#2 アイドルと対面
「こんにちは~。dulcis〈ドゥルキス〉のケイタです」
軽いノックのあと、会議室に現れたのはメンバーのケイタだった。今日のプレゼンのため、何度も見たライブ動画そのままの姿。
まさか、初回の打ち合わせに本人が登場するとは思わなかった。
無機質な空間が、花が咲いたように明るくなる。
「お待たせしました。MICOプロダクション、dulcis〈ドゥルキス〉担当マネージャーの葉山です」
和泉さんと同世代だろうか。
きっちりとしたスーツに、隙のない表情。
いかにもキャリアウーマンといった女性が入ってきたことで、今度は空気がピリッと引き締まる。
「ゲンキライブ企画、ディレクターの和泉です」
「チーフデザイナーの加賀杏菜です。よろしくお願いいたします」
和泉さんに続いて私も名刺を差し出した。
ケイタはそれを受け取ると、ニコッと笑いかけられた。
柄にもなくドキドキしてしまう。
ふわふわの金髪に、メンバーカラーであるオレンジ色のピアス。
ヒールを履いた私より高い。公式プロフィール通りなら身長は175センチ。テレビで見るよりも大きく感じた。
職業柄これまでも芸能界とは多少の関わりがあるが、ケイタからのオーラは別格だった。
「杏菜さん、かわいいね」
「え?」
私の100倍は整った顔のイケメンに言われ、思わず言葉に詰まる。
「――確かに、名刺からもデザイン力が分かりますね。素敵なグッズが期待できそうです」
葉山さんが横から淡々と補足する。
あ、なんだ、名刺のことか。そりゃそうだ。
少しだけ肩の力が抜けた。
「ジャマしないでよ、葉山のお姉さん」
不満そうにケイタが口を挟むが、葉山さんは一切取り合わない。
「どうぞお掛けください」
促されるまま席に着き、今回の依頼内容についての説明が始まった。
秋に予定されているアジアツアー。
韓国、台湾、タイのバンコクを回る公演。
そのライブグッズの企画から製造、生産管理までを一貫して任せたいという。
「アイテムごとの販売予定数と納期は、先日お送りした資料の通りです」
「拝見しました。正直、かなりタイトなスケジュールですね」
和泉さんの指摘に、葉山さんが頷く。
「ええ。御社に声を掛けた理由は色々ありますが、普段お付き合いのある大手企業とは、まったく異なる発想や企画に期待をしております」
葉山さんは忖度なく話をしている。
小さな会社だとあからさまに横柄な態度をとる企業も多いなか、彼女の言葉には嘘がないように感じられた。
「売れるものより、記憶に残るもの。ゲンキライブ企画さんのスローガン、いいよね」
ふと、ケイタが口を挟んだ。
手近にあったペンライトのサンプルを手に取る。
私が某アイドルにデザインした、バナナの形をしたものだ。
「杏菜さんのデザインするペンライト、ユニークでボクは好きだな」
「あ、ありがとうございます」
「今回のツアー。ライブグッズはボクが担当だから、一緒に作っていけたらいいね」
カチリ、とペンライトを点灯させた。
そして、私に向けてウィンクをした。
ああ、これが俗に言うファンサなのだろうか。
でも、なぜ、いま私に?
「――とにかく。グッズ制作においても新たな挑戦をしたいと考えています」
葉山さんが強引に話を引き戻す。
その後の会議中も、何度か強い視線を感じて顔を上げた。
――まただ。
仕事相手を見る目ではない。気のせいだろうか……。




