7 竹成 陸
明けましておめでとうございます。
私の小説を読んでくださっている人だけに幸せが訪れますように。
もちろん、冗談です。では、どうぞ。
7 竹成 陸
深夜から降り出した雨は、通学の時間に本降りになり、昇降口で上履きに履き替えた富士雄の靴下は水気を含んでいた。
校舎に入ると静かになった雨音は、それでも時折風に吹かれて廊下の窓を叩いた。
午前中の体育は外では無理だと容易に判断でき、体育科の教師たちは体育館の使用スケジュールを話しあった。
教室では窓にカーテンが引かれ、早々と灯りが点けられていた。
もう富士雄をくさいといじめる者はいない。
だから、それを聞いて嗤う者もいない。
だが、友達と呼べる者も、まだいない。
生徒会長のアシスタント。
生徒会書記の補佐。
生徒会の仲間。
その地位についてから、まだ二週間と経ってはいない。
G・Wの休みを考慮すれば、実質一週間ほどしか経ってはいないのだ。
富士雄は自分をいじめた奴らとは友達にはなれないと思っている。
なれるはずがない。
嗤った奴らも同様だ。
いじめっ子は友達にしたら最強じゃん、という人間がいるが、富士雄はそれを正しいとは思わない。
なぜか?
例えば、自分の彼女が反社会的勢力といわれる人間にレイプされたとして、その人はレイプされて泣いている彼女に、相手は反社会的勢力なんだから友達になったら最強なんだからあと一発くらいやらせてやれよ、と言えるのか?
それを正しいと思うのか?
正常な人間なら思わない。
だから富士雄もその意見を否定するのだ。
では、いじめを快く思ってはなかったが、自分がいじめに遭うのが嫌だから見て見ぬふりをしていたクラスメートたちは?
富士雄も、自分以外の誰かがいじめられているのを目の当たりにしたときに、もれなく救いの手を差し伸べてきたわけではない。
だからまだ余地はある。
そう思って、富士雄は自分から話しかけてみた。
観音が教室に来てから少し経った、G・Wが明けたその日に、だ。
結果、友達と呼べる者は、まだいない、のである。
だが、富士雄は思う。
当然、友達は欲しい。
友達がいらないと本心から思う人は、まずいないだろう。
でも、無理から作ろうとも思わない。
類は友を呼ぶ、だ。
弱い者いじめをする輩は弱い者いじめをする輩と友達になる。
弱い者いじめを見て嗤う輩は弱い者いじめを見て嗤う輩と友達になる。
アイドルの推し活をする者は同じアイドルの推し活をする者と友達になり、アニメが好きな者はアニメが好きな者と友達になる。
人間は、似たような志向の者とつながっていくものなのだ。
だから、富士雄は自分と同じ志向の者と出逢えるその日を、じっと待っているのだ。
そして、ひとり、このクラスにも自分と同じ志向の人間がいるかもしれないと、そう思っている。
誰か?
フクロウだ。
生徒会室で、観音から自分がいじめられていると知った経緯を聞いてはじめて、富士雄はフクロウの存在を知った。
学級委員長がいじめの存在を知りながら報告をしなかったことも、そのとき同時に知った。
いじめを受けていたときの、クラスメートのリアクション。
それを鑑みれば、誰がフクロウかは自ずと絞られる。
勿論、フクロウの存在はごく一部の人間にしか知られてはいないのだから、一般に知られてもいけない。
だから下手に鎌をかけることもできないし、したくもない。
でも、希望にはなる。
いつの日か、その人と友達になれるのかもしれない。
いつの日か。
週が明ければ、中間テストだ。
「じゃあ、まだちょっと用事あるし、僕は行くよ。またね」
竹成は颯爽と話を切り上げて、次の目的の人物に会いに行った。
部活動のキャプテンとして部長として、同じ立場の生徒と情報を共有する必要があるのだ。
短くとも話をして、何かトラブルがないか確認し、生徒会で集まったときに報告するのも、彼が引き受けている仕事のひとつなのだ。
秋桜学園では、テスト期間中でも部活動はある。
もしも不満の声が募ったなら、それは生徒会で懸案として、学校とテスト期間中の部活動の休止の必要・不必要を議論しなければならない。
そのために、竹成は動いているのだ。
三年の六クラスに二から四名いる部長たちと話をする。
二、三分ほどではあるが、内容は大切だ。
竹成はそれを苦とは思わない。
時間をとられることも、会話をすることも。
そして、今までがそうであったように、テスト期間中の部活動の有無についても、それ以外についても、不満の声は出なかった。
代わりというわけではないが、笑い声は絶えなかった。
竹成は人当りのいい男なのだ。
生徒会の会計を務める傍ら、部活動では部長でキャプテンだ。
性格も明朗でスポーツができ、秋桜学園に入学できるほどの学力も持ち合わせている。
そういう人物なので小学生のころから自然とクラスメートからの人気も集まり、教師からも信頼を置かれ、クラスのリーダーや代表といったものを選ぶときには、当然のように竹成の名前が挙がった。
竹成もそれを受け入れた。
リーダーとしてクラスをまとめることはやりがいのある仕事であったし、その責任の重さも、やり終えたときの達成感を増してくれた。
話を終えて教室に戻るまで、廊下を歩きながら竹成は思い返していた。
「いいとこまで勝ち上がれそう」
なのが十から十二。
「頑張る」
が六から八。
「今年も全国に行けそう」
が三。
「参加することに意義がある」
が三から四。
うん、うんと肯いた。
そうか、そうか。
そして彼は教室に戻った。
キャプテンとして二時間半の部活動の終了を告げた竹成は、朗々と言った。
「明日のテストに備えて、みんなで勉強会をやらないか?」
「助かる」
「俺、数学苦手なんだけど、教えてもらえるか?」
「竹成の教え方はうまいからな」
「勿論、ひとりで集中したい人は、無理に参加しなくてもいい。それぞれのやり方があるからな」
「いや、俺、竹成が言ってくれなかったらひとりでやるつもりだったけど、前も竹成と一緒のほうがはかどったからな。俺、参加する」
「俺に教えられることがあったら教えるから、どんどん聞いてくれていい。教えるのも意外と勉強になるんだ」
「竹成が勉強できないくらいの質問攻めでもいいのか?」
「それは困る」
竹成がそう言うと、笑い声が響いた。
そうして、竹成が中心となって勉強会は行われた。
面倒見のいい男だと、みな思った。
中間テストが終わると、競技によって多少のばらつきはあるものの、インター・ハイの予選が行われる。
当然だが、三年生にとっては最後の夏だ。
悔いだけは残さないようにと、みな汗を流し、試合を迎える。
前日に、事故が起きた。
ここまでお読みいただけて嬉しいです。
ありがとうございます。
では、また。




