1.プラチナニートの夢
「お疲れさまです。寒くなりましたねー」
外壁工事も終わり後は足場と養生を外すせばほぼ完成、竣工予定は1週間後のマンション建築現場でとび職人に挨拶する俺、芹沢公平はこのマンションの施主であり管理人である。
俺は30代半ばにして株やFXで得た資金をぶっ込んでマンションを建てた(ただし総額の3割程はローン)。目的は不労所得で生活する憧れのプラチナニートになるためだ。いやー投資センスには自信があったけど当たってよかった。楽するための努力なら惜しまないからね、俺。
とはいえニートでは外聞が悪いのでマンション経営者兼管理人を名乗るつもりだ。
まあ管理といっても共用部分やゴミ捨て場の掃除くらいやるかぁ、という程度で、設備管理や入居者の窓口は不動産屋におまかせなので勤務時間は1日1時間もない(予定)。基本外食だから家事を任される家事手伝いニートより実働時間は少ないかもしれないな。
今は退職前の有給休暇消化期間で会社はほぼ行ってないが、入居希望者の内覧や工事関係者、不動産屋との打ち合わせなどでそこそこ働いていて、まだプラチナニートの実感はない。けど、入居者の引っ越しが落ち着けば「働きたくないでござる」が実践できるってもんですよ。
職人さんと雑談をしながらそんなことをつらつらと考えていると職人さんたちが休憩に入るようだった。
休憩中に施主がいるのも気まずかろうと差し入れのお茶とお菓子を渡して別れた後、外壁の仕上がり具合を確かめるべく解体中の足場に潜り込んだところで突風が吹き、足場が崩壊し始めた。
迫り来る鉄の固まり。あかん、これあかんヤツや。
生命の危機に瀕したとき時間が遅く感じるというが、今がそれか。ゾーン入っちゃったか。いやそれはいい。早く逃げないといけない。
と、足を踏み出したところで足場に引っかかり転倒した。
胸を強打し息が詰まる。体が動かない。ダメか。最後の希望は現場に入るときに付けたヘルメットだがきっと無駄だろうなぁ。というのが最後の意識だった。