2 十五歳の心
あなたは「いじめ」をどう思いますか?
「いじめられっ子」をどう思いますか?
「いじめ」をなくすためには、どうすべきだと思いますか?
では、どうぞ。
2 十五歳の心
靴を上履きに履き替え、富士雄は階段を上った。
体は重く、後から来た名も知らぬ生徒に抜かされた。
勿論、具合が悪いわけではない。
それでも足を前へ前へと彼は進める。
教室に着く。
自分の席へ座る。
視線は感じているが、どうにかしようもない。
クラスメートの男子が三人、近づいてきて、こう言った。
「なんかくさくねえ?」
にやにやと嗤い、教室内に大きく響く声でだった。
「うん。くせえ」
「なんの匂いだ、これ?」
顔を見たわけではない。
が、見なくとも、嘲笑しているとわかる。
クラスメートは助けてはくれない。
一緒になって嗤うか、自分が次のいじめのターゲットになるのが嫌だからと知らん顔をするかのどちらかだ。
富士雄は彼たち彼女たちを責めようとは思わない。
そのかわり、いじめの加害者に逆らおうとも思わない。
ただひたすらに耐えるのみだ。
その日、いじめはエスカレートした。
「なあ、熊谷。なんかくさいと思わねえ?」
富士雄は答えられなかった。
嗤い声が聞こえた。
それは富士雄の頭に木霊した。
それで満足したのか、三人は席に戻って雑談を始めた。
この程度だ。
ちょっと我慢すれば、すぐに収まるんだ。
なんかくさくねえ? は入学してから一週間もしないうちに始まり、二週間近く経っても続いている。
よく飽きもしないものだと、いじめをする者の幼稚で足りない知能にうんざりすると同時に、抵抗できない自分に、耐えることしかできない自分に、何の救いもない現実に、富士雄は打ちのめされた気持ちになった。
自分で何とかしなくちゃいけない。
いじめ問題についてそういう意見を持つ者もいるが、それは間違いだ。
彼らはそれがわからない。わからないからこそ声高にそう言える。
また今日も昨日と同じ一日か。
富士雄は十五歳にして、人生というものに半ば以上絶望していた。
「あ、望月さんと観音さんだ。ふたりが一緒に登校するとこなんて、レアだ」
ひとりが気づくとクラスの大半が窓に駆け寄り、小指ほどの大きさもないふたりに熱視線を送った。
望月とは秋桜学園の生徒会、副会長の望月璃々奈のことだ。
同性からも認められる美しい容姿、高い学力、分け隔てなく与える優しさ。
ネイティブな英語力で、卒業後はアメリカのH大学に行き国際弁護士になるという目標を持っていて、みな、望月さんなら絶対になれる、と思っている。
観音さんと言うのは秋桜学園の生徒会会長の観音龍磨のことだ。
モデルのようなルックスを持ち、全国模試で一位をとる学力、立派な家柄、秀でた運動神経と、非の打ち所がない男だ。
普通ならやっかまれそうなところだが、とても柔和でありかつ強い正義感の持ち主で、観音もやはり同性からも好かれている。
「ふたりはやっぱり付き合ってるのかな?」
「どうだろう? でもそうだとしたらお似合いのカップルだよね」
「望月さんの彼氏が観音さんなら、まあ、仕方がないって思えるな」
「万が一、俺が付き合えるなんてこと、ないかな?」
「ないよ」
「即答かよ」
「あ、こっち見た」
窓際の女子から歓声が上がった。
名前を叫んで手を振る者もいた。
ふたりとも、学園のアイドルであり多くの、いや、生徒のほぼ全員の憧れの対象なのだ。
いいなあ。
富士雄は心のなかで思った。
あそこまでいかなくたって、せめていじめられなくなって、少しでいいから友達ができたっていいじゃないか。
図らずも、肩を落とさずにはいられなかった。
その様を、ちゃんと見ている者がいた。
「いじめ」をなくすためにすべきことは、
そう簡単には答えは出ませんよね。
だからみんなで取り組まなければならないのです。
ほとんどの場合が「いじめられっ子」の力で
なんとかなるものではないのですから。
では、また。




