お狐様のお弁当
つい最近の話。
ネットで身近な不思議体験集を聞いてて思い出したこと。今回のエッセイは実話ベースです。
超久しぶりの投稿。
つい最近の話。
私は狐のぬいぐるみを持っている。
黄色く愛らしい、デフォルメのきいた狐だ。
量産品の為、名は敢えて伏せておこうと思う。
だが、紛れもなく私のお狐様はこの子だけ。
ある時、私のお狐様はお弁当を着けていた。
ここで言う「お弁当」と言うのは、顔や服に着いた米粒や食べカスのことである。私の周囲では、それを「〇〇にお弁当が着いている」と言い表すのだ。
お狐様は小さな米粒を一つ、まさしくお弁当を抱えるように腕の間にひっそりと隠し持っていた。
しかし、食べ物のことには目敏い私は、それを、「お弁当着けてどうしたの」と言って取り上げてしまった。
乾いた米粒は少々の抜け毛とともにぺりりと剥がれた。
こころなしか恨みがましげに見上げる黒いビーズの瞳と目が合った時、幼少の頃に聞いた話を思い出した。
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それは小学生の頃、最寄りの稲荷の境内を掃除していた時のことだった。
(経緯としては、確か通っていた習い事関係のボランティアだったかと思う。)
自室の掃除は無精だったが、他所の掃除には気を遣える子どもだった私は、隅々まで視線を巡らし、ふと一匹の狐の石像の口にドングリが填められているのを見つけた。
やれイタズラかなと思い、取ってやろうかと手を伸ばしたが、生憎あまり背が高くないため、全くもって届かなかったのだ。
しかし、多少は知恵の回る子どもだったので、無理に登ったり、棒で突いたりすることなく、すぐに大人に頼ることを思いついた。
……尤も、運動神経に自信がなかったのが真相であるが。
引率で来ていたはずの顔見知りの大人は、別の子どもたちを見ていたのか、声をかけられる位置にいなかった。
仕方なく私は、その日が初対面だったおじさんに、狐の口に填められたドングリの話をした。
届かないので、取れなかったとも言った気がする。
今となっては、偶々最初に声をかけたのが、その稲荷の管理人だったのは幸運なことだと思う。
管理人のおじさんは言った。
「そのドングリはお狐様のオヤツだから取っちゃダメだよ。気に入らなかったら自分で外すよ」
私は忘れっぽい人間で、更にはかなり昔のことなので一言一句は思い出せないが、確かこのようなことだった。
当時は大変素直な子どもだった私はそれで納得し、狐のドングリのことは放置して、落ち葉掃除へと戻った。
……ちなみに、その次に行った時には、もう狐の口にはドングリは残っていなかった。
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黒ビーズの瞳にそんな幼少期の記憶が過り、急に申し訳なくなった私は、謝りつつお弁当をお狐様を返そうとした。
しかし、乾燥しきった米粒には粘着力はなく、そのままポロリと落ちて、どこかに見えなくなってしまった。
あぁ、やってしまったなと後悔しても時すでに遅し。
ごめんね、と再度謝りつつ名を呼んでも、どこか不貞腐れたように鈍く光る瞳に変化はなかった。
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……そして、その日の夜のこと。
私は声にならない悲鳴を上げることとなる。
――なんと、前日から体重が2キロも増えてきたのだ!
確かに最近食べ過ぎてはいたが、何とかギリギリで抑え込めていたはずだった。
しかし、それは甘い思い込みだったのだろう。
しっかりと身体には、贅肉がしがみついていたのである。
がっくりと項垂れていると、ふとお狐様と目が合う。どこか輝きが戻ったような瞳を見て、気がついた。
……どうやら、体重増加を抑え込めていたのは、その分お狐様が持っていったからだったのだ、と。
そして、お弁当を取り上げたのだからと返されてしまったのかもしれない。
確証はない。非現実的なことだ。
霊感は欠片もなく、記憶の限りでは幽霊の類いも子どもの頃に一度見たきりである。
事実としてあるのは2キロ増えた体重計のみ。
だが、何となくそう思えてならなかった。
お祓いなど出来ようもない、むしろそれを惜しいと思う。
そんな私にできるのは、しっかりと節制をすること。
そして、二度とお狐様からお弁当を取り上げないことだけである。
これは、ごく最近私の身に起きた、少し不思議なお話。
※後日、稲荷に行ったのに謝罪し忘れました。
お狐様すみません……orz
ちなみに量産品のお狐様の正体が分かっても、うっかりコメントしないでくださいませ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




