【7話】素で接する事にした
「午前は通常通りの授業だ。連絡事項は以上だー。
授業サボるなよ、特に百衣」
「今日はちゃんと参加するよ~」
「なら、いいがな。
じゃ、神前の事頼むぞ、水之」
「分かりました、先生」
織原は言う事だけ言って、さっさと教室から出て行った。
織原が出ていって、数分後、クラスメイトに私は囲まれそうになった。
まぁ、転校生にはよくある場面だが、私はどれを回避できたようだ。
後ろに座る人物により。
「お前等、かんざきちゃんに話しかけたら後で殴るからな」
織原が出て言って最初の言葉がそれってどうなんだ。もう少し優しい言い方があるだろ、優しい言い方が。
しかし、先程まで見せていたあの飄々とした百衣は何処にいってしまったのやら……。
まぁ、おかげで質問攻めには合わないで済んだが。
「百衣に気に入られたようだな、神前君」
「……私は気に入られたのですか?」
「あぁ、ここまでやる百衣は今まで見た事ないからな」
「そうですか……」
気にいられたくない。百衣は苦手な人種なんだ。数十分前までもう関わらないと思っていた私が馬鹿だった。
「ちょっと貴弌~。オレを除け者にして、かんざきちゃんとしゃべるなよ~」
「俺はお前と違って、先生から頼まれているんだ。少しぐらいいいだろ」
「かんざきちゃんはオレのなんだから、オレの許可なく喋るなー!」
いつ、私はお前のものになった。
百衣がいるせいか、心の中でつっこむ事が多くなったな。そういう性格ではないが、間違いは正したくなる性質ではある。
「頑張れよ、神前君」
憐みの瞳で私を見ながら、ぽんと肩に手を乗せた。
そんな憐みの目で見るな。何も言えなくなるだろう。
「……そう思うぐらいなら、なんとかしろよ」
「そっちが素か?」
周りに聞こえないぐらいの小声で悪態をついたが、どうやら隣に座る水之には聞こえたようだ。
私よりも地獄耳かこいつは。
「何の事ですか?」
転校初日で素を出すなと言われていたから、無理にでも演技をする。まぁ、口数は少なく、微笑んでいればいいだけだが。
「無理に演じるな。その方が俺も気が楽だ。呼び捨てで呼べるし」
「……無理して、君付けで呼んでいたんですか」
「一応、礼儀としてだ。このままの方がいいかい、神前君」
「……」
意味深な笑顔でこちらを見る水之。笑顔の裏に悪魔がいる。
こいつ、遥に似ている。遥と同じタイプなら、敵に回さない方がいい。後々、後悔するのは自分だ。
「呼び捨てでいい、水之」
「貴弌」
「は?」
「貴弌はね~苗字で呼ばれるの嫌うんだ~。
あ、オレの事は龍彦って呼んでね~。
オレにも素で接してくれていいから~。かんざきちゃんなら何でもオーケーだから」
私と水之の会話に入ってこなかった百衣が突然割り込んできた。
チャラけているのに名前は立派なんだな、百衣は。
まぁ、素でいいと言うのなら、素でいこう。
しかし、苗字呼ばれるのが嫌とは私と同じだな。私の場合、母方の苗字と限定されるが。
「そうか」
「うわっ、無表情になった。
笑顔でいようよ~」
「素でいいと言ったのは百衣だ」
「そうだけどさ~」
泣きつくな。うざい。
私は笑顔が苦手なんだ。第一私には似合わないんだ。
「君が例の転校生君かい?」
「え?」
いつの間にか私の目の前に男が立っていた。それなりの美系ではあるが、雰囲気が好ましくない。
宝塚に所属している方の雰囲気に近いが、彼女達の雰囲気は彼の様に高圧的ではなかった。
『転校生君』とは私の事だろう。
「ふ~ん、顔はよさそうだけど、頭はすっからかんみたいっぽいから、すぐにDに落ちるでしょうね。
心配して、損したわ~。これで僕の地位も安泰だね」
そう言って、彼はどこかへ行ってしまった。なんだったんだ、あれは。
「あいつは紫原醍醐。学園長の孫さ。
傲慢で色んな奴に嫌われている。ギリギリSだったけど、かんざきちゃんが来たから、Aに落ちたんだ」
あぁ、だから、私に突っかかってきたのか。
「……彼と同じクラスにはなりたくないね」
真面目な水之にさえ、そう言われる紫原はある意味すごいな。
まだ百衣の方がましと言うことか。
「まぁ、今日のかんざきちゃんのテスト結果次第だよな~。
かんざきちゃんもよくこんな時期にここに来たね~」
それはあのくそ爺こと、父方の祖父のせいだと言いたいが、ここは我慢だ。
「……色々あってな。まさかテスト実施日に来るとは思っていなかった」
今は6月上旬。普通の学校なら、定期テストが終わり、生徒達が一息ついている頃だ。
「普通そうだよね~。しかも、今回のテストって、全国模試のでしょ?」
「あぁ。定期テストより範囲は広いし、問題も難しい」
今回のテストについて、何も知らない私に水之が説明してくれた。
説明しても、対策は何もできないけどな。まぁ、私にとって、テストは簡単な書類作成と同じだが。
「かんざきちゃん、今からでも勉強しとく?」
「いや、しなくてもいい。なんとかなる」
「すごい自信だな。他のは授業受けている振りして、勉強しているぞ」
一応、大卒なので。などと口を避けても言えない。
「そういう貴弌たちは大丈夫なのか?」
「オレ達は大丈夫だよ~。貴弌は学年2位でオレは3位なんだ~」
私は驚いた。水之は副会長と言う地位にいるのだから、それなりの成績優秀者だと思ったが、百衣が水之の次点だとは思わなかった。
「かんざきちゃん、驚いていないでしょ~」
「驚いているが?」
「全然そんな表情していない。
かんざきちゃん、無表情すぎる~」
「俺は無表情でもいいと思うが」
「貴弌には聞いていない」
隣が学年2位で後ろが学年3位……2人とも織原の言っていた【ランキング】上位者だろう。
まだ変な視線は感じないが、明日からはあるだろうな。
私は小さくため息をついた。