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10.報復

 目覚めると周りは闇に包まれていた。しばらく何も考えられなかったが、唐突に先ほどの様子がフラッシュバックする。そして下腹部にある言葉では表しがたい不快感。


「うおぇえええぇ……」


 胃から内容物が逆流する。この嘔吐を意志で止める事などできない。不快感に飲み込まれそもそも意志すら希薄だ。内容物が粗方逆流した後も胃の分泌液が後から後から咽を伝う。酸が咽を焼くような感触。口に広がる独特の酸味。これよりも不快な何かを吐き出そうとするかのように体が勝手に動いている。

 吐き出すものが無くなってようやく意志が明確になってきた。そうだ。まず安全確保だ。ハウスに引きこもろう。

 腕は縛られたままで、左腕に腕輪の感触はなかった。一瞬焦るがすぐに帰還の魔法を思い出して意識を向け、戻った腕輪でハウスを呼び出し後ろ手で扉を開けて中に入る。これでようやく落ち着ける……。


 落ち着いた環境を取り戻すと、途端に気分が沈んできた。自然と涙があふれてくる。くそ、男だった頃は大抵意志で止められたのに、なんなんだ、なんなんだよ。まったく……。ああ、駄目だ。鬱だ……。


「女神様、もう死んでいいですか?」

「突然どうし……。そう、ね。どうしてもというなら止めません。止めませんが、その前に十分考える時間を取ってもらえるかな。私はコーヘイに生きていて欲しい。そのことだけは忘れないで、じっくり考えて」

 そう告げられ、また沈黙が続く……。


 鬱々とした考えを巡らす時間が過ぎていくが、いつしかその考えが憤りへと変化していった。

 何故こんな目にあうのか。私は森を歩いていただけだ。突然射掛けて怪我を負わせ、さらに暴行した奴らがいるのに、死んでは報復ができないではないか。身体能力では勝てなかったが、私には身体能力では対処できない報復手段がある。どんな報復がいいだろうか。

 感情は陰陽の陰に傾いたままだが、その対象は自分から奴らへと向いていた。とある報復手段を思いつき、決心が固まる。


「女神様。私は奴らに報復したい。力で従わせる事を良しとするこのクソッタレな世界の住人に、力に屈する屈辱を味あわせたい。これ以上ないほど陰惨な方法でブチ殺したい。これが認められないなら死にます」

「わかりました。許します」

「本当に陰惨ですよ。途中で止めても無駄ですよ。必ずブチ殺します。それでも許してもらえますか?」

「許します」

「わかりました。明日1日時間をください。決着つけてそれ以上引きずらないよう努めます」


 目標が出来ると気持ちが整理できた。まず体の確認。縛られた腕の縄を千里眼で確認しながら一部転移で切断、腕の自由を取り戻す。周期的に心配は薄いが、念のためアフターピルを召喚して服用。その他擦りむいたりうっ血している部分の治療を行い、汚れた体を清めるために風呂を用意して浸かる。無論、中の洗浄は念入りに行った。

 風呂で体を温めると気力も復活してくる。ただしその気力は陰なものだ。とはいえやり遂げる決意が新たに固まった。よし、やるぞ。


 久しぶりにタイベックを召喚して着込む。今回の装面は全面マスクで目張りもしっかり行う。奴らの体にあったものは水蒸気1粒子たりとも取り込みたくないからだ。

 ハウスの中から千里眼で状況の確認。ハウスは丸太を地面に打ち付け、上部と入り口を横木で塞ぐように縄で組んだ簡易な檻の中にある。つまり檻に閉じこめられていたわけだ。

 檻の近くに見張りは居ないが、2人が起きて例の東屋周辺を警戒しているようだ。他の者は東屋で就寝中。半径100m程度を念入りに確認したところ他に人は見られず、総員8名であった。


 自分の周囲に沈黙の魔法をかけて行動開始。檻の出入りに使う横木の縄を切って外に出る。警戒中の2名は起きてはいるものの今にも寝込みそうで、相互に連絡を取る気配もない。これならアレは実行可能であろう。


