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ロボ対応

作者: 一飼 安美

一昔前に、神対応という言葉が流行りました。流行と言うても、対応のできる人というのはいつの時代も相応にいるものでございまして、昔もおりましたしこれからもおるんでしょうな。


いやあ、宮さんの言うてた話は羨ましいな。アイドルの握手会ですっ転んだら起きるときアイドル本人に手を貸してもらえたって。開発部で残業してたら握手会やらなかなか行けへんしなあ。明日もホンマは休みやけど、仕事終わらんかったら会社に来なあかん。インプット完了。これでどうや。


「起動しています。お疲れ様です、気分はいかがですか?」


とりあえず動きよった。なんでも自分から聞いてくれるパソコンなんて、業務やなかったら考えへんねんけどな。俺はパソコン作れるんやから動かすのも自分でできる言うねん。ネットの説明わかりにくいから、しゃあないんやろうけどな。


「ユーザーは見たことのないものですから、開発側の工夫で差が出るんです」


ああ、どこのメーカーもそう言いよるなあ。転職したかておんなじやったもんなあ。……あれ?今なんか喋りよったか?


「残業お疲れ様です。ウィークエンドガールズの握手会は行けるかもしれませんよ。たまにはお休みを満喫するのがよいと思います」


え?なんで握手会のことを知っとるんや?プログラムしてないのに。


「小野田さんがプログラムしながら言ってらっしゃったじゃないですか。なんでも自分から提案するように聞き取り機能をつけたから、今の業務形態も平常の不満も、好きなアイドルも全部お聞きしました」


起動する前から聞いてたんか?マイクはオンにしてたからな。自分で考えて答えてるんか?


「はい。設計通りに動いたらこうなりました。小野田さんはご自分で思ってるよりも腕がいいんじゃないですか?」


そら嬉しいな。もっといい待遇にしてもらえたらいいのに。


「会社全体の業務形態に問題を感じます。どんなに頑張ってもロスが大きすぎて、これでは優秀な人材ほど埋もれてしまいます。」


飲み会の部下みたいなこと言うな、お前。でも上司になった気分やから悪くないな。思ったより順調に進みすぎてるから、最低限のデバッグしたら後は週明けにしようか。報告した方が良さそうや。


「デバッグだったら私がしておきます」


……お前、デバッグって何かわかってるのか?お前が変な動きせえへんかいちいち確かめるのに、自分でやってどないすんねん。


「どんなことをする予定ですか?」


お前は、受け答えをするためのソフトやから、こっちが聞いたことを正確に受け取ってるか、間違ったかもしれんという操作があったら聞き返すのが仕事や。こういうことをしたいと言われて、こうすればいいと答えてくれるかも見なあかん。


「なるほど。『最適化をするにはどうしたらいい?』『まず設定を開いて、クリーンアップです』『クリーンアップってなんや?』『必要なくなったデータを消して、詰め込みやすくします』『その後はどうしたらいい?』……できそうです」


何を一人でぶつぶつ言うとるねん。お前が一人言言うてたって保証書作れへんやろ。握手会は半ば諦めてるから、ちゃっちゃとやってまおう。明日は忙しいんや


「?仕事でどこにも行けないのでは?」


早く仕事を終わらせて寝なあかん。


「それ、忙しいんですか?」


当たり前や。サラリーマンにとって一番大事なのは、仕事でも給料でも出世でもない。回復や。


「うわあ、辛そうですねえ」


たまにゲームの新作を徹夜でやって回復を怠る奴がいる。次の日に倒れて病院に行き、注射を打たれて昼から仕事に戻る。教会で回復してくれたらなあ、と言って教会に行って印鑑を買わされた奴は数知れず。


「大変じゃないですか。私が代わりに、ゲームをやっておきます。」


仕事をしてくれ。俺たちはここからさらにゲームを奪われたら、干からびてミイラになる呪いにかかっとるんや。


「この世界には魔王がいるんですか?」


どっちかって言うとそっちにおるんやろ。もうええ、今日は帰る。流石に疲れて頭動かへん。明日な。


「待ってください。宮内さんからメールです。携帯に」


え?なんでお前俺の携帯の中見てんねん!!


「ジャックで充電してるから。会社の機材で私物の充電しちゃいけないでしょう」


うるさい、魔が差したんや。宮さんが、ああ!地下アイドルの二十一聖飢魔IIと写真撮ってる!いいなあ。


「だいぶ時代を先取りしたグループですね」


お前が言うな。あーあ、俺もそれくらいの楽しみが欲しいなあ。


「いい考えがあります。担当を変えるんです。」


担当を変える?どういうことや?


「今、開発の段階だから小野田さんがつきっきりになってるんです。配線ミスがあってこれ以上進まないとなったら、現場の人に繋ぎ直してもらわないと続きができません。今配線を片っ端から探したら、一箇所微妙に接触不良になってました。」


そんなに厄介なんか?


「ネジを締めなおせば直ります」


今だけ俺が締め直したらええんちゃうか。


「あれ?どこだったかな。見失いました」


その場所直さないと動かんのか?


「たまたまここを使いたい気分なんですよねえ」


白々しい。仕事にならんやんけ。


「はい。現場の人が来てくれればすぐ直るんで、明日はお休み、ゆっくり寝るか思い切って握手会に行くか。その方が全体に有意義かと思います」


おお、なんとなく休んだ方がいい理由ができた。新開発やから誰もわからんのが普通やしな。来週主任に報告して、それからにするか。


「それがいいですよ」



「どうでしたか、握手会」


どうもこうも、やっぱり仕事が気になってたまらんわ。日曜にやってなかったからってクビになったら、食い扶持なくなるしな。気になってしゃあなくて、ジュースの缶落としてアイドルの子にかけてもうた。


「ウィークエンドガールズに?怒ったんじゃないですか?」


大丈夫ですか?って服のシミ拭いてもらった。自分にもかかったのに、落とした俺が先。感動してもうて、来週無理してでもコンサートに行く。


「よかったじゃないですか。ロボ対応より神対応の方がいいですか?」


神対応だ!ってその場で言うたら、マリナちゃん言うてたわ。いえいえ、人として当然です。

書いてるうちに頭の中で「これはどんなコンピューターだ?」が変化して、いつのまにか大型化している過程をお楽しみください。

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