迷子勇者2
あれから暫しの沈黙の後、勇者が沈黙に耐えきれず、再度自己紹介から仕切り直すことを提案し、異論もなく決まった。
「改めて、俺は勇者シグだ。今は放浪の旅をしてる。勇者の証しは一応王から出されてるこの書状だ」
懐から一枚の紙が女騎士の前に差し出された。
「ふむ、確かに。これは間違いなく魔法紋、偽りは無いようだな」
差し出された書状を最初訝しい目で見たが、魔法紋があることで納得した。
魔法紋は書かれた文字に偽り等があれば、書かれたいかなる文書であろと、その物を破壊、もしくは焼き尽くす物である。
「これでわかって貰えたか?」
「ああ、わかった。だが納得はし難いがな」
苦笑いしながら書状を戻すように手で促す。
「おめーに納得されなくてもいいんだよ、勇者は勇者なんだならな」
腹たつ奴だな~と言いながら、懐に丸めてぞんざいにしまう。
「はいはい、わかったわかった」
うんざりした顔で勇者の対応をする女騎士。
相手してあげるだけ、この女騎士は立派なのではないだろうか?
「それでは、次は私の番だな。私は王都国境騎士団2番隊隊長をしている、ラフタ・クルーセルだ。訳あって、追われている」
歯ぎしりをしながら、怒りの形相を隠しつつ、勇者に自己紹介をする。
「訳ってのは聞かせてくれねーのか?」
女騎士は少し難しい顔をし、暫く考える素振りをみせ、何事かを決心したのか勇者の目を見据え、話始める。
「いや、勇者になら訳を話してもいいだろう、信用はできないが役所に免じてな。ことの始まりはちょうど5日前のことだ、何者かに私の部下が殺されたのだ」
憤怒に満ちた顔で、勇者を見ながら怒りを我慢するように話す。
そこはおつむの弱いラフタであっても、騎士としての威厳か、怒りに身を任せることの愚かさを知っているようで、ひたすら抑えているようだ。
「殺された部下についての捜査はなぜか禁止されていた。だが私は、犯人を探す為に聞き込みをした。そこで、ある貴族の名前が浮上したのだ」
そこで、彼女は一拍置き、こう続けた。
「ハーライム伯爵家が三男、サトラだ。私の部下のものが街道でサトラに虐げられている子どもを見つけ、それを、止めに入ったそうだ。だが、奴は止まるどころか、貴族に逆らったとし、その場で部下を殺したようなのだ!確かに貴族相手に逆らえば処断される!だが、私は納得できなかった!」
「で、逆らったってか?貴族に」
然り、とばかりに頷くラフタ。
「私は腐っても騎士だ。誠実に行動したい。だから、私はこのことを許せず、伯爵家に乗り込んだのだ。しかし、こちらは1人、あちら側は数多くの兵がいる。為すすべもなく、追われる身となったのだ」
「逃げられただけましだな、普通逃げられねーぞ」
「そこは、あれだ、伯爵家の中のものが逃がしてくれた。使用人達も、伯爵達にはうんざりしていたようでな、私の行動に賛同してくれていたが、伯爵に殺されるのが怖くて協力はできなかったそうだ。ただ、逃げる手伝いくらいはできると、抜け道を教えてくれた」
「そうか、まぁ、命が助かったんだから良かったな。てか、聞いてて思ったんだが、王の兵は貴族だろうが処断できないだろ。処断するのにはそれ相応の手続きが必要なばずだったような気がするが?」
勇者の疑問はもっともである。
この国の定めるところ、王の兵は王の私物であり、貴族であろうと易々と手は出せない決まりなのだ。
しかし、ラフタは首をふり、否定する。
「それは表面上の話だ。実際は貴族の好き放題なのが現状なのだ。王も貴族の反乱とう恐れて罰則を与えない。だから、捜査事態、行われないのだ。貴族の圧力がかかればな」
「腐ってんなー」
勇者も流石にこのことについてはちょっと嫌気がしたのか、渋い顔をする。
「ああ、腐っている。貴族は今や、国に巣くう害虫だからな。戦争もない今のご時世、奴らは金をむしり取るだけの存在だ」
我々も似たようなものだがな、と苦笑いしながら呟く。
戦争がない、それ即ち彼ら兵士はやることがないのだ。
あるとすれば、魔物を討伐するとうのことだが、それもギルドがやってしまうので、事実上、やることがない。
「どこも同じだな。俺も勇者ではあるが、戦う相手がいねーから事実上、ラフタたちと同じ金食い虫だな」
思わず勇者も苦笑いする。
「だが、我々が戦わなくてすむのはいいことではあるだろ?それだけ平和という証しなのだからな」
複雑な気分ではあるがな、とぼやきうつつ、彼女はどこか満足そうに言う。
だが、彼女の顔はまた曇る。
「平和ではあるが、やはり貴族のやり方は好かん!あれでは完全にただの害虫だ!」
彼女はやはり騎士なのだ。そこだけは譲れないとばかりに吠える。
「わかった、なら、その貴族をとっちめに行こうぜ!」
「は?」
ぽかーんと開けた口が塞がらないとばかりに勇者を見つめるラフタ。
「だから、その貴族とっちめに行くんだよ。わかるか?お仕置きしにいくんだぞ?」
かくんかくんと頭を縦に振り、頷くラフタ。
だが、彼女が吃驚したポイントは貴族を懲らしめに行こうといった所ではない。
「お前みたいな外道勇者が、善行をしようとするなんて、吃驚したぞ」
「お前、マジひでー評価だな!思ってても口にすんなよ!」
結局此奴にはシリアスな会話は向かないようであった。
「あっ、勇者よ!街の方角はわかるか?」
「知らねーよ!迷子だっつたろ!」
次へ続く