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3 誰かがきっといる

風邪をひいてしまいました。

熱が出ている感覚はなかったのですが、39.2度、ありました。

ドラッグストアで薬を買ったのですが

インフルエンザ脳症の危険性を言われて

そっちの方が怖かったです。


では、どうぞ。

    3  誰かがきっといる



 秋桜学園は数々の著名人を輩出してきた名門校である。

 政治や経済から、芸術、スポーツまで多岐にわたっている。

 そのOB、OGたちの影響力は、強い。

 日本という国を動かせるくらいに。


 だから秋桜学園もまた、特殊なシステムで運営されている学校なのである。

 少なくとも一般的、平均的な高校とは、一線を画している。


 だが、それを知る者は、生徒のなかにはごくわずかしかいない。

 名門校、秋桜学園の、さらに家柄や成績の優れた、身元のたしかな、信頼するに足る一握りの生徒だ。


 当然、生徒会の会長、副会長の観音も望月もそれに含まれている。

 生徒会室で、観音と望月は、生徒会の書記と会計との四人で話をしていた。


「各クラスの学級委員長からの報告に目を通したわけだけど、何か問題はあったかい?」

 と観音が訊く。

「取り上げるほどの問題は、ないわね。学食でのメニューの改善要望だったり、図書室の本をもっと充実させてほしいとか、まあ、いつも通りだわ」

 と会計が答える。

「今年度もメニューは改善されているのに、まだ不満がでるというのは、一部の生徒のないものねだりや面白半分なのか。それともまだ改善の余地があるということなのでしょうか?」

 と望月が問う。

「きちんと精査しなければたしかなことは言えないけれども、おそらくは前者ではないかと思われるね。一部だからと蔑ろにしてもいいとは思わないが、大半の生徒は何の不満も持ってはいないと推測できるし。学食のメニューの満足度について、今度、アンケートを取ってみるのがいいと思う。図書室の本の充実問題についても、同じ対応で間違いはないと思われるが」

と書記が提案する。


 その提案に満場一致で賛成し、次の議題に移った。


「では、各クラスのフクロウからの報告に、まず目を通してみよう」

 と観音が舵を切る。


 フクロウとは勿論、秋桜学園で使われる隠語だ。

 クラスにひとりずついる、学級委員が故意であるか否かにかかわらず、報告を怠った報告すべき情報を生徒会に報告する役目の者のことだ。

 公にされてはいない、風紀委員のようなものだ。


 学級委員長からの問題報告や要望書よりも、こちらのほうが重要視されていることは、生徒会においては暗黙の了解なのだ。


 一クラスに四十名の生徒がいて、一学年六クラスある。

 つまり、全生徒数は七百二十人だ。


 十八人のフクロウからの報告書を、四人は四枚四枚、五枚五枚にわけて、目を通したら左回りに送り、また目を通したら左回りに送り、十八の報告書全てに目を通した。

 二、三年生ではほぼないのだが、やはり入学してから一か月弱の今の時期になると、一年生では、あった。

 いじめだ。

 まだ暴力を振るうとか、金品を要求するまでには至ってはいないようなので、軽傷ではあるのだが、放っておくわけにはいかない事案だ。


「この学園でも、今年もやはり起こってしまうんだな」

 と観音は目を伏せる。

「どのように介入しましょうか?」

 と書記が問う。

「フクロウからの報告では、被害者に落ち度はないようですね」

 と望月が言う。

「でも一度、被害者と接触して、確証を得てからではないといけないよね」

 と会計が確認する。

「その通りです。ですがやり方を間違えるといじめを助長する結果になってしまうので、そこは慎重に行かないといけないと思うのですが、会長、副会長でも、何か案はある?」

 と書記が尋ねる。

「過去に起こった同様の案件の解決方法を参考にしつつ、今回のケースに添った対応をしたほうがいいと思うのだけど、どうだろう?」

 と観音が尋ね返す。


 反対意見は出ず、それでまとまった。

 四人で過去の案件が記されたファイルを探し、書記が見つけたファイルを四人で囲んだ。

 この学園でもいじめが起こったことは幾度かあって、幾通りかの解決方法を知ることができた。

 そのなかから一番適していると思えた方法を、観音は選び、みな、賛成した。


「じゃあ、僕はまだ部活に参加できる時間なので、失礼させてもらうよ」

「私もこないだB判定だったので」


 と会計と書記はそそくさと退室した。

 生徒会室は、観音と望月のふたりだけになった。

 やっとふたりきりになれたことで、ふたりはわかりやすく安堵した。


「これは神宮さんに報告すべき案件よね?」

「私もそれを考えていたところだ」


 そう答えた観音は、腕時計で時刻を確認した。

 午後五時五十分まではまだ時間がある。

 当然、遅れることなど許されないが、早すぎてもいけない。

 そして、ふたりでいる大義名分があるにしても、衆目のあるところで観音と望月があまりに長い間ふたりきりでいることも、避けたほうが良いのだ。


 観音が先に出ると、生徒会室の前には何人かの女子生徒がいて黄色い声援を上げた。

 それを見た後から出てきた望月が、爽やかな笑顔を残して去っていく。

 こういうときに待ち伏せをするのは決まって女子生徒なのだ。

 男子生徒は望月に好意を抱いていたとしても、なかなか積極的には出ないものだ。

 ましてや観音と付き合っているというまことしやかなうわさもあり、観音という存在に一目置いているということもあって、余計に手は出ないのだ。


 先に去っていった望月と、女子生徒に囲まれて少々困惑した観音は、五時五十分になるほんの少し前に、送迎の車に送られてある場所に行った。

 あるタワーマンションの一室だ。

 そこに人が住んでいるという気配はなく、十八畳ほどのリビング・ダイニングに三脚の椅子と、四人で食事をとるのがやっとという大きさのテーブルがあるだけだ。


 午後五時五十分になり、観音と望月は頭を垂れて手を胸の前に持っていき片膝をつく。

 誰かが入室し、三脚ある椅子の上座へと向かう。

 足音はその人の体重よりも重く、影はその人の体よりも大きい。

 ふたりの眼差しは真剣だ。

 そしてその誰かは、音もなく椅子に座る。

 しばしの沈黙の後、口を開く。


「報告は、あるか?」

 声は男性、それも老人のものだった。

「はい」

 と観音は簡潔に答える。

「では、始めよ」


風邪、今はもう平熱になっています。

まだ少し喉が痛いのですが……。

風邪は軽い病気に分類されますが、なってみると

けっこうしんどい病気なので、

皆さんも気をつけて、お大事に。


では、また。

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