【13話】結果は予想通り
私は仕方なく黒屋と昼を共にする事になった。
名前の事は気にしない事にした。黒屋について、気にする事を諦めたに近い。
私は弁当の支度が終わったのは7時半頃だった。
寮を出る前に寮監の部屋の戸を叩いた。
部屋から顔を出したのは昨日と同じように女装したケルヴィンだった。
『……なぜお前が出る』
『イタリア語、やめろ。
あまり、喋れない』
なんとか喋れるだろう。しかし、片言になっているから、あまり振らない方がいいか
『じゃあ、スペイン語だな』
『いや、じゃあ、とかじゃなくて、初めからスペイン語で喋ろよ。
俺がマスターしているのは日本語と英語とフランス語とスペイン語だけと言うのは知っているだろう』
『どうでもいい。毬を出せ』
『……ちょっと待ってろ』
ケルヴィンが戸を閉め、しばらくしてから、毬が出てきた。
「零、どうしたの?」
「弁当箱を買っておいてくれないか」
「ん、分かった。1個だよね?」
「いや、2個頼む」
「え? 零、もう誰かと付き合っているの?」
……なぜ、そういう話になる。
「いや、黒屋が自分の分も作れと言ってきた」
「へ~……今日はいいの?」
「あぁ、部屋になぜか(・・・)重箱があって、それを代用している」
私は紙袋に入れた重箱を毬に見せた。毬の眉間に皺が寄る。ケルヴィンとよくいる毬ぐらいになれば、少し見ただけで誰のデザインだか、分かるようだ。
「分かったわ。……馬鹿ケルヴィンには後できつく言っておくね」
「……頼む」
私がケルヴィンに言うより、毬が言ってくれた方が得策だ。毬を怒らせると、どうなるか知っている私は毬に全てを任せる事にした。
寮の入り口に行くと、百衣が私に気付き、手を振ってきた。
百衣の隣には貴弌がいた。
「かんざきちゃん、おっはよ~」
「おはよう、神前」
「おはよう」
「なんか荷物多いね~」
百衣が言う荷物は紙袋の事だろう。やはり目立つな。
まぁ、今日だけだから、我慢しよう。
「そうでもない」
「ふ~ん。
そういえば、もう結果貼り出されているらしいよ~」
「いつも通りだな」
「結果?」
何の結果だ。昨日行われたテストの結果ではないよな。普通からして、今日明日で全校生徒の採点が終わる訳ないだろう。
「昨日のテストの結果だよ~。
うちの学校って、クラス編成に関わるからって、テスト実施日に即採点できるように人雇っているんだよ~」
それは凄いな。だが、そこまでする必要あるか? 人件費がかかるだけであろう……。
「後でちゃんとした所で採点した結果が出るが、ほぼ誤差がないからと、その結果でクラス編成している」
貴弌が百衣の説明に追加してくれた。いや、普通、ちゃんとした所の結果を待つだろ。
無駄遣いとしか言いようがないだろ。
これだから、金持ち学校は……。
そんな会話をしながら、私達は校舎に着いた。
テスト結果は各階の渡り廊下に貼り出されると貴弌が教えてくれた。
元々、各学年の教室が階毎に別れているから出来る事だろう。
私達の教室がある3階に着くと、人だかりができていた。
3年の教室がある2階も人だかりができていたが、3階はその倍以上であった。
「うわっ、なにこれ~」
「いつも以上だな。何かおかしな事でも起こったんだろう」
何回も繰り返している百衣と貴弌の反応からこれは異常のようだ。
「……チッ」
後ろから舌打ちが聞こえ、私が振り向くと、そこには黒屋がいた。
どうやら私より遅く来たようだ。寮の部屋を出たのは黒屋が先だったはずだが、気にしないでおこう。
「邪魔だ」
「前の奴に言え」
そう言って、私は黒屋に道を開けた。黒屋は無言で前に進んでいく。
「かんざきちゃん、よくあいつと話せるね。
他の奴だったら、怯えて、道を開けるんだけど」
私は黒屋の事を怖いと思っていないからな。後は同室のおかげで一応まともな奴なのは分かっている。
「その話は後だ、百衣。
黒屋のおかげで道が出来たから、行くぞ」
貴弌の言う通り、黒屋が通った所が一本の道となっている。黒屋が横を通ったと思われる生徒の顔色は悪いが、一次的なものだろう。
道はどうやらテスト結果が掲示されている所に繋がっているようだ。貴弌の後を私と百衣は付いていく。
百衣は所々で「ごめんね~」「ちょっと通して~」と言いながら、付いてきている。
ちょうど私の後で道が途切れるように生徒が動いているようだ。まぁ、相手が百衣だからだろうが。
そんな事を考えて歩いていたら、誰かの背中に顔をぶつけた。一歩後ずさると、ぶつかった相手が貴弌だったと分かった。
貴弌の視線はテスト結果の掲示にいっている。その表情は驚愕を表していた。
「どうしたの、貴弌~」
追いついた百衣が立ち止まっている貴弌に声をかける。
「あれを見ろ」
「テスト結果がどうした……」
貴弌に言われ、百衣がテスト結果の掲示を見て、止まった。まるで時間が止まったように。
何がそこまでそうさせるのか、私には分からなかった。周りにいる生徒が私より少し身長が高く、私にはテスト結果が見えなかったからだ。
私の身長は女性の中では高い方だが、男性の中に放り込まれると、低い方になる。
「二人とも、どうしたんだ」
「……神前、見えないのか?」
「生憎、前にいる生徒より身長が低くて、見えない」
「あぁ……こっちだ」
貴弌が私の腕を掴み、引っ張る。世の女性たちは男性にこうしてもらえると、喜ぶだろうが、私は嬉しくもなんともない。
「ここなら、見えるか?」
貴弌に連れてこられたのはテスト結果の掲示の近くだった。そこはなぜか人が少ない。
意図的に人がいなくなっているような……。原因はすぐ近くにいた。
黒屋だ。
ここまで生徒に恐れられている黒屋が茫然とテスト結果の掲示を見ている。
私はテスト結果の掲示を見た。
1位 神前零 500点
2位 黒屋忍 492点
3位 水之貴弌 480点
4位 百衣龍彦 476点
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ちなみにテストは各教科100点満点で5教科合計で500点満点だ。
「これがどうかしたのか?」
予想していた通りの結果だったので、私は平然としていた。
その様子に貴弌や百衣、黒屋まで私に視線を移した。
……私は変な事を言ったか?
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これからも『男装~』を宜しくお願い致します。