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14.女神様は心配です

「アミラさん。女神様は心配です」

「はあ、何に対してでしょうか?」

「最近のアミラはちょっとおかしいわよ。人を人と思ってない感じで」


 はい。ちょっとおかしいのは自覚がありました。最近になってようやく。

「そうですね。確かにちょっとおかしいです。なんでなのかはまだボンヤリしていてなんとも言えないんですが。自己分析してみますのでちょっとお待ちを」


 最近の行動を振り返ってみると『人を癒す』というより『機械を直す』感覚なんだよね。経験を積むことのみが目的になっていて、手段が目的化してしまっているというか。治療行為はそもそもディストピア建築という大目標のためにカリスマを得るための手段なんだからそこまで拘る必要もないし、以前の私なら人を助けることに喜びも感じていたはず。でもそれも特になし。

 それに安全確保にもこだわりすぎ。それはもう偏執的に。これも最近ようやく自覚しました。カリスマ得る手段として治療するなら拘束したり遠ざけたりするのはマイナス事項。相手が攻撃してきても今は防御手段も反撃手段も揃ってるんだから明らかに過剰。なのにそこに気付いてなかった。うーん、イヤな結論だけど精神疾患が疑われる。合理的な判断ができてない。タブレットで調べるか。……自己診断だと正確性はないけどこれかな。


「あー、何らかの精神疾患抱えてしまったと思います。おそらく妄想性人格障害。人が常に攻撃してくる、などの妄想にとらわれて偏執的になったり攻撃的になるやつです。まだそれほど重い段階ではないと思いますが」

「それ直せるの?」

「どうでしょう。地球では専門家が患者と話し会って治療にあたるんですが、それでも完治させるのは難しいみたいですし」

「それは、どうしよっか」

「自覚があるので意識して自己改善するとして、あとは人と交流して人を信頼できるようになればいいんですけど。でも私ダークエルフですからねぇ、普通なら妄想で済むことがたまに現実になるし。また襲われたりすれば悪化するかも」

「そうよね。でも、人と交流したいなんてもう男は怖くないの?」

「前よりはマシになりましたし、話すこともできますが、やはり恐怖心は残ってますね」

「一度素顔で話してみたら? あの仮面つけはじめてからおかしくなったように思えるもの」

「仮面つけろって言ったの女神様ですよ」

「うっ。こうなるとは思わなかったのよ……」

「そうですね。きっかけは間違いなくあの件ですけど、私もどうしてこうなったのかわかりません」

 このあとため息つきつつイヤな沈黙。


「けど、これからどうしようか。この近辺じゃ改善は望めそうもないし……。いっそのこと南大陸まで行って奴隷狩りを逃れた集落と交流するのはどう? そこならダークエルフは特に嫌われてないし、魔物も手ごわいから成長も早いわよ」

「地峡の向こう側ですか。よさそうですけど今の実力で行っても大丈夫ですか?」

「んー、予定だとあとひとつ生息地を挟んで南大陸へ向かってもらうはずだったけど……。もう地峡近辺の魔物なら大丈夫ね。奥に進むのはそこで成長を待ってから。もう少し成長すれば自力で陣の間を転移ができるようになるから、過去に南大陸に設置されてそのあと放置されてる転移陣使って色んな場所に転移で行けるようになるわよ。あ、じゃあ集落にはすぐにはたどり着けないか」

「どっちにしろここに居ても悪化しそうなんで向かった方がいいかもしれませんね。仲間を助けた相手を襲うやからがいるなんて修羅の国ってレベルじゃないですよ」

「そうね。管轄者として申し訳なく思うわ……」



 当地での成長効率も落ちていた事もあり、結局地峡方面へ移動する事となった。問題は移動方法。目的地までの距離は約9000kmだそうだ。到底徒歩では行けない。そこで使うのが都市間にある転移陣である。転移は距離に比例して魔力消費が増えるので、大抵距離の近いの都市間で複数の陣を持ち国境もまたいでネットワーク化されている。鉄道網みたいなものだな。

