操縦テスト その一
何となく思い立って何となく書いてみた作品です、まだ異世界には行きません。
俺は今、人型巨大兵器を操縦して空を駆っていた。
そう、人型巨大"兵器"。それが空を縦横無尽に駆けまわる理由は唯一つ、敵を倒す事だ。
『敵機、ヒュージ1接近。近接戦闘モードに切り替えます』
システムアシストAIの言葉と共にあらゆる方向から掛かっていたGにより飛びかけた意識が引き戻される。
直ぐ様反射的と言っても良い早さで手元を動かし、腕部から滑り出すように飛び出した近接ブレードを使って接近してきた敵機を切り裂く。
爆炎を上げたソレを撃破確認をする暇も無くまた次の敵機が自分の機体に向かってブレードを振りかざしながら躍りかかる。
『よくもナーサを!』
今しがた墜とした<<ヒュージ1>>の僚機だったのだろうか、混線した無線からの怒りの声を聞きながら
回避行動を取る。
直後、<<ヒュージ1>>の僚機は俺と相対的にブーストを噴かし距離を取る。
嫌な予感が過る、AIが状況を処理するよりも早く肩部に装備したチャフとフレアの残弾数を確認する。
『チャフ、残弾ゼロ。フレア残弾数 八。――――警告、十二のミサイル接近。フレア射出、フレア残弾数ゼロ。被弾します。』
非情なまでに現状を的確に表すAIの言葉を最後に、俺の機体は炎に飲み込まれた。
「だー!このゲーム難しすぎるだろ!大体ゲームで意識飛ぶような加速度加えるってどうなってるんだ!」
ふらつく体を先ほどまで乗っていた機体、もといゲームの媒体を支えにする事で何とか倒れるのを防ぎ、このゲームと媒体を開発した二人。白衣を着た長身の美男美女に向かって吠える。
ゲームの開発者が白衣?何て突っ込んだらダメだ。この人達には常識は通用しないのだから。
「うーん、セェィガのバーナーアフターみたいな画期的なアーケードゲームと言ったらやっぱり加速度の再現くらいしか無いしなー。ねー、母さん」
白衣を着た男性が困ったような笑みを浮かべながらもう一人の白衣を着た女性に「母さん」と呼びかけながら顔を向ける。別に彼はマザコンでは無いし、彼が話しかけた人は彼を育てた母親では無い。
「そうよね、お父さん。大体8G程度の加速度に耐えられない悠人君が悪いのよ、鍛え方が足りないわ。わかったら近くのコンビニでビール買ってきて、ダッシュでね」
悪魔か!とは口に出さずに寸前で飲み込む。もはや言わなくてもわかるとは思うがこの白衣の女性は俺の母親であり、もう一人の男性は俺の父親である。
この美男美女の間に生まれただけあって、それなりの容姿を持って生まれた俺の名前は
【巖田悠人】。だけど出来ることならば多少容姿が悪くとももっと優しい母親が欲しかった。
そして母親に逆らうという事の意図する事は十九歳で彼等の扶養家族である俺にとっては無視出来無いレベルの弊害が発生するのだ。
だがそれでも多少の文句は言ってやらねば気が済まない。
「後1Gで戦闘機の限界レベルのGじゃねえか!一般人の俺が耐えられるはず無いだろ!?大体俺は十九歳だからお酒は買えないっての!」
「いやーん、お父さん、息子が反抗期になっちゃった。どうしよう」
こ、こんにゃろう!息子の前で猫撫声で旦那に媚びるとか気色悪い事を……!
「……何よ?文句ある訳?」
ひぃ!心読まれてる!?
「あははは、母さんもそこまでにしといてあげなよ。悠人君、悪いけどこれで母さんにアップルジュースかカルピンースジュース買ってきてくれる?次のテストの為に帰ってくるまでに媒体の方は改良してみるから。あ、お釣りは好きにしていいからね」
そういって父さんは申し訳無さそうに財布から五千円と取り出すと渡してくる。やっぱり父さんは優しい、父さんは。
因みにアップルジュースとカルピンースジュースは母さんの好きな飲み物だ。
「あぁん!お父さん大好き!で・も・ぉ、お母さんはお父さんのカルピンースジュース、飲みたいな~」
「み、美佐。悠人がいるんだからそういうのは……」
顔を真っ赤にしながら目を漂わせて狼狽しながらも、満更でも無さそうな父さんに一瞥くれてから開発室を出てコンビニに向かう。
父さん、頼むから開発室で盛らないでくれよ。帰ってきてまた媒体が同じ仕様のままだと次は意識を飛ばしながら吐瀉物をまき散らす自信があるから!
ロマンを追求します。