《ゴーストタウン》② 〜ソラの場合。
──探索していた廃屋を後にしてから直ぐに、私、ソラは、ユウとふたりで鳥居がある場所、遠く先に見える緑に囲まれた小高い丘へと向かうことにした。
焦りのためか、ユウは丘へと続く長い石畳の道を沿ってひたすら駆け足で急いでいた。私はそんな彼の後ろ姿を必死になって追いかけている。息が上がって苦しい。
この人、両肩に重そうなリュックとカバンを二つ抱えているのに、何でそんなにタフなんだろう、と今更ながら感心してしまった。
それに比べて私ときたら……いけない、またいつもみたいにネガティブな思考になってしまう。
そんな苛立ちにに苛まれながらも、私は今の自分に対し、肯定も否定さえも出来ずにいる。
──でも、少しだけ今を変えようと思う。
このカモガワアトチ(多分、カモガワ跡地?)というゴーストタウンに来てから、私は積極的に行動するようにした。
本当だったらこんな明らかに誰もいない寂しそうな廃墟なんて一秒たりともいたくはなかったし、さっさとここを後にして、もっと人が沢山住んでいるところを今からでも探すべきだと彼に苦言したかった。
でも違う。ユウならそれくらいの事とっくに分かって行動している。
この何もない閉鎖された街に未だ留まるのは彼なりに何か考えがあってのことだと思う。だから自分も進んでユウと一緒に何もない廃屋の調査をしたし、閑散とした街並みを二人で当てもなく無駄にうろつきもした。
それでいてユウは、私に気遣ってか、何かにつけて色々と適当な話題を振ってきてくれたけど、自分は一つの物事に集中すると、周りのことなんて一切考えれないし、だから今は話しかけないでとその都度言いたくなった。
でも後になって素っ気無い態度をしてしまっていないか悔んでしまう自分もどこかにいた。
それでも私はこれから先も自分を偽らずユウと良い関係を絆いていこうと思う──
「──ユウ、ちょっと急ぎすぎっ!」
その後、私たちはゆっくりと一時間ほどかけて、鳥居がみえた小高い丘の入口まで何とかたどり着くことが出来た……けど。
「……ねえ、ユウ……、本当にここ登るの?」
「だよな……これはちょっとさすがにヤバいかも──」
生い茂った草木の隙間から垣間見える、傾斜が途方も無く絶壁な石造りの長い階段を目の前にして、私たちはそこを登るのを躊躇していた。
「──でもさ、折角ここまで苦労して来たんだから、頑張って階段を登らなきゃと思う。それにもうすぐ日が暮れそうだし、上に行きさえすれば、何らかの建物なり、誰か僕らの助けになってくれる人がいるかも知れないし」
「でも……ユウはともかく、私にあんな急な階段を登れるかな……」
「大丈夫。ソラならきっと登れるよ」
そう言ってユウはカバンをゴソゴソし、中からロープを取り出し、
「ロープは何かと役に立つと思ってアライグマさんから買っていたんだ。これを腰に…………巻いてと、ほらソラも」
自分の腰をしっかりと縛り付け、さらに残りのロープの端を私に突きつける。
「ああ、あのねユウ……もしかして、私もこれで縛るの?」
「もちろん。何なら僕が縛るけど……」
「い、いい! 自分でやるから、もうほっといて!」
と、またもやユウに対し口調が荒くなってしまった。けど大丈夫。彼は「そう?」とか言って特に気にした様子がない。良かった。
(ええっと……これをユウみたいに腰に巻けばいいんだよね? ゴソゴソ──よし上手く出来た)
「あ、駄目だよ! そんなんじゃすぐほどけちゃうよ。ちょっと貸して」
「え、えぇええ、ち、ちょっと待って……」
開口一番、しゃがみ込んだユウは、私のお腹辺りにグイっと顔を寄せ、ギュッとロープの縛り口をきつく縛り、
「よし!」
と満足そうな笑顔になった。
「(ジトー)」
「え、なに?」
「別に……何でもない」
「そう?」
(もうこの人、ワザとやってるでしょ!)
「ソラ、大丈夫?」
「う、うん。何とか、大丈夫……」
どこまで続くか分からない長い石の階段を一段一段としっかりと踏みしめて歩いていく。七段先を行くユウはゆっくりと私の足数に合わせて登ってくれている。
あの時、お互いに腰をきつくロープで結んだわけは、階段からの転落防止のためだった。「私が階段を踏み外すとユウも一緒に落ちちゃうよ?」 と、念の為に忠告したら「大丈夫! 男の力を見くびってくれるな」って、何だか得意げに胸を張っていた。
一応、ユウの方が階段を踏み外した場合は、私がなんとかせねばならない。彼はその時は真っ先にロープを切るようにと、これまたアライグマさんから買ったという鞘付きのナイフを預けてくれた。でもユウは気づいてないと思うけど、非力な私にこんな太いロープの綱をすぐに切れない──たとえ切れたとしても私はナイフを使うつもりはない。もし今彼に何かあったら……きっと私も死ぬ。その覚悟は出来てる。
ユウとはもう運命共同体だから──。
「はぁ、はぁ──」
「さ、さすがにしんどかった〜」
長い長い──本当に果てしなく長かった階段を登りきった瞬間、私とユウはロープを結んだまま、石畳の地面で大の字に転がった。
その際長いスカートが少しめくれて、彼が隣でそっぽ向いてたけど、その耳元が夕日とともに真っ赤になっていたことを私は知っている。
一見つかみどころがない、そんなユウだけれど、今後は家族のように彼と接したい……
これから先も彼と一緒にいたいと思う私が、やっぱりどこかにいるかも知れない──