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神社。

 ──やっとの思いで長い石造りの階段を登りきった僕とソラを静かに出迎えてくれたのは、遠くから見たまんま朱色の塗装が剥げた大きな『鳥居』と二体の向かい合う『狐を模した石像』だった。


「……ここって稲荷、神社……だよね?」


 狐の石像に挟まれながら鳥居の下で大の字で寝転ぶソラがポツリと呟いた。かくいう僕も隣でひんやりとした石畳を直に背中で感じながら「だよな」と呟き返す。


(──って、稲荷神社ってなんだよ! ここは本当に異世界で間違ってないよな!?)


 ソラには悪いけど、何かすべてがどうでも良くなってきた。自分が思い浮かべてた異世界の理想と現実がどんどん掛け離れていく。


「いでよ! 聖なる剣、エクスカリバぁああああーっ!」

「………………………………突然何?」

「ごめん……何となく言ってみたかっただけです……忘れてください」



 とりあえず気を取り直した僕は、ソラと二人で一礼してから鳥居をくぐった。今仕方まで鳥居の下で寝転がるというバチ当たりな行いはもう取り消せないので、せめてこれからは日本の神社参拝の作法にそって石畳の道沿いを進むことにする。


 ちなみに鳥居の中央は神様の通り道となっているので、参道の真ん中をどうどうと歩こうとしたソラを慌てて促し、改めて右端に沿って境内を進む──と、ここまでは巫女がヒロインのラノベから得たうろ覚えの知識だ。それが合っているかどうかは別として、ここに祭られているであろう神様? に対しこれ以上の無礼は禁物だ。異世界の神様ってリアルに存在しそうだし……ここだと稲荷だけに狐かな?


「それにしても、まんま日本の神社だよな? それもかなり大きな──」


 あちらこちらに立派な建物があるし、しかも下の廃墟と化した街中とは打って変わって、すべてが原型を留めていた。まるでここだけはキレイに残したいという何かの意図があるようにみえる。


 例えば歴史的価値があるとか……。


 そう言えばアライグマさんが言っていたような気がする、中人族なかびとぞくの神殿があるとか何とか……もしかして、この神社がそうなのだろうか? 


「ソラ、あの奥にある大きな建物が本殿じゃないかな……ちょっと行ってみない?」

「ホンデン?」

「そう。多分ここの神様が祭られてる場所だと思う」


 僕らは境内の鳥居をくぐり、この神社で一番立派な外装をした建物に向った。ソラはゆっくりとした足取りで僕の後をついてくる。幸いなことに神社の境内は誰かが定期的に管理をしているのか、キレイに整備が行きとどいており、下の街と違ってかなり歩きやすい。あそこは歩く道でさえも草がボウボウだったし、建物の瓦礫やらで常に足元を注意しなくちゃ危なかったので進むのは本当に苦労したし。



「……扉、開かないね」

「うん……どうしよう……」


 本殿の扉は固く閉ざされていた。ま……当然だよな。ここは神社で一番の聖域だ。やたらむやみに中に入れる訳が無い。一応中に誰かいるかもしれないので、扉の外から「こんにちは、誰かいませんか〜」とか声を上げてみたり、どんどんと扉を叩いてみたりもしたけど、やはりというかまるで無反応。ここに来るまで誰一人として出会ってないのだから今更仕方ない。


 さてと、これからどうするか……まさか扉を叩き壊して中に入るわけにもいかないしな。


「ソラ、とりあえず今日はここまでにして、どこか休める場所を探そう……って何やってるのソラさん!?」


 振り返れば、なんとソラがどこから持ってきたのか、ヨイショと大きな石を持ち上げて扉にぶつけようとしていた。僕はそれを何とか寸前で押し止める。


「え……これから扉を壊すんじゃなかったの?」

「いやいや、流石にそれはマズイって! とりあえずその石はそこに置こうか」

「……うん。そうする」


 ドスンと石畳の地面に大きな石が無造作に置かれた。これで修道服を着た女子高生が神社本殿の扉を破壊するという惨劇は何とか事前に回避出来た。


 その石を元あった場所に戻そうと持ってみたところ、かなりの重さでびっくりした。彼女見た目はかなり華奢きゃしゃだけど、意外と力があるよな。これからケンカをする時は気をつけようと身震いする僕がいる。


 そろそろ日が暮れてきた。スマホの電源を入れ時間を確認すると夕方六時を過ぎていた。それが正確な時間か分からないけど大体の目安にはなる。ちなみにバッテリーは残り30パーセント程だ。これから大事に節約しないといけない。暗くなるとスマホのライトだけが頼りとなる。いずれそれも使えなくなるし、何とかせねばならない。確かソラがモバイルバッテリーを持っているとか言ってたよな、後でそれを見せてもらおう。


「ソラ、さっきここに来るとき境内で水が出てるところを発見したんだ。飲料水としては分からないけど、身体を拭くくらいなら出来ると思うよ」

「そうなの!?」

「うん。遠くでチラリと見ただけだけど、こういう神社とかには、手水舎てみずやの他によく神社のほとりに湧水とかがあるのが普通だから」

「てみずや?」

「そう、手水舎は参拝するときのために手とかを清めるために使う水だから、流石にそこで身体を洗うわけにはいかないしね」

「……本当にユウは色々と物知りだよね。私、感心しちゃう」

「そ、そう? 別に大したことじゃ……」


 今更ながら巫女さんラノベで仕入れた知識とは言えない。


「と、とにかく今は日が暮れる前に今夜泊まる場所を確保しなきゃ」

「うん……そだね」


(……あれ、何だかソラの様子が変だぞ? 一体どうして……あっ?) 


 ここで僕はある重大な事実に気づいてしまった。


 異世界生活二日目にして、今度こそソラと二人きりで夜を明かす、ということに──。

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