 私はダークエルフなので転移陣の利用には少し問題がある。国境越えの場合、国によってはダークエルフは入国拒否を受け転移元へ送還される所もあるのだ。が、そこは魚心あれば水心、お金で解決できるそうで、相場は現地国の銀貨で20枚。ちなみに国境の転移陣がある町にはかならず隣国貨幣との両替商がいる。貨幣はそれぞれの国で帝国の頃と同じ大きさを維持しているが銀・金含有量が違っているので価値も違い、両替商以外の人には訳わからん状態になっているとか。とはいえ価値は最大で2割程度の差。移動だけなら気にする程ではない。


 移動の基本方針は素顔をさらして冒険者の移動を装う。ダークエルフの冒険者も少数ながらいるため不自然ではない。今回は人との接触前提なのでしっかりカバーストーリーも考えた。湿原からの移動時は襲撃を恐れて人のいない所を選んで移動したが、今では大抵の襲撃者を返り討ちにできる力がある。

 ただし襲われた場合は反撃OKだが、出来るだけ半殺しに留めるよう指導を受けた。町中で殺しがあるとさすがに衛士も動くそうだ。正当防衛でも冒険者のダークエルフは不利な扱いを受けるので、これに限らず従順な振る舞いをするよう注意された。ただ「避けられないときは殺してもいいよ」と許可済み。最終手段は事を起こした後ほとぼりが冷めるまでヒキコモリだ。普通ならダークエルフを見ても暗殺術を恐れて手を出さないそうだが2回襲われた実績があるので不安は残る。

 資金のあては10kgの銀インゴット5本召喚して確保。金も2日かけて約600g分の某カエデ金貨を召喚できた。分解したものを現地貨幣と換金する予定だ。なお、町中での召喚はおそらく人の持ってる貨幣や装飾品から必要元素持ってくるから禁止。私の存在と盗難が関連づけられでもしたら目も当てられない。


 さて、問題は私の精神状態。自覚を得て節制を心がけてはいるが、町に出れば様々な要因で悪化する可能性がある。もし町に入って状況が悪いようなら一応プランBとしてオフロードバイクを召喚し(両手で持ち運べないがハウスで召喚して戸から出せばOK)夜間に街道をひた走る案もある。が、どれくらい時間がかかるかわからない。その間に襲撃が重なって更に精神状態が悪化という可能性もあるので、日数が圧倒的に少ない転移陣での移動が本命である。何も起こってくれるなよー。



『じゃあアミラ、頑張ってね』

『はい、行ってきます』

 町の入り口が見えるところで女神様と心の中で会話する。これ以降町中では必要時声に出さず心話で連絡を取ることになっている。

 格好は自衛隊装備のままだ。女神様情報によると町では『仮面治癒師』の評判は上々らしく、それとわかる格好で行った方がいいとの意見。まあ内心や実行方法に問題はあったけど、やってること自体は良いことだったからな。期待してますよ。


 てくてくと歩を進めやがて門衛と出会う。

「お、そのまだら鎧、お前もしかして『仮面治癒師』か?」

「はい。そのように名乗ってます」

 おお、好感触。

「そうか。『黒犬』にもいい奴がいるって評判になってるぞ。仮面は付けないのか?」

「町で仮面付けているとおかしいでしょ」

「違いない。まあお前なら大丈夫だと思うが念のため荷物を調べさせてもらう」

 ダミーの背嚢に入れてる保存食や寝具、毛皮などの魔物の素材などを調べられてやがて解放される。

「よし。問題ないな。すまんな。ここじゃ特許状持ってないダークエルフは調べなくちゃいけない決まりなんだ。ああそうだ。入市の目的はなんだ?」

「転移陣で地峡へ向かおうかと」

「そうか。じゃあもうお前の治癒に頼る事ができないんだな。狩りに出る奴らに注意を促すことにするよ。今までありがとう。ようこそライグの町へ」

「はい。こちらこそありがとうございます」


 こうして町へはあっさり入ることができた。ふむ。思った以上にいい感じだ。今まで向こうから関わってきた奴がクズだっただけで、普通の人は地球とメンタリティ変わんないんだろか。治療したパーティーからも感謝の言葉を聞いたし。逃げてる時だったけど。とはいえ町は未知の領域だからな。猜疑心を抑えつつ油断大敵の精神で乗り越えるぞ。

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