【8話】不良だからと言って、馬鹿ではない
午前の授業は何事もなく終わった。
私的に言えば、簡単な授業であった。もう少し実りのある授業を受けたいが、各分野の最高峰の大学に行かなければ、自分の欲求に答えられないだろう。
「かんざきちゃん、一緒に食堂いこ~」
「行かない」
「なんで~!?」
転校生が人気者と一緒にいる所を見られてみろ。明日から嫉妬の視線が突き刺さる。
共学でもそうなのに男子校や女子校はそれ以上だと、大学時代の知り合いが言っていた。
その知り合いは私の会社の海外支部で支部長をしている。……後で男子校について話を聞いてみるか。
国は違えど、雰囲気ぐらいは一緒だろう。昔、黒歴史で話したくないと言っていたが、話してくれるだろう。
「神前、お前の分、買っておいたぞ」
そう言うと、水之は私の机の上に2,3個パンを置いた。
「……頼んでいないが」
「ついでで買ってきた。どうせ買ってここで食べるつもりだっただろ?」
「そうだが……」
……そんなに私の思考は分かりやすいのか?
「一緒にいると、神前に迷惑がかかるのは目に見えている。
だが、俺は先生から神崎を頼まれているから、離れられない。
食堂だと目立つが、教室なら、目立たないからな。
あぁ、そのパンは俺の奢りだから、金は気にするな」
ふむ、どうやら水之はこういう事に関しても頭の回転がいいようだな。
しかし、奢るのは慣れているが、奢られるのは慣れないな。借りを作りたくないし、払おう。
「いや、払う」
「いい。俺が選んできたのを押しつけたし」
「借りは作りたくない」
「じゃあ、俺の願いを1つ叶えるのはどうだ?」
「……モノによっては割に合わないぞ」
まぁ、殺しと社会的抹殺以外なら、なんとか叶えられるが。
「変な事は頼まない。まぁ、今日のテスト次第かな」
テスト次第という事は勉強の事か?
学年2位の水之に私が教える事が出来るのは何もないと思うが……。
「……分かった」
「取引成立だな。さっさと食べよう」
「貴弌~、オレの分は~?」
「自分で買ってこい」
「ひどっ!」
あの後、百衣は仕方なく購買に行き、パンを買ってきた。
そして、なぜか私にお土産と言って、プリンを渡してきた。いらないと言ったが、「貴弌と同じ位置につきたいから」と言って、強引に押し付けられた。
百衣、お前も私に何か頼むのか。殺しと社会的抹消以外の願いを頼むぞ。
このプリン、うちのグループ会社が販売しているブランド商品で試食回数が3桁いく勢いだったな……。いい思い出がないが、味はいいから、食べるか。
「そーいやー、あいつ来るのかな~」
「来るだろ」
「あいつ?」
誰のことだろう? 私以外には転校生はいないから、在校生か?
「かんざきちゃんの知らない人でこの学校ではちょー有名人」
「あまり関わらない方が得策だ」
「貴弌の言う通りかもねー。ま、あいつ、いつも1人だから、関わる事もないね~」
「そうだといいんだが……」
2人とも、私に分かるように説明してくれ。
「ま、会ってみれば分かるよ~」
ガラッ
「お、来たようだね~」
百衣が小声で言った。何が来たのか気になり、私は扉の方を見た。
そこにいたのは男だった。いや、男子校だから、男以外いないのだが。
身長は私と同じぐらいで男性的に少し低い方。ツンツンした雰囲気の金髪。あれは染めているな。髪も痛んでいるようだ。
後ろ髪だけ伸ばしているのか、背中にかかる位ある。瞳は灰色の入った藍色の瞳。カラーコンタクトではないな。そうそうあの色の瞳は見ない。
親戚に外国人がいるのだろう。顔も整っていて、文句のつけようがない。後は雰囲気だな。
これで雰囲気が穏やかなものであれば、一般女子が言う所の『王子様』だろう。
だが、彼の纏って雰囲気はそれとは正反対だ。あれは不良だな。族とは少し関わりがあるかもしれないな。
「かんざきちゃん、あいつなんて見ない方がいいよ」
「あぁ、睨まれたら、後が怖い」
「……そんなにやばいのか?」
どう見ても、普通の不良だぞ?
有名な組の幹部や他国のマフィアじゃなくて、ただの不良高校生だぞ?
一体、何が怖いと言うんだ。
……まぁ、普通の人にとっては不良も恐怖の対象か。
「やばすぎなんだよ~」
「あいつは黒屋忍。
この学園内の不良どもをまとめている。
確かあだ名は『暗黒王子』だったな」
「へぇ……」
やはりあだ名にも王子がつくのか。しかし、この学園内のみなら、人数も少ないだろう。
ただでさえ、お坊ちゃま学校なのだから――。
「それなのに、あいつ、成績は学年1位なんだよ~。
ありえねーよ」
ほう、頭がいいのか。それだと、見た目や世間の噂は信じない方がいいな。
今までの経験上、そういう奴ほど、中身はまともだからな。
黒屋か……どこかで聞いた事あるが……すぐに出てこないとなると、組関連だな。
後で和輝在学生の資料を集めてもらうか。
「不良だからと言って、馬鹿とは限らない」
「そうだけどさ~。
オレらとしてはやっぱ気になるんだよね~」
「なら、勉強すればいい」
「勉強しても、点が届かない場合は?」
「自己解決しろ」
「かんざきちゃん、ひどい~」
さすがの私でも勉強以外の点数稼ぎはないからな。
午後の予鈴のチャイムが鳴った。
テスト開始まで後5分となった――。