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16.アミラさん囲まれる

 開いた『到着陣』の扉を抜けようとすると、衛士が目に付いた。転移陣は普通『亜人』が従業員の多数を占めるためセンターには衛士もそれなりの数が駐在していると聞いていたが、どうも駐在の衛士という訳ではなさそうだ。


 というか私に向かってくる。フードをつけた人物と共に。

 さりげなく回避しようと進路をそらしたところ、フードの人物から声がかかった。


「そこのまだら鎧の方、『仮面治癒師』殿ではありませんか?」

 え? この町初めてだけど何で知ってるの? とはいえとぼけるのも不自然だ。

「はい、そのように名乗ってましたが、何かご用でしょうか?」


 フードの男に目を向ける。今まで逆光で見えにくかったがここで気付いた。この人ダークエルフだ。

「初めまして。ギョームと申します。見ての通り同胞ですよ。ライグで話題の治癒師殿が旅立たれるとの報を受けお迎えに参りました」

 なんかヤバそうな雰囲気。慇懃にお断りせねば。


「お迎えいただきありがとうございます。しかし私はそのような過分な待遇を受けるような者ではございません。どうかお捨て置きください」

「いえいえ、ライグで多くの民を救った治癒師殿ではないですか。ライグを含んだ当地の領主、ライール様より歓待するよう下命を受けておりまして。なにもせずお返しするわけには参りません。我々でも気兼ねなく午餐ごさんの取れる部屋を用意しています。どうかご同行を」

 うえー、なんか面倒くさいことになったなあ。生体感知だと衛士と思われる人が遠巻きに囲んでるし。警戒感MAXじゃないですかー。こんな時はアレだ。


『助けて女神様!』

『どうしたの?』

『えっと、衛士に囲まれてるんですが突破していいですか?』

『何でそんなことに……。とりあえず突破は保留。衛士の指示に従って。状況は折りを見て説明して』

 あら? 女神様はこの状況掴めてないのか。とにかくこのまま声を発しないのは不自然だ。指示に従うか。

「……わかりました。お招きにあずかります」


 ギョームと衛士2人の先導の元、転移陣センターより町に出て通りを進む。無論私の後にも2人衛士が続いて逃亡を防いでいる、ように見える。その間に女神様に状況報告+対策の検討をする。意図が読めないのでまずは相手の出方を確かめるため指示通り午餐を共にすることとなった。

『ちなみに眠り薬とか麻薬みたいなものってあります?』

『あるわね』

『じゃあ出される物は口にしません』


 何を目的とした物かはわからないが、木造の周りとは違う石造りの建物に入り、部屋に通される。

「ではこちらにご着席ください」

 うむ。テーブルを挟んだ壁側。採光は天窓。簡単に逃がす気はないってことだね。まあしょうがない、座るか。

「ありがとうございます。お招きには感謝しますが、すでにお腹は満ちておりますので食事はご遠慮いたします」

「そうですか。なかなか口にできない料理なんですが、ご希望でしたら仕方ありませんね」

 ギョームも対面の席に着き衛士と一言二言会話した後、衛士は退出し扉が閉まる。


「さて、状況もご理解いただいてるようなのでここからは単刀直入に行きましょう。あなたは何者ですか? 治癒師殿」

 ふう、慇懃合戦は終了か。にしても女神様の使徒です。とは言えないし。

「見ての通りダークエルフですよ」

「ダークエルフなら組織にいたはずですが、組織から離れた妙齢の女性はすべて追跡ができている。さらに冒険者まで含めたダークエルフが半年以内にライグに渡航した形跡もない。本部に確認していますので確度が高い情報です。あなたはどこから来たんですか?」

 ああ、素性の知れないダークエルフだから警戒されてるのか。理解した。


 こうして以下のようなカバーストーリーを披露することとなった。


 南大陸に残っていたダークエルフ集落が危機に瀕したため、地峡を越えて北大陸へ向かうが1組の夫婦を除いて全滅。その夫婦は北大陸で最初に出会ったヒューマン達にしばらく半奴隷状態(奴隷化魔術なし)で拘束され北大陸の状況や常識を知る。やがて隙を見て殺害・脱出。

