【6話】自己紹介が成立しない
「ここがお…神前が所属するクラス。2年Sクラスだ」
織原、『お前』を言おうとして、訂正したな。まぁ、普通に『お前』と言われても、私は気にしないが……。
もしかして、監視役がいるのか? いや、あのくそ爺が決めた事だから、和輝達が監視役を配置するわけないはずだ。
「……一瞬、寒気がした」
織原が小声で言った。多分、独り言だろうが、私の耳が地獄耳のおかげで聞きとれた。
聞かなかった事にした方がいいだろう。
「呼んだら、入ってこいよ」
「分かりました」
「おー、席につけー」
織原がガラッと音を立てながら、扉を開ける。
元々騒がしくなかった教室がより静かになる。
「知っている奴もいるが、転校生だ。入ってくれ」
私は織原に呼ばれ、教室に入り、織原の隣で足をとめた。隣と言っても、1メートルぐらいは離れている。
「神前だ。みんな仲良くしてくれよ。じゃ、神前から一言言ってもらおうか」
面倒だ。と思うが、ここは普通に挨拶をしないと普通に生活は無理だろう。
「か「あ、かんざきちゃんだ~」」
百衣……私より先に行ったはずなのになんで私より教室に来るのが遅いんだ……。
「よー、百衣。堂々と遅刻するたぁ、いい御身分だな」
「あ、オリちゃんじゃん、ひさし~」
……やはり百衣は苦手な人種だ。人の話をあまり聞いていない。
「かんざきちゃん、2年生なんだ~。やった、卒業まで一緒だね」
お前の成績次第だ。まぁ、こんな奴だから、この中では最下位に近いだろ。
一応、外面の仮面をつけて、対応するか。
「そうだといいですね」
「だいじょーぶだよ! オレ、こう見えて、頭いいんだぜ!」
自慢する事か。
「あ、信じていないでしょー。オリちゃん、オレの成績をかんざきちゃんに教えてやってよ!」
「面倒だから、やだ」
おい、受け答え出来ていないぞ。それでも、お前は教師か。
「面倒とか言ってんじゃねーよ、この不良教師」
「不良に不良呼ばわりされる筋合いはねぇ」
「んだとぉ?」
なんでこんな雰囲気になるんだ。
「百衣、席につけ。神前君が困っている」
助け船を出したのは副会長の水之だった。さすが副会長。
「はいはい、分かったよ」
「先生、早く進めて下さい」
「あぁ、すまねぇな。
もう面倒だから、神前の言葉はなしな」
あ、飛ばした。まぁ、私はどちらでもいいが。
「神前の席は水之の隣だ。分からない事があったら、水之に聞けば、なんとかなるだろ」
放棄した。対応放棄したぞ、こいつ。全て水之に丸投げした。
「分かりました」
色々言いたい事あるが、とりあえず、席に着くことが先決だろう。
転校時の自己紹介がこんな形になるのは人生で初めてだな。
「宜しくな、神前君」
「宜しくお願いします、水之さん」
「かんざきちゃん、俺の前なんて、いいポジションだね!」
百衣、五月蝿い。少しは黙ってくれ。
「百衣、少しは静かにしろ。
転校生も紹介したから、連絡事項言うぞー。
今日の模擬テストは午後からだ。
クラス分けに影響するから、真剣にやれよー」
……は?
転校初日にクラス分けに影響のあるテストがあるとか、おかしいだろ。
……絶対狙ってきたな、あのくそ爺……