要があります。出発は明日の昼以降か明後日になりますが、よろしいですか?」

「はい、大丈夫です」

 こうしてグルックでの1日が終わった。いや、緊張して疲れたよ。



 翌日。まずはハウスに入って当初用意されていたこちらの服装に着替える。これから先は自衛隊装備の旨みが薄いし、いつもハウスが利用できると限らないからだ。肌着の上に木綿のチュニック、腰紐を巻いて村娘風の装い。昼間の町歩きに備えてフード付きローブも取り出す。あとは着替えも用意してっと。それから今日の分のメシを召喚だな。短剣も一応持っておくか。

 準備が終わりしばらくすると扉の外から声がかかり朝食に誘われた。しかし遠慮して用意したメシを寝室で食う。同行者がいい人だといいなー、と考えつつ待機する。


 やがて扉がノックされギョームより声がかかった。

「治癒師殿、同行者を連れてきました。入りますよ」

 ギョームと一緒に女の子も入ってきた。私より少し小柄でかわいらしい印象の子だ。肌の色は普通のダークエルフより薄い感じ。うん、こんなかわいい娘との同行も悪くないな、と考えていると女の子と目が会い声がかかった。

「あら、すっごい好み。初めまして、ニノンです。お姉さまのお名前も教えてくださいっ!」

 お、お姉さまだと? これはあれか出会ったその日から百合の花咲く時もあるとかいうやつか? すごいキラッキラした目で見られてるんだがどーしよー。とりあえず返事しないと。

「は、初めまして。アミラと申します」

「よろしくお願いしますね、アミラお姉さまっ」

 にこにこ顔で飛びつかれ首に腕を回された。何ですかこれは? いろいろ当たって気持ちいい、じゃなくて当惑しつつギョームを見る。

「ニノンは両方いける口でしてね。治癒師殿、いやアミラ殿は男は駄目でしょう? よければ道中ニノンとお楽しみください」

 な、何をですかねぇ。

「えっと、連絡員というと、もう少し堅い感じの方を想像していたのですが……」

「ニノンは不思議と誰とでもすぐ仲良くなれましてね、無論ダークエルフに限りますが。他種族でも場合によっては愛嬌で乗り切ったりします。連絡員としては優秀ですよ。それに地峡の町レドラまで行ったこともありますから今回の役目には最適だと思います」

「なにか別のこと考えてませんか?」

「ねんごろになってくれれば組織に加入していただけるかな、と」


 うわあ、黒い。いろいろ黒いよ、組織。

ここに木間市タワーを建てたい(願望)

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