脱出勇者
「シグよ、本当に迷子だったのか」
心底残念なものを見る目で勇者に語りかける。
「仕方ねーだろ、さっきも言ったが地図忘れたんだよ!それに森に突っ込んじまったせで余計迷っちまったんだ」
「何故森に突っ込んだんだ?魔物にでも追われたのか?勇者のくせに」
心底不思議だとばかりにラフタは訪ねる。
「兎を追いかけてたら……迷った」
最後の方は尻窄みになって聞こえないくらいの声で説明した。
まさに、蝦の鳴くような声である。
しかしどうやらしっかり聞き取れたようである。
「馬鹿だろ、シグよ」
もの凄く、哀れなものを見る目で馬鹿にする。
「うっせ!お前に言われたくねーよ!お前だって貴族の館に1人で突っ込んでいく馬鹿だろ!」
それにたいし、何を言うのだとばかりに胸をはり、ラフタは勇者に言い返す。
「ふっ、勇敢といってくれ」
「勇敢じゃねーよ、それは!無謀って言うんだ!この鳥頭が!」
「なっ!誰が鳥頭だ!シグこそ鳥頭ではないか!」
二人とも鳥頭である。
そんなこんなで二人が言い争っているのだが、先へ進むことを考えたほうが懸命なのではないかと私は考える。
もし語りかけれるのであれば、さっさと歩けと言いたい。
「とりあえず、先へ進まないか?シグよ」
「そうだな、こんなとこ居てもなんも始まらないしな」
喧嘩するのも疲れたのか、二人してとほとぼ歩き始めたようだ。
さっさとそうすれば良かった話ではあるが、鳥頭である二人はそこにたどり着くまでも長い。
「なぁ、シグよ。コンパスはないのか?方角が解ればなんとかなるぞ?」
「・・・コンパスならある」
何か負けた気がするのか、渋々コンパスを取り出す勇者。
「ふむ、私が逃げるとき南門から出たはずだ、こっちだな」
さっとなかなかコンパスを渡さない勇者から奪い取り、方向を示す。
ラフタが歩き出した後を、はぶててしまった勇者が無言でついて行く。
残念勇者、ここに極まる。
「シグ、やっと森からでられたな。案外そこまで森の奥には入っていなかったようだぞ」
約1時間ほどだろうか、歩き続けていたところ、ラフタが少し嬉しそうに告げる。
まさに、どうだと言わんばかりの顔である。
「ソウデスネー、デラレマシタネー」
「なんだ、その片言は、もっと喜べ。折角迷子から脱出できたのだぞ?」
「わーい、嬉しいな~……ちっ」
何が気に入らないかなどわかりきったことではあるが、そこは触れぬが吉である。
そんなこんな勇者がふざけていると、ラフタは突然ニヤけた顔を引き締めた。
「なぁ、シグ。私はまぁ、この問題については自分の責任だと思っているから、このままいくが、お前までくる必要はないぞ?くればお前にも、同罪と言うことでお咎めがあるやもしれん」
真剣な顔をしたラフタに対し勇者は
「へっ?別にそんなの怖くねーしいいべ。俺を捕まえようなんてこの国には無理だしな、はっはっはっ!」
まるで今から遊びに行くような軽いノリで、勇者は宣言する。
事の重大さを理解していないのか、はたまた実際に捕まらない方法があるのか、まったく判らない自信である。
何となくではあるが、両方である気がする。
「はぁ、何だろうな。私がこんな事を聞いたのが馬鹿らしくなってくる返答だ。なら、覚悟しろよ?なにがあっても私は知らないからな」
「ああ、いいぞ!お前に心配されることは何もないからな」
だから、どこからその自信が来るのかと聞きたい。
「では、南門の隠し通路から入るぞ、ついて来い」