 暗闇に紛れ警戒員の視界に入らないように近づく。後ろから千里眼で目的の部位を探り当て、部位を転移すると警戒員は崩れ落ちた。転移したのは脊髄。中枢神経で、ここに傷を受けると受傷位置に見合った部分が麻痺し全く動かせなくなる。半身不随や全身不随になるのだ。

 狙った部位は自発呼吸と肩から上以外が動かなくなる第4頸椎付近。だが、狙いが外れ自発呼吸も出来ていないようだ。くそ、運のいい奴め。次は間違えんぞ。沈黙の魔法を警戒員周囲に掛け助けを呼べないようにする。まあ自発呼吸出来なければ声も出せないのだけど念のためだ。それほど時間もかからずこいつは死ぬだろう。


 その後も順調に作業を続け、全員の自由を奪った。生き残ったのは5名。東屋に集め念のために監視を続ける。一部のものはすでに目覚めているようだが、沈黙の魔法が効いているため何を言っているのか分からない。聞くつもりもない。後は夜明けとともに私のための生け贄になってもらおう。


 夜が明け、生き残った全員の意識がはっきりしたようだ。観察を続けていたが全員肩より下は動いていない。そろそろメインイベントを始めようか。


 一人づつ檻の杭に縛り付け、残りの一人はそいつ等の前に横たえる。それぞれぼそぼそと何かつぶやいている。声は聞こえるが内容は理解していない。どうでもいいことだからだ。


 横たえた一人にメスなどを揃えたトレーを持ってしゃがみ込む。医学生の禁忌の夢、生体解剖を行うのだ。残りの奴らによく見えるように位置取りは念入りに行った。


 腹腔からはじめ、出血があるたびに血管だけに効くよう意識しながら回復魔法で止血していく。腎臓など2組ある臓器は1組を取り出し観察する。胸郭も肋骨を転移で切断しながら開いて肺も取り出した。止血しているとはいえ流出量はかなりのものなのでこいつはもうチアノーゼ状態。長くないな。取り出した臓器を戻して機能するか試してみたかったが間に合わんだろうな。


 その後も一人づつ念入りに解剖を行い、止血のコツや臓器の摘出、血管・神経の接続、千里眼をつかった直接転移など、現時点の知識で可能な限りの検証や訓練を行った。こいつらは私にとって生物の授業のカエルやフナと同じなのだ。


 長くつぶやきを聞いていたところ、私が襲われた理由もわかった。曰く、町で冒険者をしているが、稼ぎが少なく行商や周囲の村人を襲うようになった、私のことは町の代官が放った密偵だと思った、あやまるなんでもするから助けて欲しい、とのこと。

 今の私の知識や能力では、ここまで刻んだ状態から助ける手段はない。もちろん助ける意志もない。

 日が傾いた頃の生き残り(すでに瀕死だが)は1名。折を見て千里眼で周辺警戒を続けていたのでこの付近にも魔物がいることを知っている。血の臭いは適時魔法で消していたからこれまでは寄ってこなかったが、もう必要ないだろう。このまま魔物の餌になってくれ。


 現場を離れ、日没前に千里眼でアレが餌になったのを確認したところで女神様に報告する。


「女神様、終わりました。全員ブチ殺しました」

「そう、満足した?」

「ええ、満足しました」

 確かに達成感はある。同時に罪悪感もある。感情に流されここまで陰惨な報復をしたことに。

 男はクズだ。力と肉の欲求にすぐに溺れる。それと同じくらい女もクズだ。感情に溺れて行動に直結する。両方とも何らかのタガが無い限り欲求に忠実な生き物なのだ。


「女神様、今後私の事はアミラと呼んでください」

「どうして?」

「今回のことは『公平』な処罰ではありません。私怨です。私怨に流される私ではコーヘイと呼ばれる資格はないでしょう?」

「そう、わかりました。あなたが築くディストピアが『公平』を実現したとき、またコーヘイと呼ぶことにします」

「ありがとうございます」


 その後予定より4日遅れで目的地へ到着した。


前回の展開は「お気に入り登録減るだろなー」と思ってたのに逆に増えてビックリです。

まあ今回の展開もアレなので不安ですが。

良ければ評価もお待ちしてます。

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