 北大陸での定住をあきらめ、安住の地を求めて船で海に出ると島にたどり着き、私が誕生。両親は私が育つと共に亡くなり、南大陸まで渡って生き残った同胞を探しだし共に暮らすよう遺言を受けた。それに従って船で大陸に向けて旅立ったところ、ライグの町近辺にたどり着いた、という内容だ。無論全部嘘です。


「ふむ。ずいぶんと奇跡が重なったものですね。特に海を無事渡れるなんて」

「ええ、女神様のご加護だと思います」

「レヴォネ神ね。我々にも加護が欲しかったものです。ああ、つい愚痴が出てしまった。申し訳ない」

「いえ、おかまいなく」


 そっかー、女神様レヴォネって名前なんだ。

『これからはレヴォネ様とお呼びしましょうか?』

『ん? ああ、それも私の名だけどアミラからは女神様と呼ばれたいな』

『わかりましたよ、女神様』


「……しかしいくつか腑に落ちない点があります。まず、ご両親はどうして南大陸まで無事渡れると思ったのでしょう? 北大陸の状況はご存じだったのに」

「島にいても未来がないですし、私は幸い『魔法使い』ですからね。大抵の障害は魔法で解決できると思ったのでしょう」

「ああ、詠唱無しで回復したとか。では続いてその鎧、と服です。見慣れないものですし、ずいぶん状態が良いようです。どこで入手を?」

「故郷の島にあったものです。状態は魔法で維持してます」

 うん、これはある意味嘘は言ってない。

「それは興味深い。島にはどうすれば渡れますか?」

「さあ、半ば賭けで当てもなく船出したのでわかりかねます」

「そうですか。残念です。では最後になぜ冒険者を癒していたのですか? ずいぶん警戒していたようなのに」

「確かに警戒はしていましたが、それ以上に傷ついた人を癒したかったんです。もちろん、私の回復魔法がどこまで通用するか確認したかった、腕を上げたかったという事情もあります。自分の命に関わることですし」

「なるほど。……おおよその事情は理解しました。あなたの言っていることが本当ならば」

 すいませんほとんど嘘です。けど、しらばっくれるよー。


「もちろん本当ですよ」

「信じましょう。さて、私からひとつ提案があるんですが良いですか?」

「内容によりますね」

「まあ聞いてください。我々の組織に入りませんか?」

 あー、まあそうなるよねえ。


「申し訳ありませんがお断りします。遺言に従って南大陸へ向かわせていただきます」

「ここの領主もあなたの行動を評価してます。歓待せよというのは半ば口実でしたが半ば本音の下命です。依頼者の覚えがめでたい者は組織の中でも待遇は良いですよ?」

「光栄ですが、やはり」

「転移陣の封鎖もできます。ダークエルフ限定で」

「地を走ってでも向かいますよ」

 用意して良かったプランB。


「……あなたの決意はわかりました。とはいえ、やはり嫌疑は残ります。何らかの方法で組織から痕跡を消した上、どこかの勢力から仕事を請け負っているのではないか? という事ですね。おわかりと思いますが、組織を通さず仕事をされると大変な問題になるのですよ」

 そりゃわかるけど、どないせいっちゅーねん。

「理解はできますが、どうやって証明すればよいものでしょう?」


「悪いようにはしませんからご安心を。『仮面治癒師』殿の行為は評価されていると言ったでしょう? 我々もその評価によって多少は助けられていたのですよ。領主と組織の幹部に報告と交渉の必要があるのでまだ確約はできませんが、おそらく良い結果になると思います。ただ、その間はこの部屋から出ないでください」

 うーん、下手に動くより待機していた方がよさげだな。

「わかりました。期待してお待ちしています」


 こうしてギョームは部屋を後にした。待つ間はハウスに引きこもってメシ食いたいんだけど、生体感知に反応があるんだよねー。床下から。どこの忍者やねん。


 こうして体感時間で3時間ほど。女神様と脳内報告会&雑談しながら空腹との戦いを強いられる事となりました。

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